チャンスオペレーション       Chance Operation

 私たちがアイデアを考えるとき、そのヒントを意外な場面で見つけることがあります。そして、その偶然性による発想が大きな成果をもたらすことがよくあります。まるで、そこに引き寄せられる何か不思議な力に導かれたような気にさえなります。そう、出会うべくして出会った恋人のように。
 しかし、なかなか好都合な偶然はやってくるわけではありません。だからこそ偶然なのですが。でも、その確率を上げる方法があるとしたら、どうしますか?
 偶然とは面白い現象で、考え方の視点を変えるだけで、滅多にないと思っていた偶然を増やすことができるのです。探し情報(もの)をしていたが目的のものは見つからなかった。その費やした時間を無駄とみるか、その探し情報をしていた過程で見つけた別の気になる情報と出会ったことで、その時間に意味や価値を見いだすかでまったく様相は違ってきます。
 気になる情報が一つも見つからなかった場合には別の問題がありますね。情報アンテナの感度が鈍っているか、本当にそこに何もないかです。
 アイデアを考えている人は、ただ一つの問題を集中的に考えているときでも、常にそれと並行していくつかの気になる課題を抱えているものです。発明家も作家も芸術家も同時にいくつものテーマを抱えて日夜創作活動を行っています。そのとき、優れた人は、それぞれのテーマに沿って頭の中にファイルを用意してあり、情報アンテナを張っています。緊急性のないテーマや、その時点では優先順位の低いものであっても、それに関連することや関係ありそうな情報に出会えば、アンテナが反応するように日々準備を怠らないのです。そうした努力があれば、偶然性の中で、気になる情報を拾い上げる確率が高くなります。つまり、チャンスは準備をいかにしていたかによって訪れ方が違ってくるのです。
 「偶然」という言葉は英語でchanceと表しますが、この偶然性を捕まえる術を「チャンスオペレーション」といいます。「チャンスオペレーション」を使うことができる人は、情報を巧く料理できる人だと言えます。偶然の出会いを信じることのできる人は「チャンスオペレーション」を習得できる人です。そして偶然は好機となるのです。
 ある問題を解決するためのアイデアを探していたとします。そのとき、偶然出会った情報が別のアイデアのヒントになることがあります。「チャンスオペレーション」を使えば、アイデアを得る幅を拡げ、機会を増やすことができます。多くの偶然を手に入れることができるからです。つまり、偶然を活用するのです。その一番簡単な方法は、周りをよく視ることです。家でも職場でも通勤の電車の中でも構いません。とにかく「よく観察する」ことです。何の気なしに眺めていても、目に留まるものはあるものです。そのうち、何かの傾向に気づいたりします。頭の中で何かを形づくるようにもなります。そして、それを表現したくなるでしょう。もう「チャンスオペレーション」が始まっています。
 人間は、頭の中で一つのことや一つの方向性しか発想できないということはありません。常にいくつかのことを同時に行っています。それを表現することの上手下手はあるでしょうが、一つの発想が別の発想を引き出し、連鎖的に複数の発想がリンクしたり、進化したりして形づくるのです。
 あなたも偶然の出会いを信じてみませんか?
(初出:2002.07.29)

※「チャンスオペレーション」はアメリカの現代音楽作曲家ジョン・ケージによって提唱された言葉です。


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