大切に長く使ってほしいから、ここまでこだわる。スコッチグレイン革靴づくり見学ツアー【浅草エーラウンド2019春】
今年で6年目を迎える革とモノづくりの祭典「浅草エーラウンド2019春」が、4月19日(金)〜21日(日)に開催されました!
「浅草エーラウンド」では、普段は非公開の革靴づくりの現場をめぐるツアーやワークショップが開催され、毎回1万5000人〜2万人もの来場者が足を運びます。
今回、浅草出身ライターの私・中村は、19日(金)に開催された「スコッチグレインの革靴ができるまで」ツアーに同行! 日本を代表する紳士靴ブランド・スコッチグレインの製造元である株式会社ヒロカワ製靴さんを訪れました。
伝統を守り、進化を続ける。Made in Japan の紳士靴「スコッチグレイン」
まずは社長の廣川さんからツアーの流れや、革靴づくりへのこだわりについてのお話がありました。
ヒロカワ製靴さんは、革の裁断から靴の製造までを自社内で一貫しておこなっているのが大きな特徴。手間はかかりますが、革を極力無駄にせずにコストを抑えながら質の高い靴をつくることができます。
スコッチグレインは、ヒロカワ製靴さんのオリジナルブランド。「素材」「木型」「製法」の3つのこだわりをもってつくられています。ツアーの随所でそのこだわりに触れることができました!
【こだわり1:素材】社長自ら買い付け! 厳選した上質な革を使用
1つ目のこだわりは「素材」。スコッチグレインでは、社長の廣川さんが自ら生産地に出向いて厳選したタンナー(動物の皮を革に加工する業者さん)から仕入れた上質な革を使っています。
アッパー(靴の上部)には生後6ヶ月ほどのカーフ、本底・中底には摩擦に強い成牛の革、というように靴のパーツごとに適切な革を使っています。さらに1枚の革でも場所によって目の細かさに違いがあり、繊維が細かくて一番綺麗に見えるおしりの革は最も目立つ爪先に使う、といった徹底ぶり。
キズや血管の筋が多い革はアウトレット用の靴に選別し、肌目が粗かったり血管の筋が浮いたりしている部分は、外から見えないパーツに使います。それでも余ってしまった分を使ってグッズも作っているそう。こだわって仕入れた革だからこそ、無駄なくしっかり使い切っているんですね。
革の説明を受けたあとは、いよいよ工場に潜入! まずは本底・中底の裁断です。職人さんが一つ一つ切り出していきます。
中底に、3つのこだわりのうちの1つであるグッドイヤーウェルト製法の要に使用する「リブ」と呼ばれるパーツをつけていきます。
この白い部分がリブです。グッドイヤーウェルト製法についてはのちほど!
【こだわり2:木型】コンマ数ミリ単位で職人が削り出した日本人の足になじむ木型
次の場所に移動すると、2つ目のこだわりである「木型」を発見! サイズごとに色分けされています。
「ヨーロッパの上質な革を使っていても、日本人の足に合わなければいい靴とは言えない」というのがヒロカワ製靴さんのポリシー。木型の在庫はなんと1万5,000足以上! 現在はサンプルの木型はすべて社長さんがコンマ数ミリ単位で削り出しています。作った木型は10年20年は当たり前に使い、中には40年ほど使っているものも。
同じ木型をずっと使っているのは、長年のファンに変わらない履き心地を提供するため。スコッチグレインが長きにわたって多くの人に支持される理由がわかります。
こちらは、アッパーに使う革を切り出したあとに、細かい傷がないかどうかを光で照らしてさらにチェックしているところ。なんて細かくて丁寧な仕事なんだ……。
【こだわり3:製法】グッドイヤーウェルト製法にこだわる理由は「長く履いてほしい」という思い
3つ目のこだわりは「製法」。スコッチグレインの靴はすべて、グッドイヤーウェルト製法でつくられています。アッパー、本底との縫いしろの役目をするウェルト、足裏が接する中底の3つのパーツを1本の糸ですくい縫いするという製法です。
靴の作り方にはいろんなパターンがありますが、グッドイヤーウェルト製法だと靴底の張替えができるので、直し続けながら長く履くことができます。ただ、ほかの製法に比べてかなり手間がかかる作り方なんです。それでも、「大切に長く使い続けてほしい」という思いから、一貫してこの製法にこだわっています。
本底のだし縫い(本底とウェルトを縫う加工)を担当している職人さんの腕には力こぶが盛り上がり、血管も浮き出ています。底の革はかなり厚みがあって硬いので、縫うのはけっこうな力仕事なんだろうなぁ。
1足ずつ手作業で、丁寧につくっていきます。靴づくりの現場を見たのは初めてでしたが、こんなにたくさんの人の手によってつくられているんだ……と驚きでした。
印象的だったのは、磨きのダメ出しメモ。磨きを担当した人の名前のカードが靴に入っていて、やり直しの場合はそこにメモがつけられています。ダメ出しされた靴を見てみたんですが、素人目からするとどこがダメなのかまったくわからない……!
これ、わかります? 写真にもほとんど写らないレベル……。目をこらして実物をよーーーく見たらわかるかな、という程度。
スコッチグレインの繊細で美しい靴は、こういったこだわりの積み重ねで生まれているんだ、というのを目の当たりにして改めて感動しました。本当にすごい……!
ツアー終了後は豪華なお土産も!
ツアーを終え、荷物を置いていたショールームに戻りました。飾ってある靴を改めて見てまわる参加者さんたち。
(こんなかわいい靴もありました。パンダ!)
アンケートを提出し、お土産をもらって終了……となるところが、興奮さめやらぬ参加者さんたちから次々と質問が! 参加していたのは、革靴のコレクターさんや靴づくりを勉強している人など、もともと革靴に興味がある人たちばかり。こだわりの製法を目の当たりにしてより興味が増したようです。
いただいたお土産はこちら。右から順番に、マスコットキャラクターの「モーモー」、靴べら、そして名刺入れという充実のラインナップ! お土産だけでツアー参加費1,000円の元が取れてしまう……!
名刺入れには、数多くの有名ブランドバッグにも革が使われているフランスの有名タンナー「アノネイ」のマークが。もちろん、スコッチグレインのロゴも入っています。工場を余すところなく見学できて、こんなに豪華なお土産までついて……太っ腹すぎませんかヒロカワ製靴さん?! 本当にありがとうございました!
「『浅草の靴』のブランド力を上げたい」浅草エーラウンド実行委員長・川島さん
ツアー参加後、浅草エーラウンド実行委員長の川島さんにお話を伺いました。
「今回は新しい取り組みとして、皮革産業が盛んな埼玉県草加市さんにワークショップの素材を提供していただいたんです。あとは、東京メトロさんと一緒に『旅するトーク』という体験型イベントを3日連続で開催しました」
こちらは、19日(金)開催の三ノ輪での「旅するトーク」の様子。自分の足にあったヒールをオーダーメイドで提供してくれるお店やブーツの底を交換してくれる専門店などを見学したそうです。
浅草エーラウンドから派生して、いろいろな広がりを見せている浅草の革産業。外だけでなく、地域の中の横のつながりも広がっています。
「『革でこんなものをつくりたい』と相談を受けることは増えましたね。この間は合羽橋のお箸屋さんに『箸の持ち手に革を巻きたいんだけど』って相談されて、革職人さんを紹介しました。
同じエリアで商売をしていても、扱う物が違うとなかなか交流する機会がないんですよ。浅草エーラウンドがきっかけで横のつながりをつくることができたのは、イベントを開催して良かったことの一つですね」
浅草エーラウンドは、150年近く続く革靴の生産地である浅草をもっと知ってもらいたいという思いからスタートしたイベント。浅草は靴産業の中心地として発展してきましたが、1990年代以降は高齢化や後継者不足などにより廃業する事業者も出てくるように。さらに、町の活気も失われつつありました。
「昔、革産業が栄えていたころは町にもっと活気があったんですよ。それこそ、炭鉱の町みたいな感じで。商店街の人にも冗談交じりに、『こっちも景気悪くなるだろ、なんとかしてよ』なんて言われたりしてね。俺に言われてもなぁ、って思ってたんだけど」
そう言って笑う川島さんに、「でも、炭鉱は掘り尽くしたら終わりですけど、革産業は違いますもんね」と言うと「そう、だからね、どうにかしたいんです」と思いを語ってくれました。
「イベントを通して、革産業だけじゃなくて町自体も盛り上げたいんです。『この時期に浅草に行ったら町全体がにぎわってる』っていう状態にしたい。だから、革のことをよく知らない人にも来てもらいたいですね。あとは、革製品ってなんで高いの? って思っている人にもぜひ来てほしい。職人のこだわりや、大事に手入れすれば長く使えるものだというのを知ってもらえれば、決して高いとは思わないだろうから」
職人さんの仕事を目の当たりにしたあとだったので、「本当にそうですね」とその言葉に大きくうなずきました。
「浅草エーラウンドでは、イベントの文言に『セール』とか『安売り』とは入れないようにしているんです。今治のタオルって、他のタオルより高くても『今治だから』って納得するし、あえてそちらを選ぶ人もいるじゃないですか。浅草もそうなりたいんです。『浅草の靴だから』って思って選んでもらえるようなブランドをつくっていきたいと思っています」
〜終わりに〜 「靴に3万円」は高いのか?
スコッチグレインの革靴は、モノにもよりますが3万円台からあります。でも今回ツアーを見学してみて、「こんなにたくさんの人の手がかけられていてこの値段って、むしろ安すぎるんじゃないの……?」と思いました。
アパレルブランドを経営されているハヤカワ五味さんの「時給1000円が安くて、どうして靴の1万円は高いのだろうか?」という記事を読んだときにも感じたことですが、買う側が高いと感じてしまうのは「知らない」ことが一番の原因なんじゃないかと思います。
工程を知ったとしても「靴に3万円は高い」と感じる人もいるでしょうし、買う側からしたら「安いほうがいいな」と思ってしまうのも事実ではあります。でも「安ければなんでもいい」という人ばかりではないはずで。靴ができるまでのストーリーや職人さんの技を知ることができれば、「それだけの価値がある」と納得できると思うんです。そうやって手に入れた靴は、長く大切にしたいと思える宝物のような1足になるんじゃないか。そう感じました。
流行りのものを取っ替え引っ替え……も楽しいですが、こだわって選んだお気に入りの逸品を長く使うのもまた、素敵なことだと思います。
次回の浅草エーラウンドは、2019年10月18日(金)〜20日(日)に開催されます! 開催情報はFacebookやTwitterでお知らせされますが、人気のワークショップはすぐに予約が埋まってしまうそう。気になる方はこまめにチェックしてみてくださいね。皆様のお越しをお待ちしております!
【この記事を書いた人】
中村 英里(Eri Nakamura)
浅草出身・東京在住のフリーライター。趣味はイラスト、写真、純喫茶めぐり。「近場でちょっと足を伸ばすお出かけ」が好き。おさんぽWebマガジン「てくてくレトロ」を運営してます。
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