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ほんとうの星✖️そらごとの月 その2

人の話、聞かないんです

ーうちの末っ子が幼稚園の頃、戦場の絵をよく描いていて、ミサイルが飛び交ってて兵士が血を流したりお墓がいっぱいあって残酷なんです。本人は平和主義でいつもニコニコしてて、何かストレス抱えてるのかなって心配だったんですけど、戦いごっこもしないし戦闘もののテレビやゲームを観るわけでもない。
長田さんの絵には暴力的な場面やモチーフも出てくるし、こういうの描いたらどう思われるかなっていうのを考えないで、思うがままに描いた子どもの絵を観てるような気になります。

ー30になっても描いてます(笑)描くことで満たされるってことはありますよね。こういうの描いたら、どう思われるだろうというのは、一切、考えてないです。お子さんも描き続けてほしいなぁ。

ーそれが、だんだん描かなくなったんです。アニメのキャラクターとか、もっと、みんなが喜ぶような、上手いって言われるような絵を描くようになりました。私が喜ばなかったからかもしれない。

ー僕は人の話、聞かないんです。最近、分かったんですけど、全然、人の言うこと聞いてない。こういうの描いたほうがいいとか、描かないほうがいいとか聞かない(笑)

長田さんは人の話を聞かないと言いつつ、すごく聞いていて、私の「分からなさ」ついての話を聞いてもらってるような感じがしてきた。自分と他人を潔いほど分けていて、聞くべき自分の声と聞かなくていい他人の声が分かってる。
私は絵本店を始めて三年目。こうあるべきじゃないかとか、こんなこと言ったら引かれるんじゃないかとか、知らず知らずのうちに自分の作った「そらごと」に「ほんとう」の自分が溺れてるのかもしれない。私が作った「そらごと」の世界で「ほんとう」の末っ子は迷子になってるのかもしれない。

ー人の話を聞かないっていっても、描きながら出来上がっていく物語をどこで終わらせるか、どう1冊の本にまとめるか、編集さんとお話し合いが必要ですよね?

ー僕は出来上がった状態で「これ、出してください」って持っていくんで、話し合って作り上げてっていう形はあんまりない。終わるのは、そんな大変じゃなく終わるんですよ。始めるまでがもの凄く時間がかかる。描き始めたら早いです。

ーいきなり原画ですか? 下描きなしに?

ーいきなり。

ー何も見ないで頭の中にあるものだけで? 何かを観察したりとかは?

ー何も見ないです。

ーなんか、表紙の穴が人の横顔に見えてきました。この穴から長田さんの頭の中を覗くんだ。

ーあはは。

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(なんとなく、見えそうな気がしてきた。混沌とした世界にある何か。)

ー『そらごとの月』の最後にある “この、うそつき。“ という台詞は、誰に向けて発してるのでしょうか?

ーその台詞は自分としては、よく出てきたなと思ってます。でも、その答えは言わない方がいいじゃないですか(笑)

ー自由に受け止めてもらったらいいと。

ー世に出たものに関しては、どういう風に受け止めてもらってもいいし、そういう見方も出来るのか、そういう続きがあるのかって膨らんでいく方が面白い。
自分が何かを教えたり伝えることって、おこがましいと思ってて、与えられるようなものは持ってない。例えば相手が子どもだから自分よりものを知らないとも思わないし、年齢が上とか下とか関係なく対等だと思ってます。

書き起こした文章を読むと、相手に委ねているようにも思えるのだけど、長田さんの言う「人の話を聞かない」は、純粋に自分の中から出てくるものを描こうとする誠実さ。だから、どんな感想も解釈も受け止めて、そこから繋がっていく新しいものを面白がれるのかもしれない。長田さんの絵の中に感じる「何か」はそういうところなのかもしれない。

ー時間も迫ってきたので最後の質問、コロナ禍で何か変わりましたか?

ー全く変わりなかったです。元々、家で過ごすことが多かったし、外にでたら、みんなマスクをしてるから世の中は変わってるんだなとは思うけど、大きな変化があったから表現者として自分も何か変わらなきゃいけないとも思わないです。

ブレない人だな。実は事前に用意した質問の半分も聞けてない。違う方向に行ってしまった。でも、いいや。描きながら物語が出来ていく長田さんの制作スタイルもそんな感じなんだろう。「これは、こういうことなんです」という種明かしのような話は聞き出せなかったけれども『ほんとうの星』『そらごとの月』は、長田さんそのもののように思う。対面してもいないし同じものも見ていない。なぜなら彼は自分自身を見つめている。作家の眼差しを辿ると自身を振り返ることになる。分からないのは私自身だ。
真っ白な紙だけを見つめて一心不乱に筆を運ぶうちの子たちの姿が、長田さんのイメージに上書きされた。そして私は、お客様に「分からないところがいいんです」と、少し自信をもって言うんだろう。


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