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皐月の風

瀬戸内の小島を縫うように
皐月の風がやってくる
海はおだやかに気を休め
見ている私を透かして心に届く

波の音は静かに
遠い記憶の海岸線をなぞるように
思い出の断片を打ち寄せては
そこに置き去りにする

断片をつなぐのは私
置き去りにされた断片は
時を超えて
再び大切なものとして蘇る

長い時間が流れても
一度記憶の箱にしまわれても
蘇る時はどこかでやってくる
打ち寄せられた記憶の欠片のように

すくい取れるか見逃すか
生き急ぐ日常の中で試される
原風景に吹く風は
いつもやさしいとは限らない

生き方に疑問を持っていたり
行く先に不安を抱えていたり
失くした愛に嘆いたり
自分自身を見失ったり

無情の時間は
自分がつくりたもうもの
有情の時間もまた
自分がつくりゆくもの

ただ風は横を通り過ぎ
ただ波は前に打ち寄せ
ただ空は日を照らすだけのもの
ただ流転の気づきを手渡すだけ


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