夏のぶらんこ

両手で鎖を引きよせながら
脚の屈伸を利用して
両足で座木をけり上げる
 きゅゆうい きいい きゅゆうい

止まっていた空気が風になる
誰もいない公園で
風景が走り出す

鎖のきしむ鈍い音が
時間を逆行させるリズムを刻む
その分身体は軽くなる
 きゅゆうい きいい きゅゆうい

飛び散るような光の中で
色褪せ始めた過去景が浮かんでくる
空に吸いこまれそうな想いが引きもどされる

遠くには河があって
たっぷり水を含み流れているだろう
きっとこどもたちが水遊びでもしている

低くなったぶらんこ
興奮した振幅から
放り出された向こうに何が見えたのか
 きゅゆうい きいい きゅゆうい

手もとまで飛びこんでくる夏を
ゆらしながら
少しの間 身体の中で記憶がはじけた

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