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Destino

私は田村真佑。社会人2年目
学生時代はいろんなことに熱心に取り組んだが、自分のなりたいものがわからず、とりあえず就職活動をして内定をもらえた1社に入った
研修もあってそこそこ楽しかったからやっていけると思っていたら、配属先での仕事は研修の内容とは全然違う
ギャップなんかありすぎてイメージしていたものとは全然違った
深夜まで業務なんて当たり前すぎてもう慣れた

でももう疲れたから、会社の人は自殺の名所と呼ぶ河川敷の桜の街道に来た

そしたら一人の同い年ぐらいの男の子が桜を見上げてる...
こんな深夜に...


真佑:ねぇ君はなんでここにいるの?

○○:ん?もう余命3ヵ月だって言われてね...
最後に桜を見に来たの...

真佑:そっか...

○○:君こそなんでここに?

真佑:もう生きるの疲れちゃって...

○○:それを命に限りがもう迫っている人の前でいう?笑

真佑:あっ、ごめんなさい...
不謹慎でしたよね...

○○:ふふっ、面白い人だね笑
あなたの名前は?

真佑:田村真佑です

○○:真佑さんかぁ、いい名前だなぁ

真佑:あなたは...

○○:あぁごめんごめん
田村○○です

真佑:えっ...
同じ苗字...

○○:偶然ですね
社会人2年目とかですか?

真佑:はい...

○○:すごいな、歳も同じだ笑
もしかして誕生日も...

真佑:もうせーのでいいましょ?

せーの
2人:1月12日!

真佑:すごい...

○○:こんな偶然あるんですね笑
ここで会ったのも何かの縁です、何があったか教えてもらえませんか?

真佑:はい...
実は大学まで実家で暮らしていて就職を機にこちらで一人暮らしを始めたんです
仕事も保守管理系のエンジニアのお仕事なので、テレワークで仕事をしていました
同期も十数人いますが、全員同じところではなく全国に散っていきました
先輩はかなり冷たく、話すと緊張するようになってしまいました
周りにいる人たちは皆さんできる人たちで、それもあって不安ばかりが募って行くんです

○○:うん...

真佑:ただ未経験でITに関する知識もない中で、日々一生懸命先輩から何か学ばなきゃ、迷惑かけないようにしなきゃって思って働いていたらなんのために生きているのかわからなくなってしまいました...
それでこの仕事も合わないんじゃないかとか、もういろいろ考えちゃってそのまま自己嫌悪に陥ることが多いんです...

○○:そっか...
かなり疲弊していますね...

真佑:そうですね...
同じような境遇の友人や同期もいないので相談しづらくて...

ギュ

○○:真佑さんは...まじめで一人でため込んでしまうんですね
ほんと...よく頑張ってます!

真佑:○○さん...グスッ

なんだろう、この人には悩んでいたことをスムーズに話せるしすごく心が暖かくなる...

○○:真佑さんはかなり敏感に他人の表情の変化とか場の空気の変化に気が付きドラマとか見ていても感情移入しやすいですか?

真佑:...はい、なんとなくそういうことが多い気がします...

○○:もしかしたらHSPかもしれないですね...

真佑:HSP?

○○:ハイリー・センシティブ・パーソンですね
非常に感受性が強く敏感な気質を持った人といわれています
適応障害やうつ病にも近い症状があるので、そう思われてしまう方が多いですが、実は人口の15~20%しかいない先天的な気質、性質をもって生まれた方なんです

真佑:でもなんでそれを○○さんが...

○○:私も学生時代に同じような経験をして、HSPについて知ったんです
自分ももしかしたらHSPなんじゃないかってね
私は社会を経験していないんですが、この症状にかなり苦しんだんです
周りはできて自分はできない、周りの人の影響をもろに受けやすいとか

真佑:私も同じようなこと思うことあります...

○○:そうですか...
私は医者ではないので断定はできないですが、その可能性は高そうですね...

真佑:なんか少し心が軽くなった気がします...

○○:さっき言ったけど、私は余命が3か月
それを見つけることができたのは、入社するはずの会社で受けた健康診断
血液検査で見つかったがん、すぐに始まった抗がん剤治療、それでも効果は出ずほかの臓器へ転移...

真佑:そんなことが...

○○:だから軽率に社会で生きてくアドバイスみたいなのは言えないです
ただ、あなたの人生の主役は常にあなたです
誰かの脇役である必要はないし、周りが合わない人たちだと思うなら環境を変えてもいい
大人や世間は命を無駄にするな、心配事があればすぐに電話してみたいなこと言ってますが、ほんとにきつい人はその捌け口すら頼れないんです
だから少しでも話を聞いてあげて気が付いていないものを発見させるまたは気が付いてもらう
そんなことが必要だと思うんです

真佑:...

○○:すみません...べらべらと...

真佑:いえ...でもすごく心が救われた感じがします...

○○:それならよかったです
真佑さん、あなたにお願いをしてもいいですか?

真佑:...はい、なんでしょうか?

○○:すぐにできるお願いではないですが...
真佑さんが経験したこと、そこから学んだことをここに命を捨てに来た次の人の話を聞いて語っていただけませんか?

真佑:...私の経験

○○:はい、そしていつか天国に来たらこれまでの苦しみとこれから楽しんだことを私に話してください

真佑:...わかりました!


それから一週間もしないうちに○○さんは亡くなった
余命をあと2か月も残して...


次の年...

真佑:ねぇ、何してるの?

咲月:もう生きるのに疲れちゃって...

あの時の私と同じことを言う子と出会った...
○○さんとの約束を守らないと...

桜はあの時と同じように咲いている



fin

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