『ゼルダ無双 厄災の黙示録』のプレイに際して考えていたことの記録 - 無双系ゲームの普遍性について


11月20日に発売された、Nintendo Switch専用ソフト『ゼルダ無双 厄災の黙示録』(以下、厄黙)を発売日からプレイし、先日一通り遊びきった。

例年と比べてビデオゲームと疎遠だった中、夢中になって遊ぶことができた。余った熱量で、無双について幾らか考えたことがあったので、書き留めておく。


無双とは、コーエーテクモゲームス(旧コーエー)の制作部署ω-forceが開発し、2000年に発売された『真・三國無双』を原点とする一騎当千の爽快感を特徴とした3Dアクションゲームのことを指す。

公式はジャンルをタクティカルアクションと称しており、英語版Wikipediaではハックアンドスラッシュとされている。

戦闘を第一の目的としたゲームプレイという、広い意味でのハックアンドスラッシュとしての部分に対して、公式が主張するタクティカルな部分というのは、白兵戦が行われる戦場のシミュレーションとしての要素を示したものだろう。

中規模のシームレスなフィールドに敵味方の軍勢が配置され、予め定められた勝敗条件に合わせて、プレイヤーが自らの判断で戦況に関わっていく。

リアルタイムにシミュレートされ、馬に乗って移動する必要があるだけの規模のシームレスなフィールドというのは、現代の3Dゲームの花形であるオープンワールドゲームにも直接通じるものがある。

無双は、3Dゲームの普遍的な楽しさを2000年の時点でパッケージングできていた。

『真・三國無双』の僅か1年後に発売された『真・三國無双2』は、1作目をブラッシュアップしたような内容で、前作の評判を引き継ぎ、遂に国内でミリオンヒットを達成する。


無双について一般的に交わされる議論として、そのゲームデザイン自体を冷ややかに受け止める論調も一貫して存在している。

群がる雑兵を一方的に薙ぎ倒していく様子を揶揄した「草刈り」という言葉は、無双のゲームプレイを空虚なものとして語る際に共通言語的に用いられる。

タクティカルアクションとしての性質は、無双を定義する核の部分であるのは間違いないと思う。

但し、その実態はゲームプレイに直接的に有意義な起伏をもたらすような働きをしているとは言い難いところがあった。

シミュレーション “っぽさ” が前面に出ていた初期の無双では、取り分け実態の無さが目立っていたかと思う。

盛んに更新される戦況ログでは、プレイヤーに花を持たせるために極端に弱く調整された味方武将たちからの援軍要請が、頻繁に表示される。「君たち、もう帰れば?」と言いたくなるような完全な足手纏いっぷりには、その存在意義に疑問符が浮かんでくる。

ただ、援軍に駆けつけることも、プレイヤーが戦場で活躍できている実感を得るためのシチュエーションの内の一つだというのは理解できる。

無双における戦場のリアルタイムシミュレータ的な構造は、一歩引いて、 (そもそも非現実的な)“一騎当千” をロールプレイするためのセッティングとしての作用のみを認めるのが妥当だろう。


かつて無双のゲームプレイに熱中した経験のある自分としては、他のゲームに対してもそうであったように、無双というゲームの積極的な進化を望んでいた。

今でも、 “タクティカル” な部分の完成こそが無双の目指すべきビジョンだと思っていないことはない。

『真・三國無双8』や『ファイアーエムブレム無双』などは、タクティカルアクションとしての在り方に焦点を当てている気配が少しあったが、突き抜けたものは感じられず、様子見に留まっている。

厄黙の場合は、タクティカルアクションとしての方向性の追求にはむしろ消極的であり、無双が元来獲得していた普遍性がストレートに発揮されていた。

更に、その普遍性を強化していたものがある。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、BotW)と世界観を共有する厄黙は、BotWの一部のゲームメカニクスまでそっくりそのまま共有している。

オープンワールドゲームを完成させたとまで言われることも珍しくはないBotWは、3Dアクションゲームの普遍性の極致にあるような作品だ。

BotWのメカニクスは、適合率100%で無双のメカニクスの中に取り込まれ、無双が発揮し得る普遍的な楽しさを純粋に底上げした。


BotWのネームバリューに牽引されたところもありながら、厄黙は累計出荷本数300万本を突破しており、コーエーテクモゲームスのタイトルとして、ワールドワイドでの最大級のヒット作となっている。

厄黙についてのインタビューでコーエーテクモゲームスは、厄黙の開発を通じ、任天堂から世界市場での戦い方を教わったり、ゲーム内の “草” の作り方を教わったりしたと語っている。

無双にBotWの血が分け与えられ、アクションゲームとしての普遍性が強化されたことは、ひいては、世界市場に通用する水準の開発能力をコーエーテクモゲームスが獲得することにも繋がった可能性がある。

これを足掛かりとして、いずれは無双のタクティカルアクションとしての完成も期待したい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?