『桑の実』鈴木三重吉
『桑の実』鈴木三重吉
身寄りのない未婚のおくみは、お手伝いとして画家の
青木の家に住み込むことになりました。青木の家での日
常と、周囲の人たちとの交流を、おくみの視点で描いた
作品です。
女性のあいだに取り交わされる古き良き時代の上品な
言葉づかいが、ふくよかな人間関係を象徴しています。
地の文体もその調子に合わせてあり、やすらかな心地に
なります。
起伏のない日常が淡々と進行するだけの物語ですが、
退屈は覚えません。年ごろの未婚らしい、慎ましく純粋
なおくみの心根が、紙面全体に沁みわたっているような、
清潔感あふれる作品です。
登場人物にも悪い人はいません。善良な人々にかこま
れて、おくみは今の居場所に落ち着きを感じます。今後
の進路の不安も抱えつつ、周囲の心遣いに感謝しながら、
おくみは今日をていねいに暮らしています。
刺激こそありませんが、心の洗われる淡い水のような
作品です。
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