『島の暮れ方の話』 小川未明
小川未明 『島の暮れ方の話』 (小川未明童話集,新潮文庫)
早春の南の島を、旅人が歩いていました。みすぼらしいわら屋の前をとおると、見たこともない美しい女性がしょんぼりと立っていました。旅人は女性に道をたずねます。女性は親切にも途中まで案内してくれました。あくる日、旅人はあの不思議な女性のことが気になって、もう一度みすぼらしいわら屋に行ってみることにしました……
五頁のささやかな物語ですが、さいごの一行を読むと腑に落ちる仕掛けになっています。もう一度はじめにもどって読み返したくなります。
美しさと怪しさと切なさの同居したこの余韻は、幽玄とでも言ったらよいのでしょうか、お能の演目にあってもおかしくないと思います。日本人の精神性がよく染み込んだ作品だと感じました。
うつりゆく自然に無常を感じ、無常はあいまいだけれど豊かさを生み、豊かさは悲しみを生きる力へと蒸留させて、無常の世を味わい深くしていく……。そんな、しなやかで美しい精神文化は貴いものだとしみじみ思います。
あの親切な女性とその子供たちに幸いあれと願います。
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