蚊帳

蚊帳

小さい頃、夏になると蚊帳の中で寝るのが好きだった。
蚊に刺されるのもいやだったけど、
蚊帳の中は何か特別な空間だった。
オトナたちが居る世界とは別のこどもだけの空間だった。
夏布団が敷いてあるけど、いつもの寝室とは違う。
寝る時間には早い。まだ眠気はやってこない。
そんな時間にTVを観るより楽しみな蚊帳時間。
藍染めした麻の手触りも肌触りも心地いい。
ここは誰もが入ってこられる寝室ではないのだ。
好きは本を持ち込んだ、こどもだけの世界だ。
ここで本を読んだり、あれこれ想像するのが好きだった。
障子戸の向こうにはオトナたちの世界がある。
俗っぽい世界だ。
ここは邪気は通さない。時間の流れも違う。
こどもは守られている。こどもだけが守られる世界だ。
寝ている間に空を飛ぶかもしれない。
地球の成層圏を突き抜けて宇宙へ行くかもしれない。
恐竜のいる太古の地球にタイムリープもいい。
ミクロのサイズになって昆虫の森に出かけるか、
人の脳内に入ってみるか、なんでもできる。
蚊帳の中は特別な装置だ。
光は柔らむし、風は涼しい顔で入ってくる。
悪いやつらは入れない。
親だって勝手には入れないのだ。
蚊帳の外に出たぼくには入れる隙間があるのだろうか。

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