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新型コロナウイルスがどのように細胞に感染するのか(7月30日こびナビTwitter spacesまとめ)

※こちらの記事は、2021年7月30日時点での情報を基にされています。※

2021年7月30日(金)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:岡田玲緒奈

岡田玲緒奈
おはようございます。

黑川友哉
おはようございます。

木下喬弘
ざーす。

岡田玲緒奈
「ざーす」て(笑)
若いですね。

木下喬弘
PL学園は「はい」か「いいえ」しかないんですよ。

岡田玲緒奈
どゆこと?(笑)

木下喬弘
PL学園は、先輩に何か言われたら「はい」か「いいえ」しか答えたらダメなんですけど、基本的に「はい」しか言ったらダメなんですよ。

峰宗太郎
誰がPL学園出身なんですか?

岡田玲緒奈
そうそう。PL学園どっから出てきたの。

木下喬弘
イン・ジェネラル。

前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
どっかの漫画でもそのネタありましたよね。
(文字起こし注:『バトルスタディーズ(1)』なきぼくろ 著 講談社)

峰宗太郎
基本的に、私の下に付いていた後輩さんは「はい」か「Yes」しかないです。

岡田玲緒奈
何の話なんですか(笑)

前田陽平先生
はっきり言って、僕のありとあらゆる後輩の中でも、僕に対して一番失礼な Taka先生がそれを言うのがなかなかですね。

岡田玲緒奈
ハッハッハッハッ。
失礼なんですか?

前田陽平先生
まあまあ失礼なタイプですね。
ただ冷静に考えて僕も先輩に対してまあまあ失礼なタイプなので、因果応報というやつですね。はい。

岡田玲緒奈
今日はこれだけたくさんの人に来ていただいて良かったです。
今、この間の「コケたんじゃないか?」回の内容をチェックしています。
最後に一応峰先生にもお願いして見ていただいて、大丈夫だと言われて安心しています。

黑川友哉
コケたことなんてありましたっけ?

木下喬弘
今までの人生でコケたことがないんでわかんないですわ、何のことか。

黑川友哉
ちょっと記憶にないですね。

安川康介
なんか今回既にコケてないですか?

岡田玲緒奈
はっ! まさか。

黑川友哉
コケてない! コケけてないから! 全然! 大丈夫ですよ。

前田陽平先生
今日は一体何の回なんですか?

岡田玲緒奈
今日は「コロナウイルスがどうやって細胞に感染するか」という話をします。

前田陽平先生
興味深い話題ですね。

岡田玲緒奈
後でも話しますが、ガイドブックを制作していて安川先生が「ココがなんかちょっと本当は違うんですよ!」とすごく力説していた部分を説明してみようという企画です。

皆さん何か他に雑談ありますか?

前田陽平先生
雑談というか、マジ増えてますよね、感染者数が。

岡田玲緒奈
いやー、そうなんですよ。
それがもう辛くて、現実逃避してみるという回です。

前田陽平先生
いやいやいやいや(笑)
「みんな家にいて、オリンピック見ておきましょう」ということですね。

岡田玲緒奈
このスペースを聴いてる人は、多分そうしてると思うんですね。

前田陽平先生
これに気付いたからといって、感染者数増加について省略するのはちょっと(笑)
まあ Twitter でも「僕らのフォロワーはどうせちゃんとしてるしな」という発想はありがちですけどね。
先ほどテレビを見ていたら「増えるのも人が出歩くのも仕方ないわ」みたいなことを言っていたのですが、せっかく今オリンピックやってるんだから「みんな家でテレビ見てって言おうよ!」と思いました。

岡田玲緒奈
ということで、やっていきましょうかね。


【データの見方-感染者数と陽性率-】

安川康介
その前に、陽性率の話を少ししていいですか?

岡田玲緒奈
ぜひぜひ。
「高すぎやろ!」という数字になってきていますので。

安川康介
医者目線で毎日の報道での感染者数などを見ていますが、感染している人の数だけではなく、感染している年齢層が気になっています。
もう1つ注目すべきパラメーターは、各都道府県が発表している陽性率です。それを見ると、東京では陽性率が20%になっています。

陽性率とは、全検査数に対し、検査が陽性だった人が占める割合をいいます。
どういう人を対象に検査をするかによって解釈が変わりますが、基本的には5%以下、つまり、100人に PCR検査をした場合、陽性の人が5人以下というのが一応の理想です。
10%を超えると、検査で補足できてない人たちが増えていると考えられます。

現在の東京都のデータでは陽性率が20%に近付いているので、報道されている数よりも明らかに多くの感染者が存在すると解釈してください。
感染者数3,800人とか4,000人とかの数字だけに注目しがちですが、陽性率が20%を超えると、実際の感染者ははるかに多いです。
少なくとも医者であればそう捉えます。大きく報道される感染者数だけではなく、陽性率にも注意していただきたいです。

岡田玲緒奈
診断がついていない感染者がすぐそばにいると考え、皆さんにも本当に気をつけていただきたいですね。既に新型コロナウイルスワクチンの接種を終えた私も、感染に気をつける度合いを接種前と同じくらいに戻しているのが現状です。

前田陽平先生
このスペースをお聴きの皆さんはご存知かもしれませんが、今日感染が発表された人は別に昨日感染したわけではなく、実際は1~2週間前に感染したものです。
つまり、報道される感染者数は少し前の感染状況を反映するので、現在の実際の感染は、報道された感染者数からさらに広がっていると考えられます。医者や、新型コロナウイルスにある程度知識のある人は皆そういう目で見ています。
感染者が非常に増えている状況は、今後さらに急激に増えることを意味していると皆が感覚的に理解できれば、より気をつけられるようになるかもしれません。

岡田玲緒奈
4連休の影響もこれから出てきます。連休中は道もかなり混んでいました。いまは東京周辺の感染者数が多いですが、それ以外のところがどうなるか心配しています。

ということで、今日のネタに行きます。

今日は Nature に、論文ではなく記事で載っていたものですね。


【目で見る新型コロナウイルスの感染】

「新型コロナウイルスがどうやって細胞に感染するのか。そしてデルタの何が危険なのか」という記事です。
デルタが何故危険なのかがこの記事ですごくよくわかるかというと、そこまででもないのですが(笑) 一昨日 Nature に出ていたこの記事について今日はやってみます。

▼How the coronavirus infects cells — and why Delta is so dangerous
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02039-y
出典:Nature(21.7.28)

この記事のトップに CG があるのですが、集合体恐怖症の人は見ない方がいいかも知れません。
峰先生、集合体苦手でしたっけ。

峰宗太郎
いえいえ。
僕は先端恐怖と高所恐怖症です。

岡田玲緒奈
なるほど(笑) じゃあこのウゾウゾは大丈夫ですね。

峰宗太郎
ウゾウゾはしょっちゅう電子顕微鏡で、自分の実験でも見ていますからね。

岡田玲緒奈
確かにそうですね!

この CG を見ると、灰色の小さな物がウゾウゾ動いてるんですね。
エンベロープにも、スパイクタンパクにもくっついています。
これは糖鎖(とうさ)です。
文字通り、糖が鎖状に繋がっている分子のことで、狭義にはタンパク質や脂質にくっついたものを指すことが多いです。

スパイクタンパク質やエンベロープなどのウイルス表面のタンパク質は、この糖鎖で覆われている状態です。
CG のウゾウゾは糖鎖なので、その話をするなら冒頭の気持ち悪い CG は我慢して見るしかありません。

多くのウイルスが、このように表面のタンパク質を糖鎖で包んでいます。これを「修飾する」と言いますが、こうしてカムフラージュしてヒトの免疫系から逃れようとします。

カリフォルニア大学のロミー・アマロ氏のチームは、昨年この糖鎖のコーティングの構造を CG で可視化して、2020年5月には Twitter に投稿しています。
昨年を思い起こしても、すごいスピードですよね。
構造ウイルス学というそうですが、どうやったらこのようなことができるのか、詳細は僕にはさっぱりわかりません。
糖鎖修飾なんてどうやったら構造推定できるの? という感じです。
これってアミノ酸の配列パターンによって一部はわかるということなんでしょうか。

峰宗太郎
そうですね。
アミノ酸のパターンによってどういう糖鎖が付いているかをシミュレーションする方法もありますし、最近は糖鎖がどれくらいの大きさなのか、ブランチがどうなっているか、いろんな方法があります。
クライオ電子顕微鏡である程度大きさの見当を付けたり、受容体をパートごとに発現させて、それを
・MS(Mass Spectrometer:質量分析計)
・TOF-MS(Time Of Flight-Mass Spectrometer:飛行時間型質量分析計)
・MS/MS(タンデム質量分析計)エムエス
で飛ばして解析することもできます。
簡単な話にしますと、アミノ酸の配列から予測できる部分と、実際に形を眺めてみて「このくらいの大きさの糖鎖だろう。だったら何が当てはまるんだろう」と考える手法が結構発達しているんですよね。

岡田玲緒奈
ありがとうございます。
本当にこれは凄いなと思って見ていました。

この Twitter の投稿はいまロミー・アマロ氏の Twitter の固定ツイートにも出ていて、これを見てもらえればわかります。

▼Rommie Amaro @RommieAmaro
https://twitter.com/eireonaok/status/1420771784320684037?s=20

スパイクタンパク質の糖鎖修飾ありの CG ですね。
僕としては毎度毎度プルプルさせないでいただきたいのですが、 プルプル動いています。
表面を覆うカラフルなのが糖鎖です。赤、緑、黄色、紫のものですね。

それで、一番上、ほぼ中央ですが左寄りに、糖鎖がついてないグレーのヒョロヒョロがあるのがわかりますでしょうか。
これに対し Twitter 上で「ここの糖鎖が付いていない裸の輪っかはなんですか」とコメントをつけた人がいたそうです。
「スゲー話を Twitter 上でしてるな」…って感じですが。
アマロ氏にはわからなかったようですが、テキサス大学の構造生物学者ジェイソン・マクレラン氏が、これは RBD(receptor-binding domain)だと答えています。

スパイクタンパク質の構造は大きく3つに分けられます。
まず大きく2つ、S2サブユニットという茎の部分と、S1サブユニットという上の方の部分で構成されていて、S1サブユニットはさらに RBD と NTD(N-terminal domain)でできています。
…っていうことで合ってますか? 峰先生。

峰宗太郎
はーい。
基本的にはその通りですね。

岡田玲緒奈
この記事のここで描かれてる CG がめちゃくちゃかっこよくて、緑と黄土色とグレーのやつなのですが、これだけ見ると3つのセクションってどれなのかわからないんですよね。いまお話しした通り、S1 が2つに分かれるので3つになります。

さて、アマロ氏のシミュレーションによれば、この RBD が up、持ち上がったポジションに位置するとき、2つの糖鎖がこれをロックするような形ではまり込みます。
コンピューターでのシミュレーションでは、この糖鎖の部分に変異をいれると、RBD が壊れました。

それで、先ほど「これは RBD だよ」と指摘したマクレラン氏のチームは、これをコンピューターでのシミュレーションだけではなく、実験室で再現する系を立てて、アマロ氏とマクレラン氏の2人がコラボして2020年6月に2つの糖鎖というか、この糖鎖がつくアミノ酸に実際に変異を入れると、スパイクタンパク質がヒトの ACE2受容体にくっつきにくくなったことを証明しています。
現時点でこの糖鎖を吹っ飛ばすような技術はないので、現実の治療に応用するのはさすがに難しそうではあります。

話は変わって。

新型コロナウイルスがどうやってヒトの細胞に感染するのか、ということはパンデミックの初期から当然注目されて研究されてきたわけです。

今日なぜこんなことをやろうと思ったかというと、こびナビのガイドブックが注文下さった自治体に今日届くんですよね。
クラウドファンディングにご協力いただいた皆さまには、今日明日中になんとかデータを送信しようと思っていますが、このガイドブックを作っていたら、ACE2 にスパイクタンパク質がくっついて細胞に取り込まれる!! みたいな表現になっているわけです。
これは全然問題なくて、今の時点で僕らがリーチできていない群の方々向けなわけですから、当然それで良いのです。
しかし、バズ川先生(安川先生)が「編集会議」で「ほんとは違うんです…スパイクが取れて…入るんです…」と、それはもうやかましいわけですよ。
そうしたらこのことが良い感じにまとまっている記事が出たので取り扱ったわけです。

CG動画もご覧いただければよくおわかりいただけると思います。

▼THE ANIMATION LAB 
https://coronavirus-annotation-3.sci.utah.edu/

やたら重いので気をつけてください。職場の回線ではカクカクで見るに耐えませんでした。

▼上記へのアクセスが難しい場合、以下で一部動画のみ見ることが可能です。
SARS-CoV-2 entry
https://vimeo.com/491949689/db7f76616b
出典:Vimeo

このスパイクタンパク質が、ヒト細胞の ACE2 にくっつくところまではいいんです。
その次は、ヒト細胞表面にある TMPRSS2(テンプレス2)というタンパク質分解酵素が寄ってきて、スパイクタンパク質の一部を切り取ります。
するとスパイクタンパク質の芯のようなものがビヨーンと伸びてきて、細胞膜にくっついてからぎゅっと折りたたまれることで、新型コロナウイルスの膜とヒトの細胞膜が融合するような形になります。
このテンプレス2を使う仕組みが SARS-CoV と SARS-CoV-2 の違いで、感染がより早く成立することにつながります。

ACE2 は、喉や肺の粘膜の表面に発現している受容体です。「受容体」というのは……決まった何かがくっつく取っ手というか、鍵穴というか、そんな感じでしょうか。
皆さん受容体をどのように説明していますか? 当然のように使っていますが、実は全く一般的な用語じゃないですね。

安川康介
特定の物質に鍵と鍵穴のような関係でくっつくもので、様々なタイプの受容体が存在していて、それによって役割が全く違ってきて、最終的には、多くの場合「細胞の中の機能の変化が起こる」という部分が大事だと思います。
元々 ACE2 はアンジオテンシン2をアンジオテンシン(1-7)に変換させる酵素ですが、今回はそれを利用して新型コロナウイルスが入ってくるということで……結構難しいですね。すみません、うまく説明できませんでした(笑)

岡田玲緒奈
そうなんですよ、意外と説明するのが難しくて(笑)
スイッチと言えばスイッチだし、でも形が合っていないと…とか考えると結構難しいなと。

まあとにかく、受容体というものを利用してウイルスが侵入してこようとします。
SARS も ACE2 にくっつくのですが、SARS-CoV-2 は2-4倍くらい強固にくっつくと言われています。
最初の気持ち悪い CG でスパイクタンパク質がめちゃくちゃプラプラ揺れいて、「なんで揺らすねん!」と思っていたのですが、コロナウイルスの類の、このゆるく付いているところが大事なようです。
他のインフルエンザなどのウイルスでは、取手になる部分はもっとガチッとウイルスの表面についています。
ここがブラブラしていることでヒトの ACE2レセプターにより多くくっつくことができます。そこが感染性の鍵なのではないかと言われているわけです。

懸念されている変異ウイルスは、RBD を含む S1サブユニットに変異がある傾向があると言われていますが、本当にその変異のせいなのかを検証するのは簡単なことではありません。このことは、峰先生をはじめとしてこのスペースの中で繰り返し触れています。

それはさておき、α変異体、つまり B.1.1.7 はスパイクタンパク質のコード部位10か所に変異が入っています。この変異によって、RBD が先ほど触れた up の位置(立ち上がった位置)でキープされやすくなると言われています。
デルタは RBD の中の3か所に変異があり、それが ACE2 へのくっつきやすさ、つまり親和性を上げるとともに、免疫逃避にも繋がっているのではないかと考えられています。

ウイルスが ACE2 に結合して、ウイルスが細胞膜に融合した後は、ウイルス本体とも言える、中身の RNA がヒトの細胞の中に放出されることになります。
しかし、この先は謎に包まれている部分がまだまだ多いのです。

「mRNAワクチンなんてものは得体が知れないと言うけれど、ウイルス感染の方がわけのわからん RNA や DNA が細胞内にブチまかれて気味が悪いでしょ」という趣旨の発信をよくみかけます。
私も同様にお伝えすることがありますが、現在わかっている部分を CG で見るだけでも本当に気持ち悪くて、「感染したくない!」と思うような内容になっています。

元々ヒトの細胞内には、自分で使うタンパク質を作るための mRNA があふれています。これはヒトの細胞自身の遺伝子(ゲノム)から転写、コピーしたものですね。
ウイルスが複製のために細胞のシステムを乗っ取ると、通常行われるはずの仕組み(自分の mRNA を読み取ってリボソームがタンパクを作る)を止めさせてしまうのです。
ウイルス侵入の最初の段階で作られるタンパク質たちが主に働いて、3つのことを起こします。

1)ヒトの細胞内にあるウイルス由来以外の mRNA を全て壊す。
2)リボソームへの mRNA の流入自体を阻止して機能を下げる。
3)ウイルス感染が起きた時に働く免疫系の警報のようなシステム自体を止める。

3)は色々な手段を使ってきますが、その1つに mRNA が核の外に出られなくするという戦略があります。
これもう、ウイルスってめちゃくちゃなことしてませんか!?

3)があるが故に、最初は静かに、つまりヒトの免疫系にばれないようにウイルスが山ほど増えるわけです。
気付いた時には体内のウイルス量が多くなっていて、免疫がそこから働きはじめます。これがよく言われる「免疫が過剰に働く」という COVID-19 の病態の一面につながると考えられています。
COVID-19 の治療の際、免疫を抑える薬としてのステロイドについて、タイミングを正しく使えば効果が高く、逆に使うタイミングを間違えるとかえって良くないとも言われています。
先ほど説明したウイルス増殖の機序が、ステロイドを使うタイミングが重要ということにもつながっている気がして、非常におもしろいですね。

峰先生、ここまでの説明はどうですか?

峰宗太郎
この記事にも沿っていて非常に良い説明ですね。
この件については多くの論文が出ています。
ウイルスというのは、細胞の機能をただ単に間借りするイメージよりも、細胞の機能を「のっとる」イメージの方がかなり近いです。
細胞の機能を自分に有利なように引き込む性質を持つウイルスって多いですよね。

元々細胞の中にはウイルス由来の RNA だとか、場合によっては DNA のこともありますが、二本鎖RNA や特殊なキャップ構造が付いた RNA を見つけると、それを感知して排除するシステムが備わっています。
多くは自然免疫系のシステムになりますが、こういった物も本来有効に働いてくれるはずなのですが、ウイルス側もちゃんと対抗策を持っています。
働くはずのタンパク質を黙らせたり、自分の持ってきた遺伝情報を優先的に読ませたり、更には細胞側が作っている正常な機能を抑え込むなどの機能を持つタンパク質がいっぱいあるんですね。

特に SARS-CoV-2 の場合、毎回スパイクタンパク質という表面のトゲトゲのタンパク質の話ばかりしていますが、実際は Non structural protein(NSP:ウイルス非構造タンパク質)というタンパク群が作られ始めると、細胞は猛烈な勢いで乗っ取られるんですね。
そうすると、もうウイルスの製造工場のようになってしまいます。
まあ細胞がゾンビみたいな感じになっちゃうんですよ(笑)
そういうことをいま岡田先生に説明していただいたと思っています。
細胞が完全に乗っ取られると、特に何も反応することなく、ウイルスのしもべとして、ウイルスをただただ生産するまずい細胞になってしまうということですよね。

岡田玲緒奈
これ、本当にすごくてですね。
一部をはしょっていますが、ゴルジ体の形がおかしくなっちゃうとか「無茶苦茶やな!」と思って(笑)
この辺は深く突き詰めたことが無かったので、この記事で僕も非常に勉強になりました。

ここから先、ウイルスはもうやりたい放題です。勝手に感染細胞同士が融合するように仕向けたり、細胞内では(仮説レベルですが)小胞体という、タンパクの合成や輸送に関わる構造物の形を勝手に変え、ウイルス増殖に有利にしたりします。
ウイルスは、増えた後は細胞から出て行く必要がありますが、その方法については複数の説がある状況です。

さらに、細胞から放出される前には、S1サブユニットと S2サブユニットのつなぎ目のところに、フリンというヒトのタンパク質が「切れ目を入れる」ことで、次に感染するヒトの細胞に侵入しやすくなると言われています。
実はアルファ、デルタ共に、このフリンが働く部位にも変異が入っています。

アルファ-P681H(プロリンがヒスチジンに変異)
デルタ-P681R(プロリンがアルギニンに変異)
(注:プロリン、ヒスチジン、アルギニンはそれぞれアミノ酸の名称)

これらはウイルス増殖に有利な変異のようです。
記事の最後の方で「科学は SARS-CoV-2 に関して、まだ表面をなぞるのが精いっぱいだ」と言っています。
とはいえ、1年でここまでわかっているのが僕は素直にすごいなと思います。

mRNAワクチンは新型コロナウイルスのごく一部のスパイクタンパク質しかコードしていないと、これまでも繰り返しお伝えしてきました。
こうして改めてウイルスの感染を見ると、細胞はめちゃくちゃな状態になると思い知らされました。
SARS-CoV-2 に感染することというのは、ウイルス全部のパーツが作られるだけではなく、ウイルスを形作る部分以外の設計図も働いて、峰先生がおっしゃった NSP まで作られます。
つまり、感染とmRNAワクチンとは比べものにならないなと改めて悟ったわけです。


【基礎研究の世界 広さと深さのバランス】

安川康介
これは非常に重要な話です。基礎研究の話はマニアックだと思うかもしれませんが、例えば2002-2003年に流行した SARS のスパイクタンパク質を基礎研究レベルで調べ、プレフュージョンという、くっつく前の形をどう安定化させるについても研究されています。
そのままの形だと不安定ですが、2か所プロリンに置換したら安定するということでした。
これまでの膨大な基礎研究の蓄積が、ワクチンの早い開発に繋がり、実用するに至ったということなんですよね。
「新型コロナウイルスは存在しない」という方は結構いますが、そういう方にはこういう基礎研究レベルの論文を3つほど、1週間くらいかけて読んでいただきたいです。
本当に多くの方が多大な時間とエネルギーを使って重要な研究をしています。
スパイクタンパク質がどのように人間の細胞にくっついて入ってくるのか、それだけでも非常に興味深い領域です。
僕はここ1年半ほど臨床しかしていませんが、こういう論文を追ってきて「ここまでわかったんだ」と感慨深いです。

岡田玲緒奈
僕も昨日これを読みながら同じことを考えていました。
もし「コロナウイルスが存在しない説」の人たちが正しいとすると「これ、全部ウソか!?」という話になるわけで、さすがにそれは無理があるだろうと改めて感じました。
Taka先生どうですか?

木下喬弘
うん、そうですね。
今、私、どうやってアメリカがワクチン接種率を上げるかというニューヨーク・タイムズの記事を読んでました。

岡田玲緒奈
まあね、そんなところだと思いましたよ(笑)

木下喬弘
うそうそ、聞いてましたよ。

岡田玲緒奈
「スパイクが ACE2 にくっつくだけじゃないよ」ということはわかりましたか?

木下喬弘
バッチリです。

峰宗太郎
僕も実はある学会を聞きながら、参加しているのですが、ウイルスの研究者って多いようで少ないようで……という感じなんですよね。
ウイルス学というと、一番大きい学会はおそらく ASV(American Society for Virology)です。
日本ウイルス学会なんか非常に弱小なんですけれども。

ウイルスって本当にたくさんあるんですよね。
研究者にはそれぞれ自分の研究している「俺様ウイルス」があります。
さらにそのウイルスの中でも「俺様分子」があるんですよね。
「もうここは俺の領域だ」というのがそれぞれにあるわけです。

しかし今回の新型コロナウイルスではかなり様相が違っていました。
みんなが緊急事態でパンデミックで、興味もあるし功名心もあるし、それにお金がいっぱい取れる! というのもあって飛びついたわけですね。
もう日本もアメリカも、他のことをやっていた研究者までがこぞって「いっちょ噛みしよう」と参入しました。
これは非常に良い方向にも働き、多くの成果が上がったのです。

僕も色々な論文を調べたり、様々な観点から見ていますが、ウイルスの中でも特に細かく色々な分子機構や、非常に重要なところから周辺的なことまで研究されています。
まあ周辺的なことは雑学的になっちゃうことも多いですが、いつ必要になるかわかりません。
そういうことも含め、新型コロナウイルス以外のわかっているウイルスでどれが一番知られているかというと、実は HIV とかインフルエンザなんですね。
多くの人口に大きなインパクトを与え、そして科学的に検討する価値があると、多くの研究者や、お金を配る方々(つまり社会の皆様を代表する方々)、査定をする方々の興味があるところが非常に手厚くなります。
しかし、あまり重要じゃない他のウイルスから突然知見が出てきて他の分野に大きく響くこともあります。
今回の研究を見ていても、広くお金を投じたり、色々なことに興味がある人も大事だということが改めて言えるんですよね。

まあ、そういうことも含めて、ウイルス学者にもそれぞれ得意分野と得意じゃないところがあって、新型コロナウイルスについては本当に実際に手を動かしてデータを取っている方というのはいますが、それ以外も皆さん今回論文を読み込んで、データを眺めて鵜の目鷹の目でやっております。
ウイルス学者は今回の新型コロナウイルスから学んだことは多いと思うんですよね。
聞いている方の中でまだ若い方やお子さんがおられる方がいたら、ウイルス学や分子生物学は面白いので、ぜひ来ていただきたいです。
「俺様分子」とか「俺様ウイルス」を一つ手にすれば、一生楽しめますからね。
ということをちょっと強調しておきます。

岡田玲緒奈
峰先生の俺様ウイルスは、やっぱり今学会やってるあれですか?

峰宗太郎
そうです。
私は EBV と KSHV という2つのヘルペスウイルスが主に俺様モノですね。

EBV・・・EBウイルス、ヒトヘルペスウイルス4型
KSHV・・・カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス8型

岡田玲緒奈
僕も臨床的には苦しめられるウイルスなので非常に興味を持っております。
普段からいろんなウイルスでこういうことがあるというよりは、やはり今回は相当エフォートが割かれて多くの知見が得られているのだとお話を聞いていてわかりました。

それでは10分過ぎましたので、締めようと思います。

1つは、今日夜10時から、こびナビの Instagramアカウントでインスタライブを峰先生と僕でやります。
これはゆるく峰先生と僕とで雑談する会です。
コロナ以外の普通の質問を投げていただきたいということで……
※ 本イベントは終了しています。アーカイブとして下記URLで視聴できます。
▼こびナビ Instagram
https://www.instagram.com/tv/CR9JRHhAU-y/

峰宗太郎
フリン切断サイトについて語りましょうかね。

岡田玲緒奈
あ、ここね! 僕も読んでいるだけでははっきりわからないところもあったので、ぜひ聞きたいですね。
安川先生、最後はガイドブックで締めてください。

安川康介
すみません、いま卵とか牛乳とか買っているので聞こえにくいかもしれません。

クラウドファンディングでいただいたご支援を元に、新型コロナウイルスのワクチンに関するガイドブックを作成して、3万部印刷しました。
今日か明日、8つの自治体に、計26,000部近くのガイドブックが届く予定です。
各自治体で配布を開始しますが、クラウドファンディングでご寄付をしていただいた方には岡田先生から PDF が今日か明日、送信されます。

もし自治体関連の方や医師会関連の方がこれをお聴きでしたら、ガイドブックをお申し込みいただける Googleフォームからご応募いただければ、そちらへ配送するように手配いたします。

岡田玲緒奈
「クラウドファンディング知らなかったよ」という方にも、後日何らかの形でデータをお届けできるように方策を考えておりますので、こびナビのウェブサイトをチェックしていただければ幸いです。

▼こびナビ 公式ウェブサイトでデータ公開しています。
https://covnavi.jp/1670/

長くなりましたが、本日はこの辺で終わりにいたします。
今日は金曜日で、あとは土日になりますが、皆さん、ご自身を守る行動をしっかりとってください。
よい週末をお迎えいただければと思います。
それでは皆さんありがとうございました。

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