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脳はパラメータの集合体!メンタルヘルスの知見を社会に活かすには? | 早稲田メンタルクリニック 益田裕介 × COTEN

株式会社COTENの挑戦を応援してくださる、法人COTEN CREW企業の皆様をご紹介します。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。

今回は、早稲田メンタルクリニックの院長、益田裕介さんです。

※COTENには、メンバー同士がフラットに「タメ語」で話す文化があります。その空気感をお伝えするため、今回のインタビューはタメ語&ニックネームで実施し、記事もそのままお届けします。

益田 裕介(ますだ ゆうすけ)
早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医大卒。2018年より早稲田メンタルクリニックを開業。翌年より、精神科診療についてわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」運営。現在の登録者数は35万人超。2022年からはオンライン上で患者会や家族会を運営し、ピアサポートの場(生きがいづくり)を手伝っている。

精神科医とYoutuber、ふたつの顔

COTENインタビュアー (以下、ーー):まっすうは、なぜ精神科医になろうと思ったの?

益田裕介(以下、まっすう):もともと数学と国語のどちらも得意で、医者になる以外の道もあったのかもしれないけど。当時脳科学が流行っていて、人文知的な要素もありながら理系科目でもあるし、興味を持ったのがきっかけ。あとは研究よりも、臨床的なことの方が好きだったし。そう考えると精神科医がいいなって思った。進路としては、自衛隊医官を養成する防衛医科大学に行って、普通の医者より国や軍隊に関わる道を選んだ。

ーー防衛医大ってまた特殊な道だね。喜びや面白さを感じたの?

まっすう:使命感かな。当時は、国に貢献する、やるべきことをやる、みたいなところに良さを感じてた。案外真面目なのかもしれないね。

ーーでも、今YouTubeもやってるよね?YouTuberって、完全にイメージだけど、ちょっとチャラチャラしている感じがある(笑)。今まっすうが感じている使命感ってどんなものなの?

まっすう:COTENの使っている言葉を使って説明してみるね。自分の中でメタ認知が進んだ結果「お金なんかどうでもいい。地位や名誉はいらん!残りの人生は他人のためにやっていこう」と考えるようになっていって。人のために何かをしてるときが一番楽しい!「他人のために何かしたい」と思っている点で、防衛大に入った頃と比べて、根本的な使命感の種類は一貫している気がする。

ーーYouTubeはいつから始めたの?

まっすう:開業して1年くらい経ってからですね。それまでのクリニックでは、病気の説明を紙に書いて患者さんに直接渡してたんです。でもみんなあまり読まないんですよね。そこでホームページやブログも書いてみたけど、なかなか読んでもらえない。それでなんとなく動画投稿を始めたら、意外と多くの方が観てくれた。

ーー動画だと何度も見返せるし、面白いアイデア!

まっすう:自分の患者さんだけではなく、だんだんクリニックに関係ない人も見てくれるようになって。似たような動画を作る人が出てくるかと思っていたけど、意外と無かったんですよね。

ーーなんでなんだろう?

まっすう:分からないですけど、動画編集のハードルが高いのかもしれないですね。見てくれる人が増えて登録者が1万人を超えたとき、「いろんな人が見始めて怖いな」と思ったのと同時に、責任感が芽生えたんです。時期を同じくして、メンタル系YouTuberの自助会を作ることにしました。コロナ期にSNSの利用時間が増えたことも影響してか、視聴数に伴い登録者数も一気に増えていきましたね。

ーーそうなんだ!

まっすう:でも、頑張っている割には利益が出ない。編集スタッフさんとかもいろいろ雇っているし。前までは自助会や感謝会をクリニックでやっていたけど、コロナをきっかけにやれなくなって。

ーーリアルで会うのが難しい時期だったよね。

まっすう:再生回数が昨年3月くらいにガクッと落ちて、これはクリニックを続けていくために、何か手を打たないとダメじゃないかと。そこで思いついたのが、オンライン自助会を始めること。そもそも、海外では「〇〇依存症の会」みたいなものをすでにオンラインでやっていて、それが患者さんに良く作用しているし、社会課題にもアプローチできている。日本にこれが無いのは勿体無いなと思いつつ、ずっとやれないでいたんです。

ーー事業のことはもちろん考えながら、お金のためだけではなく、使命感もあり。まっすうって絶妙なバランス感覚で動いているよね。コロナでクリニックに直接来れない人たちとオンラインでコミュニケーションがとれたときには変化があった?

まっすう:いろんな人とディスカッションができるのはいいですね。あと、臨床の知識とかアウトプットは最大の学びなので、自分が自助会のメンバーに向けて話すことで自分の理解も深まっていって楽しいです。

メンタルヘルスがビジネス界に価値を出せるか

まっすう:でも、誰も僕のことを知らないんですよ。日本国内の精神科の患者さんは420万人と言われています。僕のYoutubeチャンネルの44万人弱が登録者数。登録者が全員患者さんだと思っているわけではないけど、総患者数の10%強はすごくないですか?登録していない人もいるから、実際にチャンネルを見てる人の数はもっと多いはず。こんな感じで、クリニックにかかっている人や医療系の一部は知っているけど、それ以外の人たちは僕のことを全く知らない。社会ではこんなにメンタルヘルスが大事だと言いながら。Youtubeで「メンタルヘルス」と検索するとすぐ僕が出ますよ。

ーー確かに出る!

まっすう:そうなんです。メンタルヘルスに興味を持って検索すればすぐ出てくるのに、なんでみんな自分のこと知らんの?って(笑)。だからCOTENさんと全然違うんです。COTENさんはなんでこんなに知られているんだろう。個人的には、歴史はあまりメジャーなジャンルではないような気がしますけど、不思議です。

ーーCOTENは、人文知とビジネスの架け橋になるという点で、社会に向けて価値を出そうとしている、と龍ちゃんがたびたび言ってる。ジャストアイデアだけど、メンタルヘルスの知見とビジネスの架け橋になる、という軸で考えてみたらどうかな。

まっすう:なるほど。僕の問題意識として、今の言葉で言うところの精神障害を持っている人を集団から排除していくと、その集団って多様性が失われて弱くなってしまうと思っているんですよ。実際、スタートアップやベンチャー企業のトップって、ADHDに分類される傾向を持っている人が多い印象です。で、どのような特性を持った人をどのようにサポートすれば、その人が能力を発揮できるかって、僕たち精神科医はそうじゃない一般の人より良くわかっている。だから、メンタルヘルスってビジネスにめちゃくちゃ役に立つと思うんですよね。

ーー精神医学はビジネスとは関係ないと思われていることが多いのかも。もしくは、治すとかサポートするっていう発想がそもそも無かったり。経営者から相談が来たりはしないの?すごくニーズがありそうだけど。

まっすう:全く無いです。いまやビジネスでも使われている認知行動療法、コーチングとかも全部精神科から来ているようなものなんですけどね。

ーーまっすうとしては、法人COTEN CREWに入ることは新しい挑戦だよね。他の経営者の方と接する機会も作れるだろうから、まっすうが考えていることがビジネス界隈の人にどう認知されるか、今後気になるところだね。

まっすう:お金が全てではないけど、でも企業や組織は自転車と一緒だから、前進しないと転んじゃうんですよ。必要分は稼がないと活動自体ができなくなってしまう。YouTubeをやって自助会もやって。

ーー環境に合わせて適応し続けているね。

組織は脳の「パラメータ」の集合体

まっすう:そもそも、人の脳って、「疾患かそうじゃないか」と二元論的に語れるものではないんだよね。僕のイメージでは、東京や大阪といった、都市同士を比べる行為に近い。東京「らしさ」大阪「らしさ」って、東京や大阪が持つ一つ一つの要素、人口、海との近さ、栄えている産業、そういったいくつものパラメーターが作用し合って作られているもの。脳も同じイメージで捉えることができて、いくつものパラメータの結果として、その人の行動や性格が総合的なものとして現れている感じ。

ーーおお、なるほど。パラメータに分解して考えるんだね。

まっすう: そう。だから、「この人にADHD傾向がある」ということだけでは何も分からなくて、その人の脳が持っている他のパラメータとの作用で、行動や性格が良くも悪くも立ち現れてくる。これを社会に活かすとしたら、例えば組織作りとかかな。才能を見極めたり、チームを組む時に使えるかもしれない。「この人はADHD傾向が〇%あるよね」「コミュ力〇%だよね」みたいな感じで、保守性、新規性、体力などなど、人間の特性を数値化することができるかも。それで、「この組織全体でもう少し新規性を入れないと」「今、組織内で保守性のパーセンテージが高くなっているから〇〇の問題が起こりやすい状態だね」といった会話ができそう。

ーー面白い!そうなってくると、もはや病気かそうじゃないとかではなく、それぞれの要素が組織に必要なパラメータなんだということになり、人間の脳の特性をよりフラットに見られるようになりそうだね。

まっすう:そう、パラメーターを、存在するもの、前提として認める。「空気読めない系の人が少なめだから組織が保守的になりがちだよね」「組織内の同質性が高まっているから、権力争いしちゃうよね」とかね。

ーー自分や他人の脳をパラメータの集合体として捉えるって、新しい。組織を考える上での有効な手段かもしれないね。すごく勉強になった。ありがとう。

(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:村上光子


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