一雫

画像1 やっと折れた歯の仮歯が入った。30分後に入ったヤツは、一噛みでポロリ。1時間後、いつもの人のお陰で無事に完成。1年前、キラキラ生き生きしていた彼女が、少し疲れた表情で笑顔を見せた。腕は落ちていない。厄介な仕事は、みんな彼女にまわっていたのを思い出した。一回一回ベストを尽くす。それを毎日繰り返すのも大変だけど、それ以上に患者側には分からない負荷が、彼女の目の輝きをくすませたんだろう。…少し前のわたしを見てるみたいだった。
画像2 そして帰り道、スーパーのレジ係の女性を思った。1年前、オープン時より愛想がなくなり、お釣りの渡し方もぞんざいで、どうしたのかなと気になっていた。ある日、歩きにくそうな後ろ姿で体を傷めているのが分かった。今まで出来ていた日常動作が、当たり前に出来ない。覚えがある。つらいな。昨日は、千円以上購入で、特製のお豆腐をおまけに頂いた。黒豆大丈夫ですか?はい、大丈夫です。レシートを差し出す左手に精一杯右手が追いつこうと伸びていた。いつも見られた笑顔がそこにあった。とてもとても、嬉しかった。とても、とても…。
画像3 ひとはなにか辛いと、1日の大半をそのキツさに引きずり回される。親子、兄弟、夫婦、会社に地域に親戚づきあい、みな関わりの中で様々な役割を果たす。人の身体に触れる仕事をずっとしてて、いつもその人の日常を思った。指の一本一本、血管や筋肉の走行、全体のかたち、様子…、身体もこころも分かち難く、それを取り巻く環境も一人一人違う。その人の感じる痛みも喜びも他人が測ることはできない。歳をとったからで済まない大切なことがある。今日、あなたたちに会えて嬉しかった。ことばを交わすって、大事だなってハンドルを握り、思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?