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オミクロン感染による日常生活の変化について議論しました(こびナビ Twitter Spacesまとめ)

2022年1月19日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:安川康介

安川康介
おはようございます。

前回は前田先生の後輩である木下先生が、先輩のリクエストであるにも関わらずオミクロンの話をしなかったので、今日はオミクロンの話を中心にしていきたいと思います。

黑川友哉
そこの先輩後輩関係って成り立ってるんですかね?

前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
彼はまさかの中・高・大学の後輩であるにも関わらずいつものあの態度、なかなかのもんですよね、ハイ。
中・高の先輩ってなんとなく親しみがあるから、他の先輩よりもやや親しげというか、失礼な態度をとりがちなので、僕も人のことは言えないということで許容しています(笑)

安川康介
中学から木下先生のことを知っていたんですか?

前田陽平先生
いや、全然知らないんですよ。
実は知ったのは医者になってからなんですよ。
名前は知ってるとか、そういうレベルでした。
5~6学年くらい違うんで、あまりかぶってはいないんですよ。

安川康介
なるほど。確かにそれくらい離れているとわからないですよね。

それでは、今日は盛り沢山なのでどんどん話していきたいと思います。
何か途中コメントがあれば、勝手に割り込んでください。
ばりすた先生もよろしくお願いします。

ばりすた先生
ありがとうございます。


オミクロン感染が広がるアメリカと日常生活への影響

安川康介
まず、日本でも感染が拡大している新型コロナウイルス感染症について、アメリカの状況と日本の状況についてお話をしてから、オミクロンの病毒性や症状、排出期間、ワクチンの効果について、今わかっていることを簡単にお伝えします。

皆さんご存知の通り、アメリカは
・1日に平均80万人くらいが感染
・入院は15万人以上
・亡くなる方は1日2,000~3,000人

と、ひどい状況です。

感染については、以前のピークが1日25万人なので、およそ3倍以上の方が感染しています。
死亡については、以前一番多かったときで1日約3,300人なので、既にそれに迫る勢いです。
「オミクロンは弱毒化した」
と言いますが、やはりアメリカのように感染者数が増えてしまうと、重症化率が低いにしても、以前と同じくらいの方が亡くなってしまっている状況です。
僕の病院では、少しピークアウトしてきた印象です。
約700床以上の病院ですが、1-2週間前は、入院者の陽性者が約300人で、入院している方の約4割が新型コロナウイルスに感染している方でした。
ここ1週間ほどは感染者数が少し減ってきて、大体240-250人です。
50人程度しか差は無いのですが、臨床の現場では大きな違いとして感じています。

アメリカの地域によってはまだ医療が逼迫している状況があると聞いています。
木下先生や内田先生が住んでいるボストン周辺、ハーバード関連の病院の ICU も満床になっているという報道があります。

マサチューセッツ総合病院は、週に2,200件ほどの予定手術を全て延期するという発表をして、最近話題になりました。

同じような医療の逼迫はアメリカのいろいろな地域で起きています。
感染した患者さん自体が増えているということもあるのですが、医療従事者にも感染が起きていて、需要と供給のミスマッチが起きているのも原因の1つです。
アメリカでは、医療のセクターだけではなく、物流・交通、教育など、色々なセクターに影響が及んでいます。

身近な例だと、僕は Amazon のプライムメンバーなのですが、以前は1日で届いていたものが数日かかったり、いつ届くかわからないのも当たり前になってきています。
Grocery Store(スーパーマーケット)で生活必需品が品薄だったり、CVS とか薬局のスタッフが感染して不在のために閉まっていたりします。
あとは教育ですね。
小学校で感染が増え、僕の住むモンゴメリー郡では、スタッフ・学生5%以上が感染するとオンライン授業へ移行するのですが、現在16校がオンラインになっています。

これだけ感染者が増えると、医療だけでなく社会のいろんなところに影響が出てきています。

峰先生も、感染者が爆発して生活が変わったとか、何か感じますか?

峰宗太郎
生活が変わったというか、私の周りも、皆が引きこもり準備をしているせいで、スーパーからものがなくなりましたよね。
買い物に行っても食料品が手に入らず悲しくなって帰ってきたり、COVID-19 検査会場へ行ったら、ものすごい数の人が長蛇の列を作っていて「こりゃ大変だ」と思っていたら次の日列が無くなっていて、
「どうしたんですか?」
って訊いたら
「検査している人が全員感染したので閉じました」
って言っててですね(笑)
あー、もうこれは末期状態だなと思っています。

街も閑散として辛いですし、あと私の場合はバスですね。
バスに乗って通勤していたのですが、私たちのモンゴメリー郡ではバスの運転手に感染者と濃厚接触者が出過ぎて、バスが維持できず、減便になりました。
私の使っている便が狙い撃ちにされたように無くなってしまい、Uber(アプリを使って呼ぶ個人タクシー)で通わざるを得なくなって、出費が非常に増えてがっかりしています。

安川康介
ありがとうございます。
アメリカに住んでいると、本当にいろいろなところに COVID-19 の影響が出ているのを感じます。

アメリカではほとんどがオミクロンに置き換わっています。
CDC の推計だと、約98%以上がオミクロンです。
12月18日の時点では約39%だったので、急速にデルタからオミクロンに置き換わった状況です。

次に、僕がいま診ている、新型コロナウイルス陽性で入院される患者さんがどういう方なのかをご紹介いたします。

ちなみに、アメリカのワクチンの接種状況ですが、
・2回接種済・・・人口の63%
・ブースター接種済・・・人口の38%
2回接種した方は日本よりも少ないですが、ブースター接種は日本よりも進んでいます。

診療に従事していると、ワクチンの効果を肌感覚で感じますね。

ワクチンを未接種の方というのは、以前見られたような典型的な肺炎で入院される方もまだいます。
40~50代の方でも、しっかりした肺炎で入院される方を今でも見ます。

2回接種していると、特に高齢の方や免疫機能が低下した方、何らかの基礎疾患を持っている方は、発熱やいろいろな理由で状態が悪くなって入院にはなるものの、集中治療が必要になるには至らないという感じです。

ブースター接種をされた方に関しては、ほとんど入院しているのを見たことがありません。
かなり高齢で、発熱と咳を訴えて入院した方が2人くらいいましたかね。

今アメリカで新型コロナウイルスに感染した入院患者はすごく増えていますが、ニューヨークのデータで、for COVIDか、with COVID かということが議論されています。
※ for COVID:新型コロナウイルス感染症の治療が主で入院している人
  with COVID:入院時の主たる診断に新型コロナウイルス感染症は入っていなかったが、検査が陽性になった人

with COVID が約43%いることが報道されると、これに対し、コロナが風邪だと思いたい人々が
「これはインシデンタル(偶然の)コロナだ。入院している感染者数は水増しされている」
と言っています。

実際に診療をしていると、典型的な肺炎はあまり見なくなりましたが、新型コロナウイルス感染症が契機となって心不全が悪化したり、腎障害が起きたりという方が多い印象です。
本当に偶然で、入院している理由が全くコロナと関係ないという方は、かなり少数だと肌で感じます。

感染症というのは、元々他の病気と切り離すことができません。
例えば、インフルエンザウイルスに感染すると心筋梗塞が起きやすくなったり、何かしらの感染症が起きると糖尿病のコントロールが悪くなったりします。
感染が持病を悪化させることは今までもよくありました。
新型コロナウイルスがその役割を果たしているというのが、今の印象です。

例えで言うと、(新型コロナウイルスが)主犯者から共犯者になったように感じています。
元々新型コロナウイルスというのは、肺炎だけではなく、血の塊が肺の動脈に詰まって息苦しくなる肺動脈血栓という病気を起こすことがよくあります。
今でもそういう方はたくさん見ますし、神経障害…これはばりすた先生の領域になりますが、他に、脳梗塞、腎障害、肝障害、心筋の障害など、いろいろな臓器に影響しやすいウイルスなので、肺炎が主体でない病気が増えているというのが、僕の臨床現場での印象です。


オミクロン、日本での状況 丁寧な治療で重症化を防ぐ

日本の状況ですが、1日の新規感染者数が3万2千人を越えました。
・東京 5,185人
・大阪 5,396人
大阪は、過去最高なんですよね。
東京都の病床使用率が23.4%、国基準の重症者が277人と、ジワジワ増えているデータになっています。
最近の検査陽性率の平均を見ると、19.2%なので、捕捉されていない方が結構います。
日本でも、実際に報道されている数よりもはるかに多くの方が感染している状況です。

また、救急医療の東京ルールの適用件数というものがあります。
これは「救急隊による医療機関への受け入れ要請または選定開始から20分以上が経過しても搬送先が決定しない件数」なのですが、これも増えてきています。
1月16日時点で241件と、少しずつ医療に負荷がかかっています。

日本の臨床現場について、谷口先生にお伺いできたらと思います。
谷口先生の職場ではどのような状況か教えていただけますか?

谷口俊文
感染者数はすごく増えていて、自宅療養者の数も非常に増えています。
それにしたがって入院の数も徐々に増えてきてはいるけれど、酸素を使う必要がある患者さんは非常に少ないです。
デルタの第5波と比べると、10分の1ですね。
いま千葉県で、COVID-19 で人工呼吸器や ECMO を使っている患者さんはいないということで、重症な患者さんは明らかに少ないけれども、自宅療養者が非常に多いために保健所の業務がかなり逼迫していて、一人ひとりの管理ができなくなってきているので、「もし何かあったら自分で救急車を呼んで、救急隊の方で(入院先を)探してください」という通達が出てきています。

重症者の数はそこまで多くないということで、ちょうど第5波のときの総感染者数と比較しているところでした。
例えば千葉県だと、いま約5,000人が陽性者の扱いを受けていて、そのうち4,000人強が自宅療養者なんですね。
入院している人は200人以上いますが、酸素を使っている人は25人と非常に少ないです。
これを同じような感染者数の8月のデータと比べると、酸素や人工呼吸器を使っている人が260人くらいだったので、全然状況が違います。

では、どういうところで医療が逼迫しているのかについてはなかなか難しいのですが、軽症とはいえども、症状としてはかなり辛いので救急車を呼ぶケースが結構あるんじゃないかなと、そういうことを考えていました。

東京でどういうことが起こっているのかは、私自身はわからないのですが、千葉の感覚だとそんな感じですかね。

安川康介
ありがとうございます。
基本的に、日本の新型コロナウイルス感染症の入院患者さんは酸素が必要ない方が多いということですね。
ではどういう方が多い印象ですか?

谷口俊文
例えば私たちの病院で診ているのは、酸素を使わないまでも、軽症に分類されるけれども、辛くて全然食事がとれなくなったとか、下痢が非常にひどくて、いわゆる肺炎や呼吸不全以外の症状が辛いという方です。
「とてもじゃないけど辛くて家にいられないので、入院をさせて欲しい」
という方が一定数いる印象を持っています。

安川康介
ここは結構重要なところで、Twitter で僕をフォローされている方は「またこの話をするのか」と思われるかもしれませんが、日本の重症度分類は、誤解を与えやすいと思います。

よく報道されている、感染者数、重症者数を見て「えっ、数人しか重症者がいないの?」という内容に「それ以外は全然問題ないんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれず、本当に誤解を与えやすいと感じます。

そもそも日本の「中等症2」が、海外だと「重症」になります。
・中等症1→肺炎がある
・中等症2→SpO 94%未満で酸素が必要
・重症者→ICU または人工呼吸器管理です。

ただし、東京の重症者の定義は、ECMO か人工呼吸器管理と、さらに厳しい基準になります。

肺炎に特化した重症度分類なので、集中治療の必要が無く、肺炎が無ければ、基本的には全部軽症になってしまうんですね。
つまり、僕がいま診ているような、
・80歳、消化器症状が強く、下痢と食欲不振で急性腎障害になった方
・70歳、発熱、意識障害があり、ぐったりしている方
このような方々でも、日本の分類だと「軽症」です。

オミクロンが、特に動物実験で肺の細胞で増殖しにくく、肺炎を起こしにくいのではないかということと、ワクチンの接種がかなり進んだことで、今までのような典型的な肺炎で入院される方は、今後もあまり多くないと思います。
だからといって、医学的に軽症かというと全然そうではありません。

特に、今のフェーズになって、日本で使われている重症度分類は実態を表していませんし、一般の、非医療従事者の方には明らかに誤解を与えてしまうので、僕は報道する意味があまり無いのではないかと感じています。
例えば、入院が必要になっている方の人数などを中心にした報道に変えても良いのではないかと思っています。

これに関して何かコメントがある方はいらっしゃいますか?

谷口俊文
1つ言い忘れましたが、入院中の患者さんの中には、症状があまり無くても重症化リスクが高いために取り敢えず入院してもらい、中和抗体を投与して経過観察する人も結構含まれているのではないかと思っています。

僕が先日ツイートをしたのですが、重症化のリスクがある人は丁寧に拾って、割と入院させています。
それでゼビュディや、ゼビュディの投与が間に合わない人にはベクルリーを投与したりして、状態観察をして大丈夫だったら退院していただくようなことも、結構やっているんですね。
※ゼビュディ(ソトロビマブ)・ベクルリー(レムデシビル):いずれも COVID-19 の治療薬。ゼビュディは中等症1以下に使用される。この時点では、ベクルリーは中等症1以上に使用が限られていたが、厚生労働省は1月28日に重症化リスクの高い軽症者への適応外使用を認めた。

▼参照:レムデシビル、軽症でも使用へ 従来は中等、重症者向け

出典:共同通信社 2022/01/28

そういった入院患者さんも数に含まれるので、皆が皆、強い症状があるというわけではないのですが、安川先生がおっしゃったように「呼吸器系は軽症だけれども、他の全身症状が出ている人」も、一定の数入院しているかなという感じですね。

安川康介
ありがとうございます。
アメリカの場合は、そもそも医学的に入院が必要でなければ入院させないので、「念の為に入院させておく」というのは日本的かなと思っています。
もしかしたら、そういうことが重症化抑制に繋がるのかなとは思いますが、今後、特に高齢者の方や基礎疾患を複数持っている方の間で感染が広がった場合に、どこまでそういうことが続けられるのかは、かなり心配しています。

残り6分しかありませんが、ここで延長宣言をして、オミクロンについてわかっていることをサクサクッと話していきます。
これは木下先生が前田先生のリクエストに従わなかったので、僕がやることになっています。

木下喬弘
いやいや(笑) そんなこと言われても(笑)
すみませんとしか言いようがない!

前田陽平先生
ごめんごめん。
一番最初に「木下先生は後輩なのにリクエストを無視した」というイジリから始まったけれど、よく見たら木下先生がいないというイントロだったんですよね。

木下喬弘
陰口を言っていたわけですね?

前田陽平先生
これは完全に陰口ですね。

安川康介
ボロクソ言ってましたよ。
後で文字起こしされます。

前田陽平先生
ハッハッハッハッハッ!

木下喬弘
わかりました。楽しみにしておきます。


徐々に明らかになるオミクロンの姿 現時点でのまとめ

安川康介
嘘です。
さて、先に進みたいと思います。
オミクロンについて、ものすごい量の情報が、すごいスピードで出てきているので、僕が今話すことは数日したら古くなってしまうのかもしれないのですが、大まかにわかっていることをお伝えしたいと思います。

まず、オミクロンの症状に関するイギリスの報告です。
オミクロンがデルタと比較してどう違うのかという報告が出ました。
今までも、ノルウェーでの報告や、比較的少規模の報告はあったのですが、今回のイギリスのものはかなり大人数のデータを元にしているので、簡単にご紹介します。

具体的に言うと、UK Health Security Agency(UKHSA)からのテクニカル・ブリーフィングです。

▼SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England
Technical briefing 34

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1048395/technical-briefing-34-14-january-2022.pdf

出典:UK Health Security Agency 2022/01/14


これはオミクロン感染者約18.2万人、デルタ感染者約8.8万人を比較した報告です。
厳密に言うと、全部シークエンシング(塩基配列の解析)をしているわけではありません。
スペースでも何度かお話をしましたが、タックパス(TaqPath)という PCR検査キットを使い、オミクロンだと考えられるものを報告しています。
・喉の痛み・・・オミクロン 53%、デルタ 34%
・嗅覚・味覚障害・・・オミクロン 13%、デルタ 34%
喉の痛みは、オミクロンの方が多いです。
前田先生の領域になりますが、嗅覚・味覚障害は、オミクロンでは有意に起こりにくいのではないかと言われています。
僕も新型コロナウイルスに感染した方が入院されたときに必ず嗅覚・味覚障害について問診するのですが、確かにあまり訴える方が以前に比べていない印象です。
咳、下痢、発熱は、デルタと比べてそれほど大きな違いは無いという報告になっています。

次は、病毒性について、いくつも報告が出ています。
救急外来受診、入院のリスクですが、救急外来受診は、ざっくりデルタの半分で、入院はデルタの3分の1程度と推測されています。

これ以外に、木下先生がツイートしていた、 CDC の所長が発表した、カイザーパーマネンテというアメリカのかなり大きな健康維持機構のデータが出ています。
11月末~1月1日までのオミクロン感染者約5.2万人と、デルタ感染者1.7万人を比較したもので、
・入院リスクはざっくり半分くらい
・ICU に入室するリスクは概ね4分の1
・死亡リスクが約10分の1程度
となっています。
これに関して、木下先生から何か簡単に補足はありますか?

木下喬弘
イギリスのデータでは、入院時に陽性になった人も調べているので、他の理由で入院になった人でオミクロン陽性になった人は除外できていなかったんですよね。
このワレンスキー所長がツイートしていたアメリカのデータは、外来で陽性になった人のフォローアップということで、その人がどれくらい入院しやすいかをデルタとオミクロンで比較しているのが大きな違いという話かなと思います。

安川康介
ありがとうございます。
アメリカからこういうデータが出せるのかなと思っていたのですが、カイザーがタックパスの PCR をやっていて、前向きな観察研究になるのですが、少し驚いたデータではありました。

木下喬弘
私も安川先生と同じ感覚です。

安川康介
カイザーパーマネンテは、別の領域でも多く研究報告を出しています。
なので、プライベート(民間団体)だけれどもがんばっているなという印象です。

あと、アメリカでは、陽性者の隔離期間の変更が話題になりました。
基本的には、感染してから症状が軽い or 無症状の方は5日経ったら隔離を解除して、その後5日間マスクをすれば過ごせるというガイダンスになっています。
検査推奨だけれども、検査しなくてもいいとなっていて、批判する方が結構いました。
その批判をするときに使われているのが、実は日本の国立感染症研究所が出したオミクロンの報告です。
感染者の方が感染性のあるウイルスをどれくらい排出しているのか研究したもので、これをご紹介します。

▼SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第1報):感染性持続期間の検討

出典:国立感染症研究所 2022/01/05

オミクロンに感染した21人に対し、定期的に PCR と分離試験を行っています。
ウイルス量が最も多い、つまり、Cq値が最も低いのが3-6日目くらい。
分離試験で陽性になったのが、
・診断後7-9日目で分離可能だったのが11.8%、10日以降は0%
・発症後7-9日目で分離可能だったのが18.8%、10日以降は0%

アメリカは5日で切っていますが、5-10日の間に感染性のあるウイルスを排出している人がそれなりの割合で存在するというデータになります。
10日目以降は感染性のあるウイルスを排出している可能性は低いので、感染者から他の方に本当にうつしたくないのであれば、10日目くらいが1つの目安になると思います。

峰先生、これに関して何かコメントがありますか?

峰宗太郎
これはあくまでもプロキシ、代替指標として培養可能性で見ているんですよね。
培養試験には感度の問題があって、感度が低く見積もられている可能性も、高く見積もられている可能性も両方あります。

PCR試験は明らかに多めに見積もっちゃうわけです。
つまりウイルスが死骸のようになっていて、感染性を失った粒子から漏れ出た RNA であっても検出してしまうので、RNA の検出は長く続きます。

それに対して、培養検査では細胞にサンプルをふりかけて感染するかどうか、ウイルスが増えるかどうかで感染性が保たれているかどうかを見ます。
しかし、もし感度が高ければ、これで培養されるからといって、必ずしも感染可能なだけの生きたウイルスが排出されているかとは、直接関係がない場合もあります。

この培養検査って、感度が悪いとも言われているんですね。
なので、逆に感度が低ければ、生きているウイルスをかけても、あまり増えないということもあります。

あくまでも代替指標なので、ここの論争をあまり細かく議論しようとしても、我々はいい検査手段を持っているとまでは言えないので、実際に集団を観察して何日後の人から感染した事例がどれくらいあるのかを疫学的に見られるのが、本当はいいんですけどね。
そこも段々と追跡も困難になってきますから。

第一、人によって排出量がかなり変わるというところもありますので、なかなかエイヤッと決めるしかないとは思いつつ、やはり発症後5日だとやや短いのかなという感じはしています。
周囲にうつしたくない方は、大事を見るのも大切なのかなという程度の感想です。

安川康介
なるほど、ありがとうございます。
やはり感染者が増えると、どれくらいの間隔で自宅隔離を解除するのかは本当に重要な問題になってきて、できるだけ短い方がいいのですが、そうすると他の方に感染させるリスクが上がります。

この21人のほとんどが、ワクチンを接種した比較的若い人なので、免疫機能が低下した方からだとかなり長い間感染のリスクがあるという報告もあるので、一概に日数を決めて切ることは難しいかなとは思います。

最後はワクチンの有効性に関して、また UKHSA からの1月14日のテクニカル・ブリーフィングです。

ファイザーの新型コロナワクチンを2回接種していると、発症予防効果は15週を経過すると約20%以下に落ちてしまいます。
ブースター接種(ファイザー製ワクチン)をすると、7割以上に上昇しますが、やはり時間が経つと、発症予防効果は下がってきます。
モデルナ製ワクチンでブースター接種をすると、ファイザー・ファイザー・ファイザーよりも発症予防効果は高く保たれると報告されています。

2回モデルナ製ワクチンを接種していると、5か月以降での発症予防効果は20%以下になってしまいます。
ただ、ブースター接種をすると、発症予防効果が6割以上に上昇するというデータが出てきています。

一方で、入院抑制効果は、全部のワクチンを合わせた結果になるのですが、2回接種後6か月以降でも44%、ブースター接種後だと10週以上経過しても83%以上保たれるというデータが出ています。

峰先生、発症予防効果は落ちるけれども、重症感染予防効果が保たれるというのは、どういうメカニズムが考えられるか教えていただいてもいいですか?

峰宗太郎
これは明確にこうだと確定したことではないのですが、免疫システムで対応しているシステムが違うのではないかとは言われています。
特に、感染発症予防効果は、液性免疫=抗体が対応している、B細胞が担う免疫が主として関係しているのではないかということです。
ワクチンを打ってからしばらく経つと、抗体の産生量が徐々に減ってくることにより、直接的な効果が減っているのではないかと考えられているわけです。

一方、重症化抑制効果に関してはどちらかというと細胞性免疫、T細胞が関わると言われています。
T細胞がウイルスに感染した細胞を殺すことで、ウイルスや、ウイルスに感染した細胞を身体から除いていく機能、これによってかなり担われているのではないかということがわかっています。

もちろんオーバーラップはあって、抗体の力も重症化抑制に入っているでしょうし、感染予防効果にも細胞性免疫が効いていると思います。
しかし反応性や反応する時間、仕組みから考えると、重症化を防いでいるのは細胞性免疫の方がより寄与しているのではないかというのが、今までの免疫学の基礎的な知見です。
特に、動物実験や他の病気で知られていたこと、今回のコロナでわかっている T細胞の応答などからも、おそらくそうだろうと言われています。

そうすると、B細胞性の反応、いわゆる抗体を作る反応に比べると、T細胞性の反応は結構長い間、活性を維持しながら持続することが知られています。
B細胞の数は減らないのですが、抗体の産生量はスッと落ちるんですよね。
しかし T細胞はすぐに反応できる状態で、サーキュレートといって身体の中を結構長い間くるくる回ったりしてくれていますので、細胞性免疫が担う重症化予防効果の方が落ちていくのがゆっくりで、なおかつ保たれていると考えていいんじゃないかと。
免疫をやっている人の間ではまことしやかにというか、それなりの根拠をもって、いま語られています。

全容が本当にわかってくるには、まだ科学技術が及んでいないところがあるのも事実ですが、そういう理解だと思います。

安川康介
僕の突然の無茶ぶりにもかかわらず、丁寧にご説明いただいてありがとうございます。

日本でもブースター接種がいま進められている段階だと思います。
アメリカでどのような方がブレークスルーでシビア・コビッド(=COVID-19 での入院・ICU・死亡)になりやすいかは、NMWR、CDC の論文雑誌で報告されています。
やはり、65歳以上で基礎疾患(慢性肺疾患、腎臓、肝臓、心臓、免疫機能低下、糖尿病)を持っている方、特に複数の慢性疾患を持っていると、シビア・コビッドのリスクが高いとわかっています。
亡くなる方を少なくするという意味で、ブースター接種は基本的にこういった方を中心に、できるだけ早めに打った方が良いのではないかと思います。

感染が広がっていて不安に感じてしまう方はやはり多いと思いますが、個人個人でできることというのは、本当にそんなに変わらないと思います。
基本的な感染予防対策ですね。
手洗い、マスク、距離、換気、時期が来たらブースター接種と。

あとは、個人的な意見になるのですが、あまりコロナのことを考え過ぎず、今の状況下で自分にできることや、やりたいことに集中するのが大事かなと思っています。
いつか状況は必ず良くなります。
日本はいま感染拡大していますが、がまんのしどきかなと思います。

かなり延長しましたが、最後に何かコメントはありますか?

木下喬弘
これね、最近思ってるんですけど、イギリスもだいぶ落ち着いてきたし、南アフリカも感染者数が減ってきているじゃないですか。
アメリカもピークを越えたっぽくて、でも明らかに、オミクロンのいわゆる免疫逃避を考えると、集団免疫を達成しているわけがないと思うんですよね。
さすがに人口の95%は感染してへんやろうと。

ということは、けっこうイケるんちゃうかな? と思っていまして。

つまり、感受性人口の中で集団免疫っぽいことを、多分達成しているんだと思うんですよ。
要は、あまり感染対策をしていなくてノーガードの人はほぼ感染するので、そういうコミュニティで感染が一巡したら収束していくということなんだと思うんです。
アメリカやイギリスのように結構フリーで、厳しい対策を打たないと決めていても、これくらいで曲がり角を迎えるんだったら、日本くらい感染対策をしていると、そんなに無茶苦茶に感染爆発せずに、しばらく耐えたら下がってくる気もしなくもないなと最近思っているのですが……これ13分過ぎてから話し始めることじゃなかったですね(笑)

峰宗太郎
僕ね、ちょっと木下先生に訊きたいんですけど。
同じ発想なんですよ。
リスクの高い人が感染し尽くすことによって流行がピークを迎えるんじゃないかという仮説を持っているんです。
これね、疫学的な手法を使って、感染した人と感染しなかった人をマッチングして、生活がどうであったとか、どういう態度の人がまずいかとか、そういう研究ってできないんですかね?

木下喬弘
測定次第だと思いますよ。
感染行動を定量化できれば可能です。

峰宗太郎
ああ、定量化ね。そこがちょっと難しいですね。

木下喬弘
マスクをしているとかも、1日のうちどれくらいマスクを着けているとか、人との距離がいくらくらいのときに何%の人がマスクをしているかとか、そういう定量化ができれば可能です。
非常におもしろいと思うんですが、Googleさんとかでもなかなか難しいですね。

峰宗太郎
ですね。
でもアイディアとしてはそういうことで、変な言い方をすると、逆にリスク因子を今まで勘で決めてきているわけじゃないですか。
それを、科学的根拠をもってリスク因子を、数値も伴って出せるというのは大きいかなと、ずっと妄想しているのですが、難しいですかねー。

木下喬弘
やれるとしたら、中国の街頭の監視カメラを全部解析するしかないでしょう。
それならできると思います。
ただ、中国は感染が広がっていないから、ちょっと難しいかもしれないですね。

峰宗太郎
なるほど、ありがとうございました。
すごく納得しました。

安川康介
15分も過ぎてしまったので、最後を黑川先生に締めていただきたいと思います。
よろしくお願いします。

黑川友哉
はい、ありがとうございました。
次は金曜日ですね。
岡田先生、今日はいらっしゃらないですが、きっと楽しいお話をしてくれると思います。
今日はいろんなお話が出ましたね。
米国の感染状況から、いろいろな社会への影響も出ているというお話の後に、現状の米国の逼迫状況、ピークを越えたというお話でしたが、やはりワクチンを接種していない人でひどい肺炎で入院される方がいるとか、ブースター後であれば重症化はまれだよとか、谷口先生からは日本の状況もご紹介いただいて、東京とは別かもしれないんですけど、千葉県では今のところ、ECMO とか ICU に入っている方はかなりまれという状況ですけれども、オミクロンの状況、だいぶイメージがわいたかなと思います。

ここから延長しましたが、海外の状況からオミクロンの症状、病毒性、感染後の隔離と、人にうつすリスクってどうなのかなというお話もありました。
今日はこの辺をリアルタイムでまとめていますので、私のツイートのツリーをご覧いただければ幸いです。
あと、暇だったら私のアカウントもフォローしていただけると嬉しいです。
今日もありがとうございました。

こんな感じでいいですか?

安川康介
きれいにまとめていただいてありがとうございます。
それでは、1,800人くらいの方に聴いていただいて、本当に皆さん、お時間をいただいてありがとうございます。
何か役に立つ情報があればいいなと思います。

木下喬弘
そうそう、そう!
「逃げ切れるよ!」
ってことです僕が言いたかったのは!

安川康介
なんで僕が締めようとすると話し始めるんですか(笑)

それでは日本の皆さま…

木下喬弘
逃げ切れるよ!

安川康介
ありがとうございました。

峰宗太郎
逃げ切ろう。

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