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嘘の石

嘘をつくたびに
心のなかに小石を飲み込んだ。
はじめは軽い小石が一つや二つ
飲み込んだところで
歩けなくなることなんてなかった。

次第にその重さにも慣れて
少年は大人になった。
体は大きくなり、立派な体格を手に入れた。
その片隅で小石のことは
すっかり忘れてしまっていた。

やがて大きな嘘をつくことを覚えた。
それはとても甘美なもので
青年は満足な顔をして
窮地な場を何度も乗り切った。
飲み込んだ石は一回りも大きなものだった。

それさえ立派な体にはまだ余裕があった。
気も大きくなり、態度にも現れた。
偽ったことさえわからないほど
それが自分だと思い込んでいた。
飲み込んだ石のことなどどうでもよかった。

やがて月日が経ち、
老いが歳を誤魔化せないほど身を覆い始めた。
体力は尋常じゃなく落ちて、
立派だった体は不格好な体型になっていった。
忘れていた石が外見からもわかるほどに。

嘘の石は抱えたときのまま溶けもせず、
排出できないまま心の中に残り続けた。
老いた体に飲み込んだ大小の石はひと際重く感じた。
それが偽ってきた自分の愚かさを示していたことに
気づいた時は誰も周りにはいなかった。

嘘の石は意思なく、亡くなることはない。


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