都営交通乗車証

私達(器)は、出生時にもはや成長しても100%寝たきりになると7人の医師に言われた先天性脳性麻痺であったが、実は障碍者手帳を取得していなかった。
時代がらもあり、成長してもしも結婚やら仕事に就くことができたら、その時、障碍者というレッテルは不利になる、という医師や母親の周りの人たちの考えだった。
それに……寝たきりの脳性麻痺児であったら、どう見たって障碍者であることは、わかるから…

しかしその後、立って歩くことすらままならないまま、就学時健診も受けず、母親の判断(養護学校に入ったら可能性を狭めてしまうかもしれないと)で、無理やり公立小学校通常学級に。

それから、驚異の発育を見せながら、しかし同時に、他の子たちとの違いに戸惑い誤魔化し技術にひたすら長けながら、解離性同一性障害や性同一性障害などアイデンティティの混沌、他精神疾患など抱えながら、代々主人格(交代人格)たちが、結果的にこの器を守り生き抜いてきた。

そんな中、何度か、障碍者手帳取得の話が持ち上がっていた。
しかし、こちらはわけがわからないまま他の子も同じなんだろうなどと思い込みながら通常学級で何とかやってきた身であり、あらゆる意味で複雑なものがあった。しかも、苦痛で複雑で面倒な検査などをたくさん受けねばならない。
そんなわけで、思春期の複雑なものも絡みに絡み、手帳取得にいたらなかった。

しかし、ここ数年、やはり取得しておいた方が良いと、自分達で判断し、動くことに。
しかし、精神と身体の問題がひどく込み入った複雑な形で絡まり合い、しかも脳の問題がほとんどとなれば、身体での手帳取得は難しいだろう。
しかも、よっぽど日常生活に支障があるのに手帳が取得できないなどという話もひたすら良く聞く時代だ。

そんなわけで、精神の方からの手帳取得に動き、つい先日、取得に至った。

しかし、手帳が届いた時、「手帳によって受けることができる支援については、交付と同時に届く冊子を見るように」というようなことが書かれていたにも拘わらず、いや、予期はしていたのだが、そんなものは一切ない。

そして、いろいろと調べていたところ、やはり私達の場合は、精神でありながら事実上実際日常生活での支障は身体的な問題であることもあり(いや、そうでなくても、という気もするが)、必要ない支援は多いのだが、欲しい支援はほとんど対象外。

しかし、その中でも、都営交通の割引が利くということで、では、毎月の通院にも都営地下鉄を利用していることでもある、これは使わせていただこうと調べた。
調べてみてもどうにも具体的にどう動いたらいいのかわからず、とりあえず区の窓口に行け、「福祉部」と書いてあるので、しかし突撃して必要書類などがもし足りないなど無駄足になると困る、しかもこれは区役所なのか保健所なのか、調べてもわからない。まずは電話してみた。
そこで調べた番号だったのだが、区役所の人が出て、しかしながら、「それは保健所の管轄です、保健所へ電話して下さい」と。
視覚に制限があるとこういうことからしてかなりの問題なのだがひとまず何とか電話番号を書き留め、保健所に電話をすると、
「それは駅で発行してもらって下さい。」とのこと。
…本当に、行かなくて良かった。

そして、近い駅を教えてもらい、少し行きにくいが、それでも御徒町が良さそう…と判断し、とにかく「障碍者手帳と、PASMOとかICカードお持ちですか?それを持って行けば大丈夫です」と言われたので、とりあえず行くことに。

ちなみに…少々ややこしいことに、御徒町駅は、御徒町、新御徒町、上野御徒町と、微妙に名前を変えていくつかある。
つくばエクスプレス線かJR、大江戸線のどれかなのだが、私達の最寄りはつくばエクスプレス線、しかし乗車証発行してもらうためだけに、最短区間でも高いTXを使うのは馬鹿みたいだ。
そのため、確か区の周遊バスが近くを通っていた…と思い、かなり遠回りで時間もかかるのだが、天気も良いし、少し気分転換も必要だと、バスで行くことに。
ここで私達側の勘違いもひとつあったので、それもロスのひとつではあったのだが…
まず、バスを降りてから、初めての下車停留所であったので、日差しのしっかりある中(なくてもだが…)、白杖歩行者にはどこに何があるか、駅がどこにあるかわからない。脳内地図と道路の音、太陽の方向(東)を並べて考えながら、横断歩道を渡ってみると、工事だったのか何やら作業員だか交通整理の人だかとにかく見張っていた人に止められる。
しかしこれが逆に幸いと、駅の場所を聞くと、何か思ったのと少し誤差のある方向に連れて行ってくれた(ちなみに新御徒町駅だった)。
とりあえず駅に入り、有人改札に辿り着き、発行を依頼すると、「ここではできない」と言われまずびっくり。

駅員さんもいろいろと聞いてくれ、ちょっと確認しますねと電話もかけてくれた。
しかし、どうやらここではできない、インターネットでも調べてくれ、「区の窓口に行けって書いてありますね」
…いや、しかし区の窓口に電話をしたら駅に行けと言われたのだと説明すると、またいろいろ調べてくれ…
「失礼ですが、目が不自由…ですか?」と聞く。
ん?と思いながら、それには頷き、同時に、「しかし手帳は精神です」と付け加えた。
これが突破口の情報になったのかならなかったのか、要するに同じ都営交通乗車証をとるにも精神と身体で手続きが違うのか何なのかは知らないが、「ああ、そうでしたか。失礼しました、ちょっともう一回確認してみますね」とまたどこかへ電話をかけてくれる。

なんと丁寧な駅員さん、その後、「すみませんね、手帳をしっかりと見るのも失礼にあたってしまうもので。少し確認させていただいても構いませんか」と言って、有効期限を見てくれ、「有効期限が切れていないことはまず必須だと言うことで」と。ここでできないならこの駅員さんがやってくれることではないだろうに…私が無駄足にならないために。
そして、「一駅先の上野御徒町でならできるようです(この1駅違いが私達側の勘違いだった)。そして、PASMOお持ちですか?」

「スイカを使っているんですけども」
「どうやらPASMOでないとできないようなんですよ」

……待て…区役所は電話で、「PASMOとか、ICカードお持ちなら大丈夫」と確かに言った……

…まあ、まあとりあえずいい。
しかし優しい駅員さん、スイカも見てくれ、スイカに印刷してあることがら(実は10年以上前に定期として使っていたものをそのままただのスイカとして利用していた)も確認してくれ、今は定期として使っていないんですね、なら、PASMOだったらできるようです、と。
では、今別にスイカでなければならない理由はないからPASMOに変えて、中の金額を移し替えることはできるのだろうかと伺うと、それはわからないが、スイカに入っている金額はJRの駅で「払い戻し」ができる。PASMOの発行には500円がかかるが、これから一駅隣の上野御徒町に行くか?

では、折角来たならとにかくPASMO発行と乗車証発行はしたいと、上野御徒町までの駅員介助をお願いすると、なんと、都営の乗車証をとるのだから(ということかはわからないが)、隣駅までのフリー切符を出して下さった。

ありがたさ、身に沁みながら、隣駅へ行くと、どうやら乗車証の発行所というのがあるらしい。
そこの窓口まで連れて行ってくれ、その後、帰宅するにも少しややこしいのでどうしようか考えながら、では上野駅からまた周遊バスに乗ろう、ついでにJRなら払い戻しもできるかと、JRの御徒町駅に行きたいと伝えると、上野御徒町駅の駅員さんも優しい方で、なんと、窓口の手続きをしている間、待っていて下さった。

さて。遂に乗車証発行手続き。
窓口で手帳を見せるだけで済んだ。
そこで、まあ案の定だろうが…「これは”精神”ですけど、精神での乗車証発行でよろしいですか?」と聞かれた。まあ…見た目では視覚障碍者に見えるので仕方ない…。
発行に何やら書類記入を求められ、代筆して下さった。
名前、電話番号など……そして、苦笑したのが、
「性別は、女性に〇をつけさせていただいてよろしいですか?」
…確認してくれて嬉しいやら哀しいやら!
さすがに窓口係員さん、これだけ会話をしてこちらの性別がわからなかったわけではないだろう。だから、その上で聞いてくれたのは嬉しいのだが……どうせ男女どちらかしかないのだろう…??そちら、〇するほか、ないのだろう…??(笑)
精神障碍者手帳だというのにね。

まあ、これも仕方ない。

ともかく無事にPASMO発行し、それに都営交通乗車証をつけ、説明書もくれた。
お待たせした駅員さんに感謝して、JR御徒町駅へ。
そこでJRの駅員さんに引き継いでいただき、山手線で上野駅へ…。

どうやら、スイカ払い戻しは緑の窓口でしかできないらしい。
上野駅のみどりの窓口に行くと………案の定だ。
「今、並んでます。20分か30分くらいは並びそうです」

上野駅のみどりの窓口は、とんでもなく混む。
コロナ情勢がだんだん無視されるようになり、観光客が増えてからは尚更だった。10時に出て、既に12時半を回っていたが、それにしては2,30分並ぶ程度なら列は短い方だ。

しかし、驚いたのは、駅員さん、付き添ってくださる。
20,30分も並んだらお仕事邪魔してしまうと、駅員さんにも申し訳ないと言ったのだが、「気にしないで下さい、大丈夫」と。何と優しい…。
その上で、その後でどこに行くのか聞いてくださり、周遊バスで帰るため中央口から入谷口へ行きたいと伝えると、では外の道路を通っていけますので案内しますね、と言って下さり…その後、並んでいる間に考えたのか、「バス停の場所が私にはわからないので…外の道路を使って行くといつも行く道じゃなくて場所がわからなくなっちゃうかもしれないので、やっぱり中を通っていきますか?」などと。
上野駅は流石に慣れているため、入り口の階段の場所さえわかれば大丈夫だと伝え、やはり外側の道路を通っていくことに。この駅員さん、バス停まで案内しようとして下さっていたのか…!

そして、数十分並んで遂に窓口へ。
スイカの払い戻しを無事してもらい、…この時にもなぜか本人確認が必要だったようで手帳を提示の上、更に「お名前とか書いていただくんですが書けますか?」というので、枠がわかれば…と答えておくと、一旦裏に引っ込みまた戻ってきて「では代筆して良いようなので」と…名前だけではない、生年月日やら電話番号やらあれこれ聞かれた。
払い戻しに本人確認、個人情報がいるのか…。

ともかくやっとのことで払い戻しが完了し、PASMOにその金額入れられるのだろうかと聞くと、「それはここではできないので、外の機械でご自分でやってください」とのこと…

そういうものか……とまた流されつつ、しかし心の支え、付き添ってくれた上に一緒に数十分並び、手続きの間も待っていてくださった駅員さんに、面倒ついでにPASMOのチャージも助けていただき、無事、無事、…無事、本日の、都営交通乗車証取得、一連任務、完了。

そしてこの駅員さん、外の道路を通って「今日は暑いくらいになりましたね」などと声もかけてくれながら、上野駅入谷口まで、そしてそこから「あ、10Mくらい先にある、1って書いたバス停ですか?」と、まあ本当にすぐではあるのだが、そこまで連れて行ってくださった。

本当に、駅員さん方が悉く親身になって助けてくれなかったら、大変に難儀していたところだった。


その後は無事に、周遊バスに乗り…何とそこでも乗り合わせた女性の方が、同じところで降りるからと助けて下さり、実はそこでバス乗換えのために同じ場所で待ったのだが、時刻表を見て下さったり、その後いったん別れたすぐ何かパタパタと小走りに戻ってきて、バスが来たことも教えて下さり。

ちなみに、その後、近隣の図書館に寄り、取り寄せていた資料を借りたのだが、ここでも署名が必要とは…まあ、資料を借りるなら読み書きできるとは思われているだろうから(私がそれが難しくなるのも外出先であるためであるので)、とりあえず書く場所と長さを指し示してもらってそこに署名し、ここでも無事。

最後に、本当についでができそうだったので食料品の買い出しに……もう遅くなったついでだと思い覚悟して行ったら、商品を探している時、なんと、恐らく外国籍の方だろうか…日本語母語話者ではなさそうな男性店員が声をかけてくれ、品出しでもしていたのだろうか、持っていたカートに私のかごを置いて腕も貸してくれ、そしてこれまた何と最後まで、全部商品を一緒に探し、会計が終わるまで、付き添って手伝って下さり、普段であったら1時間はかかったところ、スムースに終わらせ、帰宅することができた…。


白杖の単独歩行で外出自体になかなか腰が重くなる私は、乗車証の手続きだけでわざわざ最寄り以外の駅に行こうなどと動くこともまずない。
翌月の通院時にでもと思っていたが、丸一日空いている(本当は資料の読み込みや資料作成に使おうとおもっていたのだが…)日に勢いをつけて出かけて、正解だった。
障碍者関係の手続きは、とにかく、時間がかかる。時間がある時にした方が良い。


周囲の人たちの温かさに、本当に涙が滲む感謝を、せめて、全て記録報告しておきたく、本当は都営交通乗車証について(調べてもわかりにくい上、手帳取得者は尚更情報集めが大変なものだと思い)記事にしておこうというつもりだったが、結局日記になった。

乗車証を使うたびに、この日のことは忘れないだろう。
そして、感謝を以て、使わせていただこうと思う(実は都営交通を使う機会は少ないけれども……)

ちなみに、都営交通乗車証は2年ごとに更新が必要となる。
偶然、私は11月1日に行ったので、期限は25年の10月末までだが、もしキリが良い方が覚えやすい(処理しやすい)のであれば、月初めなどに手続きをしておいた方が良いのかもしれない。


念のため、
手続きをされる方、くれぐれも、
・区の窓口に行かないように
・乗車証発行窓口というものがある駅で(これは調べれば出てくる)
・ICカードと合体させるなら、PASMOのみ(スイカ他のICカードでは不可)
・もしPASMOを新規発行する場合は、デポジットとして500円必要、また、スイカ払い戻しをする場合はみどりの窓口があるJRの駅で、手数料220円が差し引かれる
※カード内残額が0円の場合は手数料なしで良いらしい。…残高0円でもしスイカが不要になったら捨てるものと思っていた。残高0円でも払い戻しをして引き取ってもらうものだったのか…ということも、実は初めて知った。

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