1日でも1分でも1秒でも

「手がしわしわになるまで。」

君の肌が生きた証拠を表してきた頃。

僕は君の大切さに気付かされる。


駅前の帰り道、歩いているとある一人のお爺さんに声をかけられる。

「あなたには大切な人はいますか。」

なぜか反応していまい、僕は「はい。」

と答えると、お爺さんの話は続く。

時を少し遡らせてくれ。

わたしには妻がいた。60年以上ともに時をすごした。

最近いなくなったのだが、大好きな妻だった。

出会った時はお互いがお互いを思いあっていた。

人間というものは悪い生き物で感謝というものを失くす。

いつも言ってくれる言葉の大切さ

仕事の時には文句も言わず手を込んでくれるお弁当

今思えばすごくありがたいことだった。

いつもわたしの後ろを着いてきて、たまに横にくれば

微笑んでくれたあの顔は二度と忘れないだろう。

というより忘れたくない人生の宝だ。

いなくなる5年ほど前かな。妻は認知症になった。

何もかも忘れてしまうが、昔のことを話すことが増えた。

いつも怒ったり、遠ざけてばかりでとても満足できる

人生ではなかっただろうが、話す顔はずっと幸せそうだった。

昔行った場所や出会った時のこと、喧嘩したことまで。

全てをだ。

わたしは初めて思ったよ。もう少し幸せにしてあげたかった。

君がせっかくもらった人生を捧げてくれてありがとうと。

すごく後悔の残る人生になった。

彼女はいなくなる前に言ったんだ。

またあの時行った場所に行きたいな。

あなたと一緒に。また出会えたら。

話す老人の目は少し潤んでいた。

大きな息を吐くと。

つまり何が言いたいかって。

あなたの横にいてくれる人を大事にしなさい。

あなただけの人生じゃなくてその人も背負いなさい。

みんな人生一度きりの中一緒にいてくれているのだから。

気づいた時にはもういないよ。

そう言い切ると「ありがとね」と老人は立ち去った。


僕は少し高いケーキをかって家に帰るとした。

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