”なんか”の正体

「なぁ、なんかおかしない?」
と言われたので、右ポケットから今にもグニョッと溶けてしまいそうなチョコレートを渡した。昨日買ったやつ、冷蔵庫にしまうの忘れてたなんて言ったら怒るだろうな。いいや、内緒にしとこう。
「いやいや、お菓子ちゃうで。おかしない?可笑しくない?ってこと」
あぁ。こっちの勘違いね、変にドキドキしちゃった。ほんの数秒を返してほしいよまったく。
そう思ったけど、これも内緒にしておこう。

「おかしいって何が。」
「いや、何がーとか何処がーとかはハッキリわからんけどさ。なんか今日あんたおかしいわ」

カチンと鳴った。耳じゃなくて脳内に聞こえた。そうか、本当に腹が立てば確かに何かが切れる音がする。なんだ私、友達相手にイライラしてる。
ここ変だよって言われるより、なんか変だよって言われると結構傷つく。こういうとこが可愛いって言われるより、なんか可愛いねって言われたら、いつもより浮つく。
なんか ”ってなに。
そういえば私もよく使ってるはず。「なんかお腹空いた」とか「なんか嫌な感じ」とか「なんかすごい嬉しい」とか。” なんか “って具体的にどういうことなんだろう。どれぐらいの範囲?重さとかあるのかな。頭の中でナンカがぐるぐるぐる…。脳みそを勢い良く走り出すと、たちまち右手の指先を折り返して今度は足元へ向かう。そこにも折り返し地点が、次は左サイドを疾走。肩を昇ってまた脳みそに戻ってきた。さぁここからあと何周すればゴールかな?旋回するナンカの威力は凄まじい。何度も何度も私の体内を巡って、12〜3周したあたりでしょうか、ここで初めて喉仏へ寄り道。休む間も無く走り続けてたのでもうくたくた。私が深呼吸した途端、口からぽろっと出てしまった

「なんか、って何なの」

しまった。こんな鋭い言い方しちゃうんじゃ、”なんか”よりよっぽどタチが悪い。
こらえろ、私!この子にも”なんか”の正体なんてわからないんだから。

そう、この子が言う通り今日の私は”なんか”おかしいのだ。
慌てて口をぎゅっと結ぶ。

「そういうところ。」

それだけ言って、もー早く行こうよと腕をぐいっと引っ張られたとき、私は思った。
この子ってなんか優しい!

あ、そうだ。
あんたのエセな関西弁もなんか変やで、って思ったのは、これは絶対内緒にしとこう。

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