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量は質を高める

 ディック・ブルーナーという絵本作家を知っていますか? 
ちいさいうさぎのキャラクター「ミッフィー」の生みの親といえばお分かりでしょう。あのシンプルな線、色、構図で描かれるミッフィーのシリーズは1955年第1作が発表されてから、現在世界33ヶ国で八千万部以上の絵本が読まれ愛されています。
 彼は、こどもが喜ぶ絵を描く秘密を聞かれたとき、こんな風に答えています。「筆と絵の具で、ゆっくりと線を引くと気持ちが出て温かい線が描けます。そして、詳細なデッサンから徐々に単純化していきます。それには時間が必要で、満足するまでに何百枚も描いています」。彼にしても、これだという線に出会うまでに驚くほどの量の線を描いています。
 発明王といわれるトーマス・エジソン。彼は驚くべき実験家であったことはあまり語られません。彼が乾電池の研究中、気が遠くなるほど実験を繰り返し、その数が1万回に達したとき、それを見て飽きれて問うた友人に答えたそうです。「俺は失敗なんかしていないよ。1万ものうまくいかない方法を見つけたんだ」。エジソンにとって、この失敗(上手くいかない方法)の驚くべき量は、成功(上手くいく方法)を生み出すその礎にほかならなかったのです。
 20世紀を代表する理論物理学者アインシュタイン。彼はものごとを探求したり、考えたりすることは得意な人でしたが、記憶することが苦手な人でした。あるとき言ったそうです。「私は、調べれば分かることは覚えないことにしている」。つまり、文献や事典を調べればすぐ分かるようなことは覚えなかったのです。むしろ彼の興味は、調べても分からないことを考えて答えを見つけることに向いていたそうです。その考える量は驚くべきものであったそうです。
 手塚治虫が生み出した漫画やアニメはその作品数にも驚きますが、どの作品の質も高いことは誰もが認めるところでしょう。晩年、彼が闘病のために入院しても、そのペンを止めることはありませんでした。ペンを手にとれない状態のときでも発想は止むことをしらなかった。描きたいアイデアは枯れることなく溢れていたのです。驚くべき量です。
 一つのアイデアを見つけたとき、できるだけ具体的に表現することで、見逃していた問題点も発見できます。また、思わぬ効果を見つけることができます。問題を発見する。解決のアイデアを考える。発想を表現する。この繰り返しで、アイデアの量は増えていきます。そして質の向上も図れます。現実には、際限なく考えているわけにはいかないので期限を設けることが必要になってきます。
 「知」の量的生産は、「知」の質的生産を導きます。未熟なアイデアは、具体的に表現した量を増やすことでより良いアイデアに高めることが容易になります。天才でなくても誰にでもできることです。一人で大変ならば、生み出したアイデアをもとに何人かで量を生み出し、さらに良いアイデアに育てることができます。人にアイデアを知られることを恐れるあまり、アイデアの独りよがりに陥り、実現しないことはよくあることです。むしろ、アイデアを世に出すことを考えれば、その実現のためには「量は質を高める」ことを再認識することも必要なことではないでしょうか?

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