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「思考のダイエット」で合理的に生きる

コーチングを受ける方々の中に、繊細な性格ゆえに悩みを抱える人が時折見受けられます。ちょっとした周囲の反応や表情に過敏に反応し、様々な思惑を読み取ってしまう。そして、その読み取った情報を基に、(それは自分の中で構築された妄想にも近くなってしまうのですが)ネガティブな想像を膨らませ、さらに思い悩んでしまう。こうした思い悩む性格自体にも思い悩んでしまうことすらあります。

職場は複数の関係者と共同して進めるものですから、上記のように自分を刺激する情報を感知する機会に溢れています。SNSを含む他者の反応への過剰な意識や、自身の評価への不安に陥る可能性に我々はさらされていると言えるでしょう。

例えば、会議で発言した後、同僚の微妙な表情の変化に気づき、「自分の意見は的外れだったのではないか」と悩み始める。このような経験は、多くの人にとって決して珍しいものではないでしょう。

こうした繊細さは、時として優れた洞察力や共感性につながっていく反面で、仕事上のパフォーマンスを低下させたり、場合によっては日常生活に支障をきたすほどの不安や自己疑念を引き起こす可能性があります。さらに、このような思考パターンが自己強化的な性質を持つため、一度ネガティブな想像が始まると、それを裏付けるような証拠ばかりが目につくようになり、悪循環に陥りやすくなります。

このような状況に対処するため、私は「思考のダイエット」という方法をおすすめすることがあります。これは、不要な思考や感情を整理し、本当に考えるべきことだけに集中するための手法です。

具体的な手順は以下の通りです。

①感受した情報と起きた感情の記録に徹する

あるシチュエーションで読み取った周囲の思惑や他人の視点、そしてそれらに対して反応した自分の感情を、ただ"記録する"ことに徹します。その場で考え込まず、感情や思考を記録することだけに集中しましょう。感知した情報、その時自分の中にめぐった思考、その時自分の中に湧いてきた感情の3つくらいで整理すると良いでしょう。

即座に感情や思考を吟味するのではなく、それは後のタイミングにとっておきます。そうすることによって感情・思考の荒波と少し距離が取れるでしょう。

②感受した情報の仕分けをする

それらの記録をストックしておいて、夕食後など落ち着いて考察できるタイミングに、記録したものを読み返し、以下の基準で情報を仕分けしましょう。

(ア)その懸念はコントローラブルなものかアンコントローラブルなものか
(イ)その懸念は確実性の高い問題か、不確実な問題か
(ウ)その懸念は自分が遂行したい目的に関連するものか

この3分類に仕分けします。

③考えるべきことを選定する

上記の類型で仕分けを行った上で、最終的に「自分が考えるべきこと」をしっかりと選定します。

(ア)その懸念はコントローラブルなものかアンコントローラブルなものか

その懸念に対して自分が解消に向けて取り組むこと、状況が変わりうる(=コントローラブルである)のであれば、あなたがその懸念に対してより深く吟味していく価値はあるでしょう。

営業会議の中で、何となく部下が自分の意見に納得が行かないような表情を浮かべていたという懸念がある場合、後から部下の真意を捉えるための会話をすることで直ぐに共通認識を形成して仕事をスムーズにすることができるでしょう。

一方で、先週実施した入札案件の結果が来週半ばには公表されるが、その結果がどうなるかで自身の成績に大きな影響が出てしまうので不安で仕方ない、という状態は、悩んだところで状況を変化させることはできません。アンコントローラブルなものですから、考える価値に乏しいと捉えます。

(イ)その懸念は確実性の高い問題か、不確実な問題か

その懸念が確実性の高い問題、つまり現実に起こっている、あるいは高い確率で起こりうる問題であれば、それについて考え、対策を立てる価値があります。

例えば、来月の予算会議で自部署の予算が削減される可能性が高いという情報を得た場合、これは確実性の高い問題です。この場合、予算削減に対する対応策を考えることは重要で有意義です。

一方、「もし今後景気後退が起きたら、自分の仕事はどうなるだろうか」とか「社長は自分に対してあまり期待していないのではないか」といった漠然とした不安は、不確実性が高く、現時点で深く考えても生産的な結論を得られにくいでしょう。このような不確実な問題については、状況が具体化するまで考えることを保留し、エネルギーを節約する方が賢明だったりします。

(ウ)その懸念は自分が遂行したい目的に関連するものか

あなたが達成したい目的や、重視している価値観に直接関連する懸念であれば、それについて考えることは意味があります。

例えば、あなたが「チームの生産性向上」を目標としている場合、「新しく導入したプロジェクト管理ツールをチームメンバーが効果的に使いこなせていないのでは」という懸念は、目的に直結しています。この懸念について考え、対策を立てることは有意義でしょう。

一方、「同僚の○○が自分に対して陰口を言っていたらしいが、彼は自分にどんな感情があるのか」という懸念が、あなたの仕事上の主要な目的とは直接関係ない場合、思い悩む価値はそこまでありません。もちろん、良好な人間関係を築くことは重要ですが、それが主要な目的を達成する上で障害になっていない限り、過度に考え込む必要はないでしょう。

以上が「思考のダイエット」のアプローチです。このアプローチを通じてあなたは思考・感情においていくつかの資質を得ることができるでしょう。

1点目は客観性を伴う思考の獲得です。感知した情報とそこに付随した思考や感情を単に記録するだけで、思考・感情それ自体から少し距離を取ることができ、過剰な反応を抑制しながら客観的に状況を捉える思考パターンが育つでしょう。

2点目は意味のある行動にフォーカスする思考の獲得です。「思考のダイエット」のプロセスで、あなたは溢れる情報の中から自分の目的にとって重要で、コントロール可能な事項に集中する習慣を身につけることができます。これは明らかにアンコントローラブルな事項に頭を悩ますよりも生産的な行動です。この思考を通じてあなたの中で意味のある行動にフォーカスする思考が育っていくでしょう。

3点目は自分の思考・感情傾向の認識が向上することです。「思考のダイエット」のプロセスで、あなたは自分自身の思考・感情の傾向を知ることになるでしょう。どのような事象に出くわすと自分の感情に不安が現れるのか、その傾向は人により様々で、制御の仕方も様々です。自分の思考・感情傾向の認識が向上すると、より自分の思考・感情を制御しやすくなるでしょう。

この「思考のダイエット」は、決して感情を抑圧したり、悩みを無視したりすることではありません。むしろ、自分の感情や思考とより健全な関係を築くためのツールです。自分の内面に向き合いながらも、それに振り回されないバランスを見つけることが目的です。

実践を重ねるうちに、あなたは自分の思考や感情をより客観的に観察できるようになるでしょう。そして、本当に考えるべきことと、手放してもいいことを区別する力が養われていきます。これは、単に悩みを減らすだけでなく、人生の様々な局面でより賢明な判断を下す力にもつながります。

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