見出し画像

太陽にダンス

2016年に西荻窪のライブハウスFlatのイベントで上演した一人芝居の戯曲です。
設定としてはとある地下アイドルの隣に住む植物好きの男が植物が好きなあまり植物になろうとするんですが、自分だけ「ほんもの」になることが許せなかった地下アイドルに撲殺される話です。
演出上すごく体力を使う芝居だったことを覚えてます。

写真は対バンのあずまりゅーた君と七つ森の前にいるところです。

『太陽にダンス』
新井田琴江

指の形カメラを構え、立つ女

「あかさたなはまやらわ、いきしちにほもよろを」
「息してに」
「あ、あの日」
「か、回覧板を持って」
「さ、た、沙汰を確かめに行ったら」
「な、凪いだ風」
「は、弾け飛んだ」
「ま、マサチューセッツ州と縁遠い」
「や、ら、やらかした」
「わ、私一人で見た」
「息してね」

見下ろして

「この人息してね」

回想。温室。隣人

「隣人はたった一人でその家に住んでいました。その家には温室があり、植物園でなければお目にかかれないような不思議な植物が日々生まれ、胞子を飛ばすのもあれば虫を食らうのもあって、永遠の時間を生きているかのような隣人は時折私を招き入れてくれました。」

横たわる姿を見つめ

「この人の時間が止まったのです」
「更に永遠の時間を手に入れた」
「たまにうたうとき、私はこの人を思い出すでしょう」
「時間が交差して、あのとき出会えたように」
「これは希望的観測です」
「そして希望の話でもある」
「望むものは全て道端に落ちている」
「それを見つけるか気づかずに通りすぎるかなのです」

撮影する。

「カシャ」

植物から離れる試み
時折特徴的に息を吐く。

「どこにも行けなくて何処へも行けそうな2015年近所の旅に出た
海のように広がる東京砂漠、が行く手に広がって、それでも歩いていける泳ぐ必要はない、飛ぶ必要はない、翼とか水かきとかなくても行けるだろって小さく自分を励ました
2015年宇宙を旅する方々が今日も地球は青かったって証明してくれ、
緑より白より青が多かったって証明してくれ、大多数が自分に気持ち良く朝を迎えられるようにこの足がありとあらゆるものに支えられて立ってるんだ
今日目覚めた時、私は私じゃなかった明日はもっと私に戻って眠れるように、太陽が照らしてる間は目を閉じないでいくつもの吐息を踏みしめ、吐く息を捕まえたときほんものになるんだ
寒くなって息が白くなって、二酸化炭素が目に見えるくらい生きてるって言うのを、0.2mg実感した、この体と心のなかのもの全部出して、満足そうに眺めたあと綺麗にしまってもそのうち自分がそういうものだってこと忘れてしまう、あの日見たでしょ。感じたでしょ。息。
柔軟にしてるから、変化して忘却して、でも芯があるって信じたいんだ。
吐いた歯車が重要な部品ではないかって不安になって飲み込んだ。あれはきっと芯だった。
あの日見たでしょ。感じたでしょ。息。」
「吐く、胞子、どこかで、このように」

ここから先は

2,912字 / 1画像

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?