コロナワクチンが98.9%の死亡率低下効果、なんでコロナワクチンは筋注なの?(2月22日こびナビClubhouseまとめ)

木下喬弘

日本のみなさん、おはようございます。
本日も「こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース」やっていきたいと思います。

先週金曜日に「垂れ流しがもったいないのではないか」というご指摘をいただきまして、今回の内容を文字に起こして公開したいと思います。

今スピーカーの方をインバイトさせていただいていますが、クラブハウスのルールで「ここで話した内容は同意なしに記録してはいけない」ということになっていますので、文字情報で発信することにご同意いただける方に受けていただければと思います。

壇上にはもう6名の方に上がっていただいています。
また朝8:30ですが300人近い方に来ていただき、毎朝ありがとうございます。

それでは、本日も世界の医療ニュースを解説していきます。


最初のニュースです。
私のTwitterでも紹介していますので、もし視覚的にもご自身で読まれたい方はそちらもご覧ください。

https://www.timesofisrael.com/israel-says-vaccine-dramatically-effective-prevents-98-9-of-covid-deaths/

イスラエルのオンライン新聞メディア「The Times of Israel」の報告で、”Vaccine prevents 98.9% of COVID deaths, Israel’s Health Ministry data shows” 「イスラエル保健省が、新型コロナウイルスのワクチンはコロナによる死亡を98.9%減らすとのデータを示した」
というニュースです。

詳しく見ていきます。
土曜日にイスラエルの保健省は、「コロナウイルスのワクチンは”dramaticallyにeffective”、つまり新型コロナウイルスにめちゃくちゃ効いて、Covid-19による死亡を98.9%減らした」と報告しています。
このデータによると、コロナワクチンは重症化を99.2%防ぎ、合併症を95.8%減らし、入院を98.9%減らしました。信じられないくらい効いています。
ランダム化比較試験による臨床試験で得られていた効果が、国全体で使い始めた実際のデータでも確認されてきたという新しいデータです。

どういう人が保健省による報告の対象になっているかというと、基本的にワクチンを2回打ってから14日以上経った人です(まだ論文化されていない段階の保健省による発表なのでこれ以上の詳細はこれからになります)。
ファイザーのワクチンは1回目を打った後、21日後に2回目を打ちます。そこからさらに14日経った人、つまり原則35日経った人を報告の対象にしていると思われます。これは、2月13日までのデータになります。

今のところイスラエルでは425万人が1回目のワクチン接種を終えており、288万人が2回目を終えています。人口は900万人なので、およそ半分というところまで来ています。
ただ、900万人のうち300万人はそもそもワクチン接種の対象になっていません。16歳未満の人、またはCovid-19に既に感染した人がこの300万人にあたります。それらを除いた実質600万人中、425万人が接種を終えているということになります。

イスラエルはどんどんデータが出ていて、1週間前にプレプリントという形で出ていたデータをさらに更新した形になっています。

イスラエル保健省のレヴィ氏は「イスラエルの強力なヘルスシステムが、過去に前例が見られないくらい広くワクチン接種を行い、さらに疫学的な追跡もして、世界で最初に現実の臨床データとして示した」と言っていて、イスラエルはすごいと思いました。

ちなみに、イスラエルでは今のところ16歳以上の方に全員接種を行っていますが、16歳未満の人はコロナによるリスクが低いので臨床試験をせずワクチン接種も進めていませんでした。なお、16歳未満でも合併症のある方、つまりコロナによるリスクが高い方には打ち始めているそうですが、重篤な副反応が出ている人は今のところいないとのことです。

このデータを出したことで、保健省は「昨年の12月から行っていたロックダウンを緩和し、お店や市場、博物館、図書館などをオープンさせていきたい」と言っています。
これらはイスラエル人全員が使えますが、ジム、スポーツイベント、カルチャーイベント、ホテル、スイミングプールを使えるのはワクチン接種またはCovid19から回復した人だけとの案内も出しています。つまり、ワクチンを打たないとプールで泳げないそうです。
また、、ワクチン接種に発行するワクチンパスポート(グリーンパス)も運用しているそうです。

重症化予防が98.9%というデータに対して、登壇いただいているみなさまの感想やご意見はいかがですか?

峰宗太郎
ワクチンによってコロナが重症化しない、死亡しないとなれば、残り恐れるところは感染の伝播なんですよね。そこに触れてないんじゃないかと思うかもしれませんが、実は今朝6時にBloombergというメディアが、同じプレプリントの下書きをソースとして「感染を89.4%も防いでいる」と報じています。

木下喬弘
予想通りくらいの数字ですね!

峰宗太郎
ということは、ワクチンを打っていると「うつらない」「発症しない」「重症化しない」「死なない」ということがわかってきて、これはやはりすごいワクチンだとしか言いようがないです。

木下喬弘
すごいですね。死亡率低下効果98.9%というのは本当にすごいとしか言いようがなくて、そんな医療技術は他にありません。
これがワクチンではなく治療薬だと、だいたい死亡率が元々30%だったのを、25%ぐらいまで下げられれば「すごく効く薬だね」となります。しかしこのワクチンは死亡率を100分の1くらいにするということで、「感染症の予防ってすごい」とこの記事を読んで一人の人間として思いました。
その他コメントいただける方いらっしゃいますか?

前田陽平先生
前田陽平です。「ひまみみ」というアカウントでTwitterをやっています。耳鼻科の医師です。
このニュースはかなり強いニュースだと思います。Taka先生もおっしゃるとおり、まだ論文化される前なので、この記事の数字だけで何かを強く言うのは科学的には難しい部分もありますが、かなり良い、かつかなり衝撃的なニュースなので日本でどう報道されるかに注目したいと思っています。

木下喬弘
おっしゃるとおり日本でもすごく報じて欲しいです。
池田先生いかがですか?

池田早希
臨床試験だと、いろいろな条件をコントロールして比較するので、実世界でのデータが出たというのがありがたいです。引き続き行動制限はあるものの、普通に生活していてもワクチンの効果があるんだというのがわかるので、きちんとしたデータが出たらこれを元に、他の国もワクチンの接種率を元にロックダウン等を緩和していく方向に向かうのだろうなと思います。

木下喬弘
感染性の伝播という点が最後のピースで、イスラエルはロックダウン中ですがすごいスピードで感染者が減っています。それとあわせて、無症候性感染、つまり「症状が出ていないけれどPCR検査で陽性になる人」をどれだけ減らすかというデータが出てきたら、いよいよ集団免疫という言葉が現実味を帯びてきます。
そうすると、7~8割の人がワクチンを打てば元の生活に近い状態に戻れるというのが、このイスラエルの状況であれば言っても間違いではないように思います。

ただ、何名かの先生にご指摘いただいたように、本来こうした科学的な研究データは論文として提出され、専門家の査読、つまり解析された方法が間違ってないか、行きすぎた解釈になっていないかといったことを審査し、論文を書いた人と何度かやりとりをして、こういう形なら論文としての正確性が保たれているから発表しましょうという手順を踏みます。
今回の内容はまだ報道レベルのデータなので、まず論文を書いて、その論文を提出して、医学誌とやりとりをして、精度を高めていってから世に出るという手順のかなり前の段階です。データが間違っていたということもありえなくはないので、その点は少し注意が必要です。

重見大介先生
産婦人科と公衆衛生を専門としている重見と申します。
このイスラエルのニュースでは、32歳で4人お子さんがいて妊娠中だった方がCovidに感染して亡くなったことも報じられていています。この方はワクチンを打ちたくないというグループに属していて、ワクチンを打たずに亡くなられました。ご家族の方は「できれば打ってほしかった」ということをおっしゃっていたそうです。
イスラエルは妊婦さんにもワクチン接種を積極的に進める姿勢を見せています。
今後、妊娠中の方の接種の事例が報告されてくるのではないかと思って注目しています。

木下喬弘
これもイスラエルで少し話題になっていますが、ワクチンを恐いと思う方、打ちたくないと思う方は世界中にいて、イスラエルでは超正統派ユダヤ教の方々の中に、比較的ワクチンに対する抵抗がある方がおられるということが報道されています。

我々も「こびナビ」というコロナワクチンを啓発するサイトを運営していますが、皆さんに絶対打てと言うつもりは全然ありません。ただ、ワクチンを打たない方が、コロナに感染して亡くなるリスクも高くなるので、リスクとメリットを冷静に判断することが重要だと思っています。
かつ、メリットデメリットの判断は医療を専門にされていない方には難しいので、こうしてできるだけ正確な情報をタイムリーにお伝えしようと思っています。みなさんにとって、ワクチン接種について考える助けにしていただけたらと思います。

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続いてのニュースはYahoo個人ニュースから、小児感染症医師・ワクチン研究者の紙谷先生が書かれた記事です。
「新型コロナワクチンはなぜ筋肉注射なのか?」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kamidanisatoshi/20210221-00223722/

これはすごく面白いニュースで、小児のワクチンや皮下注射と筋肉注射のことが詳しくわかりやすく書かれています。峰先生、この紙谷先生は本物のワクチン研究者ですよね?

峰宗太郎
そうですね。ワクチンの審査など幅広く見ておられる専門家です。

木下喬弘
峰先生がおっしゃるくらいのワクチン専門家ということで、ワクチンについて非常に詳しい先生と言えますね!
紙谷先生がワクチン接種は皮下注射なのか筋肉注射なのかということを解説されていますので、こちらを見ていきたいと思います。

(以下記事の引用)


新型コロナワクチン(特に今回導入されたmRNAワクチンを例に)はなぜ筋肉注射をする必要があるのかを考えていきます。皮下注射とは、その字のごとく皮膚の下、すなわち皮下脂肪があるところに斜め45度から注射します。一方で、筋肉注射とは、皮膚や皮下脂肪のさらに奥にある筋肉に注射を垂直に注射します。皮下注射は日本では慣習的に古くからおこなわれており、インフルエンザの予防接種などでも馴染みが深いかと思いますが、筋肉注射はどうでしょうか。今、筋肉注射は話題になっていますが、やはり日本では一般的でなく馴染みが薄いでしょう。しかし日本の常識とは裏腹に、実は海外の多くの国々では不活化ワクチンの予防接種の打ち方として筋肉注射が一般的なのです(※生ワクチンは皮下注射です)。
なぜ多くの国で筋肉注射が一般的なのか?
結論から言いますと、多くのワクチンにおいて筋肉注射の方が皮下注射と比べて実は局所の反応(痛み、腫れなど)が少なくなることが知られています。

筋肉注射は痛いという説を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、僕たちの直感にも反して、筋肉注射の方が痛くないというデータもあるようです。どういうメカニズムで筋肉注射の方が痛くないと考えればいいのか、その説明が秀逸です。

例えば、皮膚を思いっきりつねられるとするどい痛みを感じて、イタタっと叫びたくなるくらい痛いですよね。一方で、いわゆる運動のしすぎなどで起こる「筋肉痛」ってもっとにぶい痛みではないでしょうか?もっと、じわっとくるにぶいもので、筋肉痛で叫びたくなるほどの痛みというのはあまり聞かないです。実は、筋肉という組織は、表面の皮膚に近いところよりも「鈍感」であり、筋肉は痛みを感じる神経が少ないともいわれています。 そのような「鈍感」な筋肉に、とてもほそーい針をほんの数秒間ほどチクっと注射しても、鈍感なので皮下よりも痛みを感じにくいようです。

(引用終わり)

たとえですが、納得感のあるわかりやすい説明だと思いました。

他にも、筋肉注射の方が安全性が高いワクチンもあるとのことです。特にアジュバントというワクチンの効果を高める成分が入った4種混合ワクチンや肺炎球菌のワクチンなどは、皮下注射だと強い炎症や肉芽といって炎症で組織が固くなってしまうそうです。

さらに、筋肉には免疫細胞が豊富で、皮下の脂肪には免疫細胞がやや少なめなので、そういった意味でもmRNAワクチンは免疫細胞が豊富な筋肉に注射をすることで効果が高まるのではないかと書かれています。
すごくわかりやすい記事なので、ぜひみなさんもご一読いただければと思います。

ワクチンの筋肉注射・皮下注射問題は小児科の先生が特に得意だと思うのですが、岡田先生、何か追加でご解説いただいてもよろしいでしょうか。

岡田玲緒奈
こびナビの運営メンバーで小児科医の岡田です。
この皮下と筋肉の痛みの例えはわかりやすいと思いました。
カナダのグループがシステマティックレビューでまとめたものを出していて、筋注と皮下注の痛みの違いはないと言われています。
(Clin Ther. 2009;31 Suppl 2:S48-76.)
また、何が注射の痛みに関与するかということも調べられています。今Twitterでも小児科医を中心に話題になっていて、筋肉注射で打つ前に「引く」のをやめた方がいいと言っている先生がいました。
実は、この「引く」のが痛いというデータが、システマティックレビューの中でも言われています。
引かずにさっさと入れるのが大事ということですが、僕らのプラクティスとしても「引く」という意識すらなくて、小児科医としては暴れるお子さんに打つのにそういう余裕はありません。
あとは本人の気分もあるので、リラックスさせて打つと痛みが違ったりすることもあります。そのため、今から「痛い痛い」と報道するのは危険だなぁと思っています。

木下喬弘
ありがとうございます。少しまとめます。
皮下注射と筋肉注射のどちらが痛いのか、真面目に調べた研究が結構出ているということですね。
ランダム化比較試験といって、ランダムに皮下注射をする人と筋肉注射をする人に分けて、痛がった人はどちらが多いかといったことを調べたという研究が、一本でなく複数出ているということです。
それらの複数の研究を網羅的に調べて解析する研究、それがシステマティックレビュー(メタアナリシス)で、臨床医学では最もエビデンスレベルが高い、最も信頼性が高い研究です。
一番信頼性の高い研究手法で調べた結果、基本的には痛みの程度に差はないということですね。

「引く」というのは、針を刺したあとに注射器を引くことを指します。
これは、もし血管に当たっていたら皮下に投与するはずが血管内に投与してしまうことになるので、そうならないように一度注射器を引いて血が返ってこないかを確認していて、専門用語で「逆血確認」と言います。

紙谷先生の記事でも解説がありますが、筋肉内はそれほど血管がないので「引く」必要がないことがわかっています。ですので、引かずにそのまま薬液を押し込むように注射をすると痛みが抑えられ、接種後の痛みや腫れも少なくなるのではないかと考えられます。

池田早希
小児科としても素早く打つのが大事だと思います。躊躇せずさっと打つ方が、注射を打たれる側も痛みも感じにくくなると思います。

峰宗太郎
ここまでの話で筋肉注射は恐くないことがわかったと思いますが、実は日本では筋肉注射を避けることになった薬害がありました。これを知っておかないと、どうして日本の多くの小児科の先生が筋肉注射を避けてきたのかがわからないと思います。

1962年頃から、静岡や山梨など地域性を持って大腿四頭筋(ふともも)が動かなくなる子どもが多発しました。最終的に、1975年には歩けなくなるくらいの大腿四頭筋拘縮症が1550人に起こりました。
理由を調べたところ、度重なる大量の筋肉注射で抗生物質や鎮痛薬を風邪の治療として打っていた、つまり薬の乱用をしていた医者がいたことがわかりました。
これは国を相手にした薬害訴訟になり、1973年以降提訴が相次ぎましたが「薬害ではなく使い方が正しくなかった」ということですべて国が勝ち、和解になりました。
再発防止のために、1976年に日本小児科学会が「小児にはできるだけ筋肉注射しないこと」という方針を出したんですね。
この病気は「泉田病」「今立病」など多発した地域の名前をとって呼ばれ、薬害筋短縮症の会」というのもできています。
そのような歴史があって、日本の小児科医の先生には「筋肉を拘縮させてしまうから、筋肉注射はなるべくしない方がいい」とすりこまれてきました。
本当はやるべきでない抗生物質や栄養剤などを乱用したことが問題で、ワクチンとは関係ないのですが、そういう歴史があったことを知っておいていただくといいのではと思います。
今では科学的に、世界的には筋肉注射がワクチンのスタンダードになっていますし、安全だということがわかっています。

木下喬弘
ありがとうございます。峰先生が詳しすぎて全員引いています(笑)
びっくりしました!まさかこんな引き出しが出てくるとは思いませんでしたが、大変勉強になりました。
薬害があったことは事実ですが、原因はワクチンと筋肉注射ではなかったわけですね。

池田早希
慣習を変えるのは大変だと思うのですが、今回のワクチンを機にメリットのある筋注に変わっていくといいなと思います。

木下喬弘
学会などの組織がしっかり声を上げていくといいのではと思います。
小児科学会の先生方にご活躍いただけると嬉しいです。

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「こびナビ」というワクチン啓発プロジェクトを運営しております。各種SNS、Twitter、インスタで「こびナビ」と検索してフォローしていただくと最新のニュースをお届けしますので、ぜひ追ってみていただければと思います。

ご登壇していただいた先生もそれぞれの専門家ですので、ぜひフォローしていただければと思います。

本日はこのあたりにさせていただきます。お付き合いいただき、ありがとうございました。日本のみなさん、良い一日を!

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