添削杯Vol.8 準決勝 戦闘民族 vs しげる ~それぞれの「理」~
準々決勝で一時間越えの熱戦を演じた直後のしげるが、先に勝ち名乗りを上げていた戦闘民族の待つ卓へ現れた。
添削杯もすでに準決勝、残されたプレイヤーは4人。
「前回の帝王戦以来?」
「前のリアル添削杯でも当たりましたよ」
そんな会話から入る両者は、すでにスムーズな手つきでデッキをシャッフルしている。
今から始まる試合への気負いもないのか、戦闘民族は上機嫌だ。
「シャッフルの回数はダイスで決めるよ」
「ここまで来たら運だからね」
軽口をたたきながら、「スイスラウンド1位だから先行もらいます」としげるにプレッシャーをかけることも忘れない。
そんな緩んだ雰囲気も、お互いのカットが終了してゲームが始まる時間になると一気に引きしまる。
「ここまで来たら運だからね」
そんなセリフは、この両者の雰囲気を見ると全く信じれるものではない。
取りえる選択肢を考えられるだけ考え、1%でも勝率が高いプレイを続け、勝ち抜いてきたからこその準決勝だ。
真剣そのものな二人が向かいあい、ゲームが始まった。
Game1
宣言通り先手を取った戦闘民族が、マリガンを宣言。7枚でキープしたしげるを横目に、ゆっくり確認した2度目の手札もマリガンとなる。
3度目の正直とばかりの手札は即座にキープを宣言し、5枚でしげるに立ち向かうことになった。
「2点ペイライフで」
《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》を開幕ターンに唱えた戦闘民族は、しかし公開された手札をみて息をもらす。
見えたのは、《意志の力/Force of Will》、《超能力蛙/Psychic Frog》、《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》と潤沢なマナベース。
手札の《ドルイドの誓い/Oath of Druids》を通せば勝機はあるが、そこに立ちはだかる《意志の力/Force of Will》をどう乗り越えるか。
しげるは無情にも《超能力蛙/Psychic Frog》を唱え、戦闘民族にさらなる制限時間を突き付ける。
戦闘民族は土地を並べるだけでターンを返し、その間にしげるは蛙から供給されるドローでどんどん手札を充実させていく。
いっそ、相手の手札に青いカードがないことに賭けて《ドルイドの誓い/Oath of Druids》を叩きつけてしまう選択肢もあるだろう。
しかし戦闘民族はそれができない。「運」に頼らず、「理」を求める戦闘民族は、自分の読みを無視できない。
しげるが《超能力蛙/Psychic Frog》をクロックとして出したという事は、追加の青いカード、《意志の力/Force of Will》のコストとなるカードを持っているという読みだ。
「・・・引けなかったか」
そうつぶやいた戦闘民族は、《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》が追加されたことによって残りライフが危険水域を超えてしまった。
「理」を信じ続け、《意志の力/Force of Will》を乗り越えるカードを求め続けたその手から、諦めたように公開される《ドルイドの誓い/Oath of Druids》。
間髪入れずにしげるから飛んできた《意志の力/Force of Will》を確認すると、そのままカードを片づけた。
戦闘民族 0-1 しげる
Game2
続くゲームでも、先に動いたのはしげるだった。フェッチランドを並べるだけの戦闘民族を尻目に、先のゲームを決めた《超能力蛙/Psychic Frog》を戦場に投下する。
しかし、今回は戦闘民族も負けてはいられない。
《ドルイドの誓い/Oath of Druids》を勢いよく設置すると、さらに青マナを立たせてしげるへターンを渡す。
ついに現れてしまった《ドルイドの誓い/Oath of Druids》。
まずはこちらの対処が先決、と《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》で情報を集めようとするしげる。
簡単に情報を渡せないとばかりに《精神的つまづき/Mental Misstep》で妨害をする戦闘民族だが、しげるも《精神的つまづき/Mental Misstep》で返す。
そこまで読み筋に入っていたとばかりに《狼狽の嵐/Flusterstorm》が吹き荒れ、情報という価値あるものを守った戦闘民族。
調査が成就しなかったしげるは、《超能力蛙/Psychic Frog》のドローで選択肢を増やしにいった。
蛙がもたらしたカードを確認すると、その手から現れたのは《浄化の印章/Seal of Cleansing》。
戦闘民族の苦悶の表情と共に《ドルイドの誓い/Oath of Druids》が墓地へ送られる。
悔しがる戦闘民族だが、ターンが帰ってくるとまた表情が一変。
ライブラリトップのカードをそのまま公開し差し出す。
再びの《ドルイドの誓い/Oath of Druids》。
またもや対応を迫られたしげる。
回答を求めるため、《ブラック・ロータス/Black Lotus》の力を借りた《ロリアンの発見/Lorien Revealed》で手札を大きく充実させた。
そして引き込んだのは《封じ込める僧侶/Containment Priest》。
青黒のデッキにあえて加えた白、サイドボートから投入したカード達がしげるの手元に集い、盤面への解決策となっていく。
戦闘民族が《時を越えた探索/Dig Through Time》で解決策を求めるも、しげるは容赦なく《オークの弓使い/Orcish Bowmasters》も加えてダメージを積み重ねていく。
しげるの最後の攻撃宣言を聞き入れると、どの抵抗も自分の命を守れないと悟っていた戦闘民族は、代わりに右手を差し出して勝者を称えた。
戦闘民族 0-2 しげる
「Game1の超能力蛙は、リスクよりリターンが大きいと判断してのプレイです」
しげるは後にその選択理由を語ってくれた。
ダブルマリガンをしてリソースが少ない相手、二の矢を継げないのなら第一射を大事にするはず。
見えている《意志の力/Force of Will》は必ずケアすると思い、青いカードを引かない場合でも超能力蛙を出してクロックを優先させた、という事だった。
「運」ではなく「理」を突き詰めた戦闘民族。その「理」を相手が読んでくると信じて対応したしげる。
「理」にこだわった両者の試合は、すべての手順に深い理由と必然性があった。
決勝へ歩を進めたしげるは、次はどんな「理」を見せてくれるのだろうか。
対戦相手のcabbatsuと共に、添削杯Vol.8の決勝卓へと座った。
しかし、シャッフルを始めるしげるに対し、カードを取り出さず何かを相談し始めるcabbatsu。
そのままお互いが納得した表情を見せると、会場にアナウンスが響き渡る。
「添削杯Vol.8決勝戦は、cabbatsuさんのドロップにより決着となりました」
「添削杯Vol.8の優勝者は、しげるさんとなります」
激戦のミラーマッチを耐えきった準々決勝、高速コンボとの「理」の読み合いを制した準決勝。
本大会のために用意されたトロフィーに、栄冠をつかんだプレイヤーの姿が刻まれた。
添削杯Vol.8、参加者85名の頂点に立ったのはしげる!おめでとう!
「理」と、それを超えた「情」
戦わずして決着となった決勝戦だったが、そこにはどんな理由があったのだろう。
しげるの対戦相手だったcabbatsuへ、その「理」を聞いてみた。
「今回の賞品に、添削さんが作った同人誌の表紙イラストの原画がありましたよね」
「その原画を描いているカイ(※sawatarix)が私の友人で、これはぜひとも手に入れたいと思いこの大会に挑んだんです」
「カイは私が関東にいたころにとても親しくしていた友人の一人で、彼の家での練習が私のマジックのスキルを押し上げてくれました」
「マジックの大会以外でも遊ぶことが多く、関東での生活を充実させてくれた大切な友人です」
(※編注:cabbatsuは現在関東を離れている)
「この原画を勝ち取って、今ドイツにいる彼に報告することができたらめっちゃ面白いし、彼への感謝やこの出会いを作ってくれたマジックへの感謝にもなるかな、と思って《原画の入手》を目標に大会へ臨みました」
「日程調整が大変でしたがそこも無事に完了し、ここ数年の《楽しむ》の姿勢から、久々に《競技志向》でマジックと向き合い、目標を達成しようと大会当日まで準備を進めていました」
「スイスラウンドは強豪の方や身内との対戦が多く、いつ負けてもおかしくない苦しい戦いでしたが、良い結果を重ねて決勝ラウンドまでたどり着きました」
「準決勝のマナキンさんには「目標を達成してこい!」と背中を押されて、より一層原画を手に入れたい、という気持ちが強まりました」
「決勝進出が確定した時点で、可能であれば話し合いで原画を受け取れないかと思ってました。最後の最後で全てを失う可能性を一番恐れていた為です。 最終戦のしげるさんが快く私の提案を受けてくれたので、決勝については私のドロップという形で済まさせてもらいました」
「今回は結果にも恵まれ、カイに報告したらめっちゃウケたので、本当に満足しています。準備期間も含めて充実した時間でした」
「主催の添削さんや運営の方々、そして当日に時間を共有してくれた皆さんに改めて感謝を伝えたいです。素敵な1日をありがとうございます!これからも《楽しむ》マジックをたくさん遊んでいきます!」
cabbatsuが語ってくれた「理」、それは何物にも代えがたい「友情」だった。
熱戦に次ぐ熱戦を戦い抜き優勝したしげる、自身と友人への思いを貫き通したcabbatsu、そして本大会を盛り上げてくれたすべての参加者の皆さんに感謝を送りたい。
それでは、次回の添削杯でまた会いましょう!