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マンガを描くコツについて:彼女を救うためのピタゴラスイッチ

マンガ描きはマンガをどのように描いているのだろう?

細々とマンガを描き続けて、自分なりの「マンガのコツ」のようなものがたまってきたので、ここにメモしておきたい。「マンガの描き方」的手法書は世の中に沢山あるけど、理論でなく、マンガ描きが個人的に積み上げてきた実感をシェアするのも面白いんじゃないだろうか。(人によって違うので、「ここ違う…!」と思いながら読んでいただくのも良いと思います。創作手法に正解はないので。)

※この記事ではマンガの描き方理論には触れないので、理論を知りたい方は東京ネームタンクのワークショップに行ったりを読んだりがおすすめです…!

ただ1つの感情を描写する

マンガ描きはなんのためにマンガを描くのだろう?色々なタイプがあるけれど、私の場合、基本的には「1つの感情を描写するため」だ。(「感情」じゃなく「関係性」や「状況」といった方が相応しいときもあるかも)

世の中には「大きな物語」とでもいうべきものがあって、それは例えば「結婚は幸せ」「人生の目的は成長」「家族の絆はすばらしい」などのポピュラーかつステレオタイプなストーリーである。大きな物語は私がいてもいなくても環境の側に用意されているが、それだけでは私のことを話すにはどうも足りない時がある。

大きな物語に取りこぼされた感情は、どうすれば居場所を持つことができるのか。言語化する。方法はそれだけである。見落とされている感情に物理的に居場所を持たせる。マンガを描く時は、まずはそのことに注力する。居場所を持たせたい感情をできるだけ精確に見つめて、その感情はどういうものかをしっかりと確認しておく。

そして、この段階で描きたい感情を知っているのは作者本人だけなので、感情の言語化はまずは一人でやらなければいけない。(マンガを描く時、「一人で責任持ってやるフェーズ」と「人に意見もらった方がいいフェーズ」はわりと交互にやってくるよね、という実感がある。ある程度自分で自分の感情が分かった後で、人と壁打ちをして言語化の精度を高めていくこともある)

読者を具体的に想定する

次にやることは、読者を具体的に想定することだ。前の段階で描く感情が決まったので、「同じ感情を持っているが、言語化できていない人」が想定読者になる。抑圧とそこからの解放を描き、それを読んだ読者も解放される、というのが物語の基本的な機能となる。(というより、自分の気持ちが言葉になること自体が解放だとは思う)

私の場合は今のところ「過去の自分」を想定読者にすることが多い。自分が読者なら、「ここでこういう誤魔化し方をすると読むのをやめるな」などと離脱ポイントがわかるので、結果として密度のあるマンガになる(と思う)。それに加えて、過去の自分が10代なら、実際にマンガを読むのは過去の自分のような今の10代ということになるので、今10代はどんなファッションをしているのか…等、リサーチを行う。想定読者をリアルに想像できると、自ずと物語の色が決まってくる。

あと、これも大事なことですが、編集者は想定読者ではない。編集者は、想定読者に届けるために同じ方向を向いて、ああでもない、こうでもないと一緒に戦略を練ってくれる人だ。スポンサードの案件の場合は、スポンサーも想定読者ではない。誰のどんな感情を描くために作っているのか?をはっきりさせておくと、編集者と議論がしやすいし、スポンサーの決裁が降りない時も、次の手が出しやすい。通るかは別として。

そしてピタゴラスイッチ

「ただ一つの感情を描写すること」、言い換えればその作品の「テーマ」は、作者が物語を作るための目印だ。作者側の都合である。しかし、マンガは、登場人物がいて、その人たちの意志によって物語が推進していくものだ。どうすれば物語が作者の奴隷でない風に見せられるのか。そのことを考える時、私の脳内に去来するのはピラゴラスイッチである。

(ご存じない方は上記リンクより一度「ピタゴラ装置」をご覧いただいて…。)

やるべきことは「玉の初期設定」と「コースの設計」である。たとえば、玉1「おっちょこちょいの女の子」と玉2「うぶで惚れっぽい男の子」をコース「見通しの悪い曲がり角」でぶつけると恋が生まれました!というふうに。

言いたかったのは、作者にいじれるのは「キャラの設定」と「場面の設定」だけであり、そのほかの、時間の流れ、感情の動きなどの自然に属するものは、ピタゴラスイッチでいう重力のようにいじれないものなのだということ。感情の動きに無理が生じた時に、読者はそこに作者の存在を読み取る。それをできるだけ避けたい。

そのためには、主人公の内面の造形(何を求めているのか、何がコンプレックスなのか)と、主人公の壁となるキャラの内面の造形と、2人が出会う場面の設定(学校なのか?公園なのか?その時の2人の立場は?)を仮で設定しつつ、「その時に主人公の感情はどう動くか」を具体的に想像していく。玉(キャラ)とコース(場面)を仮に設計し、頭の中で動かすことを繰り返して、一番最初に決めた「ただ1つの感情を描写する」にはどの設定の玉/コースが良いかを少しずつ探っていく。

…というと途方もない作業のようだけど、私の場合は主人公のモデルは私、感情は自分の過去の感情なので、それをどうリアリティをもって再現でき、私を全く知らない人にも楽しんでもらえるかを考えながら、場面と周りのキャラを少しずつ設計していく感じになる。(頭の中に架空の街を作りつつ、そこに住む人はどういう内面を抱えているかを聞いていくイメージで。)

いろいろ言ったけど考えなくてもいい

…というようにきちんと順を追って設計していくマンガばかりではなく、私がnoteに載せているボンヤリとしたエッセイマンガのように、思いついたものをそのまま描く場合もある。というか、初期はそれしかできなかったというか。

特に何も設計していない、ただの日常や考え事の垂れ流しを描いていいのだろうか?描いていい。描くべき。なぜなら発表するハードルが下がるからである。

個人的には、以下の3つを載せる前にチェックして、問題なさそうであればどんどんアップするようにしている。1.盗作でないか(オマージュの場合は元ネタを明記)、2.ある属性の人をこき下ろしていないか、3.愚痴になっていないか(「作者を慰めてもらう」感想を狙っている作品は好きではないので)。初めは、くだらないものを出して批判がくるのではないか…と怯えていたけど、その心配はしなくていいように思う。アマチュアの日常漫画を本気で批判する人はほとんどいないから。

「しなければならない」は捨てる

そして他にも大事なことがあった。「どういうやり方が自分はモチベーションを保てるのか」を見極めることだ。私は、ストイックに練習を積み重ねることが苦手なので、自分が辛くない描き方で作品をたくさん出す、という方法をとっている。巷で言われる「マンガがうまくなるには〇〇しなければならない」は全て自分に向いてるとは限らないので、そこは判断する。

最後に、あまり理解されないかもしれないけど、私が最も大事にしていることを。私はマンガに関しては、「誰にも描けと言われていないのにやっている」ことを大事にしている描きたいことがあるから描いている。そのことを何度も確認する。手段と目的を転倒させない。それはこの先、創作が仕事になっていっても、たびたび確認しなければいけない部分だと思う。

一番のコツはそこかもしれない。

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日記・コラムです。共感されるかどうか分からないけれど、言語化したいことを書いていきます。

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