「あの人のスイートホーム」 #2 Solo 店主 山下華奈さんのスイートホーム
家に帰るみたいに通ってしまう飲食店がある。
お腹も心もじんわり満たされる、つい「スイートホーム」なんて呼びたくなるお店。変わらない味で出迎えてくれる、“いつものアレ”があるお店。
さまざまな飲食店を営むひとたちに、我が家のように思えるスイートホーム的飲食店について、こっそり教えてもらう企画です。
第二回:「中央線沿線のとあるコーヒー屋」
ーSolo 店主
山下華奈さんのスイートホームー
お会計を済ますと、マスターがいつも「毎度」って言ってくれるんです。それをまた聞きたくなっちゃうんですよね。あの「毎度」が聞きたい…!って(笑)
本を持って行くことが多いんですけど、結局読まなかったりもします。ぼーっとしたり、店内で流れているレコードに聞き入ったり、それを調べてみたりして。気ままにゆっくり過ごしています。
よく注文するのは、コーヒーとチーズケーキ、たまにアフォガートですかね。夏はコーヒーゼリーかな。ホイップが好きなので、ウィンナーコーヒーも。味はもちろん、マスターが美味しそうに盛るんですよ。それって結構、難しくって。
彼は少しぶっきらぼうですけど、それが全く嫌な感じじゃないから不思議。これがスタイルなんだなって思えるんです。営業中、座って本を読んでいる姿が印象的ですね。お店で働く側の人も、自分自身がゆっくりする時間に使って良いんだって。見ていて全く嫌な気持ちにならないんです。ただ、豊かだなって。
初めて行った日は、コーヒーフロートを飲んだ気がします。いま『Solo』で出しているのも、そこで良いなって思った記憶があるからで。
飲食で働き始めた時からずっと、自分のお店を持って、生活していくことが目標でした。だから長く働いた大好きな場所も離れて、物件も決めて。でも、オープンに向けて準備を進めていくうちに、不安に押し潰されてそうになっていきました。出来るところは自分で内装をしたり、試作をしたり。日々やることはあって、前だけは向いていたんですけど、とにかく余裕はなくて…心も疲れていましたね。
そんな時も、あのコーヒー屋さんには行けたんです。音楽と、レコードを替える音だったり、珈琲豆を選別する音にも耳を傾けながら、ココアを飲んで過ごす。ほんの短い時間に救われて。
いまは、なんとか『Solo』をオープンできて良かったという気持ちです。こうして立っているのも、まだ不思議なくらいなんですけど。何回かお店に来てくださる方もいて、本当に感謝しています。
キッチンにひとつ、ある人からもらった言葉を飾っているんです。
“店は非日常を求めながら、生活の延長ではつまらず、これでどうだ、も悲しい。音楽は大事。よく言う邪魔しない程度、は知らない人の言葉”
この“邪魔しない程度”っていうのが、難しいんですよね。私もお客さんに関わる側として、邪魔しない程度に良い時間を過ごしてほしいし、でもちゃんと見ていたい。私が過ごしてきた、あの店みたいに。
だから音楽も大事、です。
photo & text_ Sayaka Hori
edit_ KUCHIGAHO
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