36. 直筋プーリーの変位のみで,上斜筋麻痺の臨床的な非共同性斜視パターンが生じる

Rectus Pulley Displacements without Abnormal Oblique Contractility Explain Strabismus in Superior Oblique Palsy

Suh SY, Le A, Clark RA, Demer JL. Ophthalmology. 2016 Jun;123(6):1222-31. doi: 10.1016/j.ophtha.2016.02.016. Epub 2016 Mar 13. PMID: 26983977; PMCID: PMC4877286.

目的:高解像度MRIを用いて,上斜筋(SO)麻痺においてrectus pulleys(直筋プーリー)は有意に変位しているか,そして変位が斜視のパターンに関与しているか検討した.

デザイン:前向きcase-control study。

参加者:MRIでSO筋の萎縮を認めSO麻痺と診断された患者24名と,年齢をマッチさせた19名。

方法:高解像度の表面MRIスキャンを,単眼,正面視中に複数の連続した冠状断で取得した。眼中心座標でのプーリー位置をSO麻痺患者のサブグループ(片眼vs両眼,先天性vs後天性,SO萎縮が等方性(円形)vs異方性(細長い))と正常結果で比較した。プーリーの変位によって予想される効果は,Orbit 1.8(Eidactics, San Francisco, CA)計算機シミュレーションを用いてモデル化した。

主要評価項目:プーリーの位置と眼球回旋。

結果:SO麻痺ではプーリーの位置は変位していた。片眼SO麻痺では,平均して内直筋プーリーは上方に1.1mm,上直筋プーリーは耳側に0.8mm,下直筋プーリーは上方に0.6mm,鼻側に0.9mm変位していた。両眼SO麻痺でも同様の変位が認められ,上直筋プーリーはさらに0.9mm上方に変位していた。しかし,外直筋プーリーは片眼SO麻痺,両眼SO麻痺ともに変位していなかった。上直筋プーリーと内直筋プーリーは先天性SO麻痺で変位し,下直筋プーリーと内直筋プーリーは後天性麻痺で変位していた。プーリーの位置は,等方性(円形) vs 異方性(細長い),あるいは回旋が7°未満 vs 7°以上で差はなかった。シミュレーションの結果,SOや下斜筋の強度に異常がなくても,観察されたプーリーの変位だけでSO麻痺に典型的な非共同性斜視のパターンを引き起こすことが予測された。

結論:斜筋の筋力異常を伴わない直筋プーリーの変位のみで,SO麻痺の臨床的な非共同性斜視パターンが生じる。この知見は,臨床的な両眼のずれパターンはSO筋の収縮機能の信頼できる指標ではない,というこれまでのエビデンスを支持するものである。眼球の回旋はSO麻痺におけるプーリーの変位と関連がなく,プーリーの変位を説明することはできない。

※コメント
プーリーの変位のみで上斜筋麻痺と類似した非共同性の形が示される(Hessの結果等)。つまり臨床的な立場で言うと,眼位(斜視角)やHessのみの結果でSOなのかSESなのかの判断が困難な場合があることを示しています。

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