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医療従事者が使う「安全」という言葉の意味とは?(9月8日こびナビTwitter spacesまとめ)

※こちらの記事は、2021年9月8日時点での情報を基にされています。※

2021年9月8日(水)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:黑川友哉


~程度が大事~

黑川友哉
皆さん、おはようございます。聞こえますでしょうか?

峰宗太郎
…聞こえます…。

黑川友哉
元気がない! 今日はまた一段と元気がない! どうしたんですか? 峰先生?

峰宗太郎
今日ね、自転車で帰ってきたんですよ。研究所から。

黑川友哉
最近なんか自転車で通われてるんですよね?

峰宗太郎
違います違います。自転車もらったんですけど、50分かかるんで…。

黑川友哉
50分?

峰宗太郎
50分かかるんです。今日初めて研究所からお家まで帰ってきてみたんです。

黑川友哉
何キロぐらいなんですか?

峰宗太郎
分かんないですけど、50分ですね。高低差がすごいんですよ。高低差がすごくてですね。息が上がっちゃって。

黑川友哉
あ、そうなんですね。でも今筋トレでムキムキボディ目指してるから、ちょうどいいんじゃないんですか?

峰宗太郎
そうなんですよ。絞ってね。ダイエット成功してですね。6キロ減らしたんですよ。とにかく。

黑川友哉
何か月で6キロ減ってたんですか?

峰宗太郎
2か月半ぐらいですかね。

黑川友哉
2か月で6キロですか?それは凄いですね。

峰宗太郎
もっとすごいことに、筋トレ始めて1か月ぐらい経つんですけれども、5キロ増えました。

黑川友哉
筋肉が?

峰宗太郎
筋肉で。

黑川友哉
すごいですね。

峰宗太郎
今はもうね、プロテイン飲みすぎて腎臓がおかしくなるんじゃないかと心配しているんです。

黑川友哉
いやいやいや程度の問題…。

峰宗太郎
程度大事ですね。大事です本当に。
なんかあれですね、今日の Twitterスペースのタイトルを見てるとホストが黑川先生って書いてあるんですけど、ホストクラブとかにいそうですよね👶

黑川友哉
…全然いそうじゃないですよね…。

峰宗太郎
いろんなキャラの人がいて…行かれたことありません? ホストクラブ?

黑川友哉
ホストクラブは行ったことは…あります。

峰宗太郎
ありますか!? 先生あるんだ?

黑川友哉
うん。あります。

峰宗太郎
いろんなタイプの人がいますよね。いわゆるチャラ系の主流派の人たちと結構渋いおじさんとか。あとなんか弱っぽい子と。丁寧な人と。

黑川友哉
僕が行ったところは安かったんで、そんなにバラエティーは豊かじゃなかったんですけど。まあでも僕が行くところじゃないな、とは思いましたけどね。
いや、今日そういう話じゃないんですよ。結構真面目な話をしようと思っていて。

峰宗太郎
雑談タイムから真面目じゃなきゃいけない感じでした?

黑川友哉
いやいや、全然いいです。全然いいんです。ありがとうございます。

峰宗太郎
すいませ~ん👶


医療従事者の使う「安全」という言葉


黑川友哉
もう週の半ばなんで皆さんちょっと元気だして、また折り返し地点なので、やっていきたいと思います。
こびナビメンバーも安川先生も峰先生も入っていただいてぼちぼち始めてきます。

我々はこびナビでワクチンに関する情報発信をやっていて、お問い合わせフォームにたくさんお問い合わせをいただいています。
そこでよくいただく質問に「こびナビは何でこんな新しいワクチンのことを安全って言えるのか?」があるんですね。中には「どうして安全と言い切れるんだ!?」という、強い言い方をされる方もいらっしゃるんですね。
おそらく安川先生も峰先生も「ワクチン。これは絶対安全ですよ」って言い切ったことって、そうそうないかなと思うんですけど。
峰先生どうですか? どんな感じでおっしゃってます?

峰宗太郎
これは本当に重要な指摘ですね。
いや、真面目モードになって言いますと、僕は安全っていう言葉はあまり使わないようにしてるんですね。というのは、安全ってどっかに閾値というか「ここよりも確率が少なければ安全」みたいなイメージで物を捉えてるんですね僕は。

黑川友哉
そうそう。そうなんですよ。

峰宗太郎
そうすると安全って、必ずしも「ここの線よりもこっちだと YES / NO」っていう単純なものではないし、その線も比較の仕方によって変わると思ってるんです。
例えば水道水って安全か? って聞かれると、僕は安全って言い切るの怖いんですよやっぱり。お風呂で溺れる人もいますし。
自動車だって安全か? って聞かれると、交通事故死はコロナより亡くなってますからね、ってことになりますよね。
ということを考えると、すごく難しいなあと思っているうえに、未来の予測とか不確実性というものには、必ず我々の知りえない未知の可能性がありますよね。
この未知の可能性が残っている以上は、安全という言葉を使ってはいけないんじゃないかっていう、良心からくる躊躇があるんですよね。常に。

黑川友哉
そうなんですよね。

峰宗太郎
そうなんです。だから僕は安全って断言したことはあまりなく、むしろ「安全と考えていいんではないでしょうか?」と濁したり。「比較的」っていう言葉を枕詞につけたり。
「リスクを比べるとどちらかと言えば、安全寄りではないでしょうか」みたいなことを言っていることが多いと思います。

黑川友哉
ありがとうございます。そういうコメントをいただきたかったんですよね。座布団2枚ということでお願いします。

峰宗太郎
ありがとうございます。

黑川友哉
安川先生どうですか? 安全っていう言葉に対してなんか思い入れとか、意識して注意していることとかってありますか? 喋れます?

安川康介
そうですね。まず最初に…僕はホストクラブは行ったことがないですね。

黑川友哉
(笑)

安川康介
安全性について言うと、「安全です」って言い切ったことは多分ないと思います。

ちょっとここは医療従事者と非医療従事者の方で受け止め方が違うのかなって感じるところではあるんですよね。
よく使うのは「安全性が高いことが確認されている」。そういう形で言うことはあります。
ただ、ゼロリスクじゃないんですよね。ワクチンもそうですし、医療行為ほぼ全てゼロリスクじゃないんですよね。例えば簡単な手術でもそうですし。
僕たちはいつも「こういうリスクがあって、こういうベネフィットがあって、こういう合併症が起こりうる」ということは常に説明するわけです。

例えば輸血に関しても、アナフィラキシーの可能性があります。心臓が弱い方だと心不全が悪くなる可能性だってありますし、感染症のリスクだってゼロではない。
高血圧の薬のアムロジピンやリシノプリルってすごくよく使われる薬にも、リスクがゼロなわけではないです。
なんでもリスクとベネフィットというのがあって、ゼロリスクのものは医療にないんですよ。
まずそういう前提が共有されていない場合があるのかな、と感じるときがあります。
「安全性が高い」って言ったときに、それを「こびナビは絶対安全だって言っている」っていうふうに受け止められているんだろうなって感じるときはよくあります。

黑川友哉
そうなんですよ。ありがとうございます。
お二方にまるで台本を見ているかのようなコメントをしていただきました。

まさに今、安川先生がご指摘された通り、医療従事者や我々こびナビが発信するときの「安全」という言葉を、多くの方は「確実な安全」という意味ではない、と受け取っていただいていると思います。
しかし、中にはそうではなくて「安全って言い切った!」と受け止めてしまっている方がいる。
そういったコミュニケーションの行き違いを今日はお話します。


「安全なワクチン」って何?

黑川友哉
私は PMDA で抗がん剤の審査を主にやってきた経験があります。
その後大学に戻って治験や臨床試験のサポートを通して、治験に参加される方がどうやったら安全に治験をやり切れるのか、ということを考えながら仕事をしている立場なんですね。
※ PMDA=独立行政法人医薬品医療機器総合機構。医薬品等の品質、有効性及び安全性の向上に資する審査、また、医薬品の副作用又は生物由来製品を介した感染等による健康被害の救済を行う、厚生労働省所管の機関。愛称「パンダ」。

今日はその経験から、新型コロナワクチンの安全性とそれに対する不安に対してどんな情報提供やコミュニケーションが必要なのかなっていうことを皆さんと一緒に考えていきたいなと思っています。

まず、そもそもいわゆる安全な医薬品とは何なのか?
世の中で安全と認識されている医薬品とは、副作用などのリスクを上回る臨床的な有効性が認められ、さらに品質がちゃんと担保されているお薬だと私は考えています。
決して副作用がゼロとかそういうことではない、ということは皆さん納得されているかなと思います。

じゃあ承認審査のときに安全性とはどのように考えているのか? という話をします。
先ほど峰先生からも基準っていうのはないんですよね、とお話がありましたが、まさにですね、承認審査のときに「安全」の基準というものは無いんです。
どのくらいの安全性が担保されたら承認できますっていう基準はありません。安全なのかどうかは当然疾患によっても変わります。
がんみたいな重篤で死に至るような病気であれば、ある程度の強い副作用があっても、それががんの勢いをしっかり押さえたり生存率の改善に繋がるのであれば、許容される可能性は高いわけですよね。

一方で今回の予防接種みたいに健康な人に対して使用されるお薬の場合は、より高い安全性とコントロールできる副反応、ちゃんと治療で治りますよという範囲に収まることが求められるわけです。
もちろんこれは何かマニュアルがあって審査の基準があるわけではない。しかし、お薬なので必ずリスクはありますよという前提で審査当局が物事を考えている点が重要です。

安全性が許される範囲かどうかを考えるうえで、基本的に2つのポイントがあります。

1.リスクに見合った、またはリスクを超える有効性が期待できるしっかりとしたデータが得られているか
2.リスクの注意喚起をし、この注意喚起によって臨床のお医者さんたちがちゃんと対応できる副作用か

特にこの2つ目が重要です。リスクを注意喚起して世の中に製造販売されているわけですけど、この「対応が可能な副作用なのか」という点。
このために添付文章の中に長々とリスクに関する内容が記載されているということをご理解いただければと思います。

ここまで、薬が承認されるまでの安全性の考え方の基本、大前提について話をしました。

現在日本で特例承認されている新型コロナワクチンも、この1点目の「リスクベネフィットバランス」と言われるもののリスクである副反応が許容できる有効性が期待できるということ。
また2点目のように注意喚起がしっかりなされた上で、使われているということですね。

このリスクベネフィットバランスについては、お薬自体の有効性と安全性のバランスっていう意味はもちろんあるんですけど、ワクチンを打つことと打たないことのバランスも考えなければいけません。
これについては、おととい月曜日の木下先生の Twitterスペースでも紹介されたんですけども、CDC(Centers for Deseas Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)がつい最近、若年層と中高年に分けた分析を行いました。
いずれの状況においても、ワクチン接種によるメリットがリスクを上回りますよという結果が示されているんですね。

▼COVID-19 Vaccines in Adults:Benefit-Risk Discussion
https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2021-07/05-COVID-Rosenblum-508.pdf
出典:CDC 2021/7/22

こんな感じで承認後に行われる調査というのも当然重要なんですが、この辺の「安全性を承認前にいかに正確に把握するか」っていうことを考える上で、非常に重要なデータがまさに治験というものなんですね。

これまでも何回かお話したことがあるかもしれないんですけど、治験のデータというのは、 研究をやってるその人が管理をしているというよりも、第三者がしっかりと管理をして改ざんとか捏造ができないようにされています。
信頼性の高い状態で集められているデータです。市販後に行われる副反応報告などのデータとはやっぱりクオリティが全く違うということもご理解いただければと思います。

じゃあ今回の新型コロナワクチンの安全性情報の精度はどのくらい高いのかっていうことをちょっとお話します。

特に第3相試験という、単純に言うと有効性を科学的に証明する、決定づける試験があります。これの目的は当然有効性を確かめることですけども、同時に副作用に関する信頼性の高い情報を得るという目的もあります。
この治験のデータは第三者によって厳格に管理されたものですので、非常に信頼性が高いと考えていい。
現在日本でも話題になっている副反応報告など、これまでもずっと副作用報告というのは行われています。
これらは第三者によってチェックをされた上で報告が上がっているというよりは、現場の医師と薬剤師、医療従事者の方が報告をしているもので、治験で得られるデータとは格が違うと考えていただきたいと思います。
承認されるまでに、どのくらいの患者さんで治験が行われたか、使用経験があるのかということは、安全性を考える上でめちゃくちゃ重要なわけですね。

日本で使用されている新型コロナワクチンはファイザーのコミナティとモデルナワクチンとバキスゼブリア(アストラゼネカのベクターワクチン)です。
それぞれ、最後の第3相試験は4万人とか3万人。アストラゼネカは併合解析で2.4万人。併合解析とはいくつかの臨床試験の結果を足し合わせて全部まとめて解析したという解析ですけども、そのぐらいの治験が承認のために行われているわけですね。

COVID-19 の予防として重要な発症予防効果が科学的に証明されているっていうのは、皆さん耳タコ案件で何度も聞いたことがあると思いますけど、この4万人とか3万人の治験規模の凄さってわかりますかね?
安川先生、以前治験に関わられたことがあるとおっしゃったかもしれないですけど、どのぐらいの規模の治験をされてたんですか?

安川康介
あ、いや治験には関わったことはないですね。治療薬に関しては。

黑川友哉
あ、そうなんですね。

安川康介
はい。ただ今回のファイザーとかモデルナの2万人対2万人とか、それはもう相当大きいですよね。
治療薬で第3相試験する場合で、ランダム化比較試験で数百人対数百人。場合によってはもっと規模が小さいものもあります。2万人対2万人というのは相当大規模だと言えます。

黑川友哉
そうですよね。ありがとうございます。
ばりすた先生は? ごめんなさい、突然振って申し訳ないんですけど、何か治験に関われたことってありますか?

ばりすた先生
治験の対象になった医薬品を患者さんに同意を取って実際に使うとか、事務的な手続き等はもちろんしたことがありますけれども、統括まではしたことはないです。
ただやっぱり2万対2万ていう数はものすごい規模の大きさで、なかなか普通はされない規模だと思います。

黑川友哉
ありがとうございます。
ちなみにそれって、おそらく神経内科領域で使用されるお薬の治験だと思いますが、治験全体では目標症例数として何人くらい集めよう、みたいな感じだったんですか? 覚えていらっしゃいます?

ばりすた先生
薬にもよるんですけれども、新薬を使ったときは、ごめんなさい、ちょっと僕も件数は忘れてしまったんですけれども、全国でたぶんトータル数百いくかどうか。
あとはレジストリという形で、既存の薬をこういう組み合わせで使いましょうというケースは…確か千単位の数だったと思います。

黑川友哉
ありがとうございます。
おそらく、やっぱり大体の病気の治療に使われるお薬の治験って数百から多くても千数百人とかっていうレベルだと思うんですよね。

では、普段医療現場でよく使われているお薬の治験がどういった規模なのか? 私もいくつか調べてみました。

例えば重篤な疾患に使われるお薬に、抗がん剤があります。
私の診療範囲である頭頸部がん。これは頭とか脳みそと目玉を除く首より上にできるがんのことなのですが、これに対して使う比較的新しい抗がん剤として、ペムブロリズマブというお薬があります。
これは自分の持ってるがんに対する免疫機能のスイッチをオンにして、がんをやっつけちゃうお薬です。
これが承認されるために実施された第3相試験には、882人の患者さんが参加されています。この882人のデータで有効性と安全性等が確認されている状況です。
ワクチンの3万とか4万とかいう数字と比べてちょっとわけが違うのです。

今よく巷で100万人に1人とかに起こりうる稀な副反応にすごく注目が集まってるんですけど、抗がん剤の治験では1000人に1人に起こりうる副作用ですら、この治験の中では見られないかもしれない。
そういう相場感・世界だということはぜひ知っていただいてもいいかなと思います。

もちろん、お気づきの方も多いと思いますけど、抗がん剤っていうのは治療薬で、がんになってから使用されるお薬です。がんは確実に重症化していく病気なので、予防薬とか、健康な方に使われるお薬と横並びで説明すべきではないかもしれません。

じゃあ、もっと普段から皆さん親しみのあるお薬、例えば痛み止めのロキソプロフェンとかだとどうでしょうか? このお薬は古いお薬で、日本国内で最初に承認されたのが1986年で、私が1歳のときだったんですね。今から35年前です。

さて、このときの臨床試験って何人ぐらいだったと思いますか?
峰先生、ご存知ですかね? 峰先生はご存知かもしれない。

峰宗太郎
ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。えっと知りません。ロキソプロフェン。いやあ知らないです。

黑川友哉
これ実は慢性関節性リウマチの患者さんを対象として110例の治験が行われているんですね。たった110例なんですよ。今ものすごい皆さんに使われているんですけど。
その後で痛み止めだけではなくて、熱冷ましとしての臨床試験も実施されているんですが、このときもなんと1つ1つの試験は80例とか112例の規模感だったんですよね。

おさらいしてみると、がんの種類にもよりますが抗がん剤の治験でだいたい数百人から千数百人前後。
ロキソプロフェンみたいな解熱鎮痛剤だと百人前後なんですね。
ちなみにですね、新型コロナワクチン以外の、比較的新しいといわれているワクチン、例えば帯状疱疹のシングリックスは1.3万人とか1.4万人で桁が違ってくるわけですね。
最近話題になってますけれども、HPVワクチン。これも2価のワクチンで1.8万人。4価のワクチンで1.2万人。やっぱり「ウン万人」という単位なんですよね。

当然お薬に「絶対安全」はないのはもちろんです。
しかし、普段多くの方が使われている痛み止めとか熱冷ましと比べて、今回の新型コロナワクチンの安全性に関する情報は、承認審査の前の段階だけで比べてもかなり高いレベルで揃っているんだ、ということをよくご理解いただきたいです。

我々は今までも情報発信をする上で、科学的なデータに基づいて比較的安全性がわかってますよ、とか心筋炎が起こる確率は百万人に10人程度ですとか、アナフィラキシーは百万人に何人程度ですという、かなり大きなデータに基づいてお話をしてるのですが、それでもやっぱり不安っていう方っていらっしゃるんですよね。
やはり個人にとって重要なのは「自分に副反応が起きるかもしれない」という不安感なのかなと思っています。

私はこびナビのお問い合わせの担当をしていますが、現在までに900件のお問い合わせをいただいています。この中に含まれる不安感のほとんどは、自分に起こりうる副反応に関するものだったりするんです。

どんなに科学的なデータが出揃ったとしても、副反応のリスクというのはゼロではないです。
自分に重大な副反応が起きるリスクも、今まで因果関係は見られてないけど死亡するリスクもあるかもしれない、って思ってしまう方もいらっしゃるんですよね。
この先の未来が見えてる人間っていうのはいないでしょうから、「あなたの副反応はあまり強くは起きません」ということは、我々は当然言えないんですね。
どうしても今わかってる安全性情報のような、集団としての結果からしか説明することは難しい。
どんなに稀でも「自分に起きてしまうかもしれない」という不安にかられている人に「その副反応は稀ですよ」と、これまでのようなコミュニケーションをとっても、うまくかみ合わないというわけなんですよね。

冒頭にも申し上げた通り、お問い合わせフォームで「なんで安全って言い切れるのか?」という質問をいただきます。
これって結構キーワードだと思うんです。
私たちの活動が安全性を強調しすぎてるとか、絶対安全と言ってるように見える方も、まあいらっしゃるんだろうなということが、このお問い合わせフォームを眺めているとよくわかるんですね。

やっぱりわかっていただきたいのは、絶対安全なお薬はないということ。
安全性というのは「集団の結果から推測するしかない」ということを、ぜひご理解いただきたいなと思っています。

どんな薬に対しても、個々人にとって安全ですと言うことはできません。
ワクチンの場合は多くの人が有効性の恩恵を受けることができるんですけども、その一方で、重度の副反応というのは、ごく一部の人にしか生じないんですね。
だからこそ、このようなリスクを分かち合うという意味でも、まれな副反応の調査のために、副反応報告がしっかり蓄積されていますし、健康被害救済制度が整備されているということも知っていただきたいなと思っています。

多くの方にワクチンを安心して接種していただくためには、私は4つのポイントがあると考えています。

1.有効性と副作用情報がしっかり確認されて日本で承認されている
2.医師がリスクを含めてそれらの情報を理解して使用している
3.承認後も副作用や副反応の調査が常に行われて、情報がアップデートされている
4.それでも万が一副作用や副反応が出た際には健康被害救済制度が整えられている

この4点が非常に重要かなと思います。
2については医師全てがそうだ、とは言えないのですが、基本として重要です。
3は日本のみならず世界中で常に調査が行われています。
この4つがしっかりかみ合ってこそ、皆さんが安心してワクチンを打っていただけるんだろうなと思っています。

先月中旬には新型コロナワクチンでも健康被害救済制度が適用となった例が20数名いらっしゃいました。これについては今後も確実に増え続けると考えています。

▼感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査部会審議結果
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000821004.pdf
出典:厚生労働省 疾病・障害認定審査会 2021/8/19

▼感染症・予防接種審査分科会新型コロナウイルス感染症予防接種健康被害審査部会審議結果
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000831880.pdf
出典:厚生労働省 疾病・障害認定審査会 2021/9/13

承認したから「はい、みんな使ってください」というスタンスで PMDA も審査しているわけではありません。
安心してワクチン接種していただけるように、医師や行政、そして製造販売している企業が協力しながら常に日々頑張っている、ということを是非知っていただければと思います。

副反応の情報を提供した上でも、それでも不安という方はいらっしゃいます。
そういう方に対して「今ワクチンを受けられるチャンスは稀だから、打てるチャンスがあったら急いでワクチン接種しよう」っていうのは、なかなか酷なのかもしれないな、と私も考えます。
どうしても「やっぱり不安」という場合には、決断を先送りするっていうことも大切なのかな、と最後にメッセージとしてお伝えします。

しっかりと自分で考えた上で安心して接種できる、えいや!っと決められるようになったときに打っていただければいいのです。本当はね、接種できるチャンスがあれば、当然皆さんにすぐに打って欲しいと思っているんですけどね。

私が今日お話したいと思っていたところは、このようなところです。登壇者の方から何かコメントとか追加などあればお願いします。


リスクと不安の捉え方

ばりすた先生
お薬の安全性を考えたとき、承認プロセスや規模感を考慮するのはもちろんなんです。
けれども、さっき峰先生から車とかお水の話があったように、そもそも人間が生きてく中で全く安全と言い切れることは基本的に無いですね。
今調べてみましたが、それこそ車なら、交通死傷者数は1年間で529,378人。死者数は3,500人以上いる。食品による窒息も同じく年間3,500人いたり。そもそも日本に住んでいる以上、地震とか結構怖いですよね?
そういうことを、日常では普段全くあまり意識せずに過ごしている。
一方で、知らないワクチンとかお薬のことになると、不確実性というものに人間はすごく注目してしまうものなのです。
それ自体は人間の性質なので、決しておかしいことではないんです。
ただ実は普段の生活では、安全性とか不確実性を、皆さん割と受け入れて過ごしてるんです。その事実に1回気づいていただけると、薬品の安全性への見方も変わってくるのかな。

黑川友哉
ばりすた先生ありがとうございました。まさにその通りですよね。

メディアとか社会全体でワクチンのリスクに注目が集まってしまうと、どうしてもそこに目が行きがちなんです。でも実は「世の中にはもっと危険なことが溢れてるはずなんだけどなー」って、よく我々もこびナビのミーティングの中で話をしてることもあるんです。

実は皆さんは普段から不確実性を受け入れているはずなのです。
今回これまでのワクチンの治験とか、これまでの歴史を紐解いてみても、かなり安全性の情報というのは集まってきてる製品だと思いますので、このくらいは受け入れてもいいんじゃないかな、というのが正直なところではあります。

ありがとうございました。他にいかがでしょうか?安川先生大丈夫ですか?

峰宗太郎
あ、私じゃダメ?

黑川友哉
お願いします。

峰宗太郎
いや、僕もいつかまとめてゆっくりお話したいと思っていました。実は人がリスクをどういうふうに感じるかについてのバイアスというのは、個人的な研究テーマにしてずっと勉強してるんです。

一般的なリスク評価を客観的に考えたときに、どういうモデルが一般的かというと「起こる被害の重大性×発生確率」なんですよ。わかりますよね?
つまり、副反応が何パーセント起きるということと、起きたときにどういうふうになってしまうか。今日黑川先生が一生懸命説明していただいた通り、これって客観的なリスク評価なんですよね。

ところが大事なのはリスク認知なんですよ。リスク認知というのは主観的に危険だとか不安だとか恐怖の見込みをその人が感じることなんですよね。なので、これは「恐ろしさ×未知性」なんです。
つまりどのぐらいあるかわからないリスク認知の因子モデルは「恐ろしさ×未知性」だ、と心理学的には Slovic(Paul Slovic)が1987年ぐらいに言ってるんですね。
今回のワクチンにしてもよくあるんですけど、この「恐ろしさ×未知性」っていうところが大きい。

リスクを大きく感じる要因っていうものを Bennet(Peter Bennet)が1999年に11個に分類しています。どんなものがあるかちょっと簡単に述べますね。
これ、ワクチンについても考えてみてください。リスクをどういうときに大きく感じるかは客観的な評価じゃないです。リスクの認知なんです。

1.非自発的にさらされる。仕方なくさらされる
2.不公平に生じる・みんなに起こるわけじゃない
3.個人の予防行動では避けられない
4.よく把握されていない新規性
5.人工的なもの
6.隠れた取り返しのつかない被害がある・命がさらされる・長期的安全性
7.子供や妊婦に影響を与える
8.通常とは異なる症状・死に方をする
9.知っている人が被害者になる・「知り合いの知り合いが被害者」などの情報が入る
10.科学的に完全には解明されていない
11.信頼できる複数の情報源からの矛盾したメッセージが出ることがある

▼「Risk Communication and Public Health」
Peter Bennett, Kenneth Calman, Sarah Curtis, and Denis Fischbacher-Smith
https://global.oup.com/academic/product/risk-communication-and-public-health-9780199562848?cc=jp&lang=en&
(Published:10 December 2009)

リスクを大きく感じる、とはどういうことか?
客観的リスク評価って「被害の重大性×発生確率」という、ある意味数値化できるものなんですね。一方で主観的なリスク認知「恐ろしさ×未知性」の感じ方のギャップ Perception gap が起こる時、つまりリスクを大きく怖く感じるのはどういう時か、という事を Bennet さんがまとめてくれたんです。

ワクチンってズバリぴったりとこの11項目ほとんどが当てはまっているんですよね。

黑川友哉
今回のワクチンは特にそうですね。

峰宗太郎
そうですよね。だから先程黑川先生がまとめてくださったように、客観的には安全性も担保されていて、リスクも本当は少なくて、すごくちっちゃい数であっても、心理的にはそれをすごく大きく感じてしまうというのは、ある意味仕方ない。
誰にでも起こりうる認知のバイアスの、我々の脳に組み込まれた1つの要因に影響されている現象であるということを冷静に捉えることも必要だ、と僕は思ってるんですね。

これはいつか丁寧に僕も話をしたかったんですけど、黑川先生のテーマに合ってそうだから紹介しちゃったんですけど。

黑川先生が冷静にお話してくれても、厚労省の綺麗なサイトでしっかり数字が出ていても PMDA から情報を発してもそれでも怖いって感じたあなた、これを聞いていただいている皆さん、それはおかしいことじゃないんです。
リスクを大きく感じてしまう要因がたくさんこの話には入ってるんです。
でも、その中で一度怖さだとか不安を押し込んで、どこからその恐ろしさが来ているかっていうことと、不安と向き合っていただきたい。

それからもう1つは未知性というところなんですけど、これをゼロにすることもできないんです。
ばりすた先生におっしゃっていただいたように、実は車だとか、水でどういうふうに事故になるかっていうのは、だいたいわかっているから、それほど怖くないって感じると思うんです。
しかし、新しいレクリエーションをするときは怖いですよね? 今日も僕、自転車に初めて乗ったんですけど、転んで死ぬかもしれないっていう怖さがあるわけですよ。あるんです。車にはねられるかとかね、道に迷うかとかの怖さが。
そういうことを考えるとですね、この認知の問題も大事にしていただいて、そこも解消できるような情報提供というのが必要かな? なんて思ったりしながら、今日の黑川先生の話を聞いていました。

ということで、長々と僕が演説してしまいました。
まあ、まとめるとあれですね? 黑川先生は安全な男なのか? ということですよね。

黑川友哉
そうですね(笑)
まあね、ホストクラブへ行ったこともキャバクラへ行ったこともありますから、危険な男かもしれないです。
でも、安川先生よりは安全性は高いかなとは思ってるんで。ただ安川先生も未知性が非常に高いので、皆さんに与えるリスク認知としては高いものなのかなと。
峰先生のお話はそういうことかなと思いますけど、合ってますか?

峰宗太郎
これ、安川先生が答えないと👶

安川康介
…あってます。

黑川友哉
ありがとうございます。安川先生はもう忙しいかな?

峰先生、11個にまとめていただいて、ありがとうございました。
これは本当に、今回の新型コロナワクチンに該当するポイントばっかりだなと思っております。この辺の話をまた峰先生からいただければなと思います。

ということで、今日は「科学的に安全性の情報ってたくさん出てるけど、不安に思うというのはしかたないよね」っていう話でした。

とはいえ、今回の新型コロナワクチンは、かなり今までとはレベルが違うぐらい安全性の情報がたまってますよ、というお話ですね。

先ほど挙げていただいた11点は、ほとんど今回のワクチンに対して該当すると思います。やっぱり不安だよっていう方は絶対いらっしゃると思います。そういうときに怖い怖いと思いながら非常に強い緊張の中でワクチンや注射を打つと、血管迷走神経反射でぶっ倒れてしまうこともあるんですね。そういうリスクもありますから。

私も最後に申し上げましたけど、やっぱりそれでも不安という方は一旦結論を先送りにするっていうのも手なのかなと思ってます。

ということで、本日もう6分過ぎてしまいましたので、この辺にしたいと思います。ばりすた先生、遠藤先生、ほかに追加のお話は大丈夫ですか?

ばりすた先生
はい、大丈夫です。ありがとうございます。

黑川友哉
ありがとうございました。ということで本日水曜日、週の半ばを過ぎようとしておりますが、残り後半も今週頑張って参りましょう!
本日もどうもご視聴いただきありがとうございました。それでは皆さん、よい1日をお過ごしください。
バイバイ!


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