今日、父が退職した。

今日、父が退職した。

高卒で入社した企業に47年間勤め、社内政治などに一切興味を持たず、反体制派と言っては大げさだが、現場叩き上げの社員として「現場を良くする」ことだけを考えながら働き続け、気が付けばグループ会社の社長になり、会長にもなっていた。

そんな父が、退職の日を迎えた。

子どものころの父の記憶は、コーチという印象が強い。父というより、コーチ。僕が所属していた少年サッカーチームのコーチをしていたというのが理由だが、それ以外の父親的な何かをしてもらった記憶が異常に薄い、というのも大きい。それはもう、カラオケで頼むオレンジジュースほどの薄さだった。

要するに、父は無口な仕事人間だった。今風に言えば、社畜だったのかもしれない。

誤解がないように伝えておくと、遊園地にも連れて行ってもらったし、旅行も一緒に行った。僕が小学4年生の時に発生した阪神淡路大震災の直後には、単身赴任先の広島から飛んで帰ってきてくれたりもした。

それでも、コーチとしての威厳や尊厳がそれを上回ってしまい、高校生くらいまでは家であまり会話をすることもなく、怖い印象を持ち続けていたのである。

父のことを理解できるようになってきたのは、大学生に入ってからだ。1つ、僕にとって忘れられない思い出がある。これを言うと母から怒られちゃうのだが、大学4年制の秋に、父の不倫疑惑が円満な家族を襲ったのだ。まぁ結論から言うと、父が「行きつけのスナックのママさんやし、不倫とかしてない」と釈明をし、事なきを得たのだが、疑惑が発覚した際に母が何も告げず実家から忽然と姿を消したことは今でも忘れられない。

僕は、この一件以来、なんだか安心してしまった。本当に仕事のことしか考えていないような人だと思っていたから、「あ、(不倫じゃなかったとは言え)オトンもそういうことあるねんや」と考えると、すごくホッとした。この件には、姉も同じ意見だった)

そして、社会人になり、僕も働くようになってからは、多くの男性が感じるのと同じように、父の苦労を身にしみて感じるようになる。お金を稼ぐだけでも大変なのに、母と一緒に3人の子どもをここまで立派に育て上げてくれたことを考えると頭は上がらない。本当に尊敬している。

47年間1つの会社で働き続けてきた父と、社会人6年目で新しい会社へと移った僕。もはや同じ道を歩むことはないけれども、父から学ぶべきことはあまりにも多い。どうやら僕の反骨精神や頑固な血筋は、父親譲りのものらしいので、ここからしっかりと受け継いでいきたいと思う。

実家にいる姉によれば、最終出社日の前夜は、背中がどこか寂しそうだったという。積み重ねてきたものが崩れるのは、本当に一瞬。解放されたかったはずの事象なのに、いざ目の前にゴールテープが貼られたら、そのテープを切るのが不安になってしまうのかも知れない。僕にはまだその気持ちは分かりそうもない。

僕が言えるのは、お疲れ様でした、ということくらいだ。そして、安心して、これからの人生を謳歌してください、とも言いたい。心から感謝しているし、父と母の子どもで本当に良かった。

来週、父が東京にくるらしい。父はお酒は飲めないので、お茶を酌み交わしながら、色々と話をしてみたい。

長くなってしまったが、明日からも頑張れる気がする。

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