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たおやか

最近あまり聞かれなくなった言葉の一つに
「たおやか」という言葉がある。

漢字で書けば「嫋やか」。漢字からは
なよなよした弱々しいイメージを描きがちだが、
元々は「風がそよそよとふくようす」を表している。
「たお」は「撓む」と語源が同じらしい。
弓のように撓むの「撓む」だ。

「たおやか」が意味するところは、
姿形、物腰などがやわらかく、しとやかで上品、
優美なさまをいう。
それは所作だけでなく、性質にも及ぶ。

たおやかな女性というのは男性の憧れとも
理想とも言われるが、これは男性だけに
限らないらしい。
女性もまた理想とするものらしい。

「たおやか」が源氏物語の空蝉の姿を
表したところもこの言葉の美しさがわかる。
美しい言葉というものは、
別の言葉で言い換えるのが難しいものだ。
その言葉自体が持つニュアンスが
心をとらえる力を保つものだからだろう。

「たおやか」のように美しい日本語は
四季折々の変化の中で育まれた繊細さをもち、
デリケートで絶妙なニュアンスを
持ち合わせている。
それに加え、言葉を遣う人の優しさや
温もりも伝わってくるように思う。
日本人の美意識が宿る言葉と言っていい
かもしれない。

このような言葉の見分け方をご存知だろうか?

ちょっと挙げてみると、
しなやか、しとやか、あでやか、さわやか、
はなやか、ひそやか・・・

もうお分かりだろうか?
言葉が「〜やか」で終わる言葉がそれだ。
日常会話の中で今は遣われることが少なく
なったと思うけれど、
自然に遣いこなしているひとに会うと
センスの良さに惹かれるものである。
着物を召した女性が遣っていると
思わず惚れてしまいそうである。

言葉は言の葉。
その葉に美しい日本語をたくさん繁らせて
生き生きと日差しを浴びるひとでありたい。

5月最後の日に、
若い葉が皐月の風にたおやかに揺れるさまを
見ながら、ふと思う。


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