皆の話を聴くお坊さん。モヤモヤを置いていってほしい | 妙慶院 加用雅信 × COTEN
株式会社COTENの挑戦を応援してくださる、法人COTEN CREW企業の皆様をご紹介します。
COTENを通じて人文知に投資することを決めた彼ら。
日頃、どのような問題意識を持って活動されているのでしょうか。
今回は、浄土宗妙慶院の加用雅信さんです。
※COTENには、メンバー同士がフラットに「タメ語」で話す文化があります。その空気感をお伝えするため、今回のインタビューはタメ語&ニックネームで実施し、記事もそのままお届けします。
市場経済に左右されないために
COTENインタビュアー (以下、ーー):まず、かよちゃんはどんな人なのか教えてくれる?
加用雅信(以下、かよちゃん):見ての通りお坊さんです(笑)。みんなどこか変わってるところがあるんじゃないかと思っているけど、世の中的には僕は変人だろうと思ってる。
ーーいいねえ。どういうところが変わってるって感じるの?
かよちゃん:まずは法人COTEN CREWになったお坊さんってところ(笑)。もうひとつ、市場主義経済というか、資本主義的なものがあまり好きではないっていうのも変わってる部類だと思う。もちろんお寺も市場経済の世界に存在しているけど、少し外れに位置している感じ。世の中は基本的に、サービスに対して対価が発生するのが普通で、僕はそれだけではない世界にいるんだよね。なので、例えば、みんなに「お布施って幾らですか?」って聞かれたときに、何て答えるか難しいな、と日々感じてる。
ーー仏教って市場経済からちょっと離れてるイメージがあるけど、それでも切っては切り離せない関係ではあるよね。かよちゃんってお寺の何代目になるの?
かよちゃん:25代目です。うちの寺がスタートしたのが1600年なんでね。
ーー25代目ってすごいね!!ビル型のお寺になったのは?
かよちゃん:昭和52年、1977年ですね。僕が子どものころ、父と祖父である先代と先々代が、今後のお寺をどうするかって考えたとき、寄付に頼らない寺にしようと決めたんだよね。自分たちで収入源を持って自立することで、檀家さんからの寄付に頼らない寺にしたいと。
ーーへええ、めちゃくちゃ面白いね。
かよちゃん:駐車場を貸すというのは他でもあるけど、ビルのお寺にして、1階にテナントに入ってもらっているんだよね。
ーーなるほど!仏教の部分以外での収益を得るようにしたんだ。それって一方で、ある意味市場経済に近づいてもいるよね。
かよちゃん:うん。それはそう。だけど個人的には、その収入を何に使うのかっていうのが重要だと考えている。自分たちだけが得をするために使うんじゃなくてね。独自の収入源があることで、お布施や寄付などに頼らないでいられるから、お寺の目指すことを実現しやすくなるっていうのがポイントかな。
ーー先々代や先代は、具体的にはどういうことを考えてたんだろう。
かよちゃん:普通、家がお寺に所属する、つまり檀家になるとき、いわゆるサブスクリプションが派生してくる。あなたの家は年間いくらずつお寺に納めてくださいっていうやつね。それを、ビル型のお寺に変えた時点でやらないっていう方向に舵を切ったわけね。護寺会費(ごじかいひ)とか、お墓の管理料みたいなお寺のサブスクリプション的なものを、檀家から一切取らないっていうスタイルに。
ーーすごいねそれ。企業を経営している身としては、市場経済ってある意味ではいいこともあるし、自分のやりたいことの自由度が手に入るって意味でいいなって思う。かよちゃんは市場経済が嫌いって言ってたけど、その辺りについてはどう考えている?
かよちゃん:もちろん、お金を稼ぐのが悪いとは思わない。でも、お金を持つと物を買ったり偉そうになったり肩書や名誉に使ったり、自分だけのことに使いたがる人も多いでしょ。一般の人はそれでもいいんだろうけど、お坊さんが大手を振ってやることじゃないよねって思う。そうした自己満足的なことのためにみんながお布施を出してるわけじゃないからね。
自分が話すよりみんなの話を聞きたい
ーー今回の法人COTEN CREWになるっていうところにもつながってくるのかな。
かよちゃん:「想い」がある人が出すっていうのはうちのお寺がやってるスタンスと同じ。お寺としての役割を果たすためにお布施や寄付は重要な活動資金源だけど、強制はしない。
そして「想い」というのを大切にしたいからこそ、自分が受け取るだけじゃなくて贈る側としても何かやっている方が説得力が増すと思って法人COTEN CREWになった。世の中がそういう風に流れるといいなって。
ーーめちゃくちゃいいね。金額を決めないでいると、すごく感謝してたくさんお渡しされるケースもあれば、状況に応じては金額が少ないケースもあるんじゃない?
かよちゃん:ご法事やお葬儀の場合、亡くなった人や法事をする人に想いがたくさんあれば、たくさん包みたくなる人はいらっしゃるんですよ。生活が苦しいはずなのに、他の人からすると倍以上とか包む方もいる。一方で、裕福かもしれないけれども、別にそんなにたくさん包むわけじゃない人もいる。だけど、金額の大小によって、こちらのやることは変わったりしない。金額は、出す人の想いで決めてもらえばいいと思っているから。
ーーそういう方針のお寺さんって少ないよね?
かよちゃん:少ないね。先々代と先代がベースを築いてくれて、自分があんまりそういうのに左右されなくてもできるっていうのが大きいかな。おかげで建築っていう好きな勉強もできたしね。実際、お寺に戻ったあとでどういうことをするお坊さんでありたいかって考えた時、自分が話をするよりも相手の話を聞く方が好きだからみんなの話を聴くお坊さんになりたいなって思ったんだよね。
ーー具体的にはどういうこと?
かよちゃん:お寺の世界ではどの宗派でも大概3つの柱があってね。法式(ほっしき)と言って、勤行(ごんぎょう)といういわゆるお勤めがあって、法事も葬儀もここに入るんだよね。次に、教学(きょうがく)っていう学問的領域を研鑽することがあって。で、もうひとつは布教(ふきょう)という教えを広めて伝えていくこと。というのが3本柱なんだけど、でも実は、みんなお坊さんにいろいろなことを聞きたいんじゃないのかなって思って。お悩み相談のようなものって、どれにも入ってないんだよね。
ーー確かに。でも、そういうのは求められるよね。
かよちゃん:この話を聞いてもらえませんかとか、こういうときどうしたらいいでしょうとか、本当はもっとお坊さんに聞きたいけど聞けない状態。でも大事なのはそこじゃないかな。お坊さん自身が話すよりみんなの話を聞くことの方が求められているんじゃないかって思ったんだよね。
また、聞いてくる人たちって、そこに答えは求めてなくて「聞いてくれる人、受け止めてくれる人」が一番欲しいんじゃないかな。聞いてもらって受け入れてもらった段階で、じゃあそこからどうしたらいいかなっていうのが出てくる。
ーーまずは何かこのモヤモヤした気持ちを、聞いてほしいっていうところかな。
話すことで気持ちを置いていく
かよちゃん:個人的に「話すは放す」って言っていて、話すことでそうした気持ちはここに置いてってねって。
ーーかよちゃんとこにはいろいろな人が来そうだね。
かよちゃん:いろんな人がくるし、外にも出て行って話を聞いてるのが「坊主バー」。
坊主バーは、毎日いろいろなイベントをやってるお店で、2カ月に1回くらい、みんなの話を聞いたりおしゃべりしたりするっていうのをやってて。そこではお坊さんの格好してるのをコスプレって言ってる(笑)そうするとみんな気が楽に話せるんだよね。
ーーへええ、面白いな(笑)。
かよちゃん:同じようなことを近くのカルチャーセンターで「坊主café」と称してやってたら、コロナで続けられなくなったんで、うちのお寺で引き受けてやってるよ。お寺に行きたいっていう人もいるんで、写経をしてもらった後にお茶をして話をする「寺カフェ」もやってる。コロナになってからはオンラインも活用して、他のお坊さんたちと一緒に対話するワークショップもいくつかやってるよ。そういうのを趣味のようにやってます。
ーー素敵な活動だね。もしかしたら話を聞いてくれる場っていうのが少ないのかもしれないね。
かよちゃん:みんな、内容によって話す人を選ぶと思うけど、お坊さんだったらちょっと重たい想いでも話してもいいんじゃないかって思えるのもきっと大きくて。
仕事などの人間関係の悩みをその辺の人に言うとどこかでつながってるかもしれないし、友達に言うと重くて悪いかなって心配したり遠慮したりするけれど、お坊さんだったらどんな話でも聞いてもらえるんじゃないかって思えるところがポイントかな。いろいろやってみた結果、やっぱりそういう「安心して話せる場」が欲しい人が多いんだなっていう印象だね。
ーー確かに。お坊さんだったらなんでも話してよさそうっていうのはあるね。話を聞くっていいね。
かよちゃん:ここまで話していて、「きく」っていうのは門構えの「聞く」と思って聞いていたと思うんだけど、実は「聴く」って漢字があるでしょ。聴覚の聴く、ね。その「聴」という字の下に「く」じゃなくて「す」としたら、何て読むか分かる?
ーーえ〜、何だろう・・・「ちょうす」じゃないよね。どう読むの。
かよちゃん:「聴す」と書いて「ゆるす」って読むんだ。「きく」ことはその人が「ゆるされていくこと」なんだよね。絶対にゆるせない人の話って聞かないものだし。でも聞いてくれる人がいるってことは、そこでゆるしてもらってるっていうことでもあるんだ。僕が聞くときは「聴く」ことが「聴す」ことに繋がっていると思ってるんだよね。
ーー深いなあ。確かに、聞いてくれる人がいるのは感謝だね。
かよちゃん:うん。コテンの人たちの話もいつでも聴くよ。
(編集:株式会社COTEN 内山千咲/ライター:森まゆみ)
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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