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ファラデーと磁石と父と娘の話(2024年2月4週)

 毎週土曜、シニアの皆さんを対象にZOOMを通じて、時事ニュースや科学ニュース解説を行っています。そこで扱った話題をダイジェストでご紹介します。2024年2月第4週は、発電機の原理と磁石開発などを話題にさせてもらいました。(標題写真は2019年に発表された小型高性能モーター)


1)電気を作っているのは..

 電力がどのように作られているかを示す「電源構成」という言葉があります。火力(石油、石炭、LNG)、原子力、水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどが挙げられ、化石エネルギーか自然エネルギー(再生可能エネルギー)かで区別されることが多いと思います。しかし別の分類の仕方もあります。「発電機を使うかどうか」です。

2)ファラデーの法則

 日本の電力の9割以上が、タービンやプロペラ(インペラ)の動力で発電機を回して作られています。火力も原子力も水力も風力も、地熱もバイオマスも自家発電機もみなそうです。太陽光発電のみが例外です。
 また作られた電力のうち半分が、発電機と原理を同じくするモーターが消費していると言われます。物流や電車、エレベーターやエスカレータ、電動アシスト自転車、BEV/PHEVもみなそうですし、エアコン・冷蔵庫などのコンプレッサーもモーターです。これらすべてが、ファラデーの電磁誘導の法則で説明されます。以下の「ガス会社」の解説がなぜか非常にわかりやすくまとめられています。

https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/ijin/1272890_38939.html


3)日本で次々開発された高性能磁石

 あるエネルギーを他のエネルギーに変換するトランスデューサとしての永久磁石の研究開発は独創性に満ちたもので,新しい磁石の誕生は非常にドラマチックである.

"新材料と先駆者たち", 木村康夫著, 鋳造工学, 1977

 よいモーターにはすぐれた磁石が必要です。本多光太郎のKS鋼、三島徳七のMK磁石、加藤與五郎・武井武のフェライト磁石など、新しい磁石の多くが日本で生まれています。論文ではその歴史を振り返り、続くサマリウム・コバルト磁石、そして最新最強の佐川真人氏のネオジム磁石を紹介しています。

希土類コバルト磁石がサマリウム・コバルト磁石、
希土類鉄ボロン磁石がネオジム磁石のことです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfes/69/11/69_947/_pdf/-char/ja
"新材料と先駆者たち", 木村康夫 より

 ネオジム磁石がなければ、スマホのバイブ機能も小型ドローンも存在しなかったことでしょう。そのインパクトについて紹介する記事です。

https://www.tdk.com/ja/tech-mag/hatena/038

 標題写真の小型高性能モーターは、JAXA、新明和工業、大分大学などのグループが開発したもので、25gで出力50W、15,000rpmで効率85%という性能を誇ります。電磁鋼板の性能UPに加え、高性能磁石の存在も大きく関わっています。https://www.jaxa.jp/press/2019/02/20190207a_j.html

4)ひところは「世界で一番強かった」…

 前項の論文では、希土類コバルト(サマリウム・コバルト磁石)の発明者名は触れられていませんでしたが、探した中では唯一、ネオジム磁石発明者の佐川真人氏の回顧録に「サマリウム・コバルト磁石の発明者は歌人の俵万智さんの父上で、松下電器産業を経て信越化学工業の磁性材料研究所長を務められた俵好夫さんです」とありました。


 俵万智さんも、このような歌を書かれています。

〈ひところは「世界で一番強かった」父の磁石うずくまる棚〉

 そして、その“父”の訃報です。直接は存じ上げませんが、まちがいなく現代社会の礎を築くお仕事にかかわられた方であろうと思います。開発のご苦労やネオジム磁石の評価など、お伺いしたかった気もします。ご冥福をお祈りいたします。
 また俵万智さんの新聞の連載エッセイも、同世代の人間として非常に味わい深いものでした。


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