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はじめてのレコード話

DU BOOKS「はじめてのレコード」を読んだ。レコードに全く触れたことがない人向けの入門書で、細かい技術的な解説はあまりない。それよりも、これから初めてレコードというものを知るにあたって、レコードとの付き合い方に焦点を当てた本だった。例えば、レコードショップのまわり方、とっておきの一枚の探し方、レコードプレーヤーのいろいろ、レコードのかけ方、レコードの収納のしかたなど。それぞれに写真やイラスト付きで、ページをふんだんに使って紹介している。こういうの、ネットで探してもなくはないんだけど、より見やすくまとまっている。

カバーデザインもとっつきやすい

そして、僕みたいにレコードに触れてちょうど1年が経とうとしているような新参者が、よくわからないまま通り過ぎてきた疑問の答えも載っている。例えば、重量盤は何が違うのか、とか、レコードのコンディション表記の基準について、とか、レコード針のクリーナーは針を固定している接着剤を傷めることもあるため、ひんぱんに使わないほうがいい(p59)とか。完全な初心者だけでなく、少し触れたことがある人も、初めてレコードに触れたときを思い出しながら、豆知識を知ったり楽しめる内容になっている。

この本で僕が一番おもしろいと感じたのは、「レコードのある暮らし」と題したコーナー。レコードを愛好する何人かのインタビューが掲載されており、レコードとの出会いや、生活の中でレコードとの触れ合い方が紹介されている。本気度はやや高め。こういう実際の経験談を読むのがおもしろかった。レコードというものが、人々の生活とどう結びついているのかがよくわかる。そういうのはいくらでも読みたいと思う。

だったら自分も書けばいい。書きます。僕はレコードに触れてからまだ1年しか経っていないため、浅いけれど僕の「レコードのある暮らし」。

僕は完全にCD世代だけど(配信でもiPodでもなく)、レコードの存在は前から知っていた。友人のササキくんはレコードコレクターで、ニューヨークやトロント、ハバナを訪れた際も街のレコード屋やアンティークショップでレコードを漁っていた。僕はそれを横目で見ていただけで、当時は特に興味がなかった。しかしこの付き合いがあとあと影響することになる。

レコードに触れるようになったきっかけは、父親が聞きもしないレコードを大量に買って放置していたところから始まる。父親はレコードプレーヤーも持っていないのに、懐かしがって骨董市で大量にレコードを買っては、ガレージに眠らせていた。今となっては何故買ったのかもよくわからない。僕はメルカリで売れるんじゃないかと思った。メルカリでレコードを検索してみると、たくさん出品されている。

父親は「売れるなら売ったらいい」と言うので、実際に出してみた。いくつか売れた。40年も50年も前に作られた円盤を、買っていく人がいる。そのうちに、この円盤はいったいどんなもんなんだろう?という興味が湧いてきた。音楽が記録されているということは知っている。しかし、音楽を聴く手段なんていくらでもある。なぜレコードなのか?人に売っておきながら、いまだレコードを聞いたことがなかった。これはいっちょ、レコードプレーヤーを買って聴いてみようと思った。

しかし、レコードプレーヤーを買うと言ったってどうすればいいかわからない。Amazonなどを見てみると、今も新製品が売られているようだ。1万やそこらからあるらしい。それにしても、メーカーは聞いたことがないところばかり。一体どれを買えばいいやら。ここで、冒頭のササキくんが出てくる。そうだ、彼が詳しいはずだ。彼に聞いてみようということになった。

ササキくんのすすめで、中古のTechnicsを買うことにした。1万円やそこらのプレーヤーで聞くより断然音がいいらしい。そこにCDプレーヤーのスピーカーをつないで、アンプとフォノイコライザーの代わりに、ササキくんから「レコードデビュー祝い」ということで頂いた中古のミキサーをつないだ。

そうして僕のレコード試聴環境は整った。はじめてかけたのは、ラテンのわけわからないやつ。中古のプレーヤーだから、まず音が鳴ったことに感動した。それからいろいろなレコードをかけ続けた。聞いているうちに、レコード市場の流行も知るようになった。AORから外国人を中心に一大ムーブメントとなったシティ・ポップを聴き、ラジオのアフター6ジャンクションで交わされている音楽談義も徐々にわかるようになってきた。そこからさらに派生して和モノレアグルーヴというジャンルを知り、泰葉などを聴いた。

最近はやっと環境音楽にまで手を伸ばした。去年から今年にかけて最も熱かったのは吉村弘じゃないだろうか。Netflixオリジナルアニメ、湯浅政明版「日本沈没2020」でもその楽曲が採用された。

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こちらはmeditationsで購入したリイシュー(再販)

中古だけでなく、新譜のレコードも買うようになった。新譜といっても主に再販で、オリジナルが手に入りにくかったもののリイシューを購入して聞いている。さらに「本とかの店」にときどき来て購入してくれるDJの人から、今は俚謡山脈といった民謡のミックス流行っていることを知った。

このようにして、僕の中のレコードという分野はこの1年の間にどんどん拡がりをみせていった。レコードの魅力は、古いがゆえの再発見、再発掘にあると思います。イギリスやアメリカなどでは、自宅ではレコードで聴き、外では配信で聴くという2つの形態が両立しているそうだ。レコードという分野は、まだまだこれからもおもしろい予感がする。

これからレコードに触れる人へ、「はじめてのレコード」を読んでみてもいいかもしれません。「本とかの店」にも置いていますよ。

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