新型コロナウイルス感染症の治療薬、治験について議論しました(8月26日こびナビTwitter spacesまとめ)
※こちらの記事は、2021年8月26日時点での情報を基にされています。※
2021年8月26日(木)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:峰宗太郎
峰宗太郎
今日も元気に始めます👶
すでに1,000名以上の方に来ていただいていますね。
ありがとうございます。
今週は何かありましたか?黑川先生。
【テーマ1】治験・薬が開発される流れ
黑川友哉
今週は、というより自分の仕事にも関わっているところで興味を持って取り組まなければいけないなと思っているのは、国内での新型コロナウイルス感染症関連の治験が進みづらくなっていることです。
検査で新型コロナウイルス陽性になった方を対象とした(治療薬の)治験は国内で複数走っています。治験以外にも臨床試験、特定臨床研究であったり非特定であったり、観察研究であったりいろいろですが、特に治療薬の開発に結びつくような治験や特定臨床研究の一部は、多くの新型コロナウイルス感染症の患者さんにご参加いただいて、前に進めていきたいところです。
▼研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/ct_summary.html
出典:国立がんセンター
▼特定臨床研究とは
https://www.ho.chiba-u.ac.jp/crc/rinsyo-kenkyu/public/rinsho_kenkyu.html
出典:千葉大学臨床研究審査委員会
しかし現在その情報へのアクセスがしづらい問題に直面しております。
治験を実施している機関すべて、製薬企業もそうだと思いますが、国内でどうにかならないかと方策を考えているところです。今週はそのようなことを考えながら過ごした1週間で、引き続き新しい策を考えて打ち出していきたいと思っています。
峰宗太郎
情報というのは、誰がどの情報に対してでしょうか。
黑川友哉
誰が、というのは患者さんが、ですね。
新型コロナウイルス陽性と診断されても入院できない方もたくさんいらっしゃいますので、自宅療養やホテル療養の患者さんにも何かしら期待されている開発中の医薬品があればぜひ使ってもらいたいんですが、自分が住んでいる地域ではどんな治験が行われているかという情報をどこからどのように入手すればよいかをご存知ない方が多いと思います。
jRCT というウェブサイトに治験情報が全て登録されていますが、その情報検索の仕方が少々難しいことが課題になっています。
▼ jRCT 臨床研究実施計画・研究概要公開システム
https://jrct.niph.go.jp/
峰宗太郎
日本では基本的に(患者さんに対して)治験のお誘いをするのは主治医からということが多いと思うんですが、その辺はどうなんでしょうか。
黑川友哉
主治医から、国から認められたこのような治療がありますよ、その上でまだ開発中の治験というのもありますよ、と案内することは当然ありますが、患者さんご自身が情報を得て、この治験に興味がある・参加したいと申し出ていただくのも全く問題ないんですよね。
峰宗太郎
治験の情報は確かにあったほうがよいですが、いまのガイドライン(後述)で使えるお薬も多いですから、それに沿って適切な治療を受けられることが何よりも重要なフェイズだと思います。その上で治験も進むとよいですよね。
治験に関しては患者数が少ないと行いにくいことがありますが、現在新型コロナウイルス感染症の患者数は増えています。そういう意味では治験自体は行いやすくなっていると思うんですが、どうなんでしょうか。
黑川友哉
そこが問題なんです。
患者数が増えているにもかかわらず、治験に参加しづらい、参加できていない方がほとんどです。もちろん、みんながみんな治験に参加したいわけではないので、そのハードルもあるかなとは思うんですが、そもそも治験実施情報が届いていなかったり、治験って何だろう? 臨床試験って何だろう? という方もいるのが1つの問題なんですね。
治験に参加してもらいたいんですが、その治験をやっている医療施設自体が新型コロナウイルス感染症患者さんの対応でいっぱいいっぱいで、治験を実施する余裕がなくなってきているのも要因だと思います。
峰宗太郎
治験はとても難しい問題をはらんでいますが、新しい治療法を開発するにはどうしても人を使っての試験である治験が必要になりますので、進むとよいですよね。
いまは大災害なので、治験をするよりも現時点で証明されている治療法を、かつ海外と協力してできるだけエビデンスに基づいた明確なものを、(日本の)ガイドラインに従って行っていただくことが重要ですね。そして少なくとも酸素が必要な人には酸素が行き渡るなどの基本的な治療ができることも大事だと感じます。
黑川友哉
必要だと認められている治療法についてしっかりとした提供体制を整えることは、まず大前提だと思っています。その上で日本として国内での医薬品や医療機器の開発を進めている状態で、そこをどう両立するかが課題になっています。
峰宗太郎
僕も製薬企業の知り合いの伝(つて)で、いろんなパイプラインの話を聞いていますが、すごく有効だろうという薬はなかなか難しいですね。しかし打つ手が増えることも大事ですので、増やしてほしいと思います。
ときに安川先生は、アメリカで新型コロナウイルス感染症の治験を行われていますか?
安川康介
僕の病院では、いまは行っていませんね。
以前は血漿療法の(治験)チームがいて、新型コロナウイルス感染症の患者さんが入った場合にチームに連絡すると説明をして同意書を取り、手続きを全て行ってくれて、臨床医の負担が少ない状況でした。いま僕の病院では、新型コロナウイルスの治療に関するランダム化比較試験は行っていないと思います。
峰宗太郎
雑談ついでに治験の話になりましたが、治験は非常に重要ですね。
聞いていただいている方に、さっきから治験治験って何なんだろう? と思われているかもしれません。1,500名もの方に聞いていただいていますので、基本的なお話もしなければなりませんね。
先日のばぶスペ(編集注:峰先生個人のTwitterスペース)でも取り上げましたが、薬というものはいろいろな段階を経て開発されます。
図 薬が開発される流れ (作成:峰宗太郎)
最初は試験管の中で薬が効くかどうかを調べ、次に動物実験などで薬が効くか、安全かを調べます。そしてそれを初めて人に持ってくる(first in humanといいます)段階からが臨床試験です。
臨床試験は基本的にヒトでの実験ということで、昔流ならいわゆる人体実験なんですが、現在はそんな野蛮なことをやっているわけではありません。
・どういう物質を
・どういうプロトコール、つまり方法で
・人に投与してどういう結果を見るのかを明らかにして
・それを登録システムに登録して
しっかりと行われています。
また臨床試験といってもいろんな質のものがあります。
国によってはいまだにまともな管理ができなかったり、病院によっては管理が上手ではなかったり、いまでも不正があります。思い込み、この薬を成功させてやりたい、といった質の悪い治験というのも出てきます。
治験というのは非常に厳格に行われなければなりません。
倫理的な問題もたくさんありますし、本当に目配りしなければいけないことが山のようにあります。
臨床試験の実施主体としては、企業が主導する企業主導型の治験、医師主導型治験、(既存薬について)いろんな病院で医師が指導して新たな適応を探す試験などがあります。
臨床試験は、
・実施主体がどうであるか
・どういう薬を
・人で使うまでのどういう根拠をもって
・どういうことを目的、目標として
・どういう開発をしているかということを明らかにして
そのゴールが達成されるかどうかを慎重に見ながら行われます。
そこで明確な根拠ができたら、科学的な解析をして、根拠と考え方の両方を提示して、しっかり認証を受けて承認されて、そしてようやく医薬品になります。
アメリカで、ファイザー社の新型コロナウイルスワクチンが今週正式承認されました。今までは EUA(Emergency Use Authorization)という緊急使用許可の状態でしたが、さらに情報が集まって正式に承認されたということでニュースになっていました。
そしてモデルナ社も正式承認に向けて承認プロセス、提出プロセスを開始したということが今日のニュースになっています。
それからファイザー社のワクチンはサードショット、3回目の接種(ファイザー社・モデルナ社のワクチン接種2回完了後8ヵ月以降の18歳以上対象)についての承認を FDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品庁)に求める手続きを開始しています。
▼サードショットに関するホワイトハウスからの説明、簡易日本語訳
https://twitter.com/kumehayato/status/1428122303439593473?s=20
出典:Twitter 久米隼人 @kumehayato 2021/08/19
治験の結果、安全性と効果、両方の情報をしっかり出していき、薬が開発されるという話でした。
治験は当然ボランティアです。
といっても無料で志願するわけではなく、多くは治療費が無料になったり、何かあった時は補償を受けられるという条件のもとに、患者さんが募られて行われます。
場合によっては、その薬を投与する人と、偽薬・プラセボという本当は効果のない食塩水などを投与される人にわけられたり、もしくは標準治療との比較対象になる人もいます。
しっかりと試験計画が組まれて検証されるわけです。
臨床試験、治験のあらましはこのような感じです。
黑川先生と話していたのは、その臨床試験にエントリーしていただく方に情報が充分行き渡っておらず、なかなか臨床試験が進まないよということでした。
【テーマ2】現在使用されているCOVID-19治療薬
せっかくなので、新型コロナウイルス感染症の治療薬について取り上げます。
いまどのくらい開発されていると思いますか?
れおにい先生、何種類くらいあるか知ってます?
岡田玲緒奈
手引き(新型コロナウイルス感染症診療の手引き)に載っているのが4種類ですか、あってます?(承認薬として記載があるのは3種類、トシリズマブがFDAの緊急承認を得ています)
峰宗太郎
日本では主に4種類くらいですかね、治験されている主なものですね。
僕、ざっと数えたんですが、ClinicalTrials.govというサイトによると候補になっていたさまざまな化合物は300種類以上あるんですね。
▼新型コロナウイルス感染症 診療の手引き第5.2版 薬物療法 p.46(ガイドライン)
https://www.mhlw.go.jp/content/000815065.pdf
出典:厚生労働省 2021/07/30 update
▼新型コロナウイルス感染症に対する治療に用いられる薬及びその候補https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000808454.pdf
出典:厚生労働省 2021/07/20版
▼ClinicalTrials.gov
https://clinicaltrials.gov/
出典:National Library of Medicine, NIH
表1 COVID-19治療薬として現在開発中・開発済・脱落等の主な化合物等(作成:峰宗太郎)
峰宗太郎
安川先生、いくつか有望な薬、注目している薬はありますか?
安川康介
たくさん知らないんですが、1つがモルヌピラビルという......
峰宗太郎
(かぶせて)せんせー👶
ここはね、ちょっともう一度やり直しましょう、段取りを組みましょう。
僕が注目しているお薬がありますか?って聞くんで、ここで先生はイベルメクチンっていうんですよ、いいですか?
安川康介
ああ、はい🥦
峰宗太郎
じゃあ来週の放送ではそういうことで(笑)
お話を続けてください、モルヌピラビルの話を続けてください。
安川康介
イベルメクチンは、効いたとしてもあまり効かないのではないか、今のところはそういう感じです。
結構議論が巻き起こっているんですが、そこに固執するよりも、他に有効な経口薬がいくつかあるんじゃないかなと思います。
峰宗太郎
そうですね、その通りです。
安川康介
モルヌピラビルはメルク社が開発したもので、第Ⅰ、Ⅱ相試験が終わって効果がありそうだということで臨床試験をしている段階だと思います。
あと Together Trial というトライアルがあるんですが、そこで結構面白いものとして、抗うつ薬のフルボキサミンが少し効果があったのではないかというプレプリントが出ています。この臨床試験に、実は僕がミネソタ大学でお世話になったDr. Boulware先生が関わっているんですが、興味深い結果でした。
▼Together Trial / Results
https://www.togethertrial.com/results
ちなみにこの Together Trial でイベルメクチンも調べられていますが、効果がなかったということです。まだプレプリントも出ていませんが多分もうすぐ出て、イベルメクチンは効果がないという論拠の1つに加わることになると思います。
峰宗太郎
そうなんですよね、いろんな薬が開発されています。
新型コロナウイルス感染症の治療薬は、大きく2つに分けられると僕は考えています。
これは僕の考えです。
1つは、ウイルスそのものに直接働きかけてウイルスの増殖を防ぐという、抗ウイルス薬という分類に入るものです。
もう1つは、体の中でウイルスに対する免疫反応により炎症が起こり、その炎症が悪さをして肺炎や強い反応であるサイトカインストームなどが起こり、そして熱が出たり、血圧が下がったり、全身の臓器にダメージがきたりするので、この炎症をうまく抑えようという薬です。抗炎症薬というと少し狭くなってしまいますが、炎症や免疫を調整するんですね。
この2つのカテゴリーの薬の開発が進んでいます。
ここで現在ガイドラインに載っていて使えるお薬をみてみます。
(1)ウイルスを抑える薬
抗ウイルス薬、ウイルスそのものの増殖を防ぐものとして、レムデシビルが使われています。
もう1つ、抗体カクテル療法があります。
ウイルス自体を細胞に入りにくくしたり、増えてきたウイルスが他の細胞に入るのを防ぐもの、つまりワクチンと同じ考え方で、抗体があればよいんですね。カシリビマブ/イムデビマブ(商品名ロナプリーブ)がこれにあたり、日本でも承認されて外来でも使えるようになります。また抗体カクテル療法は重症化を防ぐことに関しては結構パワーがあるので、早めに使えるとよいお薬です。
基本的にウイルスを抑える薬として確実に効くのはこの2つです。
但し、レムデシビルは境界的な効果しかないということです。先日私がツイートした Nature Medicine の記事にもありましたが、適切なタイミングで使えば病悩期間(びょうのうきかん、病気にかかって苦しむ期間)が少し短くなる可能性があるかなという微妙な効果なんですよね。めちゃめちゃ効く、切れ味抜群でこれを飲めばキっと治るという薬では全くありません。 抗ウイルス薬についてはそんなには期待しないでいただきたいと思います。
▼Choosing Wisely for COVID-19: ten evidence-based recommendations for patients and physicians
https://www.nature.com/articles/s41591-021-01439-x.pdf
出典:Nature Medicine
同論文紹介、日本語
https://jyoutoubyouinsougounaika.hatenablog.com/entry/2021/08/21/165837
出典:市立奈良病院総合診療科 森川暢先生のブログ
表2 患者と医師向け COVID-19に対して賢い選択をしよう(作成:峰宗太郎)
(2)炎症や免疫を調整する薬
炎症を抑えるステロイド剤デキサメタゾン、抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(商品名アクテムラ)があり、これらは炎症が強くなってきたフェーズでうまく使うものです。但しステロイドは血糖値に注意したり酸素状態を注意しながらということで、使うのが結構大変なお薬です。
あとは JAK阻害薬のバリシチニブというお薬が承認されています。
こういったものが使えるようになってきていますので、打つ手は結構あるんですよね。
【テーマ3】現在開発中の COVID-19 治療薬
では開発中の薬はどのようなものがあるかというお話をします。
まず、ウイルスを阻害する薬は次の4つにわけられます。
・ウイルスが細胞へ侵入するのを阻害する薬
・ウイルスの RNA合成阻害薬、自分自身の設計図の増殖を防ぐ薬
・ウイルスプロテアーゼ阻害薬、ウイルスが自分の成分を作るのを防ぐ薬
・タンパク合成阻害薬、ヒトの仕組みを抑えてウイルスの増殖を防ぐ薬
(1)ウイルスの細胞への侵入阻害薬
いま開発中のものとして、まずconvalescent plasma(回復期の患者の血漿)を用いた血漿療法がありまして、これはあまり効かないということが最近わかってきました。
モノクローナル抗体としては、ソトロビマブ、VIR-7832、BI767551という開発コードがついているものなどがあり、これらはそれなりの効果が出てくる可能性があります。
抗体カクテル療法は、既に承認されたカシリビマブ/イムデビマブ以外には、バムラニミマブ/エテセミマブ、アストラゼネカ社が開発している AZD7442 といったものがあります。
それ以外に、ヒト可溶化ACE2タンパク質という、本来鍵穴の役割をもつタンパク質をデコイ=囮として使うことにより侵入を防ぐものがあり、ナノボディ、ミニプロテインというものもあります。他にも今日もプレプリントが出ていましたが抗ACE2タンパク抗体というものもあります。
TMPRSS2 という分子を阻害するナファモスタット、ガベキサート、デュタステリド、プロキサルタミド、ブロメキシン(ブロムヘキシン)、ニタゾキサニド、ニクロサミドなど、いろいろ開発が進んでいるところですが、いまのところよい効果が出ているという話は聞いていません。
カテプシンL など、いろんなものを阻害する薬も開発されています。しかしなかなか難しいようです。
(2)ウイルスプロテアーゼ阻害薬
さきほど出てきたお薬以外に、ファイザーが飲み薬と点滴を開発しています。PF-07321332、PF-07304814 です。
それから Anivive Lifescience 社が GC376 を開発しています。そのうちプレプリントで出てくるだろうと思っています。
これらの薬もある程度は効くと思うんですが、重症者向けの薬の開発はほとんど止まってまして、かなり早い時期から軽症、中等症の方が重症化するのを防ぐ効果をみる試験に移行しているものが多いようです。
(3)RNA合成阻害薬
レムデシビルが承認されていますが、ファビピラビル(商品名アビガン)は厳しい状況です。さきほどのメルク社のモルヌピラビルは結構効くのではないかと思います。あと AT-527というちょっと有望株があります。それ以外にも PTC299、VIR-2703、メリメポディブなどが開発されています。
こういったものが直接ウイルスに効くのではないかということです。
ウイルスに対して直接効く薬の開発は難しいんですよね。
よく日本人は、インフルエンザに効く薬があるじゃないかと言うんです。タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ、それからゾフルーザなど新しい薬もどんどん出てきています。
こういったものが本当に効いているかというと、効いてはいます。
その効いてるという意味は、いろんな出口を定めて統計的に処理すると有意であることが多いということなんですが、飲んだら病気がサっと治るとか、症状がグンと軽くなるということではありません。
経験レベルではすごくよくなったという人がいるんですが、熱が出ている時間を少し短くするとか、だるさ・辛さが少し早くとれるとか、その程度の効果のものが多いんですね。重症化率やなんかがどんと下がるようなのは難しい。
急性ウイルス感染症に対する薬はそういう感じなんですよ。
なので、死にかけていた人が薬を飲んだら治るとか、重症だった人が人工呼吸器からすぐに外れるとか、そういうことはないですし、今後もあまり期待できません。
基本的にお薬には限界があるということを知っておかなければなりません。
予防薬、ワクチンのようにバシッと効くものはなかなか厳しい状況です。
(4)免疫調整等、抗炎症薬
いろいろ進んでいます。
アジスロマイシンは脱落しましたし、イベルメクチンもさきほどの Together 試験を見る限りは効かない、効いたとしても有意かどうかわからないくらいですかね。
他にインターフェロン類が用いられていたり、抗IL-6関係ではサリルマブ、抗IL-1ではアナキンラ、あとはサルグラモスチムなども開発されています。
この周辺では、JAK阻害薬では効くものが出てくると思います。結構大きい試験が走っています。
このように治療薬の開発現状を眺めていると、やはり予防した方がずっとよいということです。治療薬に過剰・過大な期待をする理由はどこにもないということを振り返っておく必要があるのかなということで、雑談ついでにここまでお話ししました。
皆さんの方から何かありますか?黑川先生、何かありますか?
黑川友哉
(感心した様子で、ぼそっと)
あの......峰先生は......それを全部覚えてらっしゃるんですか?
と、たぶんみんな聞きたいと思うんですけど(笑)
よくそんなに、すらすらすらすらと出てくるもんですね!っていう。
峰宗太郎
いまね、ベッドに横になりながらやってるもんですから。
パソコンのところに行けば、もうちょっと出てくるんですけどね。
黑川友哉
あの、寝転びながらする話ではないんですよね、これね(笑)
峰宗太郎
いやすみません👶
足の筋肉を持ち上げて鍛えながらやってるもので。
黑川友哉
いや、本当に素晴らしいですね。
実はいまお話いただいた開発中のお薬でどんなものがあるかというのは、厚生労働省のウェブサイトで公開されています。私はリアルタイムの文字起こしという簡単なものをツイートしているんですが、後でそこに載せておきますので、興味ある方はぜひご覧いただければと思います。お医者さんであれば、近くの病院でどんな治験がなされているのかなど、確認していただくとよいのかなと思っています。
▼こびスペ リアルタイムまとめ 2021/08/26分
https://twitter.com/Tomo_ORLHNS/status/1430675314162552834?s=20
出典:Twitter Tomoya Kurokawa(黑川友哉)@Tomo_ORLHNS
峰宗太郎
そうなんですよね。
治療薬もすごく一生懸命開発されていますので、治験の結果としてプロが見ても問題ないものが出てくるまで、焦らずに待っていただきたいんです。
前評判はいりません。
競艇や競馬をやってるのとは違いますので、しっかりしたものが開発されることが大事です。
黑川友哉
さきほど峰先生に挙げていただいたんですが、承認されているお薬のいくつかは限られた人にしか使えません。中等症以上であったり、酸素投与を必要とする人であったり、中等症でも合併症を持っている人でないと使えないなど、かなり制限が多い状況です。
いま外来では、新型コロナウイルス陽性になった方皆さんに簡単に出せるお薬がないのが非常に辛い状況です。現場の先生方にとってこれほど悔しいことはありません。いま目の前に患者さんがいて、この後もしかしたら悪くなるかもしれない、下手すると亡くなってしまうかもしれないのに何も手出しができないという歯がゆさも、ぜひ皆さんにご理解いただきたいと思います。
とはいえ、有効性も安全性もまだわかっていない内服薬を急いで承認させることが善なんだ、という主張は全くもって嘘です。そんなことはありませんので、有効性と安全性をしっかり見るという研究でもあり治療にもつながる開発活動が非常に重要な時期なんだということを、ぜひ知っていただきたいと思います。
峰宗太郎
とても大事な視点ですね。
「何かできるんじゃないか病」なんですよね。特に目の前に患者さんがいて不治の病だったりすると、何もしないよりいいんじゃないかというロジックでもなんでもない心情を持ち出してきてしまう人がいます。一生懸命やっているお医者さんでも嵌ってしまうこともあります。
ここは一歩引いて冷静に、悔しさはわかりますが、本当の悔しさと戦うためにはしっかり戦える武器でなければ全く意味がありません。
またそういった善意からきた薬害はたくさんあります。人を救うためにやってるんだと言って、たくさん人を殺した人はいくらでもいます。そういうことをしっかり踏まえて検討していただきたいというのが1つのメッセージです。
安川先生、いかがですか?何かありますか?
安川康介
僕も昨年3月くらいから新型コロナウイルス感染症の患者さんを診てきましたが、当初は何が効くかわからなかったんです。唯一緊急使用許可されたのが、ヒドロキシクロロキンというマラリアに対する薬で、自己免疫疾患に使われることもあるものです。
これが緊急使用許可になった理由は、フランスでものすごく小さい研究が行われてもしかしたら効くのではないかということで、すごく期待を寄せられて、僕の病院でも結構使っていました。
患者さんは皆さん本当にどんどん悪くなって、その当時なす術(すべ)がなく酸素投与くらいしかなかったので医師として凄く無力感があり、緊急使用許可の後ヒドロキシクロロキンを処方することで、何かやった感のようなものがありました。
結局、第Ⅲ相試験が複数行われて有効ではないということがわかりました。後になってみて、あれは医者の無力感を治療するための薬だったのではないかとも感じました。
イベルメクチンを目の前の患者さんに使いたいという気持ちはわかるんですが、冷静に科学的に評価することがすごく大事だなと思いました。
峰宗太郎
そうなんですよね。
安川康介
雑談してよいですか🥦
僕は治験に参加したことあるんですよ。
医学部生の時に医者になるなら治験に参加した方がよい、しておこうという感じですね。
あと僕は毎日吉野家の牛丼を食べているような医学生だったので、ちょっとお金がほしいということで、アレルギー性鼻炎の治験に参加したことがあります。
僕はハウスダストアレルギーなんですが、参加する前にアレルギー性鼻炎と診断されないと治験に参加できないので、古い布団を思いっきりかいでものすごい鼻水をたらしながら耳鼻科のクリニックに行って、プラセボか実際の薬かは忘れたんですが薬を飲みました。鼻日記みたいな、鼻水がどれくらいよくなったかの点数をつける治験に参加したのを思い出しました。
峰宗太郎
ありがとうございました。
いやいやいやいや、突っ込んでほしかったですか👶
鼻日記、難しいところですね。
安川先生の真面目な話に戻りますが、
お医者さんの自己満足とかお医者さんを癒すための薬なんていらないんですよ。
確かにお医者さんのメンタルを保ちたいんですが別の方法でしっかり保つべきであって、患者さんに対して効くか効かないかわからず、それどころか毒になる可能性もあるものを、自己満足のためとか自分の心を満たすために処方するなんて前近代なんですよね。そんなものは現代としてあってはいけない倫理観なわけです。
そういうことを考えると、とにかく冷静に。
いま特定の薬の承認を、と叫んでいる時点でおかしいんです。おかしいんですよ、これは。
こびスペを聞いていただいている皆さんには理解していただいていると思いますが、〇〇というお薬の緊急承認とか英断をとか、そういう問題ではないんですよ。
本当に科学的な根拠を出して、
・効く
・安全性はどうなのか
・利益とリスクのバランスとして充分この戦いに使えるものなのか
ということをわかって供給しなければ、そのうち戦争の最前線にいる人に竹槍を配りだすようになるわけです。
そういうことを奨励しているのが特に医師の団体だったりすると大変問題なんですね。
ここはよくよく注意していただきたいなと思うところです。
【予告】NEJM・イスラエルでの大規模安全性試験結果
さて今日は時間がオーバーしています。
本当はさっき出たばかりの New England Journal of Medicine の論文を紹介しようと思っていました。ファイザー社のワクチンに関するイスラエルの大規模な安全性の調査結果の論文です。それに伴い Editorial という、ワクチンの安全性についてはコンテキスト(背景)が大事だよという論説も出ています。
▼Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2110475
出典:New England Journal of Medicine
▼Editional: The Importance of Context in Covid-19 Vaccine Safety
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe2112543
出典:New England Journal of Medicine
これによりますと、安全性は相変わらず問題ないんですが、ファイザー社のワクチンには心筋炎(心臓の筋肉の炎症)、それから安川先生の大好きなリンパ節の腫れが出るということです。
あと僅かなんですが、虫垂炎(いわゆる盲腸)や、帯状疱疹のリスクがほんの少し上がるのではないかという話があります。
この研究自体は大規模な観察で、調整がうまくいってるのかというとなかなか難しいところですが、リスクとしてどんなものがあるかなと眺めるにはよい結果だと思っています。
ただ1つ大事なこととして、ファイザー社のワクチンで心筋炎のリスクが少し上がるんですが、COVID-19 にかかっても心筋炎になるリスクがかなり高いと書かれています。結局、心筋炎を防ぐためにもワクチンを接種したほうがよいだろうという話も出ています。
ちらっと読んでいただいて、実は COVID-19 にかかると心筋炎にもなりかねないので、心筋炎が怖いからワクチンを打てないと言っていると、COVID-19 にかかっても心筋炎になる可能性があるということを把握していただくのがよいと思います。
詳細なことはまた、こびスペで誰かがこの論文を紹介するのを聞いていただくか、とても読み甲斐のある論説ですので読んでいただきたいと思っています。
これについても改めてつぶやきたいと思います。
さて、それ以外にれおにい先生、何かありますか?
岡田玲緒奈
明日私なので、峰先生が仰っている論文の話をしようかなと思っています。
峰宗太郎
いいですね、ではこれを任せちゃっていいですかね?
そうすると今日は気持ちよく終われます。
岡田玲緒奈
朝起きてそれを見てて、なんで虫垂炎やねん、と布団の中で独り言をいっていました。
峰宗太郎
面白いですよね。
岡田玲緒奈
面白いですね。おかげで改めて虫垂炎ってなんぞやを勉強しなければならなくなっちゃいましたが。
峰宗太郎
ということで今日は、雑談から治療薬の話になり、そのまま治療薬の候補の紹介をしました。あまり面白い話ではなかったと思いますし、細かくて聞いていただくのも大変だったかもしれませんが。
ぜひ、ワクチンについて、治療薬について、そして COVID-19 自体についての基本的なところを押さえていただき、いまどういう状況なのかをできるだけ確実なソースをもとに知っていただければと思います。
確実なソースを複数持つのが一番です。
黑川先生がつぶやいてくださるような厚生労働省のサイトは非常にしっかり情報を出してくれていますし、基本的に文献・論文をもし読むのであれば、一時情報として評価していただくのに使っていただきたいと思います。
論文を読むのはなかなか難しい上に、最近はプレプリントというまだ査読されていないものやプレスリリースなどがいろいろ飛び交っており、根拠の質を見るのもより難しくなっています。
そういう時に大事なのは、こびナビの情報を見よとかスペースを聞けとかではありません。
大事なことは、ちょっと置いてみることだとお伝えしておきます。
すぐ話題に飛びつくなという話です。
僕のマシュマロにも、新しい情報が出るとすぐに飛んでくるんですね。
今日だと、抗体価が3ヶ月で4分の1になると書いてあったギャー、みたいなマシュマロが必ず来ます。
しかしそういう情報に飛びつかずにしばらく見ていると、情報が整理され精査され、複数の検討がされて、より確度の高い情報に変わることがあります。
ですから皆さん、飛びつきすぎず時間をおく、経過を見るということも大事です。
なんでもかんでも、ブレーキング(Breaking!)、update だと騒いでるのは正しいわけではないですし、それで一喜一憂するのは精神上も疲れちゃうと思いますので、あまりやりすぎないのがよいとお勧めしておきたいと思います。
では今日はこのくらいで終わりたいと思いますが、黑川先生、最後にありますか?
黑川友哉
今日は私の雑談からちょっと変な方向にいき、申し訳ありませんでした。
峰宗太郎
いえいえいえいえ。
ありがとうございます。
黑川友哉
ただ本当に大事なメッセージがたくさん含まれていると思いますので、皆さんが考えるきっかけになればなと思いました。今日はどうもありがとうございました。
峰宗太郎
ありがとうございました。
宣伝したいことありますか?
岡田玲緒奈
今日は夜10:15より、インスタライブをやりまーす。
▼こびナビ Instagram
https://www.instagram.com/covnavi/
峰宗太郎
いいですね。
インスタライブを楽しんでいただきたいですね。
その前に夜8時から、私と Taka先生が、YouTube「魚屋のおっチャンネル」に出てざっくばらんな話をしたいと思っています。もし興味のある方いらっしゃいましたら、生田さんというお魚やさんのチャンネルですので、観ていただければと思います。
▼YouTube 魚屋のおっチャンネル
ばぶ先生とTaka先生に【2021年版8月版】正しい新型コロナ最新事情を聞こう!
https://youtu.be/j7AY1EvWTzM
2021/08/26
では今日はここまでにしたいと思います。
日本の皆さん、ぜひ stayhome で、安全第一で、メンタルヘルスもしっかり保って、よい一日をお過ごしいただきたいと思います。
ありがとうございました。
全員
ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?