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橋本忍は、弟子の国弘威雄に言った。

日本映画史上最大の脚本家・橋本忍は、弟子の国弘威雄に言った。

「君はそこのシーンをうまく書こうと思うから、行き詰まってしまうんだ。うまく書こうと思うな。上手に書こうと思うな。もっと平凡な、単純な、幼稚でもいい、子供の作文のような形でいいから、とにかくそのシーンを書いてごらん。それで形ができたら、それを直して、さらに直していけばいい」
〜『橋本忍 人とシナリオ』「師の語録」国弘威雄・シナリオ作家協会


そのシーンを、橋本忍は別角度から文章として残している。

「僕は大変考えた上にこんなことをいったのではない。国弘君の気配を感じ、そして彼の顔を見た途端に、咄嗟に、無意識に口から出たのだ。だが言い終わると同時に、何か愕然とした。その夜、床に入ってから、なかなか容易に寝つけなかった。二十年近い年数がたって伊丹さん(引用者注:橋本忍の師匠の伊丹万作)のいった言葉の意味が、初めて真に心の底から理解できたのである。書いている途中で行き詰まるということは、結局どういうことであったのか。いや一本一本の作品にどうしてあんなに喘ぎ苦しんだのだろうか。それは要するに、書きながら自分の書いているものを、ああでもないこうでもないと強く批判し過ぎてきたからである。創造力を上回る批判力の作用が作品の進行に物凄いブレーキをかけていたからです」
〜『橋本忍 人とシナリオ』「師の語録」国弘威雄・シナリオ作家協会

なるほど。

なるほど。

さすが偉大な橋本忍先生は、しびれることおっしゃる。

よし。わたしも、平凡でも、単純でも、幼稚でも、子供の作文のような形でも何でも、どんどん書いてみることにしよう。

ここは、その書いたもの置き場です。