私に5月を求めるな

「俺がついてるから安心しろ」

まさか、本当にただついているだけで何も言わず、置物のように黙り込んで座っているだけだなんて誰が予測できただろうか。一瞬でも兄をスーパーヒーローだと期待してしまった自分を責めながら、初めて親に本音をぶつけた19歳の5月。

あの時の出来事は私の人生史上トップを争う修羅場である。
精神的に限界がきて初めて精神科に行き薬をもらってきたこと、かなり勇気を振り絞りこれまでずっと思ってきたことを伝えた私に父はこう放ったのだ。

ーーー「ごちゃごちゃ言ってるけどただの”五月病”なんじゃないのか?」

一瞬、時が止まる。娘が必死に訴えているのを尻目によくそんなことが言えたものだと今でも思う。相変わらず黙り込んだままの兄、涙目になっている母、震えの止まらない私、怒りでペットボトルを床に投げつける当時の彼氏(のちの夫)、ペットボトルの音にビビる兄、怒鳴り散らす父、思い返せば返すほどカオスな状況だった。


時はかなり進み、ここ最近余裕のなさと全体的な不調に涙をこぼすことが多い私。その横で夫が心配そうに見つめる。これまでも定期的に不調になることがあり、そのきっかけや原因について振り返っていた。そこである共通点が浮かび上がる。

“毎年調子を崩すのは大体5月”

見つめ合う夫と私。父があの時放った言葉はあながち間違いではなかったのかもしれない…と思ったところで、夫が私にこう言った。

「俺がついてるから安心しなよ」


私は近くにあった空のペットボトルを思わず握りしめたのだった。

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