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2020年11月18日のこと:須藤圭太

読書感想文 No,10
「神木探偵 -神宿る木の秘密- 」
著者 本田不二雄

なんとも渋い本を手にしてしまった。
でもこの表紙と目が合ってしまったのだから仕方ない。

神木とは社寺などで祀っている樹木、特に途方もなく長い時間を生きてきた古木の事を言う。
タイトルの通り、本書は著者が全国の神木をひたすら巡るというもので、ガイドブック的な内容かと思いきや、ちょっとした小説ぐらいの読み応えがある一冊だった。

樹木の生態的な側面や歴史的背景、著者独自の解釈なども交えながら各神木のストーリーが著者撮影の写真と共に描かれる。
本書では44本の神木が紹介されていて、どれも推定樹齢800年以上とかなりの古木揃い。中には2000年以上と言われているものもあり、その異形とも言える樹形や佇まいは写真越しでもドキッとするものがある。
通常ではありえないほど長い時間生きてきた神木だが、その存在は人との関わりがあってこそのものだと著者は言う。
通常森の中にある木は雷や台風、気候によって倒れたり、腐るなどして長くは残らない。その中でもたまたま残った古い木を人が神木として崇め、失われないよう手厚く保護してきたからこそより長く生き続けている、つまり神木の存在そのものが人の歴史ということなのだ。

実は私もちょうど昨年の11月に本書の表紙になっている佐賀県武雄市にある「武雄の大楠」を(たまたま)見ていた。
樹高約30m、幹回り20m、枝張りは東西30m南北33m。
神社の奥、山の傾斜に鎮座していた大楠はすごい迫力というか、ラスボス感というか、何かこうこの世のものとは思えない、畏敬の念を感じずにはいられない存在感で、それはもう”物”ではなく”者”という感じの佇まいであった。

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昨年11月に撮影した武雄の大楠

先にも述べたように、その土地に古い木があるということは、その木と共にその場所で暮らしてきた人々がいた証でもある。
ある哲学者の方の言葉だが、近年つくられている新しい街には絶対にないものが三つあるという。一つは風俗、二つ目は社寺、そして三つ目は古い木。
この三つは人(特に日本人)の根源的なもの(性、生、聖)と深く関わる場所だという。
なるほどと思える視点だ。

調べてみると住んでいる場所の近くにも神木、大木として天然記念物に指定されているものが案外あって、その所以なんかもちゃんと残っていたりする。
神木の樹齢からその土地の歴史を想像してみたり、木の種類から土地の気候や環境について考察してみることで、身近な土地の違った側面が見えてきたりするのかもしれない。


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