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他人が入ってくる家

シェアハウスに住んでいたとき、ときどき家に見ず知らずの人が入ってきた。それは大抵誰かの友達、もしくは入居希望の見学者だった。全く誰もが見ず知らずの他人というわけではない。見学者でも、少なくとも家のオーナーはあらかじめ連絡を取っており、相手のことをある程度は知っている。

本とかの店はよく「部屋みたい」とか「家みたい」と言われる。靴を脱がないと上がれないところ、キッチンやトイレが付いているところは、一人暮らしのワンルームマンションのようだ。冷蔵庫もある。そしてレジもカウンターもない。店の体を成していない。逆に家っぽくない点を挙げてみれば、洗濯機置場がないところ、風呂がないところ。それだって風呂なし・コインランドリーの部屋と同じ。

本とかの店が入っている熊野ビルは、れっきとしたテナントビル。一階はバーが入っており、二階と三階の一室ずつを税理士事務所が借りている。今度新しくパーソナルフィットネスが入る予定で、最近工事をしている。まったくもって住居のマンションではない。だから「家っぽい」「部屋っぽい」のは建物のせいではない。ここも前はビルのオーナーの事務所だった。

本とかの店は店だから、急に知らない人が入ってくる。だけど中は家っぽい。僕が一人いるだけ。置いてあるのは本やレコード、ゲーム、お香、服、趣味の部屋っぽい。事実ここには僕の私物がたくさん置いてある(家に僕の部屋はない)。来た人からすれば、まるで知らない人の家のドアを開けてしまった気分だろう。中に入るには、靴を脱いで上がらなければいけない。

この感じが、けっこう好きだったりする。この感じとは、知らない人が急に家に来る感じ。でも本とかの店は家ではないから、お客さんが来ると棚を見てもらったり、買ってもらったり、ときどき話をしたりお茶を出すこともある。名刺までいただくこともある。僕らは全く見ず知らずの他人であり、この店という自由に出入りできる場を介して、その瞬間に接点を持つ。これは冒頭に挙げた、シェアハウスに知らない人が来た時の感覚に近い。そこでちょっと会話したり、仲良くなったりすることもあった。

だから僕は、どんな人が来てくれるか、どんな人が来てくれても、ひそかに楽しみにしています。気負いせずに、どうぞお越しください。

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