米国の小児 COVID-19 患者の急増、シュードウイルスについて(9月10日こびナビTwitter spacesまとめ)
※こちらの記事は、2021年9月10日時点での情報を基にされています。※
2021年9月10日(金)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:岡田玲緒奈
岡田玲緒奈
おはようございます。
ばりすた先生からしか反応がないですけれど。
黑ちゃんも来ましたね。
今日は若干集まりが悪いですかね?
黑川友哉
僕の回のとき、もっと集まりが悪かったですよ😔
岡田玲緒奈
最近ね、ちょっとね。みんな忙しいんでしょうね。
黑川友哉
岡田先生、ばりすた先生の Voicy 聴きました?
▼ばりちゃんねる ─脳のハナシ ばりすた@脳神経内科医
https://voicy.jp/channel/2108
岡田玲緒奈
それがね、まだ聴けてないんですよ。聴こう聴こうと思っていて。
黑川友哉
いやー! いいですよこれ! 本当にオススメです。
僕、さっき聞いたんですけど。
最高ですよ。
ばりすた先生
こんな朝っぱらからご宣伝をいただきありがとうございます。
今朝7:00ごろに投稿したやつなので、そんな早いうちに聴いていただいてすみません。
黑川友哉
目覚め1発目に聴いたんで、すごく優しい気持ちで一日が始められるなと思って。
是非皆さんも聴いてみてください。
安川康介
今からちょっと抜けて聴きます。
岡田玲緒奈
こらこら(笑)
何の話だったんですか?
ばりすた先生
「不安と向き合うために」というお話をしました。まず認知バイアスのところから話をはさんで、2回か3回くらいに分けてやろうと思っているものですが、そういう内容です。
岡田玲緒奈
めちゃくちゃ面白そうですね。
黑川友哉
岡田先生が来てくれなかった僕の水曜日の Twitterスペースでもそういう話、ちょっとしたんですよね😔
岡田玲緒奈
仕事してたんや!(笑)
ばりすた先生
まさにそこですね。その話をやってから、こんな話にしようかなと思って投下をしてみました。
黑川友哉
いや、最高ですね。不安と向き合うとき、科学的なエビデンスだけではやはり限界があるというか、どだい無理なんですよね。なので、こういうお話ってすごく大事だと僕は思ってるんですけど、れおにいは来てくれなかったんで😔
岡田玲緒奈
だから仕事や!って(笑)
やー。しかし、やっぱりね、そういうふうにやっていかないと、きりがないんですよね。
前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
2~3分遅れて入ったら「そういうふうに」とか、「そういう話」とかばっかりで、もはや何の話をしているのか。音も途切れてたんでわからなかったんですけど、正しい大阪弁とかの話をしてたんですか?
岡田玲緒奈
ばりすた先生の Voicy の話をしていました。
前田陽平先生
あ! Voicy いいですね。あれ、カッコイイですよね。
僕もやってみたいんですけど、なかなか吹き込む時間がなくて、自分でアプライするところまで行ってないんです。僕もいくつか聞きましたけど、すごくいいですね。
Twitter をやっている人は、情報を入れるときに文字がスッと入るタイプの人が多いと思います。
でも、音声を好む方もたくさんいるので、この Twitterスペースもそうですが、少し違う媒体で情報を入れられるのはすごくいいですよね。
岡田玲緒奈
やっぱり運転しながら聴けるのがいいですよね。
前田陽平先生
都内在住の方と違って、我々は車移動、車通勤の方も多いと思いますしね。
岡田玲緒奈
というようなところで、早速今日の話に入って行きたいと思います。
今日はお題を2つ用意しています。マニアの話をやろうと思って昨日ツイッターでお題のアンケートをとったら「マニアックな話やめろ」って言われたので、マニアの話以外も準備して、巻きで進めたいと思います。
【米国の小児 COVID-19 患者急増と医療体制の逼迫】
1つ目は、The New York Times から、アメリカで新型コロナワクチン接種率の低い州を中心に、小児の新型コロナウイルス感染症の患者が急増し、医療体制が逼迫しているという記事を取り上げましょう。
▼Least Vaccinated States Lead Spike in Children’s Cases, Leaving Some Hospitals Stretched
https://www.nytimes.com/interactive/2021/09/09/us/covid-children-cases-icu.html
出典:The New York Times 2021/09/09
散々話していることですので、手短に行きます。
記事の中のグラフが非常に事態を掴みやすいので、これをご覧いただきたいのが今日の全てでございます。
全米で、8月には3万人近くの小児が新型コロナウイルス感染症で入院しています。特にワクチン接種率の低いルイジアナやテキサスで…この地域はよく話に出てきますが…小児の ICU病床のキャパシティを超えているそうです。
小児のコロナ感染は成人と比べ、あくまで入院したり、亡くなったりする率は低いわけですが、だからといって軽視してよいものではありません。
そして、小児の入院を防ぐポイントは、大人のいろいろな行動の中にいくつもあります。まず大人の感染予防行動ができていないのは問題だろうというわけです。
これは一昨日も既にこんな話をしていましたが、ワクチン接種はもちろんのこと、感染予防行動についても、成人がしっかりして行くべきではないでしょうか。
さらに、医療体制逼迫の問題です。小児の ICUは PICU(pediatric intensive care unit:小児集中治療室)と言いますが、アメリカでは PICU が1施設につき平均12床です。成人と比べ、もともとこれだけキャパシティが小さいと、成人よりもはるかに小さい規模の感染者数で、容易に限界に達します。
平均12床の PICU病床を「キャパシティが小さい」と米国基準では言っているわけですが、日本では、対象病院が少ないものの、PICU の平均病床数は10床、中央値が8床で、幅が4から25となっています。(2017年調査)
集約化の問題などがあって、アメリカと単純比較できないのは事実です。
いろいろな事情から、PICU は敢えて設定しないで成人 ICU の中で小児を管理する高次施設もあります。我らが千葉大も、現状ではそういう体制になっています。
いずれにしても、現場からしたら小児の重症例がまとまって出始めると「かなりやばいな」という感覚です。
そして、アメリカよりもこういう時の対応が強いとは、さすがに考えられません。
少し脱線しますが、こびナビの吉村代表がセンター長・特任教授を務める千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターは、こういった医療政策的なことを検討する部署なんですね。
ツイッターのアカウントもあります。ちょっと宣伝してみました。
▼千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター(寄附研究部門)
https://www.ho.chiba-u.ac.jp/hosp/section/jisedai/index.html
▼次世代医療構想センター@千葉大学病院 Twitter ID:@n_generation19
https://twitter.com/n_generation19
話を戻します。
この記事の2つ目のグラフをご覧ください。ワクチン接種率の高い州と低い州をグラフにしていますが、この2つで、大人のコロナ入院者数と共に、18歳未満のコロナ入院者数にも大きく差が出ていることがわかります。
18歳未満の群でも、4倍近い差が出ています。
記事はこの後も続きますが、ここまでが取り敢えずわかればいいので、皆さんのコメントをいただきたいと思います。いかがでしょうか?
そんなときは安川先生ですね。
安川康介
子どもは重症化しにくいというのは確かにありますが、感染者数が増えれば重症化する子どもも当然出てくることは、理解する必要があるんですよね。
つまり、感染者数が多ければ、大人で起こることが子どもにも起こりうるので、決して軽視してはいけない領域だと思います。
子どもには、重症化だけではなく、3,000人に1人くらいの割合で発症する MIS-Cがあります。子どもだから感染してもいいとは捉えない方がいいです。
※ MIS-C=multisystem inflammatory syndrome in children:小児多系統炎症性症候群。ミスシー。新型コロナウイルス感染後、2-6週間後に、心臓や肺、胃腸や皮膚、目など、全身の色々な臓器に炎症が起こる病気。
岡田玲緒奈
ありがとうございます。
少し音声が途切れ気味でしたが、MIS-C、小児多系統炎症性症候群の話をしていただきました。ふだんお聴きの皆さんはご存知かと思いますが、新型コロナウイルス感染症の後、2~3週間後に多臓器の炎症を起こして重症化するという小児での合併症が知られていて、その話ですね。
そういうことも考えると、やはり子どもたちもかからないようにしてあげなきゃいけません。
実際、日本でもこの辺りは数が増えてきたので、MIS-C の症例も出てきています。
これは今、ちょうどレジストリというところで登録を始めていて、どういう症例があるのかという情報が日本でも蓄積されていくことになります。
黑ちゃんどうですか?
黑川友哉
日本の PICU って本当に平均10床とかあるんですか? そんなにあるんですか?
岡田玲緒奈
これはですね、必ずしも全体を反映していないというか、PICU がある施設というのがそもそも相当限られるので、参考程度ということにはなるかと思います。PICU がある施設に関してはそのくらいの病床があります、ということになるでしょうか。小児人口に対する PICU 病床数とかいうことになるとまた印象が変わってくるはずです。
黑川友哉
そうですよね。納得です。
おっしゃるとおりで、日本はアメリカよりも、その辺の医療設備が全然整っていないのですが、ほんと幸い(と言えば語弊はありますが)、小児の重症化での病床逼迫は、日本では今のところ顕在化していません。
しかし放っておくと、すぐにこういう事態に陥るのは予想できるので、注意しなきゃいけない問題かなと思って聞いていました。
岡田玲緒奈
本当にそうですね。
小児への医療体制はすごく規模の大きいものというのは、かなり限られるといえます。
今後これをどうしていくかは、少子化問題と合わせて考えていく必要があるんですよね。ちょっと火曜日っぽいネタになっちゃいますけども。
他の先生いかがですか?
前田先生、どうぞお願いします。
前田陽平先生
皆さんのおっしゃる通りで、結局今のところ小児の感染者での逼迫は顕在化してないけれど、今後十分起こりうるし、万が一起こったら大変なので、やはり強めに警戒しておく必要があると思いました。
もう1つ思ったのは、日本ではないのですが、海外、アメリカなどを中心に、小児の感染者がこれだけ出てくると、先日話題になった小児に対するワクチン接種の個人レベルのメリット・デメリットというのも、より正確に評価できそうです。感染者が増えてデータが集まると、その辺りも議論はしやすくなるのかなと思います。
岡田玲緒奈
おっしゃる通りですね。リスク-ベネフィットの評価の話は、木下先生がしていましたが、流行状況のフェーズで、ベネフィット部分が大きく変わるんですよね。サステイナブル(持続可能)かどうかということを内田先生もおっしゃっていましたが、その状態がずっと続くわけでもなく、この辺り非常に難しい問題だなと思いながら、このリスク-ベネフィットの評価の話をいつも考えています。
ということで大丈夫そうでしょうか?
新型コロナワクチンは、12歳以上は打てますが、12歳未満は今のところワクチン接種できません。やはり成人がしっかりしてワクチン接種をきちんと進め、お子さん達を守っていくことが大事かなと思いますし、併せて感染予防行動もきちんと持続していきましょう。そして、全体の効果として感染者数を抑えていくことが大事だという結論になるかと思います。
【ウイルスの偽物!? 「シュードウイルス」】
後半戦はシュードウイルス pseudovirus、偽ウイルスとも訳せるかと思いますが、これを取り上げたいと思います。
▼キーワード:シュードタイプウイルス
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900001/20/08/07/00356/
日経バイオテク 2020.08.10
(岡田注:これだけわかっていれば十分ではあります)
シュードウイルスは、変異ウイルスのお話をする回でたびたび登場しているのですが、皆さん結構聞き流しているかもしれません。実は、マニアックでどうでもいい話ではないのです。
昨日、峰先生から変異ウイルス・ミューに対する中和抗体の話があったと思いますが、そこにも最終的に繋がっていくので、結構重要なんですよ。
変異ウイルスの in vitro、つまり、試験管内の研究ではこのシュードウイルスがよく使われます。
これゆえに、どうしてもスパイクタンパク質部位の変異に知見が限定されがちなんですね。
このシュードウイルスというのは一体何なのかと簡単に言うと、あるウイルスの表面に、本来そのウイルスのタンパク質でないタンパク質を発現させたウイルスのことです。
理解しやすくするために、ある意味「キメラ」と言ってもいいかと思うんですが、この表現は問題ないですか? だめ? 峰先生どうですか?
※ キメラ(もしくはキメイラ、キマイラ):ある個体が2つ以上の異種の遺伝情報による細胞を併せ持つ状態。ギリシャ神話の「ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ、口から火を吹く怪物」に由来する。
前田陽平先生
キメラ、僕たちからするとわかりやすいですけど、非医療関係者には全然わかりやすい表現ではないと思います。
岡田玲緒奈
やっぱりそうですよね…峰先生しゃべれないのかな。
何て言ったらいいんですかね?
前田陽平先生
あれですよね。安川先生の腕を峰先生の腕に変えるみたいな、そういう意味ですよね。
岡田玲緒奈
ああ…そうですそうです。
これを使う利点の1つとして、このウイルスを扱う施設の間口が大きく広がるということがあります。
何のことを言ってるかというと、バイオセーフティーレベル、略して BSL というのがありまして、細菌やウイルスといった病原体を扱う施設の格付があるんですね。
レベル1~4があって、BSL4 には、かの有名なエボラウイルスなどが入ります。
BSL4 を取っているのは日本だと3施設ありますが、現在稼動しているのは国立感染症研究所のみのはずです。
これは合ってますかね? 間違いがあったらおっしゃっていただきたいです。
BSL3 になるとグッと増え、各地方の衛生研究所がそれに当たるのですが、それでもかなり限られます。どこの大学の研究室でもできるようなものではないです。
SARS-CoV-2、新型コロナウイルスは BSL3 の指定なんですが、シュードウイルスを使うと BSL2 の施設で扱えるようになります。このシュードウイルスの元になるウイルスは VSV(vesicular stomatitis virus:水疱性口内炎ウイルス)という牛や馬、豚などに病気を起こすウイルスだとか、HIV(human immunodeficiency virus:ヒト免疫不全ウイルス)をはじめとするレトロウイルスを使うことが多いようです。
VSV 以外はレトロウイルスばかりです。つまり、
・HIV(ヒト免疫不全ウイルス)
・ネコ免疫不全ウイルス
・マウス白血病ウイルス
・サル免疫不全ウイルス
とかですね、これ、どうしてレトロウイルスばかりなんですか?
曽宮先生しゃべれますか?
曽宮正晴
はい。おそらくシュードウイルスを作りやすいということじゃないでしょうか。
岡田玲緒奈
なるほど、そういうふうになりやすいってことですね。
黑川友哉
本当に曽宮先生がしゃべれてよかったですね。
岡田玲緒奈
そうですね(笑)
これ、実は僕もときどき混乱しちゃうんですが、レトロウイルスのベクターは、全く別の用途で作るときには、レトロウイルス表面のタンパク質を VSV の Gタンパクに置き換えると、これまたシュードウイルスにすることになるのです。
なんか混乱の元というかですね、多分、何を言ってるか全く分からないと思うんですけど、レトロウイルスはそういうふうになりやすいってことなんですね。
▼Quantification of SARS-CoV-2 neutralizing antibody by a pseudotyped virus-based assay
https://www.nature.com/articles/s41596-020-0394-5
出典:Nature Protocols 2020/9/25
VSV というウイルスは、貼り付けた論文の図にあるように、弾丸みたいな形をしたウイルスです。
これもなんというか不思議なもので、どうしてこんな形になるのかとか思いつつ見てました。
この実験系で使う VSV は、遺伝子の中で、表面のトゲトゲの Gタンパク質の遺伝子が削除されている状態になっています。
これをウイルス調整によく使う 293T という細胞にふりかけて、VSV を感染させます。同時に、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子を細胞に入れます。
これはプラスミドというのを使います。
とにかく細胞の中に、Gタンパク質の遺伝子をなくした VSV というウイルスと、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子が入っている状態になります。
そうすると、ウイルスはいつも通り完成体になって細胞から出て行こうとするのですが、この際に表面には Gタンパク質でなく、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質が生えている状態になります。
これがシュードウイルスです。
前田陽平先生
話の途中なんですけど、そのウイルスは本来はその Gタンパク質を使って細胞に侵入するんですか?
岡田玲緒奈
そうですそうです。侵入させる時点では Gタンパク質が生えてるんです。
前田陽平先生
SARS-CoV-2 における Sタンパク質と同じイメージということですね。
岡田玲緒奈
…のはずなんですが、それで大丈夫ですか? 曽宮先生。
曽宮正晴
多分、いろんなパターンがあって、VSV のウイルス粒子を感染させる方法と、細胞にウイルスの遺伝子を発現させて細胞の中でつくる方法、両方あると思います。
岡田玲緒奈
先ほど前田先生に「安川先生の腕を峰先生の腕に変える」と言われちゃいましたが、ここでいつも通り安川先生をたとえに使います。
ただ、峰先生の腕と安川先生の腕だと見分けが付きづらいので、VSV が安川先生、新型コロナウイルスがゴリラだと思ってください。
ゴリラの研究、特に右腕を研究したいけれど、ワシントン条約もあるし、暴れたら危ないので、ゴリラ自体を扱うのは難しい。そこで、右手がゴリラになっちゃった安川先生をたくさん準備して、この安川先生を観察しよう!と、そういうイメージです。
こうして完成したシュードウイルスを使い、
・別の細胞にふりかける
→感染性を見る実験
・コロナに感染したことのある人の抗体をふりかける
・ワクチンを打った人の抗体をふりかける
・治療薬の候補をふりかける
→どの程度ウイルスをやっつけられるか見る実験
ができるわけです。
昨日、変異ウイルス・ミュ-に対する、ワクチン接種後血清の中和抗体の話が出ました。シュードウイルスを使った実験と、実際の新型コロナウイルスを使った実験とで、結果が結構違うという話をしていたわけです。
確かにこのシュードウイルスが、本当に完全に新型コロナウイルスと同じ挙動をすると考えていいのか? という話になるのは、これでなんとなくお分かりになるでしょうか。
ウイルスの形からして全然違いますし、スバイクタンパク質以外の部分は VSV なわけですね。もしかすると、そのようなことから実験結果の違いが出るのかもしれません。
皆さん、何かありますか?
前田陽平先生
多分、非医療関係者の方はかなりキツい内容だと思うので、僕がちゃんと理解できているかチェックしてもらう意味も含めてまとめます。
本来なら、細胞に SARS-CoV-2 というウイルスそのものを感染させて「この抗体は効くかな」とかやってみたいけど、新型コロナウイルスそのものを扱うのはなかなか難しくてハードルが高く、そんなに気楽にできないと。
そこで、別のウイルスの表面だけコロナウイルスっぽくしたウイルスを細胞に感染させて、抗体をふりかけて効果を見たりする方法で治療効果を調べる実験があるよ…という紹介ですよね。
岡田玲緒奈
そういうことです。
スパイクタンパク質部分を、変異ウイルス・ミューと同じにします。それは簡単なんですよね。遺伝子を入れ、変異したスパイクタンパク質が生えた VSV を作ることは可能です。それを使って、変異ウイルスの研究をするんですよね。
ということで、前田先生、まとめをありがとうございます。
黑川先生、どうぞ。
黑川友哉
シュードウイルスというものを作るためには…これは本当に当たり前のこと言いますけど、新型コロナウイルス自体の構造等がしっかりわかっていないと、シュードウイルスも当然作れませんよね。
岡田玲緒奈
もちろんそうです。
黑川友哉
いや、よくですね…
岡田玲緒奈
(察して)その話行くんか(笑)
黑川友哉
よく、「新型コロナウイルスっていうのは、まだ世界中で、どこでも抽出されていなくて、コッホの三原則を満たしていないから存在しないんだ」
とおっしゃる方がまれにいらっしゃるのですが、存在してないどころか、
「既にシュードウイルスを作れるほど様々な研究がなされているよ」
ということですよね。
岡田玲緒奈
ありがとうございます!
新型コロナウイルス自体を使う実験にしても、ウイルス自体をもらってくることだって可能です。
しかし、この新型コロナウイルスの遺伝子は長いので、まるまる増やすのは人工的には少々難しいんです。ただ、パーツに分けて遺伝子を増やし、最後がっちゃんこしてウイルスを人工的に作ることさえ、既に可能なんですよ。
なので、「存在しない」とか意味不明ですね。
僕のマニア回のほとんどは、新型コロナウイルスの存在が疑わしいと言われると全ての論文が嘘っていうことになってしまいますが、まあそういうことは無いですよね。
峰先生、しゃべれないですか今日?
峰宗太郎
今しゃべれるようになりましたよ。
岡田玲緒奈
ありがとうございます。何かコメントをいただけますか。
峰宗太郎
そうですね。シュードタイピングによるシュードウイルス法は、実験ではよく使う手法で、VSV やレトロウイルスが使いやすいのは、表面に出ている突起がほぼ1種類であることによるんですよね。
余計なものが出ていないんですよ。余計なものが出ていないので、シュードタイピングするときれいに行くんですよね。
大事なことはですね、余計なものが出ていないので、実験によって出てくる差は、純粋にスパイクタンパク質の変異の差であると言えることです。
シュードタイピングして VSV のスパイクタンパク質に変異を入れますよね。スパイクタンパク質に様々な変異の入った VSV を横並びに並べて性質を比べれば、VSV の部分は同じなので、純粋にスパイクタンパク質の変異の差だけを調べることができるんですよね。
岡田玲緒奈
なるほど!
峰宗太郎
実際のコロナウイルスを使っちゃうと、スパイクタンパク質自体の変異だけでなく、他の変異も絶対入っているんですよ。
そうすると、どの要因なのかがなかなか純粋に見えなくて、議論の余地が残ります。
そういう意味では、スパイクタンパク質だけに注目するのであれば、これは大変いい方法なんですよね。
岡田玲緒奈
なるほど。
スパイク以外の部分が、ある意味コントロール(対照)みたいな感じになるわけですね。
峰宗太郎
そういうことです。すごく合理的な方法だと思います。
あとですね、話がそれますが、VSV がどうして螺旋形や弾丸状の形をしているのかについては、非常に面白い議題で、実はですね……って長くなりますので、今日はやめておきますけど。
岡田玲緒奈
止めなくていいですよ、先生!
峰宗太郎
ヌクレオカプシドというのはどうしても、立体が充填するような形でしか並べません。
そうすると幾何学的に正二十面体だとか、複合多面体の場合もありますが、多面体形成をしたいわけです。
※ ヌクレオカプシド:ヌクレオカプシドタンパク質、Nタンパク質と表す。コロナウイルスの例では、丸い殻の内側の部分にあり、最も多く存在するタンパク質のこと。
しかし、多面体形成がうまくいかないパターンでタンパク質を発現した場合、どんどんねじれて螺旋状に長くなっていきます。
ある一定の大きさまで行くと、それ以上は、今度は張力限界に達しますので、後ろがプシュッて終わっちゃうんですよ。
岡田玲緒奈
へえええ!
峰宗太郎
これが、弾丸状とか螺旋形になる1つの原理でして、表面張力というか張力の問題なのですが、張力の問題で、充填化しない場合には、長いひも状になってフィロウイルスみたいになったりすることもあるわけですよね。
岡田玲緒奈
すげー話だな(笑)
峰宗太郎
(ウイルスの)形って結構面白くてですね、なぜヘルペスウイルスやアデノウイルスはあんなきれいな正二十面体になってるんだっていう話をし始めると、誰とは言いませんが長い人がいるんですよ。ヌクレオカプシドの構造について、延々と3時間くらい聞いたことがありますね。
岡田玲緒奈
ハッハッハッハッ!
なるほど、そういうことなんですね。だから自然のものでもこういう形になるんですね。
いやおもしろいですね。
峰宗太郎
しかしこの VSV というのは非常によく使われるウイルスでして、VSV-G という、表面にある Gタンパク質は、これ受容体が何だか知ってますか?
岡田玲緒奈
ああ、わかんないです。
峰宗太郎
これね、脂質二重膜なんですよ。
岡田玲緒奈
あ! ということは、レセプターを介して細胞内に侵入するんじゃないってことですね?
峰宗太郎
そう! つまりこれ、レセプターが要らないんです。VSV-G は脂質二重膜に自分からぺったりくっついて行って無理やり潜り込むという、非常に強い性能を持っています。
レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターを作るときに VSV-Gシュードタイピングをしますよね。
実はこれは、どんな細胞にでも、細胞膜があれば潜り込んで行ってしまうという嫌らしいウイルスなんですね。
岡田玲緒奈
ああ、そうなんですね。自分でも実験ではそういうのを使ってるんですけど、なんで? と言われると、よく知らんなあと思っていたので。
峰宗太郎
おっ! 曽宮先生の手が上がっています。
曽宮正晴
はい、ちょっと話の腰を折っちゃうんですけど、実は VSV の受容体は最近 LDLR(low density lipoprotein receptor:LDL受容体)なんじゃないかっていう話もあって。PS(Phosphatidylserine:ホスファチジルセリン) なんじゃないかって話も前からあったのですが、ちょっとまだそこは議論があります。
峰宗太郎
そうですよね、その通りです。うん。
岡田玲緒奈
……すげえ話になってますけど、峰先生、続きやりますか続き。
峰宗太郎
おっしゃる通りで、あの成分についてはまだ完全にはわかっていないというか、議論があるところなんですね。
ただ非常に汎用されるシュードタイピングの遺伝子として、この VSV-G は優秀ですよね。
本当に優秀です。
岡田玲緒奈
そうなんですよね。
いつも「何で VSV-G に変えるんやろ?」と思いながらですね(笑)
ダメ大学院生だったんで、そこまで深くは突っ込んでなかったんですけど、勉強になります。
峰宗太郎
ちなみに、例えばレンチウイルスベクターを血球、リンパ球に入れたいときには、VSV-G だとほとんど入らないんですよ。
こんなものはヌクレオフェクションや、メッセンジャーRNA をエレクトロポレーションで叩き込むのが一番いいのですが、どうしてもレンチウイルスベクターで入れたいことがあれば、ご相談いただければ、リンパ球によく感染するウイルスってあるんですよー!
※ ヌクレオフェクション:電気パルスを用いて、瞬時に、細胞膜に極小の穴をあける技術。
※ エレクトロポレーション:高電圧の電気パルスをごく短時間与え、細胞膜の透過性を一時的に高める技術。
岡田玲緒奈
それ何なんですか?
峰宗太郎
いや、EBV(Epstein-Barr virus:エプスタイン・バール・ウイルス)っていうんですけどね。
岡田玲緒奈
ハッハッハッハッ!
(文字起こし注:EBV の研究は峰先生のご専門の一つです)
峰宗太郎
この EBV の表面には GP350 という、とってもいい表面糖鎖抗原が出てきまして、こいつが CD21(成熟Bリンパ球に存在する膜貫通型糖タンパク)にくっついて B細胞にバチンと入るんですね。
なので、シュードタイピングを EBV でやれば、ばっちりレンチウイルスベクターで血球リンパ球B細胞を狙い撃ちにできるという超ウルトラマニアックな知識なんですけど、誰も使わないですね。はい、そういうのもあります。
岡田玲緒奈
平日の朝に1,800人がなぜか「レンチウイルスによるトランスフェクション(遺伝子を細胞内に導入すること)の話」を聞かされているという、すごいことになっております。
黑川友哉
シュードタイピングを EBV でやるっていうことは、EBV の表面のタンパク質を他のウイルスに発現させるという意味なんですか?
峰宗太郎
そうです。おっしゃる通りです。
GP350 という EBV の表面に出ている突起、今回の新型コロナウイルスでいうとスパイクタンパク質に近いようなものですね。EBV は B細胞に特異的に感染しやすいので、GP350 を別のウイルスに発生させると、B細胞に入りやすいシュードウイルスができるんです。
黑川友哉
なるほど。ヒトのいろんな細胞がありますが、細胞によってウイルスが入りやすかったり、入りにくいウイルスがいたりという性質が、それぞれのウイルスによって違うから、やりたい実験や、実験の目的に応じてウイルスを変形させるということですね。
峰宗太郎
そうですね。ウイルスにはトロピズム(指向性。ウイルスが感染する際、標的にする細胞の傾向)とかフィットネス(適応度。ウイルス増殖に適した環境かどうかの度合い)の問題があって、お好みの細胞があるわけですね。
お好みの細胞にはいろいろ理由があって、
・くっつきやすい
・入りやすい
・中で増えやすい
など、細胞の種類によってウイルスと相性があります。特にその「くっつきやすい」という性能に注目してシュードタイピングをやることが多かったので、今までツールとして非常によく開発されてきました。
なので、今回も新型コロナウイルスの中和アッセイにシュードタイピングの技術を用いるのは、これまでの蓄積が非常に生かされているという意味で、面白いと思いますよね。
岡田玲緒奈
そうすると、シュードタイピングがスパイクタンパク質的なことにこれだけ盛んに使われるようになったのは、コロナウイルスのパンデミックになったことが大きいんですか?
峰宗太郎
いやいや、実はインフルエンザウイルス等のワクチン開発なんかでよく使われる手法でもあるんですよ。特に今回はレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ(発光酵素。ホタルや発光細菌などがもつ)をぶち込んであるのですが、こういうのを工夫すると、いろんな効率を見ることができます。
ウイルス表面のターゲットとなる抗原にすべき部分が決まっていれば、ワクチン開発に使えるツールとして昔から知られています。
岡田玲緒奈
このルシフェラーゼのところは、実は僕は飛ばしたのですが、VSV の Gタンパク質の遺伝子をふっとばしたところに、光る反応を起こすタンパク質の遺伝子を入れておいたんですね。
すると感染した細胞がピカッと光るのが見られるというカラクリが実はあって、そこは内緒にしてたんですけど、言われちゃいました(笑)
峰宗太郎
言っちゃいました。すみません。
岡田玲緒奈
ということで、ちょうど9時ですね。
たまにはこういうのもいいかなと思ってやってみました。
皆さんが嫌になってなければいいんですけれども。
金曜日はマニアック・トークをやられるリスクが高いと思って、心の準備をしていただければ幸いです。
こんなところで今日はおしまいにいたします。
自粛という言葉はあまり好きじゃないですが、皆さんの感染対策や自粛の効果が出ているのか、感染者数が少しずつ抑えられてきました。
しかし、まだまだ油断できない状況ですので、皆さん引き続き、ご自身と周りの方を守る行動を取って、なおかつ心と身体を休める週末を送っていただければと思います。
皆さんご視聴いただきありがとうございました。
一同
ありがとうございました。
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