ウイルスベクターワクチンってなんですか?(2月25日こびナビClubhouseまとめ)

2021年2月25日

木下喬弘
日本のみなさん、おはようございます。
本日も「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース」やっていきたいと思います。

今回も文字起こしをしてnoteに掲載する予定ですので、ご同意いただける方にスピーカーとしてお入りいただければと思います。

それでは、早速本日のニュースをご紹介します。ついに出た!というニュースです。
私のTwitterにも載せていますので、そちらをご覧いただくと文字ベースでもご確認いただけるかと思います。

アメリカの新聞「ニューヨーク・タイムズ」からで、「アメリカで3つめのワクチンが承認」というニュースです。

この内容に関しては、解釈・判断がなかなか難しい点があります。
その一番の理由は、現在このワクチンは、FDA(アメリカ食品医薬品局)に提出する審査書類の準備ができた、という段階にあるということです。土曜日に審査がされ、そこで承認されるかどうかが決まります。
承認基準である50%の有効性を上回っているので、承認されるのはほぼ確実という状況ではあります。
ただ、論文の形ではまだ上がってきていないので、実際このワクチンをどう評価するかちょっと難しいところもあります。

(審査書類:https://www.fda.gov/media/146217/download)

今日は、このジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)のワクチンが、そもそもmRNAワクチンと比べてどう違うのかといったことを中心にお話ししていきたいと思います。

現在、403名の方に聞いていただいています。ありがとうございます。

では、始めたいと思います。
ニューヨーク・タイムズから、”New analyses show Johnson & Johnson’s one-dose vaccine works well.”ということで、「J&Jの1回接種のワクチンに効果があることがわかった」という内容をトップで報じています。

(https://www.nytimes.com/2021/02/24/science/johnson-johnson-covid-vaccine.html)

J&Jは1回接種のワクチンを作っていて、Covid-19による重症化予防および死亡抑制に対して高い効果を示したという内容です。

このワクチンは、アメリカで72%、南アフリカで64%の中等症から重症の発症予防効果が示されたとのことです。
南アフリカでは現在、変異したウイルスが主力になってきていますが、その南アフリカにおいても64%の有効性があるということですね。
当初の速報では57%と報じられていたのですが、数字が変わったようです。

重症化予防効果に関しては、アメリカで86%、南アフリカで82%と書かれています。
南アフリカの変異ウイルスに対しては、ワクチンの効果が低くなるのではないかと心配されていましたが、今回のワクチンに関しては、アメリカと南アフリカでそんなに大きな差がないという結果に今のところなっています。

このワクチンが、アメリカで3つ目のワクチンとして恐らく承認されるだろうということです。
アメリカではまだまだワクチンが不足していて、1回目の接種が終わっているのは人口のおよそ14%くらいです。
(https://ourworldindata.org/covid-vaccinations)
集団免疫を達成できる割合からはまだ遠く、このワクチンが承認されれば接種を加速させてくれるだろうと捉えられています。

このClubhouseでもよくお話ししてきた、モデルナ社や、ファイザー社・ビオンテック社が開発した2回接種のmRNAワクチンとは違って、J&J社のワクチンは1回接種のワクチンです。
mRNAワクチンのように-20℃で保存する必要はなく、普通の冷蔵庫で3ヶ月保管が可能であるなど、いくつか違う点があります。
何より作り方が全然違うので、J&J社のワクチンがどういうものかについて、プロに聞きながらわかりやすくお伝えできればと思います。

J&Jのワクチンのメカニズムについて説明できる方いらっしゃいますか?

峰宗太郎
…聞こえますか?もしもーし!

木下喬弘
もしもーし!聞こえております!

峰宗太郎
よかった、今日は入れた!

ごく簡単にご説明させていただきます。
J&Jのワクチンですが、ヤンセンという製薬企業の技術を使っているので、「J&J・ヤンセン」なんて言われたりもしますが、今回のワクチンは「ウイルスベクターワクチン」という種類のワクチンとなっています。

このワクチンが日本にすぐ入ってくることはなさそうなのですが、アストラゼネカのワクチンが日本に来ることが決まっていて、これと似たタイプのワクチンです。

mRNAワクチンは、ウイルスの表面のトゲトゲ「スパイクタンパク質」の設計図を、裸の状態で油の粒につつんで体に打ち込みます。
一方で今回のベクターワクチンでは、「アデノウイルスベクター」といってアデノウイルスの外側の殻を使います。(アデノウイルス=鼻風邪や、症状のない風邪を起こすウイルス)
そのウイルスの殻の中に「スパイクタンパク質」の設計図をDNAの形で乗せて、それを体の中に注射します。
そうすると、アデノウイルスが設計図であるDNAを体に運んでくれて、その先はmRNAワクチンと同じように体の細胞の中でDNAからmRNAができて、それがタンパク質に変わるという仕組みです。
「ベクター」とは運び屋さんの意味で、ウイルスの殻を、体にDNAを届ける運び屋さんとして使うワクチンなんです。

木下喬弘
ありがとうございます。毎日聞いてくださっている方はおわかりになったかもしれませんが、初めてお聞きになった方のために、峰先生にはワクチンの基礎をもう少し説明いただきたいと思います。

「ベクター」は遺伝子を運んでくれる運び屋ということで、mRNAワクチンと同じようにウイルスの「スパイクタンパク質」の設計図を運ぶものだということがよく理解できました。
ただ、そもそも今まで使われてきた「生ワクチン」や「不活化ワクチン」と、今回の遺伝子を使ったワクチンは、どう違うのでしょうか?

峰宗太郎
ワクチンというのは、体に免疫をつけることが目的のお薬です。免疫をつけるためには、体に病原体(ウイルス)の一部を異物として入れます。
異物が入ると、体は「まずいものが入ってきたから免疫を付けよう!」と反応してくれるんですね。

従来型のワクチンは、異物そのものを製薬企業の工場で作っていました。たとえばタンパク質や、ウイルスを殺したもの、生ワクチンの場合はウイルスが弱くなったものです。
工場でつくったそれらを注射器に入れて、体に打っていました。

ところが新しいテクノロジーのワクチンは、異物そのものではなく、異物の設計図を体の中に注射で入れるんですね。すると私たちの体が工場のかわりとなって、異物であるタンパク質を作ってくれます。
免疫細胞は、異物がどこでできたかということはわからないので、体の中でそのタンパク質ができると「あれ、異物ができたぞ?反応しなければいけないな」となって免疫がつくという仕組みです。

一番大きな違いは、異物であるタンパク質を製薬企業の工場で作るか、自分たちの体に作らせるか、その点だと言って良いと思います。

木下喬弘
なるほど、ありがとうございます。
今までは異物を作ってから体の中に入れていたのを、新しい技術では体に対し異物の作り方を教えるんですね。
自分の中で作ったものなのに、「自分のものではない、異物だから攻撃しなきゃ」と認識させるという面白い発想ですね。mRNAワクチンも、アデノウイルスベクターワクチンも、初めて聞いたときはすごいなぁと思いました。

異物であるタンパク質を工場で作ってから人の体に注射する方法と、人の体に作らせる方法のそれぞれについて、メリットとデメリットを教えていただけますでしょうか。

峰宗太郎
はい。一番大きな点は、免疫原性(=免疫の反応具合)が全然違うという点です。

工場で作ったものを体に入れる場合、生ワクチン以外のものに関しては、実は免疫の反応はそこまで強く起こらないんですね。
「あ、タンパク質入ってきたよ~。うん。だから?」みたいな感じになってしまうことがあります。
なので、反応を強く起こすために「アジュバント」という成分を使ったりします。
「アジュバント」を使うことで、免疫が勘違いして「これは大変だ!火事が起こっているぞ!」と必死に動くような状態になります。
そういう成分を加えるなどの工夫をすることで、免疫をつけてきました。
回数も何度か打たなければいけなかったりします。

一方で今回の設計図のワクチンは、体に入れると結構な量の抗原(=異物)ができて、その状態が1週間弱持つことで、従来のものに比べ体への刺激が強くなっています。
それによってしっかりとした免疫をつけることができます。

あとは純粋に作りやすさの面です。
工場でタンパク質を作るのは、時間・手間・コストがかかり、品質管理も難しいです。
しかし今回の設計図のワクチンで使うRNA、DNA、ベクターは、比較的安定して生産できる上に、コストが低く作業も早く済むといういいところばっかりのワクチンです。
やはり新しいテクノロジーにはいろいろな面でアドバンテージがあるなぁと思います。

木下喬弘
ありがとうございます。
工場でタンパク質やウイルスを不活化させたものを作るのは大変だけど、設計図を作るのは簡単だということがわかりました。

しかしそうすると、設計図は比較的作りやすいのに、なぜ今までこういった設計図のワクチンがなかったのか腑に落ちない方もいらっしゃると思います。
今回のmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンはどこがすごいのか、もう少し教えていただいてもよろしいでしょうか?

峰宗太郎
はい。mRNAワクチンについては、2つの技術の大きな進展がありました。

1つ目は、mRNAに工夫を加えることによって、体の細胞で適切に異物ができるようにするという技術です。
異物の量や、異物ができる時に変な免疫の反応が起こらないようにするといったことをうまく調整する技術なのですが、これがこの10年くらいでものすごく進みました。

2つ目は「ドラッグ・デリバリ-・システム(DDS)」と呼ばれるもので、薬や、今回のワクチンでしたらRNAを、ねらった細胞に上手に届ける技術です。これも大きく向上しました。
mRNAワクチンでは油のつぶつぶに混ぜてRNAを注射しているのですが、油をうまく扱うのにはたくさんの研究が必要でした。それがこの10年くらいでものすごく進展し、安定して効果的に細胞にRNAを届けることができるようになりました。

ですので、mRNAワクチンについては技術そのものがこの10年で大きく進歩しました。
それ以前にはできなかったのかと言われるとて、、、やっぱりできなかったんです。
動物に裸のRNAを打ったところで、何も起こらないという状況が続いていたんですね。

木下喬弘
なるほど、ありがとうございます。
mRNA自体に工夫をして、体の中で適切にタンパク質ができるようになったのが1つ。
もう1つは、mRNAを細胞内までちゃんと運び届ける技術が進んだ、ということなのですね。

峰宗太郎
まったくその通りです。

木下喬弘
では次に教えていただきたいのは、今回のJ&JのワクチンもmRNAワクチンと同じように遺伝子の情報を細胞内まで届けるということですけど、mRNAは油に包んで届けるのに対し、J&Jのワクチンはどうやって届けているのでしょうか?

峰宗太郎
J&Jのアデノウイルスベクターワクチンでは、アデノウイルスの外側の殻をつかって、その中にスパイクタンパク質の設計図を入れます
それを注射で体の中に入れると、最初はウイルスと同じような動きをするんですね。
つまり、体の中に入ったベクターは細胞にペタっとくっつき、細胞の中にもぐりこんでいきます。そして細胞の中に自分の中身を出します。
これが本物のウイルスであれば感染を起こすのですが、ワクチンの場合は感染する中身ではなく、スパイクタンパク質の設計図が入っています。

mRNAワクチンで設計図を運ぶのは油のつぶつぶですが、アデノウイルスベクターワクチンの場合は、ウイルスの外側の部分が細胞の中までDNAを運んでいってくれるんです。

木下喬弘
なるほど、細胞内まで遺伝子の情報を届ける方法が違うということですね。

話を聞いていると、アデノウイルスベクターワクチンってすごく自然な発想でできていると思いました。
本来であれば人に感染を起こすウイルスの外側を乗り物として使って、中身のウイルスの遺伝子情報を取り出し、別のウイルスであるコロナウイルスの遺伝子情報に置き換えると。
そうすると乗り物自体はウイルスと同じように機能して、あたかもアデノウイルスが感染するかのように細胞内に入っていき、でもそこで実際に届けられる情報はアデノウイルスではなく、コロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図ということですよね。
その後はmRNAワクチンと同じように、その遺伝子情報を使って体がコロナウイルスのスパイクタンパク質を再現すると、そういう理解でよろしいでしょうか。

峰宗太郎
はい、そのとおりです!

木下喬弘
非常にわかりやすく解説していただき、今までのインフルエンザワクチンなどウイルスを不活化させて投与するワクチンと、体内で設計図からタンパク質を作らせるワクチンの大きな違いがご理解いただけたのではないかと思います。

また、今まで発想はあっても技術が難しかったのが、mRNAワクチンに関しては油の膜で包んで届けることにようやく成功したと。
そしてウイルスベクターワクチンに関しては、ウイルスの遺伝情報が人の細胞まで届けられるメカニズムを使い、乗り物は同じで中身を変えるという方法をとっているんですね。
いずれの場合も、遺伝情報を細胞内までちゃんと届ける技術の革新が進んだことで、たくさんの会社で1年以内にワクチンの実用化ができたということですね。

この分野で峰先生を補足できる方はいないかもしれませんが(笑)、コメントやご質問などある方はお願いします。

池田早希
アメリカで小児感染症科で働いている池田と申します。
あくまでもコメントなのですが、mRNAワクチンとウイルスベクターワクチン、両方とも本当に素晴らしい技術だなと思います。
私たちの体は、受精卵からここまで大きくなるまでにタンパク質をたくさん作ってきて、細胞にそういうメカニズムがあるんですよね。
DNAから、コピーであるRNAを作って、RNAをリボソームという装置に読み込ませて、筋肉に必要なタンパク質を作ったり、体に必要な酵素を作ったり…そういう体のメカニズムを利用してワクチンをつくるというのは本当に素晴らしいと思いました。

木下喬弘
本当にそうですね。
僕は臨床研究をするのが中心なので、基礎研究者の方たちが作り上げたものを、実際人に接種したら何%効いたとか、その数字の確からしさをどう解釈するかとか、そういったことを中心にやっていますが、こういう技術革新は一気に世界を変えますね。
このような基礎研究ですごい発見をする方は、人類の歴史に名を刻んでいるなと僕も思います。

安川康介
J&Jのワクチンに対するコメントです。
ワクチンの承認を行う機関であるFDAには、諮問委員会という専門家の集まりがあって、2月26日に今回のワクチンを承認するかどうかについて決める会合を開きます。この承認審査のために、FDAが62ページにわたるJ&Jの報告書を作って公開しています。

(https://www.fda.gov/media/146217/download)

今日ご紹介したニューヨーク・タイムズの記事は、この報告書の内容が元になっています。
報告書には誰でもアクセスできる状態になっていて、論文という形ではないのですが、FDAがかなり詳しく調べています。
そこにたくさん情報があるので、J&Jのワクチンと他のワクチンのどこに大きな違いがあるのかについて、少しお話ししようと思います。

これをお聞きになっている方の中には、ファイザー社やモデルナ社のかなり有効性の高いワクチンがあるのに、アメリカでなぜ3つ目のワクチンが必要なのか、意味があるのだろうかと思われる方もいるかもしれません。その点をご説明します。

アメリカでは、まだ全体的にワクチンが足りていないので、これが承認されると数が増えるということがまず1つあります。
あと、今回のJ&Jのワクチンはかなり扱いやすいです。ファイザーのものは冷蔵保存だと5日間しか持たず、モデルナのものも2~8℃の保存で30日間です。
しかしJ&Jのワクチンは3ヶ月持ちます。これは、実際に普及させる時にかなり有利だと思います。

また、接種は1回のみです。そしてデータを見る限り、ファイザー、モデルナのものに比べると副反応が弱いのかなという印象もあります。
たとえば接種部位の痛みは若い人で約6割なのですが、これがファイザーのものだと8割くらいです。
頭痛は約4割、疲労感は38.2%で、ファイザー、モデルナのmRNAワクチンに比べて少し優しい?ような印象です。

木下喬弘
ありがとうございます。
僕たちがよく話に出しているmRNAワクチンの副反応のデータは、若い人における2回目接種時のものを使っています。一番副反応が出やすいタイミングのデータをお伝えした方がよいと思っているからです。

一方、J&Jは1回接種のワクチンなので、当然1回目の接種でのデータということになりますね。
安川先生のご指摘の通り、痛みに関してはファイザー、モデルナのものに比べて少し低いようです。年齢にもよりますが、18~59歳ではだいたい6割くらい、60歳以上では33%というデータがあって、おっしゃるように副反応に関しては軽めなのかなと思います。

これは僕も知らないので教えて欲しいのですが、そもそもJ&Jのワクチンはなんで1回でいいのでしょうか?

峰宗太郎
これは単純な理由で、1回の接種でも十分な中和抗体力価が得られるという動物実験の結果がもともとあったんですね。
mRNAワクチンですと、1回打っただけでは抗体が十分にできなくて、2回打つとブーストといって、抗体がよく上がります。
一方でアデノウイルスベクターワクチンは、免疫を強く刺激してくれる特性があって、1回の接種だけで十分な抗体量が得られ、しかもそれが長く続くということが予めわかっていました。
ですので、設計の段階で、人にも1回の接種で運用できるだろうかということを主眼として開発が進められました。その形で臨床試験の結果も良好だったので、「よし、GO!」ということになったんですね。

木下喬弘
ちょっといじわるな質問に聞こえたら申し訳ないのですが…
基礎研究レベルでは1回接種で十分な抗体が得られたから、実際に1回接種でいいだろうとプロトコルを決めて開発を進めたということですよね。
実際に人に使ってみたところ、重症化予防効果は8割を超えてきていて良い効果だとは思うのですが、発症予防効果は66%とのことでした。
これって、mRNAワクチンを2回打ったときの抗体量と比べて、実は1回接種のワクチンの抗体量が少なかったということの結果なのか、それとも同じくらいの抗体量で同じくらい効くはずだったところが、実際に人に使ってみたらそこまでではなかったということなのか、そのあたりはどうなんでしょうか。

峰宗太郎
はい。少人数ですが、人でも免疫原性の試験を行っています。
このアデノウイルスベクターワクチンには、ちょっとトリッキーなところがあり、アデノウイルスというベクターそのものに対する抗体もできてきてしまうんですね。
これ自体が異物で、体が免疫として反応してしまうので、そもそも設計思想上「できれば1回接種の方がいいのでは」と言われてきました。
今回は26型というアデノウイルスを使っていて、また、たとえばアストラゼネカ社のワクチンではChAdOx1というチンパンジーのアデノウイルスを使っているのですが、これが2回打つと、結構な確率で2回目はベクターが免疫に撃墜されてしまいます。
そこをふまえて、もともとこのワクチンは1回接種がいいだろうと想定されていました。

では、2回でバッチリ効果を出そうと思ったらどうするかというと、これはロシアのスプートニクというワクチンを開発した科学者たちが頭を使いました。
1回目と2回目で違うベクターを使うという、非常に賢い方法を使ったんですね。
この方法では非常に効果があるということですが、J&Jの場合は1回で済むなら1回の方がいいという、そもそもの開発思想で進められてきたのだと思います。

木下喬弘
なるほど、ありがとうございます。
ベクターワクチンについてまとめますと、J&Jのものは、2回目の接種をすると乗り物(ベクター)を攻撃されてしまい、細胞内まで届かないのが困るということで、なんとか1回の接種で開発したと。そして実際に1回接種で抗体の量も十分上がったということですね。

ロシアのワクチンについては、1回目と2回目で乗り物を変えることによって、1回目の接種のときに乗り物に対する攻撃方法を体が覚えても、2回目の接種で乗り物は攻撃されないので、9割くらいの良い発症予防効果が出ているということなんですね。

アストラゼネカのものに関しては、1回目と2回目で同じ乗り物を使って投与すると。
そしてこれは議論の分かれるところですが、実はたまたま1回目の投与量が半分になってしまった人たちがいて、その人たちに9割くらいの発症予防効果があったとイギリスの研究で一応報告されています。
これに関しては当然、再現性の確認が必要で、今のところハッキリと「90%効きます」とは言えないと思いますが、1回目は半分、2回目は通常量を投与した方が良く効いたというデータが出ているんですね。
これは、1回目の量が半分だったことによって、乗り物に対する攻撃をあまり覚えず、2回目に通常量を投与したときにも乗り物がつぶされることなく、ちゃんと細胞内まで遺伝子の情報を届けられたのかな、と。
ベクターワクチンに関してこんな感じで理解がまとまってきましたが、峰先生、これで良さそうでしょうか。

峰宗太郎
はい!間違いの部分はないと思います。

木下喬弘
ありがとうございます。
本日は、mRNAワクチンではなくウイルスベクターワクチンについて、どんな仕組みで作られていて、どうやって人の体に効くのかということをまとめさせていただきました。

安川康介
一応、J&Jでは2回接種での臨床試験も始まっているということなので、その結果を今後楽しみにしたいと思います。
また、承認されてから少し話題になるかもしれないので話しておくと、今回のJ&Jの審査資料を読むと、60歳以上で基礎疾患のある方は、接種後28日時点での効果が42.3%とあまりよくないことが報告されています。
承認されてから実際の発症予防効果がどうなっていくのか、臨床をやっている身としてはかなり気になるところです。

木下喬弘
そうですよね。ありがとうございます。それも重要な点ですね。
高齢者に対する効果がどうかといったことも少し話題になっていて、実際の運用について、たとえばヨーロッパではアストラゼネカのワクチンについて、「高齢者への使用はまだ推奨しない」としているところもあります。
今回のJ&Jのワクチンもどうなるか、今後の発表を見ていくのが大切かなと思います。

そろそろ9時を回りました。
実はもう1つニュースを用意していて、これはちょっとした内容なのですが、昨日僕たちがこってり話をした「mRNAワクチンを1回接種にするのか2回接種にするのか」について、まず田村厚労大臣が「2回接種でいきます」と示しました。
そして本日のニュースで、菅首相も「ワクチンは2回接種維持」と言っていただいているということで、おそらく菅総理もこのルームを聞いていただいているんだと思います。
これを明るいニュースとして皆さんにお伝えしたいと思いました。

…と、しょうもないことを言わなくてもいいんですけど(笑)、このような形で毎朝最新医療ニュースをお届けしています。
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こびナビのSNSでは、最新の情報を発信しております。安川先生が全力を尽くして作ってくださった、非医療従事者のみなさんにもわかりやすく専門用言の少ないQ&Aを最近公開しまして、非常に好評いただいております。
ワクチンに関して知りたいことや不安なことがある方は、ぜひこびナビのSNSをフォローしていただき、ホームページの動画やスライドなどもご活用いただければと思います。

では、本日はここまでとさせていただきたいと思います。
ご登壇いただいた先生方、聞いてくださったみなさん、ありがとうございました。
日本のみなさん、良い一日を!


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