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長閑けし春の海

海が見たいとふいに思った
風を感じたいと身体が反応した
しばしクルマで走るとやがて
土曜日の昼下がりの海に会う

かすむ青空の下に
長閑にさらさらと日差しは落ち
揺れる波間に
ゆらゆらと蜃気楼が立つ

眠気を誘う景色は音もない
潮騒と釣り人の投げ入れる
釣り糸の重りだけだ
誰も邪魔する者はいない

ひとは水のある風景に導かれる
澱む水ではなく 流れる水であり
留まる水ではなく 湛える水だ
水は生きている

時間もまた水
ひとは清流を好む
清流はいのちを育み守る
時間を止めるはいのちを止めること

時間を塞き止めるや
いのちを締めつける
流れの源流を断つことは
脈々とした時間を伝えなくすること

源流は川をつくり 支流を生み
大河になり 海にわたる
呼応する緑は山に野に茂り
日差しは静かに降りてくる

ここに春の海がある
長閑な海の景色がある
喧騒もないただの風景がある
それをただ見つめている私がいる


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