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隅田川 森羅万象 墨に夢 - 天宇受売命再生乃図〜2つの絵馬のあいだで踊る〜「ライブあぶりパフォーマンス」【レポート】|2023.10.22

日時:2023年10月22日(日)
会場:牛嶋神社 神楽殿(東京都墨田区向島1丁目4−5)
あぶりだし :
水川千春(美術作家)
音楽:四倉由公彦(音楽、サウンドアート、郷土芸能愛好家)

隅田川 森羅万象 墨に夢(通称:すみゆめ)」というアートプロジェクトがあり、2023年は9月1日〜12月24日までの期間、様々なアートイベントや展示がありました。その中のイベントの一つ「百歳の瀬(ももとのせのせ) 天宇受売命再生乃図〜2つの絵馬のあいだで踊る〜」にて

2023年10月22日に東京都墨田区にある牛島神社の神楽殿で、美術作家で炙り出し絵を制作している水川千春さんのライブあぶりだしで一緒に即興で音をつけさせてもらいました。一緒にライブをしたのはちょうど10年ぶりでした。

水川さんとの出会いと、今回の経緯について、記憶を辿りながら綴って行こうと思います。

百歳の瀬 フライヤー 表
百歳の瀬 フライヤー 裏

石巻での出会いとセッション(2012年〜2013年)

日和アートセンターでのアーティスト・イン・レジデンス(2012年)

水川さんと出会ったのは2012年。

当時石巻にあった「日和アートセンター」というアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作、展示をする)施設があり、水川さんは当時はそこに寝泊まりしながら制作をしていました。

2012年 日和アートセンターで制作している水川千春さん

僕も復旧、復興活動の傍ら日和アートセンターのお手伝いなどをしていたので、水川さんと知り合い話などをしていと関西の共通の知人がいたり、制作中の作品を見ながら制作の話を聞かせてくれたりと、とても仲良くなりました。

「水」という自然のもの。かつ、場所や状態にもよっても同じ「水」でも唯一同じものがないもの。それを使って、火の熱を使って炙り出して有機的かつ現象的な絵。その色味一つひとつに生命が宿っていると感じ、胸がとても暖かくなったのを記憶しています。

また、「水」によって災害に遭い、色々なものが壊れて無くなったりしたけれど、自然はそういう怖さがあり、同時に命の恵むものでもあるということを再認識させてもらったような気もしました。

2012年の頃の僕は、いわゆる「復興イベント疲れ」みたいな状態でもあったと思います。

地域の創作和太鼓や、獅子舞などの郷土芸能の団体として出る時は切り替えて全面に地域性と現状をお伝えしていました。

しかし、自分自身の音楽活動する上ではどうしても震災復興と自分の表現を繋げて考えることはできませんでした。
地元の復興イベントでは遥々遠くからくるアーティストがステージに上がり、地域を元気に!という熱がある中、僕は地元で演奏することから少し距離を取っていました。

(これについては、また別の機会に詳しく書きたいなと思います)

そういう中で、水川さんの作品に触れた時に自然と、ああ、何か一緒に作りたいなぁと思い、そう話をしていました。

つるの湯祭り(2013年)

年が開けて2013年になり水川さんからメールがきました。

「今度石巻のイベントで炙り出しをするので、一緒にやりませんか?」

色々な思いはありましたが、考える間も無くOKと返事を出しました。

宮城県の石巻市にある大島神社(通称:住吉神社)で「つるの湯祭り」を、当時石巻に震災復興ボランティアなどで集まって縁のあるアーティストと地元の住民(神社の総代会の方々)で作ったイベント。

震災で被災し営業ができなかった地域にずっとあった「つるの湯」という銭湯を、四国のアーティストの「さっこ」ちゃんが中心になって営業再開まで支援し続けていたそう。

例の地元での復興イベントでの演奏についても色々と思うところもありましたが、そのさっこちゃんとも会い、話を聞いて納得してつるの祭りへ僕も参加することを決めました。

当時の日記(Blogger)がありますので、もし良ければ覗いてみてください。

  1. https://coupieyukki.blogspot.com/2013/06/41.html

  2. https://coupieyukki.blogspot.com/2013/06/4.html

  3. https://coupieyukki.blogspot.com/2013/06/blog-post.html

  4. https://coupieyukki.blogspot.com/2013/06/44.html

  5. https://coupieyukki.blogspot.com/2013/06/45.html

水川さんと僕は、つるの湯の水、北上川の水、石巻の海の水を使って炙り出し絵を、大島神社の社殿でライブ炙り出しをし音と絵を奉納する。

特に多くを打合せをする感じではありませんでしたが、前日に神社を自分たちで掃除して、使う水を川と海へ汲みに行き、その空気と景色を見て。

「こんな感じでいきましょう」

と、一言交わし合っただけ、だったと思います。

2013年4月 イベント前日に水を汲みにいく(渡波海水浴場)
2013年 つるの湯祭りでの奉納ライブ炙り

ライブは、僕自身も北上川の水と海の水、つるの湯の水を混ぜたものを桶に入れて水を使った即興演奏から始まり、ギターを持つ。水川さんの呼吸や動きに集中して合わせていく。
それをひたすら続けて、気がついたら終わっていた。という感じなのであまり内容は覚えていません。

ただ、出来上がった浮かんだ絵をやり切った感で見ていて、生命そのものに対して捧げることのできたセッションだったなとふと思えました。

それは、自然に対する畏怖と感謝、そして震災で亡くなった人たちへの鎮魂の祈りと、ここで繋がった縁への感謝。

まさに「生命への讃歌」

振り返るとそういうことの表現だったのかなと思える、とても印象深い水川さんとの初セッションでした。

すみゆめ 百歳の瀬(2023年)

隅田川と関東大震災とアメノウズメと

2013年のつるの湯祭りから10年が経った2023年。8月に久しぶりに水川さんから連絡をもらい、10月に浅草の牛島神社の神楽殿でライブ炙りをすること、そして10年前のセッションの時の記録音源があればそれを使いたいとのことでした。

つるの湯祭りではタイムスケジュールもバタバタしていてサウンドチェックする間も無く始まってしまったので、レコーダーやビデオをセットできず音や映像の記録が無いことを伝え、今回のすみゆめについても色々とイベントのテーマ、水川さんがやろうとしていることなどを聞かせてもらいました。

百歳の瀬 魂をしずめ、ふるわせる隅田川に踊り、描く

関東大震災から100年、著しい被災から復興した隅田公園を舞台に、鎮魂の意を込めた踊りを捧げる「すみゆめ踊行列」。
多彩な歌い手と演奏家による生演奏盆踊りで、ふらりと踊りの輪に加わったり、哀悼の舞を見つめたり、この地に蓄積されてきた出来事に心を添わせつつ過ごせる場を設けます。
隣接する牛嶋神社では、北斎が疫病退散を祈念して絵馬を奉納したことに因み、隅田川の水で描くあぶり出し絵《天宇受売命再生乃図》を展示。
魂を揺さぶる踊りで天照大神を誘い出したアメノウズメノミコトが芸能と鎮魂の神であることから、災厄からの再生を願うものです。
人々がさまざまな表現に託した祈りと希望、共に感じ、伝えていく一日となります。

https://sumiyume.jp/event/momotosenose2023/

隅田川周辺も甚大な被害を受けた関東大震災から去年2023年で丁度100年。
牛島神社では北斎が疫病退散を祈念した絵(絵馬)を奉納したとのことで、その対になるような絵を作っているとのこと。

鎮魂と、厄災からの再生と未来への祈りを込めたもの。

その話をしてもらった時に、10年前のそれと、とても繋がるものを感じずにはいられませんでした。

「生命への讃歌ですね」

記録が無いので、記憶を起こして水川さんのライブ用の音源の制作をしようと思ったのですが、もし可能であるのなら直接一緒に演奏した方が良い気がして10年前のように一緒にライブするのはどうかと提案してみました。

喜んでくれて、イベントの担当者の方にも確認を取っていただいて、10年ぶりに神社でのセッションをすることが決まりました。

東日本大震災で祈ったことが、今度このタイミングで100年前の関東大震災、そして今のコロナ禍からの再生へ向けて祈るセッション。

《須佐之男命厄神退治之図》(推定復元図) すみだ北斎美術館蔵
企画制作:墨田区、すみだ北斎美術館
製作:凸版印刷株式会社
https://sumiyume.jp/report/5460/ より引用)

当日会場になる牛島神社に奉納されたという北斎の絵が、スサノオノミコトが厄神、悪鬼達を懲らしめてもう二度と悪さはしないと証文を取る図みたいです。
馴染のあるなとすぐに思いました。というのも、この10数年何度も見て関わっている雄勝法印神楽の演目の一つの「魔王退治」。

そして、水川さんはアメノウズメノミコトを中心に描くそうで、これもまた馴染むイメージが法印神楽での「岩戸開」そのもの。

イメージ絵や、出てきた詩的な言葉など見させてもらい、よりなるほどと。

祈りと願いのイメージがこの10年、郷土芸能で関わってきていた神話の内容とも繋がり、今ここで水川さんとのセッションは神話を降ろして祈る神楽のようなものにもなりそうな予感もしました。

下見と再会

とはいえ、僕自身浅草や向島に行ったことがなかったので、本番の1ヶ月前に一度下見で色々と見に行ってきました。

隅田川を眺めるアオサギ
とりあえず音を録る癖がある。海の匂いが交じる川で石巻の北上川を思い出す
橋を渡って向島に来るとまた雰囲気が違う
本番会場になる牛島神社の神楽殿

神社の近くにある、すみだ郷土文化資料館にも足を運んでみました。常設展では東京大空襲の展示もありました。

もちろん歴史の教科書では小学校で習って知っているけれど、改めて関東大震災だけではなく、空襲でも酷い被害を受けて、そしてここまで復興、復活したということを改めて思いました。

町が復興するのは、本当に本当にエネルギーが必要なことへ、強く共感もしました。

水川さんも合流し色々と案内してくれました。10年ぶりの再会

水川さんとも合流し、久しぶりに会う。本当にあのつるの湯祭り以来だと思うので、10年ぶり。SNSで色々と活動は見させてもらっていたので、そんな気もしませんでしたがかなり久しぶりでした。

お互いの近況を話しつつ、当日の段取りをある程度確認。決めすぎず、方向は合わせつつという、前回の完全即興という感じでは無くやり取りするのも新鮮で面白い。

天宇受売命再生乃図〜2つの絵馬のあいだで踊る〜前日と本番

本番前日に現地入りして、色々と準備。

本番前日には7割くらいできている水川さんの絵が展示されていました
ROLAND Mobile Cube

今回電源が取れないとのことで、モバイルでできるPAやMacbookをエフェクター代わりにしたセット。
このスピーカー、本当にすごく良い。電池駆動だし、持ちも良く、音量も5Wとは思えないほど大きい。お外や電気の無いところでのちょっとした演奏におすすめです。

篠笛・ギター・Macbookのチェック

Macbookをエフェクター代わりにするの、こういう電源取れない環境でこそ良いなと改めて思いました。
でも、いざとなれば、完全アコースティックでもできる。

PAスピーカーと一緒に全部スーツケースに入れて移動できたので、可能性を感じるセット。

サウンドチェックもして準備完了。
明日、無事に奉納ライブができるように神社でご挨拶をして会場を後にしました。

宿について、ふらふらと周辺を歩いていると、「鶴の湯」という銭湯を見つけて、迷わず入る。鶴の湯にじっくり浸かりながら、10年前のことからこれまでをゆっくり記憶を思い起こしてから休みました。

台東区鶴の湯

本番の当日。
水川さんと炙り用と演奏用の水を隅田川で水を汲みにいく。

なんか、こう見ると魚を獲るオジサンみたいですね。

隅田川でお水を汲む

牛島神社で、スタッフ関係者と演者で正式参拝をさせていただき、

神楽殿に戻り、スタッフの方々にもお手伝いいただいてライブ用のセッティングを済ませる。

絵と水川さんと対面しながらの演奏

実はこの日、石巻市の雄勝町では新山神社の再建の報告を兼ねた例大祭が執り行われ、雄勝法印神楽や雄勝町胴ばやし獅子舞味噌作愛好連も同時刻くらいに演舞をしている筈で。

このセッションの始まりに、よく雄勝の祭りで必ず耳にする神楽で一番始めに鳴らす打ち鳴らしをオマージュした笛で始めようと思いました。神楽が始まりますよ、と。

あとは、10年前のように無心で水川さんの呼吸に合わせて音を紡ぐ。

今回、特に一回目のセッションは水川さんの動きが、アッパーな感じというか、激しさを感じるような炙り方だったのを覚えています、が、その時覚えていたのはその事だけ(笑)

何故か僕自身終わった後は少し放心状態。気てくれたお客さんに気の利いたことをお話したかったのですが、言葉がなかなか出てきませんでした。

ただ、終わった後の水川さんが絵の中のアメノウズメの表情ととても似ているなと今思い返してみると、そういうことを考えていたようにも思います。

https://sumiyume.jp/report/5460/ より引用
https://sumiyume.jp/report/5460/ より引用
https://sumiyume.jp/report/5460/ より引用
描きあげた炙り

きっと、アメノウズメのように舞うように炙ったんだなぁ。

うん、炙り神楽だったと思う。

絵の中には、巫女が居て、花魁がいて、スカイツリーがあって、水が流れて、桜が咲いて、首都高があって、そしてアメノウズメが少し驚いたようにそれらを見ている。

https://sumiyume.jp/report/5460/ より引用

この神楽、次はまた10年後か、それともまたすぐ機会があるのかは御縁のみぞ知るところだけれど、またやりたいなと思いました。

この祈りが100年前からこれまでのこの土地に届いていると嬉しいなと思います。

そして、炙りのような音楽というのも何か僕自身でも形にしてみたいとも思うセッションでした。

そして10年前も、そして今回も、自分にとっても「再生」がテーマになっていると思える機会、セッションでした。

すみゆめの公式でのレポートはこちら


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