【アンカーの思い出】(13)関西コメンテータ事情

他の地域でも一般的に言えるのかもしれないが、関西ローカルのテレビ番組には関西独自の色合いが求められる。色合いの出し方が特に難しいのは、報道番組と情報番組である。たとえばニュース番組の場合、全国的なニュースは在京キー局が配信しているため、話題としては地元関西のものが選択されることとなる。他方キャスターは関西出身者であっても、当然すべて標準語で原稿を読み上げる。しかしここが微妙なところなのだが、原稿にないコメントやキャスター同士の掛け合いなどには関西弁が使用されることが珍しくないのである。この標準語と関西弁の比率は、関西人にとって極めて微妙な問題である。標準語の割合を増やしすぎると堅苦しくなり、場合によっては「余所行き感」や「気取った感じ」が出てしまうので、敬遠する関西人が出てしまう。かといって関西弁の割合を増やしすぎると、今度はカジュアルになり過ぎてニュース番組に最低限求められるフォーマルな雰囲気が失われてしまう危険性が高くなる。この絶妙なさじ加減をおそらく完璧に理解して使い分けているのが、たとえば山本浩之氏である。

これはキャスターだけでなくコメンテータについても同様のことが言える、とわたしは考えている。たとえばコメンテータを非関西人だけで固めた場合、使用される言葉が標準語ばかりになるため「余所行き感」がどうしても強くなってしまう。かといってコメンテータを関西人だけにすると、関西人にとっては親しみやすくなるものの、関西弁のみだと雰囲気がカジュアルになり、最悪「居酒屋での雑談」のようになってしまう。またそれはおくとしても、関西出身の識者というものがそもそも限定されるため、コメンテータとして数を揃えるのが難しいという問題も挙げられる。こうした問題を解決するための手法として定番なのは、非関西人の専門家と関西人(専門家であってもなくても構わない)を一人ずつコメンテータにすることである。これにより専門的な話題については真面目な解説が期待できるし、またそれに対してスタジオにいる関西人のある種「庶民的」な声を生で聞くこともできる。それだけではなく、関西とそれ以外の地域におけるものの見方や文化の違いがわかったりすることもあるため、意見に多様性が生まれるという効果も期待できる。

この組み合わせは関西における「鉄板」と言っても過言ではない。アンカーを例にとると、木曜日のレギュラーは宮崎哲弥氏と金村義明氏であったが、これは非関西人の専門家と関西人の組み合わせで成功している代表的な事例である。また金曜日に森田実氏がレギュラー出演していた時も、もう一人のコメンテータは関西人であることが多かったように記憶している。さらに有本香氏の出演していた火曜日について言うなら、もう一人のコメンテータは萱野稔人氏よりもサニー・フランシス氏の方が良かったとわたしは確信しているが、その理由はサニー氏が「関西人」だからである(サニー氏は正確には「関西系インド人」であるが)。

火曜日のアンカーということでわたしが思い出すのは、鈴木哲夫氏の前にレギュラーを務めていた伊藤洋一氏と國定浩一氏である。伊藤氏が非関西人、國定氏が関西人という組み合わせであった。國定氏といえば関西では熱烈な阪神ファンとしての顔の方がおそらく有名であろうが、エコノミストとしてもしっかりしたコメントのできる人である。経済についての専門的な知見を両者とも持っていたため、一層隙のない組み合わせだったと言える。中でも「伊藤・國定のゴールドアンカー」というコーナーは面白く、わたしは時間のあるときによく見たものだった。水曜日や木曜日の陰に隠れがちではあるが、あの頃の火曜アンカーをわたしは今でもときどき思い返してみたくなる。(第14回に続く)

(※この文章は筆者の個人的な回想であり、事実を正確に反映したものであるとは限りません。)