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うつ病とは?精神科を受診する目安について議論しました(7月29日こびナビTwitter spacesまとめ)

※こちらの記事は、2021年7月29日時点での情報を基にされています。※

2021年7月29日(木)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:峰宗太郎、内田舞

峰宗太郎
チィース。
……みんな来ないね。
今日はみんな来たらやろうと思ったことがあるんですが、なければ雑談にしようという思いと両方あるんですが……来ないですね。
安川先生や木下先生や黑川先生はどうしたんだろう?
今日は忙しいのかな?

岡田玲緒奈
どうですかね?
最近比較的来てる人が多かったですけど、

峰宗太郎
なんだろう嫌われてるのかな?(笑)
あ、あれ、面白かったですよ、えっと、なんでしたっけ?ええっと、インスタライブ!

岡田玲緒奈
ありがとうございます(笑)

内田舞
私も聞いてますよー、岡田先生。
面白かったですね。

岡田玲緒奈
毎回600〜700人の方に聞いていただいて。
明日、峰先生とどこまで伸ばせるかですね。

峰宗太郎
明日ですか?明日でしたっけ?(笑)
あ、日本の明日ですね!
僕にとっては明後日なんですよ。
明後日は、こちらでは金曜日ですね。
金曜日はもうちょっと仕事を少しだけ入れて、午前と午後お休みしちゃいました。
なんと、動物園に行くことにしました。

岡田玲緒奈
そうなんですね。天気良いといいですね。

峰宗太郎
今の時期、天気良すぎると暑いんですよね。
だからあんまり暑すぎるのも良くないなと思ってるんです。
熱中症で倒れたら、ちょっと情けないというかびっくりですからね。

内田舞
スケッチしに動物園に行くんですか?

峰宗太郎
そうです。写真とスケッチですね。

内田舞
おおー楽しみー!

峰宗太郎
そうなんです。
久しぶりに絵を描こうかなと思ってるんですが。
って、こびナビのメンバー、本当に来ないですね。
今日はね、ちょっと一緒にお話しようと思ってたんですけど、黑川先生や木下先生がいないと面白くない話になっちゃうんですけど。
それはやめて雑談にしますかね、岡田先生。

岡田玲緒奈
そうですね。僕もそろそろ行かないと。

峰宗太郎
えー!
僕1人で雑談だと漫談になってしまうじゃないですか。
内田先生いらっしゃるので内田先生と2人で漫談になってしまうじゃないですか。

ということで、内田先生急遽ですが、対談コーナーとなりました。

内田舞
分かりました(笑)。楽しみましょう。

峰宗太郎
そしたらですね、全然テーマを変えます。
折角なので、コロナの話題はやめましょう。
内田先生に、お聞きしたいことがいくつもあるんです。

聞いていただいてる皆さんも、ここまで7分から8分グダグダしたのを聞かされているわけですが、たまにはメンタルヘルスを話したいと思いまして。


【うつ病とは? 精神科を受診する目安】

峰宗太郎
内田先生はメンタルヘルスの専門家ですね。特に小児精神科のスペシャリスト、つまりプロなんですね。

実は僕もプロなんです。
もちろん治療することについては素人ですが、どうプロかと言いますと、僕は16歳の時から、major depression(日本語では大仰な名前ですが大うつ病)、いわゆる「うつ病」と呼ばれる、色々な影響が出る病気と付き合ってます。
要は気分障害なんですが、非常に気分が落ち込む、何もできなくなる、ひどい場合には希死念慮、行動化すると自殺未遂をしちゃうという方もいらっしゃいますけど、まあ、そういうことで非常に気分が落ち込むということですね。
16歳の時から今40歳(あ、言っちゃった)なので、25年間ぐらい悩んでるんです。
僕にもマシュマロを通じて、こうした気分障害とか精神疾患などに関する質問もチラチラ来るんですが、個別の質問には答えないことにしています。

今日は内田先生にざっくばらんに、
・標準的な治療法はどういうものか
・今コロナ禍で気分が塞いじゃっている方多いと思うんですが、そういう方がどういう状況になったら精神科の門を叩いて欲しいか

というところにフォーカスして、前半ちょっと一緒に雑談できればと思います。
それでオッケーですか?

内田舞
もちろん!
とっても重要な話ですよね。

実は今週、印象的だった出来事があるんです。

オリンピックの体操のアメリカ代表に、シモーン・バイルス選手がいるんです。
史上最高の女子体操選手といわれている人で、4つの金メダルを取った、もうすごいすごい方なんです。
そのシモーン・バイルス選手が東京オリンピックでチーム戦に出てたんですが、1個目の種目のところで、なんかどうしても集中できない、色々なことを考えちゃって、気分のコントロールが自分でできなくなって、大技を失敗しちゃって着地をして(怪我はしなかったようなんですが)。
そこで「もう集中できない、こんなに気分がごたごたしてる中では、自分が怪我をしてしまう」と言って、史上最高の体操選手がチーム戦を棄権することにしたんですね。
チームメイトにそれを授けて、その後、代役として出てきたチームメイトが頑張って銀メダルを取ったんです。

彼女に対して、もちろんネガティブなことを言っている方もたくさんいるんですが、アメリカの中では称賛の声がすごく出ています。
自分のメンタルヘルスを守るために、こんな大舞台であっても、自分を守るための選択をできたというのは素晴らしいことだ、それでチームに託して、そのチームを応援して、そういう役目が出来るという、史上最高の体操選手の名前にふさわしい選択をした、と言っているんですね。

その後、やはり昨日、今日と色々とメンタルヘルスの会話が本当に盛んで、それでアメリカの方で私は色々取材受けているんですが、こういう会話が出てきてくれて、私はすごく嬉しいです。

▼ FRaU・内田舞インタビュー「142万人が『いいね』!米体操絶対女王シモーネ・バイルズ『メンタルヘルス棄権』の大きな意味」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85918
▼ FRaU・内田舞インタビュー「若いうちから自己管理を求められ…精神科医が語る・米体操絶対女王『メンタルヘルス発言』の背景」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85922

峰先生も、今日はご自分の体験のことをお話してくださって、すごく私はありがたいなと思うんです。

まずは、どの国でも同じ比率で、大体20%ぐらいの方が、人生のうちで1回はうつ病になることがあると言われています。

峰宗太郎
えー!20%ですか?

内田舞
そうなんです。結構な方がいらっしゃるんですよね。
私はハーバード大学の小児うつ病センターのセンター長なので、私が診ているのは子どもたちです。
子どもに関しても、まず思春期の子ども(中高生とか)は大体13%ぐらい、更に年齢を下げてみて、12歳以下だと10%以下なので、子どもの時期から大人にかけて少しずつ年齢が上がるにつれて、発症率が上がるんです。
本当にありふれた病気なんですよね。

きっと「うつ病」って聞くと、ほとんどの方は、ふさぎ込む気持ちとか、悲しくて泣きたくなるっていうような、そんなものを想像されるかと思います。
もちろんそういう症状が出る方もいらっしゃいますし、それとは全く別に、例えば次のような症状があります。
・イライラした気分になる
・なんとなく集中できない
・なんとなくぼわんと考えがまとまらない
・なんとなく空気が重く感じてやりたいことが見つからない
・やりたいと思う気持ちが見つからない
・やりたいことあるんだけれども、そこに向かうための1歩目が、いつにも増してとても重い

他にも、身体症状にあらわれる方もたくさんいて、頭痛がする、お腹が痛い、指先の器用さがなくなる、あとは匂い、味、聴覚が変わる方もいらっしゃいます。
脳はやはり体全体を司る器官なので、全身症状が出るっていうのが、よくあることですね。

イライラする、ふさぎ込む、やる気が出ないというのは、皆さん経験されるものでもあるので、どこが病院を受診すべきラインなのかを峰先生が聞いてくださったんですが、やはり「いつでも来ても良い」というのが、私が伝えたいメッセージなんです。
これはヤバイかな? というのはどういう時ですか? と聞かれることもありますが、やはり「普段の生活を続けることが辛くて仕方がない、そのために費やす労力が多くて仕方がない」、そういう時期に来たら、ぜひとも受診して欲しいなあと思います。
例えば、お子さんだったら、
・学校の授業が学力的には分かるのに、授業の内容ではなくて、その授業に出ている時に先生の言葉がどうしても耳に入ってこない
・分かっているはずなのにどうしてもレポートが書けない
・自分でやらなきゃいけないことや、やれることがなんとなくできなくなる、すごくできにくくなったなあと思う
このような時にぜひとも受診して欲しいです。

ちなみに、峰先生は16歳の時に診断を受けたということですが、何かきっかけがあったんですか?

峰宗太郎
私の場合、16歳って受験勉強の時期ですが、はっきり言ったら何もできなくなっちゃって。
眠れなくなっちゃうし、頭も動かなくなっちゃうし、っていう形で。
私の場合は、特に親に相談するとかもなく、自分で抱え込んじゃって、もうどこにどうアクセスしていいのか全く分からなかったですね。
子どもですから、情報もなかったですしね。

内田舞
そうですね。
今のようなソーシャルメディアやインターネットもない時期なので。

峰宗太郎
はい。
今よりも(今でもありますが)偏見とかもありましたので、精神科には直接アクセスできなかったんですが、体調が悪くなったので、普通の内科に行ったんですね。

内田舞
なるほど。

峰宗太郎
内科で、僕も最初は色々な不定愁訴(体に出てきた症状。よく眠れないなど)を言うわけです。
そうしたらそれは本質の問題は、内科的な問題、つまり体に物理的に何かあるという問題じゃないよねって話をされて、紹介をされて、精神科にアクセスができたんですね。
その時点では、精神科に定期的に通うことはなかったんですが、それで緩和されたということがよかったです。

内田舞
なるほど。
その時、内科的じゃなくて心からくる症状かもよって言われた時には、納得いく気持ちでしたか?
それとも、ええそうなの!? とびっくりした気持ちでしたか?

峰宗太郎
半々ですよね。
やはり胃が痛いとか眠れない、頭痛いといった症状があるので、心の問題でこんなになるの!? と思ったのが半分です。
突然何もできなくなったということもあって、これは脳の問題だと思っていたので、まあそういうのあるのかなと思ったのが半分ぐらいですかね。

内田舞
なるほど、なるほど。
受け入れ半分、びっくり半分といった。
きっとそういう方が多いんじゃないかなと思います。
最初にお腹が痛くなったり、頭が痛くなったり、眠れなくなったりの身体症状が出て、後は今までできていたこと、例えば課題ができないとか、そうなったときにやっぱり、どうして突然こんな症状が出てきたんだろう?と、びっくりする気持ちは自然ですね。そこでそれが脳や心が原因だよって言ってもらえることで、なんとなく「あ、そうなんだ」って安心感を感じるっていう方もいらっしゃると思いますし、えっ、心!? ってびっくりされる気持ちもあるし、きっとミックスっていう方が多いんじゃないかなと思います。
先生はセラピーを受けられましたか? それともお薬を飲まれましたか?

峰宗太郎
直後は治療しておらず、様子をみましょう、ということになりました。
大学にちょうど接続するときだったので、大学に入ってから精神科に通うようになって、薬物療法を始めました。
当時(もう結構前です)は子どもに SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害物質、抗うつ薬)が処方できないので、いわゆる三環系という薬を飲んでいました。

内田舞
ちょっと古い世代の抗うつ剤ですね。

峰宗太郎
物凄くキレが良くて、頭の痛さが取れちゃうんですね。

内田舞
なるほど。

峰宗太郎
あ、これはたしかにそういう問題なんだなと思ったんですが、副作用も強く出たんです。
もともと血液にちょっと病気があるものですから、三環系と相互作用して、鼻血が止まらなくなって。

内田舞
なんと! それは大変ですね……

峰宗太郎
その後、SSRI が若い人にも使えるようになったんですね。
ちょうどその頃、初めて SSRI のパキシルを使い始めて、それでちょっと安定しました。
その後も薬をいろいろ変えることを続けて、結局今使ってるお薬に落ち着くまで、6年とか7年とかかかりましたね。


【うつ病の治療法】

内田舞
なるほど。本当に長い道のりですよね。
峰先生、最初に「うつ病にはどんな治療があるんですか?」っていう質問だったと思うんですが、大きく分けて心理療法と薬物療法があります。

お話をしたり、考えを変えてみたり、考えをもう一回再評価してみたり、行動を変えてみたり、そのような化学的な療法ではないものを心理療法といいます。
セラピーや、カウンセリングというものですね。
セラピーやカウンセリングは、日本ではちょっと敷居がまだ高いかもしれないですが、アメリカの大学生だとセラピーやカウンセリングを受けている方っていうのが、だいたい7割以上と言われています。

峰宗太郎
7割ですか!?

内田舞
そうですね。
受ける人が大半なので、悩みがあるから、今ちょっと辛い気持ちだから、家族関係など色々な悩みがあるから行くといったもので、「特に診断が必要なもの」というものではないです。
どんなものであっても話に行く相手がいる、毎週毎週45分間ぐらい、同じ人に自分に関することだけをずっと話す、話しに行くっていうのは、友達とか、家族関係でもなかなか無い関係です。
そういったものを利用してもっと人生生きやすくする、何かを治すっていうものではなくて、ストレスを軽減することで、人生でやらなきゃいけないことや、楽しめることをなるべく楽しめるようにして、人生生きやすくする、そういったもの目指すのが心理療法の良いところです。

もう1つが薬物療法です。
例えば、峰先生のお話に出てきた抗うつ剤、三環系、四環系抗うつ剤はちょっと古い世代の薬で、今は SSRI という抗うつ剤がメインになっているんです。
お薬を使って脳の中の神経伝達物質の量を変えたり、伝達の速度を変えたり、伝達の効率を変えたり、そういったことをするのが抗うつ剤になるので、そういった治療が中心になります。

お薬を精神的なことに使うのは、抵抗がある方もたくさんいらっしゃると思いますし、私は精神科医として、使わなくていい症状だったら使わないに越したことはないという立場ですが、これがまた効くときは本当によく効くものなので、必要なときに使わないのはもったいないと思います。
峰先生のようにまずは1つ試して、ここはいいけれどもこの副作用はちょっと耐えられないから、次のものを試してみよう、と試行錯誤して、その結果に対してアジャストしていくっていうのが主な治療法になっていて、なかなか1発でこの薬で一気に効きました! というラッキーな方は(たまにいるんですが)なかなかいらっしゃらないですね。
このため、少し時間がかかってしまうかもしれないですが、色々なお薬が出てきていて、SSRI だけでなく、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、ドーパミンの伝達の効率を変える薬とか、いろんなものがあるんです。
今までお話していたように、脳の病気であって、脳神経系に何か異常がある、何かうまくいっていないことがある時に症状が出てくる病気なので、本当に脳神経をターゲットにした治療がメインですね。

最近は、お薬に加えて、色々な治療法が出てきています。
脳を直接刺激する治療とか、皆さんもしかしたら「電気けいれん療法 ECT 」を聞いたことがあるかもしれないですが、そういった治療も(古い映画とかで見ると怖いイメージを抱きがちなんですが)やはり脳を起因とする症状なので、直接作用して、血流量を変えたりとか、脳の電気的な働きを調整したり、脳神経伝達物質の伝達効率を変えたりとかっていうような影響を施すことで、良くなるものは本当に良くなるんですよね。
もしそのようなものが必要になられた場合は、是非とも躊躇せずに試してみていただけたらなぁと思います。

峰先生はずいぶん長く、6〜7年かけて薬の組み合わせが見つかったというお話でしたが、その後は微調整などもされてますか?

峰宗太郎
はい。
実はですね、今日は2つお伺いしたいことがありました。
前半は「どういう時に受診の基準があるか」で、そこはできるだけ閾値を低く、皆さんに受診して欲しいということでした。

それと日本独特の問題として、受診したい時に精神科に行くか心療内科に行くかをはよく聞かれるんです。
どっちでもいいとは思うんですが、個人的にはまずは精神科にアクセスして欲しいと思ってるんです。
躊躇なく行っていただきたい、予約も取りにくいので、行けるところにかかっていただきたいですね。
マシュマロに来る質問では「こんなことでかかっていいんだろうか」とか「かかると保険に入れない」とか、そういう変な噂話を信じた人がいるんですよね。
これらは誤解なので、まずは1回受診して、お話して、すぐに診断を受けなくてもいいので、とにかく行ってみるということして欲しいということ、そういうお話を前半にしていただければと思ったんですが、これは全てお話いただきましたね。

それで、 TMS(Transcranial Magnetic Stimulation、経頭蓋磁気刺激法)なんですよね。
脳の中に電流微弱渦電流を流して治すという方法ですよね。
実はこれに関する質問も僕のところに結構いっぱい来てて、「こういうものを受けたらどうかと提案されたんだけど、トンデモじゃないんでしょうか」とか、「承認されてるんでしょうか」とか、「実際効くんでしょうか」という様な質問があるんです。

実は今日は内田先生にお聞きしたいと思っていたこととして、僕は抗うつ剤を使って8〜9年ぐらいかけて薬を変えながら治療を続けていたんですが、ここ5年くらい。
仕事の状況とか、人間関係だと季節性の鬱だとか、色々イベントが発生すると、やっぱりフラストレーションが溜まって、今年は状態がすごく悪化していたので、初めて TMS(脳に電磁波を流す治療)を7週間ぐらい受けていました。

これは頭に MRI とかで流すようなコイルをあてて、1日15分ぐらいなんですけど、あのまあ左半球、真ん中、右半球それぞれプログラムに従って、電流を脳みそに直接流して、脳の中で神経の状態を整えることによって、気分を良くしていこうというものです。
これは FDA(アメリカ食品医薬品局、アメリカの医薬品の医薬品の認可当局)も承認していて、多くのエビデンスも蓄積されて比較的新しい治療法なんですね。

これを受けたところ、だいぶ季節性の鬱が緩和して、睡眠も良くなったということで、個人的には(めちゃめちゃ効いたっていうことではないんですが)非常に効果を感じているところで、薬物療法もベースにしている量を、さらに減らすことができました。

ぜひあの内田先生もご解説いただきたいなと思っていたところです。
薬の調整と TMS をちょっと一緒にやってみましたという報告をしてみたいのと、内田先生のお考えをお聞きしたくて。
やっぱり TMS というのも、やはりある程度エビデンスがあって、今後日本でもというふうに考えておられますか?

内田舞
もちろんです。やはり日本ではまだ、薬物療法、心理療法と、あと ECT などはまだ使われていると思うんですけれども、やっぱりどの治療法にも長所短所というものがあります。最初に峰先生がお伝えしてくださったように、うつ病によく効くけど、それ以外のことで耐えられない症状があるだとか、そういった副作用というものが、どの薬、どの治療法であったとしても、やはり何かしら出てきてしまうのが現実なんですね。

なので、やはり組み合わせだったり微調整がいつでも必要になるもので、その時に今までと違う治療法が出てくると、いつも私は今まで診療の中でうまく治療できなかったことをアドレスできる可能性があるかもしれないと希望を抱きます。
今まで困っていたこの治療をしている患者さんで、この部分は凄くいいんだけど、この部分は与えたくないというところで、では違うもの何かできるかなという時に rTMS とか、フォトバイオモジュレーション(強い光の波を脳のある部分に当てて、その部分だけの血流量を高くする治療)、そういったもので、化学的な薬物療法で出てきた副作用を経験しないで多少の効果が出てきてくれるものは、すごく歓迎なんですね。
それもやはり、それだけで効く人もいれば、峰先生のようにそこが少し効くので、組み合わせて、例えば今まで使っていた薬(副作用があるもの)の量を少し下げるために使うこともあります。

このように色々な治療法のいいところを使って、症状を治療して副作用の量を下げるというのが、やはり王道の治療法なので、色々な治療が出てきてくれて、本当にありがたいです。

rTMS に関してはエビデンスは相当あります。
もちろん頭痛がする、15分の治療の後になんとなくちょっとぼんやりとする方もいらっしゃいますが、それがあっても気分にはすごく効くし、今までの薬の副作用も経験しなくて良いから、絶対これは良いって言う方もいらっしゃいます。
もし今の治療でうまくいっていなくて、新しいものを探しているという方に、おすすめできる治療法の1つですね。
峰先生もチャレンジされて、峰先生のチャレンジ精神と自分のウェルビーイングに関して諦めないところが本当に素晴らしいと思います。


【メンタルヘルスの治療は試行錯誤と継続が必要】

峰宗太郎
そうですよね。
やっぱりいろんな治療法がありますので、諦めちゃう、あるいは病気に打ち負かされてしまって、何のために生きているのかわかんなくなっちゃうみたいな方が多いんですよね。
やっぱりこれは付き合っていかなければいけないって面があるので、自分に合った治療法を見つけるということはとても大事です。

内田舞
そうですね。
峰先生のご経験からも分かるように、何があっても治療というのは試行錯誤、やってみて、微調整をし続けるということしかないんですが、この人はこういう状況だから、この治療法がよく効くんじゃないかとか、この人はこういうところがあるから、この治療法はやめたほうがいいんじゃないか、といったサインが何か見られないかという考え方、プレシジョン・メディシンと言います。

プレシジョンの意味は……正確さですかね、この人にはこれが効くっていうような正確さというものを目指した治療が、今、精神科の中で盛り上がっていて、研究がされています。私も脳画像を使って脳の構造や脳の血流、部位によっての血流量、特定領域の活性化のパターンなどを見ています。
うつ病って大きな言葉で、色んなうつ病がありますし、色々な症状があって、全部ひっくるめてうつ病なので、そうではなく、もう少し細かく、うつ病というのは、こういううつ病がある、また違ったタイプのうつ病もあるというのを生物学的に解明できないか? そして解明することによって、こういったタイプのうつ病にはこういったタイプの脳血流だったり、脳の活性化パターンだったら、こういった治療が効くんじゃないかっていう、少し特化したプレシジョンのある治療を目指しているというのが、私の研究の1つです。

峰先生のように、治療や自分のうつ病体験について語ってくださる方はすごくありがたいですし、これからどんどん良くなっていくんじゃないんじゃないかなと私はとても期待しています。

峰宗太郎
ありがとうございます。
私も、聞いていただいてる皆さんも、もちろん、毎日楽しいという方も、いつ精神に不調がくるかって分からないですし、突然来ます。

なおかつ、先ほど内田先生が仰ったように、20%以上の人とが人生のどこかでうつ病になるいうことですから、結構な割合です。
確率としてうつ病に罹られる方がそれだけいらっしゃるわけですね。

うつ病やそれ以外の精神疾患、精神的な不調の原因というのは、その人によって感受性は非常に違います。
何がストレスになってるかわかりませんし、閾値があるようでなかったり、色々なストレスが複合的な要因で発症に関与してくることもありますし、そういうものはなくても起こることもあります。

特に、今コロナ禍で非常にストレスが多いですね。
皆さん感じておられなくても、その実態として、自分が今ストレス下にあるんだと認識しておられなくても、非常にストレスを感じてると思うんですね。
この1年7か月にも及んでいるコロナの状況で、特に人間が人知を尽くしてもなかなかコントロールがうまくいかない、これは相手が天災なものですから、やっぱり辛い状況になります。

コントロールできない状況にある、コントロール出来ないことで苦しめられることは、人にとってすごくストレスですし、ダメージなんですよね。
僕はそれを非常に懸念してまして、いろんな事で、苦しい状況が前提にある。
それに加えて、人と人との関係ですよね。

このコロナの状況において、物事の捉え方だとか、物の言い方だとか、考え方がやはり人によって非常に差がある、多様性があると思いますが、差があるということが、皆さんの中でもかなり強く認識された時間であると思うんですよね。
そうすると、同じご家庭の中で、仲の良かった友人、仲の良い友人、LINEグループなどで知り合いだった人との、コロナに対する捉え方や行動様式の違いでストレスを感じてしまったり、モヤモヤしてしまったり、自分が悪いのではないかと自分を責めてしまったり、いろんなことが起こると思うんですね。
そういう時に、小さいストレスを組み合わせにしたり、突然大きな物が来たりする方もおられると思いますが、突然涙が出てしまうとか、精神的に不調を感じる方が多いです。
何らかの話を聞いたら、すごく心が動揺して眠れなくなってしまうとか。同じことを反復試行してしまうと、いろんなことがあると思います。
そういうのは。一部はもうすでに症状である可能性があるということはちょっと強調しておきたいんですね。

これですね、大うつ病と名付けるか、適応障害と名付けるか、気分変調なのか抑うつ反応とするか、それは色々あるんですが、要はですね。何らかの脳の不調が生じている可能性があり、そして医学の助けが有用である場合も多いということを、皆さんに認識していただきたいなと思ってるところです。
そういう状況になったら、ぜひ躊躇なく、本当に躊躇なく、まずは精神科の門を叩いてみていただいて、もう本当に偏見も持たなくていいです、恐れる必要はないですので、閾値を低くして、行ってみて欲しいです。

ただ、精神科は初めて受診する時に予約が必要だったり、なかなかアクセスが難しかったりすることもよくあります。
そういうときは心療内科や、本当にどうしようもなければ(私も最初の受け入れがそうだったんですが)内科でも大丈夫です。
本当に眠れないとか、体に不調が出たということであれば、とにかく医療にまずアクセスしてみて欲しいと私は思います。
内田先生からも教えて頂きましたけど、とにかく生活に困難を感じるとか、自分の思いが抑えられなくなる、感情が非常に揺れてしまうとか、そういう状況であれば、気楽にアクセスをしていただきたいです。

それからその後のこと、心理療法の話もしていただきました。
抗うつ剤というものを非常に怖がる人はいるんですね。
依存になるだとかですね。それで悪い影響が出るだとか色々あります。
副作用の話も先ほど私も隠さずに話しましたが、薬というのは万能のものではありません。
それでみんなにですね、同じように合うものではない、プレシジョン・メディシンが大事だという先生の話もありましたけれども、工夫して、本当に試行錯誤なんですね。
そういうことの力も借りて行くと、それはリスクの取り方である。やはりいい部分にもちゃんと着目していくことが必要ですね。一筋縄でいかない場合もありますが、まあぜひ、門を叩いていただいて、必要であれば、様々な治療の選択肢があるということ。そして、必ずしも魔法の杖のように一発でうまく行く場合だけではないけれども、試行錯誤をする価値があるということです。
少なくとも、20年選手の n=1ではありますが、私の意見としては、それは非常にやった方がいいだろうと思っています。

最新の治療法、脳に直接刺激を与えるような方法も出てきていて、これも、非常に発展してきて、効果的である場合もあります。研究も進んでいます。
ですから、段階はいくつもありますが、ぜひ我慢しないでください。
多くのスポーツ選手ですとか、芸能人のアドボケイターの方も、最近は精神的な疾患に適応障害、うつなど、先ほどの選手のように、精神的なコンディションによって、私はできないということがあると認めるというようなことをして、非常に良い影響を与えていただいています。
ぜひ1人で苦しまない、抱え込まない、自分だけなのかしら、恥ずかしい、偏見があるとか、怖がらずにアクセスして頂きたいです。

そして、周りに不調がありそうな方、明らかにコンディションが良くない方、パフォーマンスが下がっている方がいたら、会社であれば産業医の方を通したり、上司の方を通してだったりでもいいと思います、受診を促してあげたいですね。
お休みを取って、よく休養をとっていただいて、自分の人生を自分らしく、苦しまずに楽しんでいける、そういう状況をつくることをぜひお手伝いしてあげていただきたい、それぞれが努力していただきたいと思っております。
ちょっと簡単にまとめましたが、10分以上オーバーしてしまいました。内田先生、もう少し付け足したいんだよとか、私はそんなこと言ってないとかありますか?

内田舞
素晴らしくまとめてくださって、本当にどうもありがとうございます。
すごく重要な話だと思います。
本当にコロナ禍では、峰先生が言ってくださったように、誰もがすごくストレスを感じている環境でありますし、アメリカでは、高校生で2020年で希死念慮を抱かれたという方は、従来の年と比べて4倍高いといわれています。

そしていま、アメリカの中で、子どもで精神科を受診したい、と電話をしてくる方が、従来のもう何倍にもなっています。
精神科の救急に至っては、来る人が多すぎて、入院される方も多すぎて、入院病床数が足りなくて、救急でも1か月以上入院を待たれる方もいらっしゃるぐらいのメンタルヘルス・クライシスなんですね。
アメリカではそういった状況なんですが、きっと日本でも似たような状況が大人でも子どもでも実は起きていて、それが可視化していない可能性があるんじゃないかな、と私は心配しています。

皆さん、本当に皆先生が仰ってくださったように、閾値はとても低く持って、どんなことでも受診してくださって大丈夫です。
そして受診した際には、すぐには答えが出ないかもしれないですが、どこかに必ず人生を生きやすくする方法が落ちているはずなので、それをピックアップするためにも、ぜひとも受診してみてくださってたらいいなと思っています。

コロナ禍において、メンタルヘルス・クライシスっていうのは今現在起きてるんですが、コロナが収まったらそれがいきなり変わるのかというとそうではなく、おそらくパンデミックの3倍ぐらいの長さ、メンタルヘルス・クライシスが続くんじゃないかといわれています。きっとこれから先、今何かストレスを感じられていても、これから先コロナが治まるからいいかなって思われる方がいらっしゃるかもしれないんですが、その後にまたハードルがあるかもしれないということも考えて、今何か感じられていることがあるのでしたら、本当になんでも予防が1番ですし、早め早めの治療が1番なので、ぜひとも受診してみてくださればと思います。
本当にどうもありがとうございました。


【エンディング】

峰宗太郎
ありがとうございました。
内田先生、また是非今後も継続的に、時間がある時を見つけては、こういう精神、メンタルの話も、私もメンタルヘルスのアクセスを良くするということは、1人の医療従事者として、患者として、やっぱり使命だと思っていますので、お付き合いいただければと思います。

内田舞
ぜひやっていきましょう。こちらこそどうもありがとうございます。

峰宗太郎
僕も結構引き出しがあってですね
救急車で運ばれたこともあれば、こっちでクライシス・プログラムに乗って一日隔離されたこともあるんですよ。
そういうのもありますので、そういう体験談もそのうちさせていただきます(笑)

内田舞
ぜひぜひ、きっと皆さん興味持ってらっしゃいますし、救急車で運ばれたら何が起きるんだろうって思って、怖くてアクセスできないという方もいらっしゃると思います。もちろん怖いこともあれば、怖くないこともたくさんあるので、現実っていうのはどういったものかを、峰先生からお話していただけたら、きっと理解も深まるんじゃないかなと思います。
本当にありがとうございます。

峰宗太郎
ありがとうございます。
と、いうことで、安川先生何かありますか?

(沈黙)

あ、安川先生もしもし?
池田先生なんかありますか?

池田早希
今日の話、とても素晴らしかったですし、本当に大切なことだなと思いました。
自分自身もやはりストレスフルだなと感じた事もありますし、アメリカで実施したアンケートで約40%医療従事者がバーンアウト(燃え尽き症候群)を感じているという結果がありました。
私の友人の中にも SSRI をこのパンデミックで始めたっていう方もいましたね。
ですので、気軽に精神科とカウンセリングにもアクセスできることはとても重要だと思います。
ぜひこれからもいっぱいお話をしていただけたらと思います。

峰宗太郎
ありがとうございます。
池田先生、久しぶりにお声を聞けて、安心しました。

池田早希
久しぶりですね(笑)
ぜひ一緒にメンタルヘルスについてお話ししたいです。
私自身もうつ病や不安障害等の精神疾患で苦しむ小児患者さんをたくさん見てきたんですよね。
外来ではもちろんですが、入院でも例えば自殺企図で最初は小児科に、内科の治療で入院し、その後精神科のベッド空きを待つ患者さんの治療等の経験もたくさんありましたのでまたお話をする機会があったら、ぜひ呼んでください。

峰宗太郎
お願いします。
安川先生が応答してくださらないようなので、今日はこの辺にしたいと思います。ちょっと長くなりました。
15分延長してしまいましたが、話したいことは話せたかなという感じで非常にありがたく思います。

こびナビは今後も色々な活動を継続して行きますし、このスペースもしっかり続けていこうということになっています。
そして、こびナビで作っているガイドブックなんですが、それも印刷がもうすぐできるということで、自治体への配布も始まるということで、楽しみにしていただきたいです。
クラウドファンディングに協力していただいた方には、お礼という形で、電子データの配布もあるということです。
また、それ以外の方にどうするかということも考えておりますので、お待ちいただければと思います。

告知ーズもあまり来ていないようなので、今日は私からはそれだけにさせていただきます。
とにかく皆さん、心身ともに、WHO(世界保健機関)の定める健康の定義というのは「身体的、精神的、社会的に不健全でない状態」という言葉が入っています。
アメリカとか、ヨーロッパ圏では「スピリチュアルにも」という言葉が入っていますが(定義難しいですけれども。日本語では霊的にっていったりしますが)とにかくですね、不都合があると、なかなか人生を充実して生きられないと苦しみがあります。
やはり1つ1つ、そういうものを冷静に分析して取り除いていくということは、皆さん必要だと思いますね。
そういうところにはコストを惜しまず、ぜひですね、一人ひとりの人生が、楽しく、いつもニコニコしていられるようにしていただければと私は思ってます。

では、今日はこれで終わりたいと思います。
日本の皆様、よい1日をお過ごしいただきたいと思います。
アメリカ勢は寝たいと思います。
はい、では失礼いたします。
ありがとうございました。

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