【アンカーの思い出】(21)関西ローカル番組の行く末
関西は「東京」への対抗心や独立心というものが昔から根強くある土地柄である。たとえばわたしは一連のエントリで「たかじんのそこまで言って委員会」という番組を何度も引き合いに出しているが、あの番組は全国に放送エリアを拡大していく中にあって、首都圏では今なお放送されていない。その理由としては、首都圏で放送すればパネラーが自由な発言ができなくなり番組の魅力が減じるから、ということがひとつには言われている。ただその一方で、やしきたかじんという人が東京に対して持っている強烈な敵愾心も見過ごすわけにはいかないだろう。それほどまでにたかじん氏の「東京嫌い」は有名であり、その分関西で面白い番組を作ってやろうという意気込みも尋常ではなかったはずである。「委員会」が各地で放送されるにしたがって、たかじんの名は関西にとどまらずいろいろな地域にも広がることとなるが、このたかじん氏の「原点」を知ることは、関西ローカルのテレビ番組というものを理解する上で極めて象徴的なポイントだと言ってよい。
また朝日放送の「ムーブ!」という番組についても、わたしはかなり紙幅を割いて述べたが、この番組もやはり在阪局の東京に対する対抗心が生み出した番組ではなかったかと思っている。そしてアンカーも間違いなく、その系譜に名前を連ねる番組だったと断言できる。東京のテレビ局が真似したくてもできない番組を作る。放送局こそ違えども、この3つの番組からはそんな意気込みが感じ取れたし、また彼らは実践していた。しかし「ムーブ!」とアンカーはその歴史に幕を下ろした。「委員会」も往年の輝きはとうに失われ、この4月からは「たかじん」の名前をタイトルから外している。たしかに現実には関西の地位はやはり低下し続けている。そういう背景もあって、関西人の「東京」に対する意識は昔ほどではなくなっているかもしれない。しかし潜在的な部分ではまだまだ残っているのではないか、と関西人のわたしは勝手に信じている。
最後に、有本香氏が「ニュースの熱点」で「大大阪時代(だいおおさかじだい)」をテーマにした回を紹介しておきたい。
これは有本氏が解説を担当する回としては最後になった「熱点」であるが、その内容は東京人である有本氏が関西に向けて送った、決して「上から目線」などではない激励のメッセージだとわたしは理解している。また番組の中で大阪を象徴するキーワードとして「進取の気風」と「民間の活力」が紹介され、大阪発祥の企業として産経新聞や朝日新聞(正確には「Aというイニシャルの新聞」という表現だったが、朝日のことであろう)が挙げられた。これは両紙の党派的な対立を皮肉っているとも読めるが、一方で素直に読むならアンカーを作ってきたスタッフの人たちに対する激励ではなかったかと思うのである。
アンカーが終わってしまったことはたしかに残念である。しかし、気骨にあふれるテレビ番組が関西から生まれる雰囲気そのものが失われてしまったわけではないはずである。テレビ全体に対してわたしが暗い見通しを持っていることも事実であるが、しかし関西の可能性を信じたい。この1年間は、わたしにそんなささやかな希望を与えてくれるものだったと前向きに捉えている。
そのような思いに突き動かされるようにして書き綴ってきた「アンカーの思い出」は、これにて完結である。最初に「数回」のつもりで始めたものが、書き継ぐうちに20回を超えてしまったのは大きな誤算だったが、ここまで辛抱強くお付き合い下さった読者の皆様にお礼を申し上げて、結びとしたい。ありがとうございました。(了)
(※この文章は筆者の個人的な回想であり、事実を正確に反映したものであるとは限りません。)
参考URL
Wikipedia
○スーパーニュースアンカー
○山本浩之
○ムーブ!
○有本香
ぼやきくっくり(くっくりさんのブログ)
○「たかじん非常事態宣言」今さらですが“ムーブ!”終了の理由 (2009/02/03)
風味絶佳な日々―読書日記―
○朝日放送不祥事と宮崎哲弥氏のムーブ欠席 (2008/03/06)
○宮崎哲弥氏、ムーブ!復活 (2008/03/10)
○宮崎哲弥氏、ムーブ!6月降板 (2008/03/13)
○宮崎哲弥氏のムーブ!降板理由 (2008/03/19)
ぽえじぃ~政治から日常のちょっとした出来事まで~
○ムーブ終了と朝日放送の匿名報道 (2009/03/07)