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足るを知る

ぽつぽつ畑を初めて思うこと。
過ぎたるは及ばざるが如し。
水・肥料・日除け・虫除け…、手をかけるほど良いというものでもない。
だからといって、放ったらかしもまた違う。
丁度良いの加減。
このものさしの具合。
そして、自分がここでどうありたいのか。
鍬を振るい、草をひねる折々に、思わない日はない。
畑にいると、たくさんの生き物のひしめく中に、自分が立っていることを知る。
耕すということは、そこに生きる生命の居場所を、こちらの都合に合わせてぶん取ることでもある。
草取りその他もしかり。
そこに生きるいのちの領分に押し入って、自分の口や腹、アタマの満足を満たす。

狩猟採集の時代には、その時期そこにあるものを、あるぶん食べただけだった。
冷蔵庫だのフリーズドライだのないわけで、貯蔵方法や量も限られていた。ないときはないし、毎日安定して腹一杯食べられたことも少なかったんだろう。
多分、満腹のゲージも違う。
満足かどうか問うことはあったのか。
やっぱりもっとたくさんと求めたのか。
少なくとも、自分たちの暮らす山・平地・海の動植物の生命のリズムに合わせて生きざるを得なかったことは、間違いないだろう。
移動にも限界があり、他の土地を知らないから、寒冷地で南国の果物を欲しがることもなかったろう。

現代は、大概のものが本来の時期や場所を飛び越えて出回っている。
付加価値をコテコテに貼り付けて、聞こえと見た目勝負みたいなものが大きな顔をしてる。
…ごめんなさい。
食っていくための企業努力なんだろうけど。
スーパーや自然食品のお店に行って、宣伝通りのものもあれば、まったく気落ちするものも多々ある。
逆に農薬使ってても気にならないものもある。

もう10年以上経つかな。
『いのちの食卓』
『アースリング』
2本の映画を観た。
1本目は、自主上映で古い明治時代にできた映画館で。
終わったあと、無性に大切な家族・人の体温に触れたくてしょうがなくなった。
身体に安心安全なものを。
地球に優しい循環型農業・社会。
そんなことぶん投げて、ただただ自分の生きている輪郭を、ぎゅっと掴みたくて、いてもたってもいられなくなって、アンケートとかそんな書く余裕もなく、飛んで帰った。

いつもの台所。
包丁。まな板。鍋。
逆さに立った数本の箸。
ぷくぷくのほっぺた。
芳しい外気をまとったタバコの匂い。

ザワザワする、吠え立てる体を落ち着かせたくても、なかなか収まらなかった。
知らない。
こんなこと、知らなかったよ。
そして、すぐにどうこうできることではないことに、思いがさまよって時間が過ぎた。
2本目は、それから2、3年後。
やはり衝撃を受けた。

わたしは簡単に忘れる。
想像すればもうここにも、気づかないだけで、聞こえないだけで、いのちがしっかりと呼吸してるのに、日々食べものを口にしながら気づかないでいる。

20年以上前、東城百合子さんや大森一慧さんのテキストを参考にした穀菜食教室に、職場の(その頃、そこで陰陽五行に則ったアロマテラピー+整体(芳香整体)を学んでいた。)紹介で不定期に通い始めた。
マクロビほど徹底的ではないけれど、一物全体・身土不二・医食同源などといった思想に、食を通じて自分と周囲の生命が結ばれていく感覚に惹かれた。
一緒に作り、そこや職場で教えられたまま、食事を変え、冷え対策をしたただけで、ひどい花粉症や便秘といった不快な症状が消えていった。全体に軽くなり、頭もスッキリする。
なんていいんだと素直に感じた。

集まる人たちは様々だった。
切実に自分や家族の身体の回復を願う人。
より美味しい、こだわりの食材を使って、今までとは違うやり方で料理することが好きな人。こだわり有機野菜大好き。
いや、友達づきあいで。
なんかマクロビって何かなと思って。
とにかくなんでも食べるの好き。
集まり自体がごった煮だった。

職場のオーナー達が、昼の賄いの一品二品に、手のかからない副菜を準備してくれていた。
新しい母が2人もできたようで、ちょこちょこ手伝いながら、子どものように嬉しかった。
このおかずがシンプルでとても美味しかった。

貴女ね、ひとは全体で観るのよ。
貴女やわたしが何をエネルギーにしているか。
何でこの身体を養っているか。
吸収し、循環し、排泄する。
この淡々とした螺旋状の繰り返しに、どう関わるのか。
この簡単な食事を通した何気ないやりとりに、もっと自分のいのちに積極的に関わる必要を感じた。

あれからもうだいぶん経った。
今もそのテーマは、暮らしの随所で心に留まる。
深くじぶんに降りていくために、避けては通れないこと。
よそ見してもそこにまた現れる。
あーあ、そして結局わかってないじぶんに気づいてしまうのだ。
簡単なはずなのに、難しい。
そして無駄食いなんぞで、満腹感を満足感にすり替えて、ずるずる引っぱるこのアホさ。

はあ、…いい加減しっかりしたい。

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