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歴史に翻弄されてきた日本の山と人の新たな関係を作りたい | 田中由虎 × 深井龍之介

法人COTEN CREWになってくださった企業の方々と、深井龍之介との対談連載。今回のお相手は、大阪府羽曳野市で木材の製材所を営む(有)田中製材所の田中由虎(よしとら)さんです。明治時代から続く製材所を営む田中さんとの対談は、やがて二人の意外な共通点である「山」を巡る問題に向かっていきます。

田中由虎(たなか よしとら):田中由虎1974年生まれ。有限会社田中製材所 5代目社長(2015年5月〜)。
大学就業中、前代表の父が病気で倒れ、家業を手伝い始めたことで入社。
住宅供給過多、既製品を用いた住宅に疑問を感じ、新建材の販売を止める。大阪南河内地域を拠点に、木材の流通や仕組みづくりや職人と設計のをして地域内循環を進める。

都市よりも、山が大好き!

深井龍之介(以下深井):いろいろな企業の方が法人COTEN CREWになってくれていますが、木材の製材所というのは、はじめてのケースです。
田中さんはどういったビジネスを営まれているんですか?

田中由虎(以下田中):主に家のリノベーションを手掛ける会社を相手に、木材を加工・販売しています。
アパレルに例えると、生地を作って服飾メーカーに売っている感じですね。明治時代から営んでいて僕は五代目なのですが、今は材木屋が身近ではなくなってしまったので、なんとか人々に知ってもらえないかなと思っています。

深井:材木屋さんなんですね。いきなり自分事で失礼ですが、実は、僕のおやじは木こりなんですよ。

田中:え、そうなんですか!

深井:ええ。もう少し正確に言うと、おやじは余計な木を間引く「間伐」の仕事をしています。その影響か、僕も木や山が大好きなんですよ。
家具は全部木製にしているし、趣味で弾くベースも無塗装のナチュラルウッド製です。
今は福岡県の都市部に住んでいますが、ちゃんと裏が山になっている場所を選んでいます(笑)

田中:なんだかありがたいです。今の人々は木や山から離れてしまっているので……。

時代に振り回されてきた「山」

深井:ところで、田中さんはなぜ法人COTEN CREWになってくださったんですか? 僕が山好きなのはともかく、製材業と歴史というのは、なかなか珍しい組み合わせです。

田中:COTEN RADIOを知ったのは、今、深井さんと一緒にPODCAST「超相対性理論」をやっている「学びデザイン」の荒木博行さんの番組に深井さんがゲストでいらっしゃったのがきっかけでした。
それからはもうCOTEN RADIOにドはまりで……。

深井:ありがとうございます! どういった点が田中さんに響いたんでしょうか。

田中:幕末を中心に歴史も好きなんですが、深井さんがよく言う「メタ認知」という観点に共感したのも大きいですね。
僕ら製材業の世界だと、どうしても近視眼的にビジネスをしてしまう仲間が多くて悩んでいたところでしたから、自分たちが置かれた環境を客観的に眺めようとするメタ認知の視点からは、重要な気付きを得られました。

深井:悩みというと?

田中:深井さんはご存じかもしれませんが、日本の山は、社会や経済に振り回されてきたんです。
もともと日本人にとっての山は、薪や材木、食べ物がとれる大切な場所でした。だから江戸時代には藩が山を管理して、村落共同体が共有する「入会地」をもうけたり。共有地ですから所有権ははっきりしなかったんですね。

深井:近代的な「所有」の概念もなかったし、山はパブリック(公共)な存在でもあったというわけですね。

田中:ところが明治維新以降、近代的な資本主義下で山の土地の所有権をはっきりさせることになったので、入会地は無くなっていきます。その結果、不自然に土地を区切ることになってしまい、荒れ果てる山も出てきてしまいました。

深井:おっしゃる通り、誰のものかはっきりさせない制度のもとでやってきた日本の山に、原則としてすべてを私有化する資本主義のルールを当てはめたせいで少しおかしくなってしまったという意見はありますね。手入れできない土地ができてしまったり……。

田中:入会地だけじゃないんですよ。たとえば戦後、急増した住宅の需要に対応するために木材輸入を自由化したんですが、その影響で、平成に入ると木材の自給率は2割くらいまで下がってしまいました。今の木造住宅のほとんどは輸入した木を使っています。

深井:戦後にも大きな転換点があったんですね。

田中:ところが最近、コロナの影響で輸入木材が入ってこなくなり、これまで見向きもされなかった国産木材がまた注目されるようになりました。日本の山や木は、ずっと政治や社会に翻弄されているんですね。

深井:難しい立場なんですね……。

材木業を知ってもらいたい

田中:ちょっと話は変わりますけど、僕は昔、コンビニでアルバイトをしてたことがあるんです。そのときに、決まった時間が来るごとに売れ残りの弁当を廃棄するんですが、すごく複雑な気持ちになりましたね。もちろん、大量の廃棄が出ても利益が出るようにシステムは作られているんですが、これでいいんだろうか、と。
山や木をめぐる問題も同じで、無理やりに近代的な資本主義のルールに組み込んだせいで無理が生じている分野も多いと思うんです。そういう悩みを抱えていたときにCOTEN RADIOに出会ってメタ認知の視点を得られたのは大きかったですね。今のルールは絶対じゃないんだと思えましたから。

深井:ありがとうございます。山に関わる人たちにも聞いてもらえるのは、個人的にも嬉しいです。

田中:とはいえ、僕だけでやれることは限られますから、せめて材木屋という存在を知ってほしいなと。今回、法人COTEN CREWになったのはそのためです。話したように僕のビジネスはBtoBですが、C(カスタマー)、つまり個人の方々にも知ってほしいですね。

都市には文明、山には文化がある

深井:僕はパブリックにすることが必ずしも優れているとは思わないのですが、一方で、何でもかんでも私有化することにも問題はあると感じます。田中さんがおっしゃるように山もそうですよね。
僕たちの生活は高度に都市化しているけれど、それはせいぜい、ここ50年くらいの話です。もっと長い歴史的なスパンで見たときに、人類と山との関係は変わっていくかもしれない。僕の周囲でも田舎に移住する人が増えているんですが、それは山や自然との関係を変えつつある人が多い表れかもしれませんね。

田中:都市には文明がありますけれど、山にはリアルな「暮らし」というか、文化があります。山の暮らしの知恵は都市でも活かせると思いますよ。ただ、都市部の人がいきなり山に行っても戸惑うことばかりでしょうから、僕のように山と関わりのある人間が手伝えることは多いはずです。

深井:そうですよね。都市部の人が山との関係を考え直すときに、山と関係ある人々がやれることはいっぱいあるはずです。単純に、彼らは山に詳しいから。僕のおやじも、仕事だから当然ですけど、山に入ると本当に頼もしいんですよ。動き方もスマートだし、草木の名前にも詳しい。山を下りると仙人みたいな感じなんですけど(笑)
科学的に証明されているかどうかはわからないんですが、定期的にアウトドアで活動する人は、そうでない人よりも幸福度が高いと聞いたことがあります。個人的にはそれはありえると思っていて、というのも僕らは動物ですから、自然から離れすぎるのがストレスになるんじゃないかと。

田中:なるほど。

深井:現に僕がそうで、正直言って、東京に住んでいた時期はキツかったです。息苦しいというか……。
もちろん大都市には大都市の魅力があると思うんですが、僕みたいな人間も少なくないはずなんです。現に、キャンプやグランピングという形で自然と関わる人は増えていますよね。

田中:田中製材所は大阪市内まで1時間くらいの場所にあるので、都市部と山を行き来する人の拠点になれたら、みたいなことも考えています。いきなり山暮らしはハードルが高いですから、山に親しむ最初のステップになりたい。他にも、アパレルを展開して材木業のことを知ってもらったりとか、とにかく都市の人と山との接点を増やそうとしています。

深井:木っていいですよね。祖父の家では薪で風呂を沸かしていたんですが、楽しかったな……。
実はこのあいだ久々に島根県の実家に帰ったんですが、山が近いせいか、めっちゃ熟睡できたんです。やっぱり僕は山が好きみたいです。今でこそ福岡と東京を往復する生活ですけど、10年後は山に住んでるかも……(笑)

田中:深井さんに限らず、人と山との関係は変わっていくはず。田中製材所が法人COTEN CREWになったことで、製材業にメタ認知の視点を持つ仲間が増え、そして木や山に関心を持ってくれる人がもっと増えたら嬉しいです。


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