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プレプリントと論文、VAERSとVSDについて議論しました(9月17日こびナビTwitter spacesまとめ)

※こちらの記事は、2021年9月17日時点での情報を基にされています。※

2021年9月17日(金)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:岡田玲緒奈


【議論】プレプリントと論文/VAERSとVSD

黑川友哉
おはようございます。

岡田玲緒奈
おはようございます。
雅(みやび)ですね。

本日は、最近質問を受けることが多い、プレプリントの問題を取り上げます。
個別よりも一般論的に話したほうがよいかなと思っております。

Twitter にプレプリントのファクトチェックの記事を貼りましたが、こういうものがあること自体も面白いということで、そちら方向に話が進んでいけばなと思っているところです。

▼ Peer review of a VAERS dumpster dive
https://sciencebasedmedicine.org/peer-review-of-a-vaers-dumpster-dive/
出典:Science-Based Medicine 2021/09/12

▼問題のプレプリントはこちら
SARS-CoV-2 mRNA Vaccination-Associated Myocarditis in Children Ages 12-17: A Stratified National Database Analysis
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.08.30.21262866v1
出典:medRxiv 2021/08/30

これは先週出された記事です。

プレプリントというのは、プレ = 前、つまりプリント前という意味ですが、この言い方にも多少語弊がありまして、要は査読前の論文のことです。

査読というのは専門家のチェックのことです。
そのチェックを受けて合格すれば雑誌掲載に向かっていきますが、それを受けていないもの、つまり書きっぱなしということです。

この記事は、心筋炎のリスクについて、12歳から17歳では COVID-19 罹患よりも mRNAワクチン接種のほうが入院リスクが高いというプレプリントが出されたことを扱っています。

日本でも、そして海外でも、この未査読論文についてそのまま報道していることにたくさんの問題があります。

この研究自体は、アメリカの VAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System、ワクチン有害事象報告制度)において、ワクチン接種後に発生した有害事象あるいは副反応として報告された情報に基づくものです。こびナビをお聞きの方はそろそろ聞き馴染んできたシステムかもしれませんね。

▼ VAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)
https://vaers.hhs.gov/
出典: アメリカ政府公式サイト

▼こびスペ 2021年5月17日
副反応と有害事象、日本とアメリカの報告制度の違いについて
https://note.com/cov_navi/n/nc5968020b3dd
出典:こびナビ note

文字通り有害事象を報告するシステムです。誰でも見ることができますので興味のある方は一度見ていただきたいと思います。
実際に適当な登録をするともちろん怒られてしまいますが、登録の画面までどうやって進んでいくかまでは僕も見たことがあります。

これは、医療従事者はもちろんですが、ワクチンのメーカー、一般市民つまり何かあった本人や家族などが、誰でも(任意で)報告できます。

VAERS には同意チェックをするところもあり、そこに「ワクチンの安全性を監視する上で非常に重要ではありますが、この報告書だけではその有害事象が副反応なのかどうか、つまりワクチンと因果関係があるのかどうかを判断することはできません」とはっきり書いてあります。

つまり、データ自体が(専門家が検証したわけではないので)不完全だったり、正確性に欠けていたり、偶然というか前後関係はあるけれども因果関係がなかったり、検証すら出来ないような情報が含まれている可能性もあるわけです。

逆に、任意で報告する制度なので、報告しないという人もいるわけです。
そこにもバイアスがあるわけで「これをもって何かを科学的に検討しようということには制限があり、それを念頭に置いて見てくれよ」ということも(VAERS に)はっきり書いてあります。

VAERS は、もともとアメリカで1986年に制定された The National Childhood Vaccine Injury Act(NCVIA)の一環として、1990年に FDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品庁)と CDC(Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)が共同で設立したものです。

▼ Dumpster diving in the VAERS database to find more COVID-19 vaccine-associated myocarditis in children
https://sciencebasedmedicine.org/dumpster-diving-in-vaers-doctors-fall-into-the-same-trap-as-antivaxxers/
出典:Science-Based Medicine 2021/09/13

安川先生がときどきお話ししてくださっていますが、これは早期の警戒システムで、上記の記事では「”canary in the coal mine”(炭鉱のカナリア)」と書いてありました。

炭鉱のカナリア、知ってますか?

安川康介
炭鉱のカナリアは、炭鉱にカナリアを連れて行き、鳴き声が止んだらそこに危ないガスがあるということですよね。

岡田玲緒奈
そうです、そうです。
炭鉱を進んで行くときに危ないガスが出たりすると目にも見えず臭いがない場合もあり、人間がぱたっと倒れてしまうこともあります。その監視のために、ちょっと可哀想なんですがカナリアにセンサーとして先に行ってもらうということです。いろんな比喩に使われていますね。

VAERS は早期に警戒するために、誰でも入力できるオープンなシステムとして設計されています。ワクチン接種後の報告は本当に誰でもできますし、そして利用する・データをとることも誰でもできます。

この論文の筆者たちも VAERS で検索をかけたりしてデータをとってそのまま使っており、プレプリントにはその細かい症例報告としてどれを使っているかを表にしてあります。

冒頭で紹介したファクトチェック記事には「この論文の筆者たちが使っているこの番号の症例は、ワクチン関連の心筋炎というには無理があるんじゃないか」「VAERS ID の何番はだな……」といった感じで書いてあります。

実際その症例を見てみると、確かに不正確な部分があるなと思います。
この記事自体は平易な英語で書かれているので、DeepL に突っ込んでも十分に読めそうです。

VAERS の誤情報を具体的にみていきます。
2005年に、ワクチンを打ったら緑色のハルクになってしまったというのを試しに登録してみた人がいます。

▼ハルクとは
https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%82%AF
出典:ピクシプ百科事典

これができてしまうんですね。
その後どうなるかというと、当局から「これは消してもいいですか?」という連絡が来るそうです。そこで OK と言うと消されるらしいんですが、嫌だと言ったら消されないようです。実際にやってみた人がそう言っています。

また昔から、ワクチンと自閉症というのは誤情報としてメジャーなものです。
自閉症のお子さんがいる人に「VAERS に登録するんだ!」といったような怪しげな運動が起きたりして、利用されてしまうこともあります。

新しいものとしては(以前ツイートしたことがあるんですが)、
乳幼児には現在も新型コロナウイルスワクチン接種はされてないんですが、2歳児がこのワクチンを接種して亡くなったという VAERS報告がありました。

日付、前後関係もむちゃくちゃですし、どう考えてもおかしいんですが、それでも VAERS に載っていて、反ワクチン系のメディアに取り上げられていました。その後そのデータは削除されたんですが、今度は「検閲だ!」と言われてしまうという残念なことになっています。

こういったことはいままでにいくらでもあるわけです。
VAERS のデータを間違った利用の仕方をして、いろんな間違った主張をするということです。

2006年には SIDS(乳幼児突然死症候群、乳幼児が原因が明らかでないまま突然亡くなる)の原因になっているという説や、2012年にも自閉症が関係しているという話もありました。もちろんいずれも根拠がない誤りです。自閉症は何回もやられているんですよね、新型コロナウイルスワクチンでもありますし、他のワクチンでも昔からよくあります。

そして不妊、流産もワクチンと関連づけられ、VAERS のシステムを使ってやられていたりもします。

VAERS はあくまでも早期の検出システムであって、何かの異常信号かもしれないものがあった時に、これもよくお話している VSD(Vaccine Safety Datalink)という検証に進んでいきます。

▼Vaccine Safety Datalink(VSD)
https://www.cdc.gov/vaccinesafety/ensuringsafety/monitoring/vsd/index.html
出典:アメリカCDC

▼VAERS、VSDほかアメリカのワクチン安全性監視システム
第57回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会
紙谷参考人提出資料
「米国の予防接種安全性監視システムについて」(PDF)https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000776374.pdf
出典: 厚生労働省 2021/04/30開催

今日は、本当は紙谷聡先生に来ていただいて VSD の話をしていただきたかったんですが、連絡がとれませんでした。

このあたり安川先生はどうですか。

安川康介
だいたい説明していただいたと思います。
VAERS は岡田先生がおっしゃったように誰でも提出できる報告システムです。

確か、ある麻酔科医が、インフルエンザワクチン接種後にハルクになってしまったと報告した事例が有名です。

しかし、VAERS 自体も結構重要なんですよね。
これがないとシグナルが上がってこないんです。例えばワクチンを受けた方で異様に血栓が多いとなれば、詳しく調べなければなりませんので。

また実際に VAERS を使って心筋炎の頻度を算出したりもしていますが、診断基準をどうするかという問題があります。

こびナビの Clubhouse や Twitterスペースで criteria(診断基準)がすごく重要だという話を何回もしてきたと思います。例えば、アナフィラキシーというのはきちんとしたブライトン分類という診断基準があって、それにのっとって診断しようというものです。

同様に、何をもって心筋炎と診断するかという問題があります。
例えば、心筋炎の酵素トロポニンが上がっていて胸痛があったら心筋炎としてよいのか、他の症状があった場合はどうか、画像診断 MRI はとった方がよいのか、などが難しいところです。

なぜかというと、トロポニンが少し上がっている人は意外に多いのですが、それを全て心筋炎と診断してよいのかというと、医学的にグレーなエリアがあるからです。

CDC が VAERS をもとに評価する場合は、criteria を作って心筋炎とはいえないものを省いて評価していると思います。

VSD は Vaccine Safety Datalink の略ですが、これは比較対象があり、個人の医療情報と紐づいた情報です。

VAERS は比較対象がありません。
例えばワクチンを受けた方で心筋炎が100件起こりましたという時に、1000人中100件だとしたら10%ですが、これが本当に多いのか少ないのかを判断するためには自然発生率(background rate)と比べなければいけないんですね。

ただ、ワクチンを受けた方と自然発生率の population(集団)は全然違う可能性があるので、単純に比べるのも難しいわけです。

例えばワクチンを最初に受け始めたのは高齢者なので、(心筋炎が)高齢者の中で起こる頻度と若い人の中で起こる頻度が違う場合には、単純に VAERS の頻度と自然発生率を比べても本当にワクチンの影響かどうかはわかりません。つまり、できるだけよく似た2つのグループの中で比べなければいけないということです。

VSD は、ワクチンを受けた人の情報だけではなくワクチンを受けてない人の情報ももっており、年齢や基礎疾患などを調整して、似たような人たちの集団として頻度をしっかり比べるというシステムです。ここで評価して有意差(明らかな差)があった場合はワクチンと関係してると言っていいだろうという仕組みになっています。

VAERS はアメリカの反ワクチンの人に凄くよく使われるシステムです。
例えば、Robert F. Kennedy Jr. という John F. Kennedy の甥にあたる人が反ワクチン活動家なんですが、内海さんの本の最後で対談してるんですよね。

Robert F. Kennedy Jr.さんが「VAERS によると5,000人ほどがワクチンの副作用でなくなっている」と断言してるんですよね。

VAERS はそもそもそんなに正確性がないことに加えて、ワクチンと因果関係のある副反応であるかどうかもわかりません。そういうものなんですが、ワクチンが危ないっていう人はVAERS の情報を持ってきたりしますので、これを聞いている方には注意していただきたいなと思います。

岡田玲緒奈
ありがとうございます。
詳細に解説していただいて、ご理解いただけたかなと思います。

冒頭で紹介した記事では「Don’t dumpster dive in VAERS.(VAERS でゴミ箱漁りをしないで)」と表現しています。

またお話の中で criteria、診断基準の話が出ましたが、このプレプリントを読むと CDC の criteria に沿っていると書いてあります。そしたらなんで CDC と全然違う結果になるねん、ということも冒頭のファクトチェックのブログに書かれています。

ここまでで VAERS と VSD の関係、VAERS のデータをそのまま使うことの問題点についてお話できたと思います。

このプレプリントでは、臨床的な観点から hospitalization risk(入院リスク)と言っている部分があります。そもそも日本では心筋炎となると軽症であっても入院させると思いますが、hospitalization risk を比較しているのはどう思いますか?

黑ちゃん、どうでしょうか。

黑川友哉
ちょっと聞き逃したんですが、hospitalization risk を比較しているんですか。

岡田玲緒奈
COVID-19 の入院リスクと、ワクチン接種後に心筋炎あるいはその疑いで入院した人のリスクを比較しています。

黑川友哉
冒頭かられおにい先生が説明されている通り、比較対象のバックグラウンドが全く揃っていない中で、その比較に意味があるのかという話だと思うんですよね。

つまり「その比較に意味あるのかな」という質問に対しては「いや意味ないと思います」というのが答えになりますね。

岡田玲緒奈
(笑)
そこからプレプリント問題に入ります。
この「medRxiv」、なんと読むか知らないんですが、コロナ禍前に知ってたひとー、安川先生は知ってますか。

安川康介
もちろん読んだことがあります。
遠藤先生もたぶん知っていますね。

岡田玲緒奈
黑ちゃん知っていました?
前田先生は知っていました?

前田陽平先生(Twitterネーム「ひまみみ」)
そうですね、こういうプレプリントのサイトがあることは知っていました。
多分「メドアーカイブ」と呼んでいる人が多いと思います。

岡田玲緒奈
なるほど、そうなんだ。(エックスでなく、ギリシャ語のカイだと理解した)

黑川友哉
「メドアーカイブ」と呼ぶらしいんですが、私は本当にこのコロナ禍で初めて知って、え?そんなシステムあって大丈夫なの?と思っちゃったくらいです。

論文は世界で初めて報告するから意味があるんじゃないの?という理解だったので、そもそも世界に正式に論文として公表される前に自分たちのデータを公表するってどういうことなんやろ、というのが私の最初の印象でした。

前田陽平先生
僕が聞いた話というか僕の理解なんですが、結局自分たちが一番最初にそういった内容の論文を submit(提示、公表)したよというアピールにもなるんですよね。

黑川友哉
(medRxiv に出すと)一応 submit した、公表したということにはなるらしいんですよね。

前田陽平先生
例えばがんに関してすごく新しい研究はたくさん出ていますが、その時に例えば(この治療法が)このがんにも適用できたよという報告などについて、自分たちが果たして本当に世界初なのかどうかは publish(出版)されるまでわからなかったわけです。

下手したら back to back(背中合わせ)で同じ雑誌に同時に掲載されてその2つは同時発表だとか、あるいは同じような報告が同時期に Nature と Cell(いずれも論文誌)に出たりとか、そういったことがあったので、自分たちはそうならないようデータをバンと出したい、宣言するという意味合いもあると先輩から聞きました。そういう理解も悪くないんじゃないかなと思います。

黑川友哉
先輩からそういうことを教えてもらえる環境が凄いなと思います。

安川康介
コロナ禍前も載せてる人はいましたが、いまのように有象無象のものがたくさん載っているという状態ではなく、どちらかというとすごくしっかりした論文が早めに載っているような印象がありました。いまはもう本当に、コロナ禍になってこのあたりのカルチャーみたいなものが変わったのかなと思います。

実際にこれを聞いていらっしゃる方で、論文を書かない方はわからないと思うんですが、自分が論文を書いてから掲載されるまで、オンラインに掲載されるまでの時間がすごくかかるんですよね。

submit して、レビューをしてもらってコメントがついて返ってくるか却下になって、revise(改訂)という手直しをして出して、また返ってきて、最終的に accept(受諾)されて、出版社に回って、proofread(校正)を行って提出して、また少し時間がかかってからようやく掲載されます。

(このような手順を踏む論文は)知識を共有するという意味では、手間や時間がかかりすぎてしまいます。COVID-19 の場合は、治療法とかワクチンのこととか何でもそうなんですが、世界にできるだけ早く知らせなければならない知識がたくさんあるので、medRxiv などのプレプリントに救われた部分もあるんですよね。

Public Health England などの大きなしっかりした団体や研究グループから出てくるプレプリントは、最終的に論文として掲載されるまでに内容がそんなに変わっていないというのが僕の印象です。そういうプレプリントはこびナビでも紹介しています。

しかし、それがしっかりしたプレプリントなのかどうかは誰がやってるのかなども関係してくるため、非医療従事者の方には判断しにくいのかなと思います。

岡田玲緒奈
プレプリントを見ていると、これは大きな雑誌に行くだろうなとわかるものもあり、やはりNEJM(The New England Journal of Medicine)だった、JAMAだった、ということも何度もありました。

プレプリントの危険さは、チェック(査読)が入っていないことにあります。プレプリントがどのタイミングで載せられるか、曽宮先生わかります?

曽宮正晴
場合によって違うんですが、論文の原稿を書いたらすぐプレプリントサーバーにアップロードする人もいますし、いろんな雑誌に投稿して駄目です、駄目です、駄目ですと言われたから仕方なく medRxiv などに載せる人もいると思います。

岡田玲緒奈
2つめが重要なポイントです。
雑誌に投稿して蹴られると、もう少し下のランクの雑誌に出してみて、やっぱり駄目だったとなるともう少し下を狙うという感じになることもあります。そこで各社に散々ダメだと言われたものを medRxiv などに載せているケースもあるということです。

これが一般的ということではありませんが、そういうこともありえるということで、なんとなくこの危険さ、プレプリントに安易に手をつけることの危なさがわかっていただけるかなと思います。

あと僕が面白いと思うのは、冒頭で紹介した記事のように、おかしいところがあったらすぐにファクトチェックするサイトやメディアが、アメリカはすごく発達してると思うんですよね。

実際この記事もそうですし、僕が昨日読んでいたのは少し前のものですが Science という有名な科学雑誌に掲載されているもので、【誤情報】スパイクタンパク質自体が毒だからワクチンは毒【誤情報終わり】みたいな話をファクトチェックするという記事です。

誰でも見ることができる形というのが凄いなと思うんですよね。
曽宮先生いかがですか。

曽宮正晴
今日紹介していただいた Science Based Medicine というサイトもありますし、PubPeer というサイトも有名です。

▼PubPeer
https://pubpeer.com/

出版された雑誌や論文にも間違いがあったり、残念ながら捏造や改ざんされたものも結構あるんですが、PubPeer は、研究者や研究者でない人たちでそういった論文を検証し、ここおかしいんじゃないかということを公開の場で議論するサイトです。

もしかしたらちょっとこれ怪しいなという論文があった場合は、PubPeer に行ってみるといろんなコメントがついていることがあります。

出版された論文でも絶対に正確ということはなく、人間がやっている研究活動なので、間違いや思い込みで変な結論を導いていることもあります。そういうものを研究者ではない方が見抜くのは難しいと思いますし、(逆に)プレプリントだからといって質が悪いものばかりでもありません。

そういったことを気をつけて見ていると、変な情報に騙されずに済むのかなと思います。

岡田玲緒奈
ありがとうございます。
思いのほか、このような検証サイトはしっかりと存在していて、こういうものに一般の誰もが触れられる状況はすごいと思っています。

また、こびナビは BuzzFeed で怪しい記事のミスバスターをしていますが、論文のレベルでこういうことを行うのはすごいことです。

実際にいろんな論文に関して、著者と直接 Twitter などで「ここおかしくないか」と言ったり「これどういうこと?」と聞いたりするのを見ていると、文化が違うなと思ったりもします。

曽宮正晴
見ていると結構面白いんですよ。
Twitter などで、怪しい研究を発表した研究者に対して真面目な研究者が「ここおかしいんじゃないか」とバトルをしていたりします。

たいてい、そういう怪しい話が出てくる時には内容が怪しかったりするんですが、それをライブで Twitter で見れるというのは、超面白いです。英語がわかる人にはぜひ見てほしいですね。

岡田玲緒奈
そうですね。
時間が過ぎていますので、最後に何か言い残したいことがある方いますか。
遠藤先生どうぞ。

遠藤彰
プレプリントに関して1つだけつけ加えたいと思います。
読む側、特に一般の方で、プレプリントというプロのチェックが入ってない状態のものを読んで、それを信じてしまうのは結構危ないよという話はその通りだと思います。

本当にクオリティがピンからキリまであって、玄人が読んだら怪文書だなという感じのものも結構あるので、すごく気をつけていただきたいと思います。

基本的には、プレプリントというのは、専門家の人達が見て自分でそのクオリティを判断できるという前提で書かれており、粗いレベルのものだということを認識しておいていただきたいですね。

一方で、プレプリント自体のプラスの側面も認識していただきたいと思います。
さきほど少しありましたけども、査読にはすごく時間かかり、著者と査読者の間でやりとりをして、ここを変えろとか、いやこれは正しいんだ、とやっている間に本当に半年や1年かかることもあります。それが無事に論文になって、ジャーナル・雑誌に載って表に出る時には、既にその知識自体があまり役にたたないこともあります。

例えば COVID-19 であれば、アルファ変異ウイルスに関する知見の研究をした人が査読者とやりとりをして論文になったとしても、その頃には既にアルファはいなくなっているということが起こっていたりします。

そういう意味でプレプリントというのは、専門家のチェックは入ってないんですが、とにかくいま、この瞬間に大事な情報が生の状態で外に出てくるものです。かつ、ある程度は論文の形になっているので、専門家が見たら、これはちょっと手法がおかしいから信頼に足りないとか、あるいはそれなりにちゃんとしてそうだからこれはアリかなとか、それを判断した上で、タイムリーな形でその情報を取れるわけです。

そして、そこに問題があるのであれば研究者同士で話ができるというプラットフォームとして、プレプリントはすごく役に立ってると思います。特に、現在のように急速に状況が変わる中で、できるだけ研究者やお医者さんが早く情報を取れるという点で役に立っていると思います。

いまは基本的には、研究コミュニティも、できるだけプレプリントを出してオープンな形で議論ができるようにしましょう、という方向に向かっていることをお伝えできればと思います。

岡田玲緒奈
本当にその通りですね。
プレプリントがよくないと言っているわけでは決してなく、ただ専門家ではない人が手を出すには難しい部分があるかなと思っています。

僕もこびナビに参加する前は1人でいろんな論文を読んでいたわけですが、この medRxivが出てきたら、そっ閉じしていました。自分1人では内容に本当に問題がないかどうか、その研究での限界(limitations)がなんなのか検証するのが難しいからです。

曽宮先生どうぞ。

曽宮正晴
今日のお話、VAERS と CDC のレポート、プレプリントと査読済論文が対応していて、面白いなと思いました。

VAERS の生データは誰でも入力できるし専門家のチェックも入っていませんが、それを CDC がきちんとレビューしてレポートとして公開するわけです。

一方の学術論文も、研究者たちがあーだこうだ言っている査読していない原稿をプレプリントサーバーにあげていて、それを複数の専門家が内容をチェック(査読)して晴れて学術雑誌に出版されます。

これがちょうど対応しています。
プレプリントも VAERSの生データ も、専門家のチェックが入ってないので政策決定や感染症対策の参考にするべきではないとサイトに明記されているにもかかわらず、悪用する人たちがいます。

一般の方は、専門家のチェックが入っている査読済の論文や、CDC のような専門機関が出すレポートを参考にするべきなんじゃないかなと思いました。

岡田玲緒奈
面白いですね、確かに同じ構図になっていますね。
別に狙ったわけではなかったんですが、曽宮先生のおかげで状況が整理されたかなと思います。

ということで10分が過ぎてしまいましたので、このあたりでおしまいにしたいと思います。

週末は台風ですか、天気も崩れるようですが、皆さんお体に気をつけて、よい連休をお迎えいただければと思います。

それでは本日もありがとうございました。


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