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12弦ギターは修行

先日BB Kingのベスト盤を聴いてからBluesの名盤を少しづつ聴いている。
今日はPrestigeのBluesvilleレーベルから出ているBlind Snooks Eaglinの”That's All Right”を聴いている。

このアルバムのタイトル曲はあのエルヴィスが初めて録音したあのThat's All Rightである。元々はArthur "Big Boy" Crudupが歌い(レモン・ジェファソンの歌詞を引用しているのだけれど)、それをBlind Snooks Eaglinがカバーしている。レコーディングは1961年だからエルヴィスのバージョンを聴いた上での録音である。

それも良いのだけれど、このアルバムはその他にも色々なブルースの名曲が入っている。あのRay Charlesのヒット曲”I Got a Woman”も入っている。もちろんRay Charlesがオリジナルで、こちらはカバーであるが、なかなか迫力がある。

私が一番気に入っている曲は彼のオリジナル曲の”Alberta”である。エリック・クラプトンのヒット作”Unplugged"に収録されていたあの”Alberta”である。

Albertaを彼のオリジナル曲と呼ぶのは、ちょっと語弊があるかもしれない。あの曲は”Corrina Corrina"というブルース(カントリーの人もよく演奏する)の名曲の歌詞をCorrinaからAlbertaに変えただけだからである。実はこのCorrinaをAlbertaに変えて歌っているという曲は、Blind Snooks Eaglin以前にも何人かが歌っており、それぞれになかなか味わい深い。

しかし、クラプトンのバージョンを聴いていると、クラプトンが間違えなく下敷きにしているのはこのBlind Snooks Eaglinバージョンであるからだ。
12弦ギターのイントロといい、ボーカルのスタイルといい彼のコピーだ。

Blind Snooks Eaglinは30年代の生まれなので、最近(2009年)までご存命であったらしく、それほど古いブルースマンではないが、この1961年の録音ではすっかり戦前のカントリーブルースマンのような歌になっている。録音の荒さもそれの雰囲気作りに加担していて、私は今日このアルバムを聴くまで1961年録音だとは知らなかった。

クラプトンのアルバムのライナーノーツを読んだのは、もう30年以上前の話だったと思うので、なんと書いてあったかはわからないけれど、確かオリジナルはレッド・ベリーだと書かれていたような気がする。
レッド・ベリーのバージョンを聞くと、全然違う曲なのであるが、歌詞は似たような内容であった気がする。聴いたのも、もう30年ぐらい前なので記憶が定かではないが。レッドベリーも12弦ギターを弾くもんだから、そっちと混同されたのかもしれない。

何れにせよ、クラプトンはこの曲の素晴らしいバージョンを録音し、この曲を一躍有名にしたことは間違いない。Blind Snooks Eaglinもそのおかげで脚光を浴びたのかもしれない。いや、浴びてないかもしれない。

しかし、この曲を聴いていると、なんとなく12弦ギターって良いよなぁと思えてくる。あのイントロの感じからもなんだか大変複雑なことを演奏しているかのようなサウンドになっていて、その実それほど難しいことは弾いておらず、そういう荘厳なサウンドを出せる12弦ギターはなんだか素敵である。

12弦ギターはそもそも音量をかせぐために複弦にしたのだろうけれど、弾いてみると、確かに倍音がやたらと出るのだが、音量自体はさほど変わらない。ドブロの方がよっぽど大きな音が出る。

戦前のブルースマンは、音量をかせぐためにドブロか12弦ギターを使っている人が多いが、ドブロは大抵オープンチューニングでスライド奏法の方が
使い、12弦は力強いストロークの方が使っている。

ドブロも12弦も、ブルース好きなら一度は憧れて購入したりするのだが、実際に弾いてみると、12弦ギターのというのはとても弾きづらい楽器である。もう、それは苦行と言えるほどのもので、サウンドバリエーションも乏しい。ドブロもサウンドバリエーションには乏しい方ではあるが、演奏しやすいかどうかでいけば、ドブロの方が比較的普通のギターに近い感覚で弾ける。ドブロでスライドではなく、フィンガーピッキングなんかやってみることもできる。しかし、12弦ギターでフィンガーピッキングをするとなると、かなりの根気強さが必要となる。

バーズのロジャーマッギンのような12弦のスタイルは別として、ブルースマンのスタイルで12弦ギターを弾こうとする方は、あの楽器を弾くのはある意味修行と割り切って、取り組めば良いと思う。

その修行への誘いに一番貢献しているのは、やはりクラプトンの”Alberta"である。弾いてみるとわかるとは思いますが、ああいう風に上手いこと扱える代物ではないので、12弦ギターに挑戦する方は、心してかかれば良いと思う。うまく扱えるようになると、あの荘厳なサウンドを手に入れることができる。と、思う。


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