「ワクチン接種後に700人が亡くなっている」ことの意味、デマや偽情報について(8月5日こびナビTwitter spacesまとめ)
※こちらの記事は、2021年8月5日時点での情報を基にされています。※
2021年8月5日(木)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:峰宗太郎
峰宗太郎
そろそろ時間ですかね、おはようございます。
黑川先生、今日は発言できる状態ですか?
黑川友哉
今日は多分発言できる状態だと思います。聞こえてますか?
峰宗太郎
聞こえています。Taka先生聞こえてます?これ。
Taka先生、聞こえてますか?聞こえて無いんじゃないの、やっぱり。
油断してるのかな?
黑川友哉
油断してるだけと思います。
峰宗太郎
または、シカトされてるか。
谷口先生聞こえます?
谷口俊文
めちゃくちゃクリアに聞こえてます。
峰宗太郎
おっ!完璧ですね。
じゃあそろそろなんか話していきたいんですが、ほかの先生、皆さんは来てないのかな?
来てたら是非リクエストをしてください。見つけるのが難しいですよね。
吉村先生が苦労されてましたけど、ぼくは全部見えてるんですけどね。
見つけるのに時間がかかっちゃうんだよ…
黑川先生、なんか今週は困ったこととか面白いこととかありましたか?
黑川友哉
今週はですね、私は職業柄、新型コロナウイルスワクチンの副反応部会検討部会の資料とか色々眺めているんですけど…趣味で。
峰宗太郎
趣味で(!?)。
黑川友哉
(笑)
あの、死亡例の推移を見ていて興味深いのが、今週ガクンと死亡報告が減ってるっていうのが、まあ興味深いというか、そうなるだろうなとは思ってたんですけど。
峰宗太郎
なぜそうなるだろうと思っていたのか、解説をちょっと簡単にしていただいていいですか?
黑川友哉
この副反応報告制度っていうのは、医師からの報告というのがほとんどを占めるんですね。
それで、全例報告義務みたいになってないというのが、一つの問題でもあり運用上仕方ないことでもあるんですけど、そうなると新薬、今回の「コミナティ筋注」みたいに非常に社会から注目されていて新規性の高い医薬品は、製造販売承認されてからしばらくは社会的にも注目されてますし、現場の医師にとっても慎重な対応が求められている中、ちゃんととらなきゃいけない重大な、もしかしたら非常に稀な副反応かもしれないっていうようなものを、医師の皆さん感度高く経過を見てくださっている状態ですので、よく報告はされるんですね。
特に今回の場合は…
峰宗太郎
あれ、聞こえなくなっちゃった。黑川先生ー!
黑川友哉
あ、ごめんなさい。
で、ワクチンの接種は医療従事者から始まって、高齢者、ハイリスクの方、そして一般の方という形で広まっているんですけど、やっぱり高齢者の接種が非常に多かった5月後半から6月にかけての死亡報告が、1週間に50~60例あった一方で、7月半ばを過ぎて一気に半分に減り、なんと先週は5例くらいしか報告がなかったんですね。
この差がやはり「報告バイアス」というか、接種者が高齢者だったので死亡例が多かったし、それだけ医師が非常に注意してよく経過を見ていらっしゃったんだなという印象を持っています。
もしこれが本当にワクチンで死亡したという話であれば、ワクチンの1日あたりの接種者数とか、1週間あたりの接種者数は変わっていないどころかむしろ増えてきているので、死亡例も増えてこなきゃいけないわけです。
しかしそうはなっていないところが、やっぱりこの死亡例の数の見方は注意しなきゃいけないなと改めて思ったところですね。
峰宗太郎
ありがとうございます。すごく良い導入ですね。
最初からリスナーの皆さん、脱落してると思うんですけども…冗談です(笑)
あの、ここ数週間…というか数か月考えていることがいくつかあってですね、私たちも一生懸命できるだけ噛み砕いて情報提供をしてるんですけど、でもねぇ…難しすぎるんですよね。
我々ガイドブックを作ったじゃないですか。あれをやってる時に思ったのは、やっぱり私たちはどうしても細かくて正確で、かついろんなところに目配りをして、科学的に正しいとか、倫理的に正しいとか、現在分かっている留保条件をたくさんつけたり、できるだけ細かいところまで正確に紹介しようと思っちゃうじゃないですか。
それがね、やっぱり多くの人にハードルになってるんだなということに、ある事件で気づかされたんですよ。
黑川友哉
ある事件?
峰宗太郎
そう、その事件のことについて、先週木曜日に Taka先生と黑川先生を呼び出して解説してもらおうと企んでいたんですけど。
黑川友哉
ああ、先週…僕と Taka先生が横浜に行った日ですね。
峰宗太郎
そうそう、なんか大事なお仕事されてたのでできなかったんです。
どういう事件かって言うと、ある漫画家が「ワクチンの副反応による死亡者がもう700人も出ている」って書いてるんですよ。
とにかく、「ワクチン接種後に死んだ」というよりは「ワクチン接種による死亡者が700人を超えてる」ってもう明確にそう書いてるわけです。
そういう図を作る人がいっぱい出てきて、出回っています。
これは一体どういうことなんだっていうのを、もっと噛み砕いて説明しなきゃいけないんだなって、僕はそこで思ったんですよね。
黑川先生、そもそも副反応疑い報告っていうのはどういう風にされてるのか、ここだけでも簡単に話せないかなと思ったんですね、1つは。
副反応疑い報告は、予防接種法に基づくものですよね。
これはどういう時に、誰がどういう基準で、どこに報告するものなのか、簡単にもう一度教えていただいてもいいですかね?
黑川友哉
はい、これは、基本的には医師による副反応報告であったり、自治体による副反応というのもあるんですけど、話をシンプルにするために医師による副反応報告についてお話をします。
文書上は、ワクチン接種後に起きた副反応が疑われる症例について報告をしてください、特に公衆衛生上大きな問題になり得るような有害事象が認められたときには、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に報告してくださいという制度になっています。
ここが非常に曖昧なので、医師の中には「これは報告しなくていいのかな?しなきゃいけないのかな?」っていうのを迷ってしまう方もいらっしゃるのは事実で、そういう問題をはらんでいます。
峰宗太郎
ありがとうございます。つまり、ワクチンを打った後に体調が変わった人がいた場合に、お医者さんがその方の判断でそれを報告するという制度になっているということですね。
客観的に、こういう場合はこういう事項を報告するとかっていう基準があるんですか?特に今回の新型コロナワクチンの場合。
黑川友哉
一応、報告基準というものはあります。
まず間違いなく報告してくださいねって言われているものが、接種から4時間以内に起きたアナフィラキシー反応です。
アナフィラキシーというのは、非常に重症のアレルギー反応で、全身の皮膚の発赤であったり、呼吸苦など他の臓器の症状が見られた場合にそのように判断します。
それ以外の基準については特に設けられてないという状況です。
峰宗太郎
なるほど。そうしたら、ちょっと脇道にそれるんですけど、重篤か重篤じゃないかっていうのは誰がどう判断するんですか?
黑川友哉
これは、完全に医師の判断です。
峰宗太郎
つまり、もし僕が診て「これ重篤だな」と思ったら、皮膚 1cm × 1cm の発赤の患者さんを見つけても、重篤で報告できるってことですね。
黑川友哉
そうですね。そもそも、必ずしも「重篤だから報告しなければいけない」というわけですらありません。「これはまだみんなに知られてない」だとか「添付文書にも書かれてない」とお医者さんが思ったら、報告する可能性が高いかなと思います。
この辺の報告の基準がやっぱり明確ではないっていうのも、報告の数を見るときに評価が難しくなる1つの理由かなと思います。
峰宗太郎
じゃあ次のステップなんですけど、報告された症例ですね、例えば1番極端なのは死亡で、そうじゃないものも報告されるわけですけど、これは全部がワクチンの副反応なんですか?
黑川友哉
そういうわけではないでしょうね。
おそらくワクチン接種後に起きた副反応というのは、必ずしもワクチンのせいでその症状が起きたっていうわけではないので、そこは慎重に見なければいけないです。
峰宗太郎
これ Taka先生に怒られちゃいますけど「有害事象」ですね。
つまり、ワクチンを打った後に生じた健康上の何らかの問題であれば、お医者さんの判断で報告がされてくると。
そして、そのすべてが副反応では、当然ないわけですね。
ということは先程の「700人以上死んでいる」というのは、この副反応疑い報告制度を用いて、因果関係はわからないけれどワクチン接種後に亡くなった人がいるよとお医者さんが報告してきたのが、700件を超えていると、そういう話なんですよね。
黑川友哉
そのとおりです。
報告数が700件を超えたという理解の仕方が、1番正しいと思います。
峰宗太郎
その時点でのお医者さんの判断の妥当性というのは、後から振り返ってどのぐらい妥当であったかとか、このお医者さんが過剰に副反応の報告をするなとかが分かるように、フィードバックしたりしてるんですか?
黑川友哉
お医者さん自身にはしてないと思いますし、その1例1例の報告の妥当性ってなかなか難しいですよね。
現場で見ていて「これは大変だ」と思ったので、おそらく報告いただいているので、それに対して「あなたの報告は妥当じゃありませんでしたよ」と言うと、今度は逆に慎重になっちゃってもいけないんですよね。
報告しなくなっても問題になってしまうので、そこが難しいところかなと。
峰宗太郎
お気づきの方はいると思うんですけど、この報告制度って結構スカスカで、本当に包括的であるかもわからないし、妥当であるかわからない部分も多いです。
子宮頸がん予防ワクチン、いわゆる HPVワクチンの副反応疑い報告も、全部報告されているのを見ることができるんですけど、見たことある方いらっしゃいますか?
Taka先生は見てるでしょうけど。黑川先生、見られてますか?
黑川友哉
僕はあまり見てないですね。
峰宗太郎
あれも問題があって、「重篤」っていうところに凄いものがいっぱい入ってるんですよ、明らかに重篤じゃないやつとか。
重篤として報告する基準っていうのがあるんですよね。
だけどそこに全く合致してないものだとか、医学的に全然定義されていない独自の、自ら名付けた謎の「子宮頸がんワクチン接種後症候群」とか、そういう名前で報告されたりするんですよね。
問題がいろいろあって、これは報告基準が全然統一されていない上に、日本のお医者さんに対して多くの方は幻想をお持ちだと思うんですけど、日本のお医者さんの質っていうのは非常にダイバーシティが広いです。
まあ簡単に言えば、名医からヤブまでいっぱいいます。妥当な判断をしない人もいっぱいいるわけで。
大事なのは、次のプロセスなんです。
ここから先、報告されたものをどうやって副反応であるか認定するのかっていうことが大事だと思うんですけど、ここについて黑川先生、簡単に仕組みをもう一度教えてもらっていいですか?
黑川友哉
報告は PMDA、つまり医薬品医療機器総合機構という医薬品の審査をやっているところに集約されるんですけど、出てきた報告書を、まずは PMDA の技術職員(修士とか、いろんな研究経験のあるプロ)が見ます。
加えて PMDA にも、数は多くないですけど医師が在籍しておりますので、彼らもしっかり見た上で、さらに外部の専門家、専門委員と呼ばれる方が、1例1例副反応の経過を見て、年齢、性別、今までの病歴、その時に飲んでいたお薬とか、そのお薬の使い方が正しかったかどうかとか、そういったことをすべて細かく見て、副反応として報告された症状が本当に副反応なのか、それとも全然関係ない他の疾患によるものなのかを評価していきます。
これ自体は一般に公表されているアルファ、ベータ、ガンマの3段階ではなくて、もっと細かな評価項目基準があり、そういう形で PMDA に記録が残されていると。
その記録が、今度はまた PMDA、厚労省の方でアルファ、ベータ、ガンマという形で、副反応っぽいのか、全然違うのか、評価できないのかという3段階に分けられます。
それが、副反応検討部会で公表されている副反応報告の評価結果になると思います。
「新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要」より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000802339.pdf
出典:厚生労働省 2021/7/7
峰宗太郎
PMDA の中で専門家の方が情報をもとに評価するということなんですが、そのときに来るデータっていうのはどのぐらいの量や質のものが来て、報告した先生からのヒアリングなどが行われたりするものなんですか?
黑川友哉
これは、非常にバラバラです。
まったくもってスカスカの報告書、いつワクチンを接種したのか、そしていつその副反応疑いの症状が出てきたのかということが記録されていないものから、非常に細かくその人の過去の病歴とかも含めて、そのとき飲んでいるお薬、服薬のコンプライアンスとか、その人の全身状態、つまり寝たきりなのか、元気に歩かれているのか、そういったことまで細かく書かれているものまで、クオリティは本当にバラバラです。
さらに、全然評価できないようなものもあれば、報告してくれた医師に直接連絡を取って、もうちょっと詳しく情報を聞かせてくださいっていうアプローチもしてるんですが、やはり皆さんお忙しいということもあるんでしょうけど、追加で報告を求めてもなかなか報告いただけないということも、かなりあるという状況です。
峰宗太郎
なるほど。
じゃあちょっと違う観点から、もう一つ質問よろしいですか?
これは1例1例の精査ですが、そうではなくて、例えばある一定数同じような副反応の報告が出てきたよっていう、異常シグナル検知がありますよね。
例えばモデルナのワクチンについてワーっと報告されてきたら、「あっ、皮膚に赤い炎症が出る副反応があるんじゃないか?」みたいな、それに気付くということですね。
そういう見方の検討っていうのも随時行われているものなんですか?この制度は。
黑川友哉
モデルナアームみたいな、似たような症状が蓄積されているかどうかっていうのは、常に監視はされています。
峰宗太郎
例えば最近になって、不正性器出血や、生理周期が変わっているんじゃないかっていうことについて、実はアメリカのシステムも検知できていないんじゃないかっていう話がちょっと出たりしてたんですよね。
今まで気づかれていない副反応って、異常シグナルとして、つまり打った人にだけ有意に出てくる病気として出てくるわけじゃないですか。
そういうのを検知するシステムとか試みっていうのは、常にされているものなんでしょうか?
黑川友哉
そうですね、むしろそれを目的としていると言っても過言ではないかなと思います。
峰宗太郎
ありがとうございます。ということで、新しい変なものが出てきたら、できるだけ感知しようとしているってことですよね。
さて、このように解説していただいたことを簡単に、あのなんでしたっけ…サランラップじゃなくて、ラップアップしますと、とにかくワクチンを打った後に体調がおかしくなった、あるいは亡くなってしまうといったことがあった場合は、それを見たお医者さんが PMDA に報告をするシステムがある。
これが副反応疑い報告システムで、予防接種法に基づくものであるということです。
集まってきたもの全てが副反応というわけではなくて、とにかくお医者さんが疑わしいと判断したものを報告してくれているという現状で、場合によっては、本当は報告すべきだけど報告されていないものもあれば、報告しなくていいものも報告されている場合があるということですよね、この時点で。
そして、その事例の情報を集めている PMDA で専門の方々が評価をして、これは実際に関係がありそうかなさそうかということを決めているということですね。
黑川友哉
そうですね、PMDA だけじゃなくて、外部の専門家も含めて評価をしています。
峰宗太郎
そうすると、この時点で700例の死亡例がこのシステムに報告されている=ワクチンが原因で700人死んだわけではないということを、多くの方にわかっていただけると思うんですけど、ここからは Taka先生にちょっとお伺いします。
Taka先生、聞こえてます?話せます?無理?
木下喬弘
はいはい!
峰宗太郎
おお、元気やな(笑)
「700人亡くなっている」って言ってるわけじゃないですか。
これは、いわゆる一般の方にとってビビる数字だとは思うんです。
中にはこんな言説もあって、僕が読んだのでは「ファイザー製の方がモデルナ製のよりも打った後たくさん亡くなっている」みたいなこと書いてるわけですよ。
こういうのも、死亡が多いものなのか、少ないものなのか、もしくはワクチンによる関係があるのかないのかっていうのは、どういうふうに一般の人は判断すればいいんでしょうか?
誤解として、ワクチンを打った ”から” 700人亡くなったっていうわけではないんだよっていうことを説明するには、何を見てどういうことを評価すれば、ワクチンのせいで死亡が増えていると言えるということになるのか、何か先生のインスピレーションでこう…例えばさっきの漫画家さんのブログで書かれていたこの言説に関して、「そうじゃなくて実は」っていう言い方って何かありますか?
木下喬弘
2つポイントがあって、データを基にするのであれば、ワクチンを打った人と打っていない人で、死亡の頻度がどれだけ異なるかということを調べます。
なので、中途半端にワクチンを打った後の死亡例だけを見て、因果関係を推測するのはやめた方がいいです。
やるなら、打った人と打ってない人を比べましょうということになります。
ただそれがですね、極めて難しい。
なぜなら、打った後の死亡全例が報告されていないからです。
峰宗太郎
なるほど、網羅されていないというところがキーポイントになってくるんですね。
木下喬弘
そうすると、現実的にどういう風に考えたらいいかというと、ぶっちゃけ専門家の評価が入ったあとに、どれぐらいがワクチンが原因の死亡なんですかっていう発表を聞いてもらうのがベストだと思います。
これは CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は一応ちゃんとやっていて、私も何回も言ってますけど、Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination(COVID-19ワクチン接種後に報告された主な有害事象)というページがあって、そこに週に1回ぐらいアップデートがあって、今のところ mRNAワクチンが原因で死亡したという因果関係がはっきりしている症例はありませんと出しています。
▼CDC : Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/safety/adverse-events.html
そういうリスクコミュニケーションが厚生労働省はちょっと不十分で、それを明示しないので、信じてしまっている人が一定数いるという問題があると思います。
ただし、そもそも某漫画家さんみたいに我々の言っていることや政府の言っていることを端から信じてないという人には無力で、明示的にワクチン打った人と打ってない人で死亡者数がどれだけ違うかっていうデータベースを持ってないということが実は結構致命的で、反論できないですよね。
峰宗太郎
おっしゃるとおりですね、本当に。ないんですもんね。
木下喬弘
なんでまあ、どうしようもないです。はっきり言っちゃうと。
ちなみにあるテレビ局がワクチン接種後4時間ぐらいで突然胸の痛みを訴えて亡くなった方のエピソードをニュースにして、1週間ぐらいずっとその放送局のニュースランキング1位を独占してたっていうのを知ってます?
峰宗太郎
僕は、かろうじて知ってます。
見て悲しい気持ちになりました。
木下喬弘
もちろん報道が完全にでっち上げだという話ではなく、ワクチンを接種した後に亡くなった事例は確かにあります。
じゃあワクチン接種の虚血性心疾患による死亡ってどれぐらい増えているのかって、昨日の副反応検討部会で調べたって知ってました?
峰宗太郎
あっ、それは聞いてないです!そうだったんだ。
木下喬弘
そうなんです。ワクチン接種後の虚血性心疾患による死亡の発生率って、ワクチン接種後は1日につき100万人あたり0.009件なんですよ。
それで、一般人口だと1日につき100万人あたり0.23件ですよ。
峰宗太郎
あれ?ワクチン打った方が、もしかして死ななくなってる?
木下喬弘
そうなんですよ、簡単に言うとワクチンを打った方が50~60倍死ななくなってるんですよ。
だからワクチンを打つと、虚血性心疾患が2%ぐらいに減るっていう結果になってるんですよ。
黑川友哉
これ、日本のデータですよね?
木下喬弘
日本のデータです。
だから日本では、ワクチン接種後に虚血性心疾患で死亡した場合、全報告の2%ぐらいしか報告されてないってことがわかる資料になっています。
峰宗太郎
なるほど、同じであると仮定したというか、ワクチンを打って変わってないとすればそういうことですよね。
木下喬弘
そうですね。
つまり全体像は誰もわかんないですよね。
峰宗太郎
いろんな課題がありますね。
しかしそういう中で1番のヒントになるのは、やはり厚生労働省が出している資料で、ワクチンとの因果関係がある死亡があるかどうかを見ていくしか、今のところはないと。
そして、もし政府が信用できない人は、もう何も信じないでいてくれということになっちゃうってことですかね?
木下喬弘
なんですよね。専門家、政府を信じないってなっちゃったときに…まあ、どうしようもないですよね。
峰宗太郎
でもそういう人って結構、厚生労働省のデータを出して引き合いに出してくるんですよね。
なぜか、厚生労働省は信じられないけど700人の死亡が!そのデータは厚労省のページに書いている的な。
…皆さんシーンとしちゃいましたけど、黑川先生何かありましたか?
黑川友哉
これ、じゃあ一生因果関係分からんのかっていう話に、やっぱり不安が出てくると思うんですけど、そういうわけではないんですよね、Taka先生。
木下喬弘
そうですね、おっしゃるとおりだと思います。
峰宗太郎
どういうことか黑川先生、簡単に皆さまにもわかるように一言いただいてよろしいですか?
黑川友哉
ワクチン承認後の安全性調査は、これ何も、日本で起きた副反応だけを見ているわけではないんですね。
世界でどのくらい、どういう副反応疑い、つまり有害事象が起きているかというのは、世界中の規制当局と販売企業(ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ等)が責任を持ってしっかり報告を受け付けているということも知っておいていただきたいです。
世界中のどこかでそういったアラート、「この副反応がワクチン接種後に多く出てきて、これは注意しなければいけない」というような情報があった場合には、必ず世界中の規制当局で情報が共有されるようなシステムになっています。
多くの稀な副反応というのは、そういう流れでだんだんわかってくるようになっていますね。
峰宗太郎
そうなんですよね、しっかり監視、警戒されているよということは知っておいていただくことが大事ですよね。
黑川友哉
特にアメリカの場合は、VSD(Vaccine Safety Datalink)といって、注目すべき副反応が出てきた時に、全米のいくつかの医療機関の電子カルテとかの診療情報を集めて、その疾患の自然発生率とワクチン接種後に発生した発生率を比較するシステムが整っているので、そこでもしっかり科学的にある程度評価できます。
そして、やっぱりそこでも検出された有害事象、副反応というのは、世界中で情報共有されるので、そこもかなりあてにしているというか、日本は結構当てにしすぎだったりするんですけど、まあそんなシステムがあります。
峰宗太郎
しっかり検討されている、国際的な協調もされているということがとても重要だと思いますね。
もう時間になりますが、僕が今日言いたかったことはですね、日本のシステムは全然、完璧とか、網羅性があるとか、絶対的に全ての症例を拾いきっていて、絶対的な統計が出せて、因果推論ができるぐらい立派なものかというと、そうじゃないということは、Taka先生からも話にあったとおりなんですけれども。報告されてる700件を超えているという数については、こういう経緯で報告がされているということをまず知っていただきたい。
そして、その700件はワクチンの “せいで” 死んだ人だという言い方を断言している場合、これは明らかにデマです。
何の理解もしていない、デマです。いいですか?
ですから、そういうものに振り回されないように、まずは知っていただきたいです。
そして、いかにも700人も亡くなっているというような言い方をする、専門家を名乗る名誉教授とか色々いる訳ですけれど、そういう人たちは基本的に考え方がまず間違っていて、わかっていらっしゃらないということですから、そういう人たちにぜひ洗脳されないようにしていただきたいということですね。
やはり数字1つ観るにしても、目の前のデータが何かを語りたくなる人っていっぱいいるんですよ。
数字があると、どうだこうだって。
でも、理路、ロジック、理論とか、どういう背景でその数字が出ていて、この数字を解釈するときはどういうことを考慮しなければいけなくて、というのには結構な知識量が必要で、そこには難しいことがあります。
それが自分でできないのであれば、まずは公的な解釈を中心として、これはどういうものなんだろうというのを理解していただく必要があると思っております。
それから、今日はちょっと、もうマニアックになるので、本当はどっかで触れようかと思ったんですけど、報告バイアスってのも大きいですよね。
あれ?黑川先生いなくなっちゃった。Taka先生、報告バイアスって大きいですよね?
木下喬弘
まあ、勿論そうですね。それは実は、どの国も克服できていない課題ですね。
峰宗太郎
そこの報告バイアスをなんかこう、うまくするような大研究をして、Taka先生に偉くなってもらいたいと思ってるんですけど、ね。
木下喬弘
やっぱりコホートなんですよね、少なくとも全例調査をできるシステムがないといけないんで結局 VSD ということになっちゃいます。
これ今からちょっとツイートするんですけど、週刊医学界新聞で紙谷先生が対談してるのを載せてるんで、それ読んでもらうのが1番いいと思います。ちょっと難しいけど。
峰宗太郎
例の、研究班のやつですよね、
木下喬弘
そうそう、AMED(日本医療研究開発機構)とのやつです。
峰宗太郎
ぜひその研究班に Taka先生も入ってもらって、コロナ後もふまえて、こういう活動をもっと日本に普及させるっていうのが大事なんじゃないですか。
木下喬弘
紙谷先生がいれば私が入らなくてもいいと思うんですけど笑
でもおっしゃるとおり、これ本気で国がやらないとまずくて。
峰宗太郎
そうですね。国が一生懸命やっていれば招かなくていい、不要な混乱とか疑心暗鬼っていうのは、実はけっこう多くの人に影響するので、大きい問題なんですよね。
ぜひ解消して欲しいです。
木下喬弘
そもそも…これまた恨みつらみを言っちゃって申し訳ないんですけど、HPVワクチンすら積極的接種勧奨の再開ができていない状態で、すごい高度なことを言ってもしょうがないかなという気がしちゃいます。
峰宗太郎
まあそうですね、本当に課題が多くて、コロナのワクチンに関して、これからもいろんな偽情報や誤情報もある中で進んでいかなければいけないわけですけれども、これが治まった後でも、まだ日本のこういったワクチンや公衆衛生・予防医学を取り巻く環境は、改善する部分が山のようにあるということですね。
皆さんも、暗い気持ちになりすぎずに聞いていただければと思っております。
さて、安川先生、暗い気持ちになりました?
安川康介
今日僕、ほとんど話してないんで大丈夫なんですけど…
峰宗太郎
話すと暗い気持ちになるんですか?
安川康介
いや、なんか、そういうところもありますね。
これも結構暗い話で、やっぱり日本の厚労省というか、副反応のモニタリング、安全性の監視システムっていうのは完璧ではないんですね。
アメリカとかに比べるとやっぱり不備があるので、本当に能動的な、アメリカで言う VSD みたいなシステムを確立していかないと解消できない、そういう問題なんじゃないかなと思っています。
そういうのがないと、いつまでも「ワクチンを受けた後に700人亡くなっている!これは全てワクチンのせいだ」という方にきちんと納得していただくことが難しいのかもしれません。
まぁ、アメリカでもちょっと難しいですけども、そういう状況があるのかなと思います。
峰宗太郎
ありがとうございます。
ということで、今日は1500人を超える方に聞いていただいています。
そしてここに来ていただいている方は、監視目的のあやしい方もいるのかもしれませんが、基本的に医療的リテラシーがかなり高い方とか、医療に関心のある方が多いと思います。
自分で説明しようとしても、なかなかこれは難しいので、周辺でデマに染まってしまった方とか、誤情報まみれになってしまった方がいらっしゃったら、変にディスカッションとか討論とか、なんとか説明してみようとかいう試みはしない方がいいと私は思います。
放置と、距離を取る以外ないかなと。
プロとしてやっている人でも、医者でも説得なんてできないんですよ。
なので、特に公的情報を信じられなくなってしまった方とかは、残念ながらそういう状況・状態であるということでそっと距離を置いて、ご自分の予防と健康、ご自分の本当に大切な人のために行動するということに徹していただければと思っています。
本当に無駄な労力になりますし、場合によっては精神的なものを含めて、やり返されてしまい被害を受けるということもあります。
染まってしまった方々は時に大声になりますので、大声の届かない範囲に逃げていただければと思います。
ということで非常に暗い締め方になりましたが、今日はこの辺でおしまいにしたいと思います。
持ち帰ってほしいメッセージは簡単です。
ワクチンの “せいで” 700人死んでるということは、ありません。
ワクチンの ”せいで” 700人死んでると断言している場合は、今のところデマと言っていいでしょう。
キャッチフレーズのようなことを使うのはあまり好きじゃないんですけども、とにかく、こういった単純な人に騙されない。
自分自身も慎重に、物事にはいろんな仕組みや裏があるんだよということ、その仕組みを知ろうという謙虚さが常に大事ですよねことで、終わりにしたいと思います。
今日のモデレーターは私でございましたけれども、また明日岡田先生ということで、よろしくお願いしたいと思います。
それでは日本の皆さん、良い一日をお過ごしくださいませ。ありがとうございました。