【アンカーの思い出】(17)有本香氏の印象

Wikipediaによれば、有本香氏がアンカーに出演を始めたのは2012年10月のようである。以前も書いたが、わたしが有本氏を初めて見たのが2013年5月だから、そこからさらに半年以上遡る計算になる。Wikipediaの出演番組一覧にはこれよりも古い履歴が見当たらないので、アンカーが有本氏にとっての「地上波デビュー」になるのかもしれない。また有本氏のいわゆる「言論活動」を軽く辿ってみると、大体2010年前後から積極的な活動が始まっているようである(なお他のテーマの著書ならさらに古いものが見つかる)。したがって、有本氏が現在のように積極的に顔を出すような形で活動を始めてから5年程度と見積もって良さそうである。有本氏の経歴を考えるとデビューはかなり遅く、少なくともコメンテータとしての有本氏は比較的「新人」と言ってよいだろう。

しかしわたしにとって有本氏は、ただの新人などではなかった。新人と言っても、例えるならそれはメジャーリーグに移籍したイチローのような衝撃があった。わたしの中ではこれまで長らく、宮崎哲弥氏が信頼するコメンテータの最高峰であったが、有本氏は宮崎氏に匹敵する存在だと直感したのである。わたしの宮崎氏に対する評価は一連のエントリで何度も書いている通りだが、そこまで信頼する理由は、紹介される情報に不確かなものが少なく、事実関係の整理が非常に的確、その上で導き出される結論も破綻がほとんど見られず、妥当なものだからである。また以前のエントリでも話題にしたことだが、「事実と意見の区別」を宮崎氏はかなり厳密に行っていると感じられる。以上の理由からわたしの宮崎氏に対する評価はこの10年以上の間、高いところで概ね安定している(なおこの評価は党派性にまったく依存していないことは付け加えておく)。とは言え現在までの間に評価の揺らぐ場面があったことは以前に述べた通りなのだが、しかし10年以上前にテレビ(おそらく「たかじんのそこまで言って委員会」)で初めて宮崎氏を見たとき、わたしは非常に衝撃を受けた。なぜなら、宮崎氏はテレビのコメンテータにありがちな印象批判を一切しなかったからである。安易な言い切りをしないという姿勢にも、非常に好感が持てた。そしてこれからは宮崎氏のようにまともな批判のできるコメンテータが続々登場して、質の低いコメントしかできない人間はテレビから淘汰されるようになるのかもしれない、という期待すら持っていた。ところがその期待はあまりにも楽観的にすぎた。たしかに宮崎氏本人はその後複数の番組にレギュラーを持つ売れっ子となったが、宮崎氏のあとに続くような人物はテレビに現れなかったし、それどころかテレビ自体が凋落を続ける始末で、わたしはもはや諦めていた。

そんな中、登場したのが有本香氏であった。有本氏は、わたしが宮崎氏を評価する際に挙げたポイントのすべてを満足していた。また宮崎氏最大の弱点として「滑舌の悪さ」や「喋りのぎこちなさ」があるが、対する有本氏は滑舌が良く、声も良く通り、テレビへの適性も申し分なかった。ここまで書けば、わたしが有本氏に対して「とんでもない人が出てきたかもしれない」という感想を持った理由が理解してもらえるのではないかと思う。わたしは有本氏をこの1年あまりにわたって観測し、要約も作ってきた。その動機はいろいろあるが、ひとつには「自分の直感がどこまで正しいかを確かめたい」という目的も含まれていた。そして1年間観測を続けてきた今、わたしは明言できる。有本香氏は宮崎哲弥氏に匹敵する存在であると。

なおわたしの観測範囲はアンカー、およびニッポン放送のラジオ番組「ザ・ボイス そこまで言うか!」であり、それ以外のメディアなどにおける有本氏の主張や、チャイナ・ウォッチャーとしての有本氏はよく知らない。したがって党派性などの面において有本氏を理解していない部分はまだまだあるものと思われるが、基本的な評価はこの1年で定まったので今後大幅な変更が必要になることはないだろうと見ている。(第18回に続く)

(※この文章は筆者の個人的な回想であり、事実を正確に反映したものであるとは限りません。)